医療問題
診察券
平成20年3月21日の朝日新聞朝刊、
声の欄(読者からの投稿)に掲載されていた記事です。
奥さんが、心筋梗塞を発症して救急車を呼んだ。
救急隊員から、最近かかった病院の診察券がないか聞かれた。
健康保険証と一緒にしてあった、大病院の診察券を見せた。
救急隊員は、その診察券をひったくるようにして取り上げ、
病院へ連絡。
すると、即座に入院のOKが出た。
■ ■
この男性投稿者が言いたいのは、
診察券の有無で、受け入れが決まってもよいものだろうか?
病院としては、医療費不払いを防ぐために、
診察券の有無で、救急患者を振り分けているのでは?
道義に反しているのではないだろうか?
診察券の有無にかかわらず、
目の前の救急患者を受け入れるべきではないだろうか?
というのが、投稿の主旨です。
■ ■
この投稿者が不思議に思われるのはもっともです。
ただ、医療費不払いを怖れて、
診察券の有無で振り分けているのではありません。
診察券を持っているということは、
現在その病院で治療を受けているか、
過去に治療を受けたことがあることの証明です。
■ ■
診察券の番号がわかると、すぐにカルテが出てきます。
その方の病歴もわかります。
入院癧があると、詳細な記録が残っています。
病院は、『一見(いちげん)さんお断り』の高給店とは違います。
診察券を持っていらっしゃる方に治療上の責任があるので、
たとえ急病になっても診てもらえるのです。
ですから、たとえ2時間待ちの3分診療でも、
大病院の診察券を持っていると役に立ちます。
■ ■
私が勤務していた時代の市立札幌病院も同じでした。
まず、通院中の患者さんと一般の救急患者さんは
担当する当直医が違います。
通院中の患者さんの容態が悪くなって
病院へ電話が来た時は、
まず、‘一般当直’の看護師・医師が診察します。
‘一般当直’は、私のように、
救急医療部以外の診療科の医師や看護師が、
輪番制で当直をします。
医師は、当直をしても、翌日に通常の診療や手術をします。
■ ■
一番多かったのが、喘息患者さんでした。
患者さんが苦しそうに、
『先生、いつもの点滴をお願いします』
と言われます。
カルテにも主治医から、
救急外来を受診した際には、
○○の点滴をしてくださいと指示が書いてあります。
何度か当直をしていると、主治医ではないのに
喘息患者さんと顔見知りになることもありました。
■ ■
専門外の私でも、指示があれば、その通りに点滴はできます。
救命救急センターとは、救急のレベルが違いました。
突然、通院中の患者さんの容態が極端に悪くなることもあります。
その時は、一般当直の当直医が診察し、
必要に応じて、主治医と連絡をとって対処します。
小児科や循環器内科などは、担当医を呼ぶこともありました。
■ ■
たとえ札幌市民が作った
札幌市民のための市立札幌病院でも、
無条件に夜間の救急患者を受け入れると、
パニックになります。
札幌市の夜間救急は、夜間急病センターが担当。
急病センターで手に負えない方が、
二次救急、三次救急の病院へ来られます。
それが、札幌市が決めたルールです。
■ ■
朝日新聞へ投稿された読者の奥様は
「もう少し処置が遅かったら危なかった」と言われながら、
10日後に無事に退院できたそうです。
日本の救急医療現場は大変です。
一瞬の判断が、生死やその方の予後を大きく変えます。
救命救急センターに、風邪の患者さんまで来ては
助かる患者さんも助からなくなります。
受診する方のモラルも必要なのが救急医療です。