医療問題
米国医療訴訟
弁護士の高橋智先生の日記、Sammy通信、2008年2月7日に米国の医療訴訟について書かれていました。
気になったので、原文の読売新聞の記事を検索してみました。
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2006年6月9日、読売新聞の記事です、YOMIURI ONLINEから引用しました。
賠償額200億円の弊害
最近ニューヨークの裁判所で衝撃的な判決が下されました。
赤ちゃんが脳性まひで生まれたのは
産科医が帝王切開をせずに自然分娩を強行した医療ミスのためとして、
200億円の賠償金を支払えという評決です。
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米国では、一般から選ばれた陪審員が賠償額も含めた評決を出すので、
原告側の弁護士は、脳性まひの幼児を出廷させ、
陪審員の気持ちをゆさぶりました。
その結果、このような巨額賠償となりました。
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米国は世界に冠たる訴訟大国で、弁護士は日本の50倍もいます。
医師は、そのための備えが大変です。
血管外科医である私は、毎年約700万円の損害賠償の保険費用を負担しています。
これが日本では、わずか6万円ですみます。
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米国の総医療費は、日本の7倍の200兆円にのぼります。
考えてみれば、医師の損害保険料や、常軌を逸した200億円の賠償金なども、
医療費から捻出(ねんしゅつ)されるわけですから、米国の医療費が高くなるはずです。
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訴訟社会の弊害はそれだけではありません。
米国の医師の多くは常に、
「裁判になったら」と言うことを念頭に置きながら診療をしています。
そのため、不要な帝王切開が横行しているのもひとつの例です。
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ニューヨーク市での帝王切開率は1970年代には全出産の5%でしたが、
2000年代には30%を超えました。
働く女性が多く、帝王切開だと予定が組める、
痛くないといったことも理由に挙げられますが、
訴訟の影響もあります。
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過去20年間に度々、自然分娩での脳性まひが訴訟になってきました。
帝王切開がこんなに増えても、ニューヨーク市での脳性まひの発症率がこの30年間全く変わっていませんから、
出産形態と脳性まひには因果関係はありません。
しかし、医師としては、訴えられる危険はできるだけ避けたいと考えます。
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訴訟は、紛争の解決方法として、もちろん有意義なものですが、
医療訴訟をめぐる米国の現状は行き過ぎです。
米国には、患者や家族が医療内容に疑問を持った時、専門家が調査をし、
問題があれば、行政処分を下す仕組みがあります。
ですから、民事訴訟は文字通り損害賠償を求めるために行います。
日本でも医療訴訟が増えてきましたが、単に損害賠償を求めるというのではなく、
「何があったか明らかにするため」に訴訟に臨むケースが多いと言われています。
日本にも米国のようにきちんと行政処分を下す仕組みがあれば、
事情は変わってくるのかもしれません。
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また、医療被害者がきちっと救済されるためにも、
医療者の過失の有無にかかわらず被害者が救済される無過失保障制度の確立や
医療過誤を専門とする裁判官の育成が急務です。
そうした日本なりの医療事故や医事紛争解決の手段を整え、
医療訴訟については、アメリカを反面教師としたいところです。
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プロフィール
大木隆生 おおき・たかお
アルバートアインシュタイン医大血管外科教授。
1987年、慈恵医大卒。
モンテフィオレ医療センター血管外科・血管内治療科部長、
東京慈恵会医科大学外科学講座 統括責任者・教授。
(以上、読売新聞HPより引用)
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私が、札幌医大の学生だった30年前から、米国の医療訴訟と保険料の高さが問題になっていました。
札幌医大では、医学英語という授業科目がありました。
英語担当だった、清水正教授が、米国Newsweek誌から、興味ある記事を引用してくださり、
それをタイプしたプリントが教材でした。
清水教授は、英語の発音がキレイで、とても真面目な先生でした。
今にして思えば、大変な苦労をなさって、教材を作っていただいたと、
清水先生に深く感謝する次第です。
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その医学英語のテキストで問題となっていたのが、医療過誤保険の高額なことと、
訴訟が多いので、産科医を目指す医学生がいないという社会問題でした。
30年も前から、米国で問題になっていたことが、日本でも現実に問題になっています。
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弁護士の高橋智先生が日記で書かれていたことも、確かに理解できます。
ただ、日本で、医療訴訟が多くなり、
賠償額が高額になれば、医療過誤保険を引き受ける会社がなくなります。
自動車賠償責任保険のような制度を設ければ別ですが、
医師個人や医師会に任せられている現在の制度では無理です。
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ちょっとでもリスクがある‘医療’は誰も引き受けなくなります。
リスクが高い診療科目を選択する医学生や若手医師はいなくなります。
しなくてもよい、帝王切開が増えます。
医療費も間違いなく高騰します。
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医療は車の運転と同じで、条件が悪い道路を走ると
必ず事故に遭う危険性が伴います。
悪路で、視界が悪い山道でも、必要に迫られて走る必要はあります。
どんなに慎重に運転しても、
がけ崩れや橋の崩落にあってはたまりません。
そういう‘医療’もあります。
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少子高齢化社会になって、医療費はますます増えるばかりです。
将来の医療を担う若い先生が、
自信をもって医療ができるシステム作りが急務です。
弁護士さんが増えて、医療訴訟が多くなる可能性は理解できます。
ただ、医療には避けられない危険性が潜んでいることを理解していただき
訴訟を避けるために、不必要な帝王切開が増えるような事態だけは避けてほしいものです。