医学講座

500㌘の赤ちゃん㊦

 平成20年2月27日、北海道新聞朝刊の記事です。
 500グラムの命みつめて
 高度新生児医療の現場から㊦
 危機乗り越え母の腕に
 知識集積し「23週後半」可能
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 赤ちゃんは母親を目で追い、
 「ウー、ウー」とおねだりするような声を上げた。
 母親は
 「抱いてほしいのね」
 と語りかけ、優しく両腕で包み込んだ。
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 妊娠24週の緊急帝王切開で誕生した女児。
 市立札幌病院総合周産期母子医療センター
 新生児集中治療室(NICU)では当時、
 522㌘と最小だったが、
 生後5ヵ月で体重3㌔、
 身長は二倍の50㎝に成長した。
 NICUの保育器を出て、ベツドに移った。
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 出生後、1000㌘未満の超低出生体重児に多い
 慢性肺疾患が3回悪化した。
 担当した平尾文音看護師は
 「慢性肺疾患の危機を三度も乗り越えた赤ちゃんは、初めて」
 と振り返った。
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 同センターでは今、
 妊娠23週後半で赤ちゃんを誕生させることが可能になった。
 「23週」は1990年まで人工妊娠中絶が許された期間。
 同センターの服部司・新生児科部長は
 「新生児医療は、かつて赤ちゃんが生存不能だった領域に踏み込んだ」
 と語る。
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 新生児医療は、
 超低出生体重児の未熟な肺の機能を補う薬
 「人工肺サーファクタント」の開発や、
 人工呼吸器など医療技術の発達で大きく進歩した。
 その過程で、NICUの新生児科医らが赤ちゃんと向き合い、
 新生児の生理と病態に関する知識を集積してきたことが、
 進歩を支えている。
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 同センターでは五人の新生児科医が、
 当直から連続36時間にも及ぶ厳しい勤務を、
 月数回こなす。
 看護師とともに、
 各種モニター装置を監視し、
 体温測定や輸液管理、
 たんを取り除くための気管内吸引などの仕事は、
 ほぼ一時間ごと。
 保育器の中で大半は自ら泣くことのできない、
 声なき赤ちゃんのサインを読み取る。
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 NICU加算が付いた赤ちゃんの医療費は
 一日8万5千円。
 乳幼児医療費助成制度があり、
 家族負担には直結しないが、
 社会的には大きなコストを強いる。
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 新生児科専門医となるにも
 医学部卒業後、8年間の研修が必要だ。
 障害が残る恐れのあるかもしれない赤ちゃんの発達を、
 退院後も見守る態勢も重要だ。
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 服部部長は
 「高度な周産期医療は公的支援がなければ立ちいかない。
 赤ちゃんを出生直後から治療するNICUのコストは、
 その後の疾病や障害に費やす社会的資源を抑制できると考えれば、高くはない。
 何より、社会の構成員として元気な赤ちゃんを送り出す意義は大きい」と話す。
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 市立札幌病院で約30年、
 新生児医療一筋に歩んだ服部部長は、
 NICUにいた子どもたちの力強い未来を確信する。
 「私が担当して、成人になった子は大勢いる。
 一方で障害がある子や身体や知能の発達が遅れる子もいるが、
 家族の愛情を受けて課題を克服し、
 自分なりの人生を歩んでいるのです」
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 522㌘で生まれた赤ちゃんは退院に向け、
 肺の発達を待っている。
 両親は娘に、
 人に優しく、
 そして希望を持って生きてほしいという願いを込めて
 「優希奈」
 という名前を付けた。
 母親は言う。
 「無事に生まれるかどうかさえ難しいと言われたのですから、
 心配するときりがありません。
 今はただ、生まれてくれて、ありがとう」と。
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 <メモ>
 1999年に中村肇・神戸大学医学部小児科教授(当時)らが、
 1990年出生の超低出生体重児の9歳児の全国調査を集計した。
 それによると、就学状況は
 普通学級が87%、
 障害児学級が4.3%、
 養護学級が5.6%、
 盲学校が3%。
 小学校入学時に60%の親が不安を持ったが、
 最終的に97%の親が
 「子は楽しく学校に通っている」
 と答えている。
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市立札幌病院のNICUで
初めて保育器を出て母に抱かれた
超低出生体重児の赤ちゃん
(伊丹恒撮影)
(以上、北海道新聞より引用)

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 先日いらした患者様です。
 お母さんと、ご一緒にいらっしゃいました。
 紹介者の欄に○○と書いてありました。
 私:「ひょっとして、○○◎◎ちゃんのご紹介ですか…?」
 「覚えていらっしゃるのですか?」
 私:「えぇ……」
 「もう、短大生になりました。元気です。」
 私の姪になります。
 私:「あぁ……」
 「病棟が違うのに、よく往診にいらしていただいた。」
 と姉が申しておりました。
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 ◎◎ちゃんは、
 私が市立札幌病院で治療させていただいた赤ちゃんでした。
 もう短大生になったんだぁ!
 と感慨深いものがありました。
 ちょうど、その後で、北海道新聞にこの記事が連載されました。
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 毎日まいにち当直をして、36時間勤務の先生。
 服部先生も中島先生もとても素晴らしい方です。
 新生児科の専門医は、
 美容形成外科医より、ずっと立派に見えます。
 地味なお仕事ですが、
 たくさんの子供たちを救ってくれています。
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 北海道新聞に掲載された、優希奈ちゃん。
 酸素を投与するチューブが少し痛々しいです。
 私の友人や同僚の子供さんも、かつてこのような赤ちゃんでした。
 もう、立派に高校生や大学生になっています。
 赤ちゃんの顔の左側に見えているのが、
 お母さんがかぶった、NICU用の帽子です。
 最初は、
 手を洗って、
 帽子をかぶって、
 予防衣を着て、
 自分の赤ちゃんと対面します。
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 この記事を書いてくれた、
 北海道新聞社の山本哲朗さんという記者さんも、
 市立札幌病院新生児科の素晴らしさに驚かれたことと思います。
 妊娠・出産は、女性だけに神様が与えられた特権です。
 男は、どんなに偉そうにしていても、子供は生めません。
 赤ちゃんを産んで、育てるというのは大変なことです。
 普段から健康管理に気をつけて、
 元気な子供を生むことが一番大切です。
 もし万が一、母体や赤ちゃんに異常があった時に、
 最先端の医学で助けてもらえるシステムが、
 日本のどこに住んでいても、
 平等に受けられるといいのに…と思います。

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