医学講座
犬に咬まれる
飼い犬に手を咬まれるという言葉があります。
実際に飼い犬に手を咬まれる人がいます。
私も、チェリーが仔犬の時に咬まれました。
医学用語では、犬咬傷(イヌコウショウ)と呼んでいます。
‘犬咬傷’で検索すると、かなりひどいケガの写真が出てきます。
勇気のある方はチャレンジしてみてください。
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私は、美容形成外科医になる前は、
総合病院の形成外科医を20年以上していました。
今から、20年以上前のことです。
釧路労災病院形成外科に勤務していました。
毎年、春になると、
犬に咬まれたという患者さんが増えました。
一緒に働いていた、
藤岡浩賢(ふじおかひろたか)先生に調べてもらいました。
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藤岡先生は、とても真面目で優秀な先生でした。
釧路労災病院形成外科を開設してから、
10年近くのカルテを丹念に調べてくれました。
その結果、釧路労災病院形成外科では、
毎年、春と秋に犬に咬まれてケガをし、
受診する人が多いことがわかりました。
藤岡先生は詳しく調べてくれましたが、
春と秋に多い原因は不明でした。
当時は、まだ今ほど室内で飼うのは一般的ではなかったと思います。
ただ、犬の発情期と何らかの関係があるようでした。
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私はチェリーに手を咬まれました。
それは、仔犬の時にしつけをしている最中でした。
私は散歩こそ、チェリーの晩年にしませんでしたが、
チェリーの歯磨きと歯石取りは最期まで私の仕事でした。
家内や子供がすると、
最期まで「う~」っとうなって抵抗しました。
私がしても嫌がって逃げ回りましたが、
つかまると観念しておとなしくさせてくれました。
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形成外科で外傷を診ていると、犬の他に
人間に咬まれて受診する方も、マレにいらっしゃいました。
たいていは、喧嘩か痴情のもつれによるものです。
犬に咬まれても、人間に咬まれても、
咬まれた傷は汚くなります。
これは、口の中には想像以上に雑菌が多く、
どんなに可愛い仔犬でも、
どんなに美しい女性でも、
咬んだ歯に、バイ菌がついているからです。
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犬で問題になるのが、パスツレラという菌腫です。
私は一度しか診たことがありませんが、
パスツレラに感染すると、痛くて赤く腫れ上がって、
それはそれはひどいキズになります。
そうなるとキズを治すプロの形成外科医でも難しくなります。
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実は、犬に咬まれたキズで一番困るのが顔のケガです。
私もよくしていましたが、
犬に顔を近づけて‘よしよし’をします。
チェリーはよく私の顔をペロペロしていました。
この時に、犬が間違って咬むと大変です。
口唇がちぎれてなくなった人もいます。
鼻の頭が、食いちぎられてしまった人もいます。
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若い女性や子供さんには、絶対に、
犬にペロペロは避けていただきたいです。
私が今までに診た患者さんの中で、
一番重症だったのは、
女性に鼻の頭を食いちぎられた男性でした。
‘男だからしょうがないさ’と簡単に片付けられない状態でした。
修復するのに何年もかかりました。
春はうきうきして楽しい季節ですが、
‘不慮の事故’が多いのも春です。
くれぐれも気をつけてください。