医療問題
診察の5分ルール
平成20年3月30日、朝日新聞朝刊、声の欄への投稿です。
「5分ルール」
診察の質心配
医師 二宮聖耳(大阪市住之江区 80歳)
皆さん、4月から医療が大変なことになります。
公的医療保険の価格を定めた診療報酬点数の改定に伴い、
医師が5分以上診察しなければ、
診療報酬の加算措置を受けられなくなるのです。
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医療費抑制を目指す、
この「5分ルール」は、
患者と医師の双方に大きな問題をはらんでいると思います。
まず患者さん側の問題。
「薬だけ」と申し出る方が今でも多くて、
診察の必要性を説明するのに医師は苦慮しています。
医療費が安ければ、
皆さん、5分以上の診察を受けなくなるでしょう。
しかし、投薬だけでは病状の変化に対応できません。
質の高い、責任ある医療はできなくなります。
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そして医師側の問題。
診療報酬の加算がなくなることで病院経営への影響が予想されます。
病院が立ちゆかず廃業すれば、医療崩壊の加速にもつながります。
4月からはストップウオッチをもって病院にいきますか。
5分を超えそうになったら、
「ハイ、先生、もうわかりましたから」と早々に退散しますか。
果たして、こんな診療体系で患者さんの健康を守ることができるでしょうか?
(以上、朝日新聞より引用)
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80歳にして、現役を続けていらっしゃる、
大先生の投稿です。
ほんとうに、厚生労働省は何を考えているのでしょうか?
この5分間ルールというのは、
再診時の外来管理加算という制度のことです。
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もともと、再診時に、しっかりとした医学的な説明をした場合に、
520円の『説明料』を請求してもよろしいですよ。
というルールだったのです。
それを、5分間の説明と明文化したのが今年の改定です。
それでは、10分説明した時や、
30分説明した時は?どうするの?
ということになります。
10分でも30分でも、料金は5分と同じです。
この辺がいい加減です。
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少しでも医療費を安くしたい人には、裏ワザがあります。
この「5分ルール」が適用されるのは、診療所と200床未満の病院だけ。
大病院へ行けば、外来管理加算も指導料もかかりません。
お金はないけれど、時間とヒマだけはたっぷりある人は、
大病院へ通院すると、安く診療を受けられます。
この辺のカラクリをマスコミでも報道しないのが面白いところです。
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こちらの内科の先生が書かれたHP、医知場(いちば)の
『よくわかる診療報酬 2008年最新版』に詳しく掲載されています。
糖尿病や高血圧で、通院していて、
毎月お薬をいただている方がいらっしゃいます。
大病院にかかると、再診料700円(実際の負担は3割で210円)に
処方箋料+お薬代でいただけます。
診療所でいただくと、
再診料710円+外来管理加算520円+特定疾患療養管理料2,250円の
合計3,480円が基本料金。
3割負担でも、1,040円となります。
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これは、小型タクシーの基本料金が1,040円。
ちょっと来るのに時間はかかるが、
安心快適な大型のリムジンの、基本料金が210円と同じことになります。
つまり、診療所で月に一度、糖尿病のお薬をいただくと…
大病院より、830円も余計に払うことになるのです。
ですから、大きな民間病院の横には
○○クリニックなどという、‘診療所’ができていて、
そちらの、診療所で外来診療をする理由がわかります。
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診療所が高くなるのは、
特定疾患療養管理料がかかる、
がん、甲状腺機能異常、糖尿病、高脂血症、
高血圧、狭心症、心筋梗塞、不整脈、心不全、
脳梗塞、慢性気管支炎、喘息、胃・十二指腸潰瘍、
慢性肝炎、慢性膵炎などの病気の方です。
私たち形成外科のワキガや眼瞼下垂症ではかかりません。
外来管理加算の520円(3割負担で150円)が余計にかかるだけです。
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国民が、このからくりを知ると…
ますます、安い診療を求めて、大病院に患者さんが殺到すると思います。
厚生労働省は、
大病院に外来診療をしても儲からなくする料金体系を作って…
診療所に患者さんを集めようとしているようです。
こんなことをしても、日本の医療はよくなりません。
勤務医がますます疲弊して、開業医になるだけです。
ほんとうに日本のお役人は頭が悪いと思います。