医療問題
札幌の精神科病床数-世界一
平成20年5月12日北海道新聞朝刊に掲載された記事です。
論説委員室から
風
上村英生(かみむらひでき)
精神科病床を減らそう
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札幌の精神科の病床数は日本一、と聞いた時は信じられなかった。
7,200床あり、市町村(東京は特別区)別では全国一になる。
人口一万人当たり38。
世界保健機関によると、世界全体では人口一万人につき1.5だ。
「日本が世界一だから、札幌は世界一多いまち」と言われる。
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札幌の精神科は民間病院が大半を占め、
公立を合わせて35病院に上る。
病院の開設は許可制である。
病床数は医療法に基づく地域医療計画で規制されているが、
権限は都道府県にあり、札幌市にはない。
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「全道一区」のため、
医師や看護師を確保しやすい札幌に民間病院が集中した。
病院が増えたので全道から患者が集まった。
その結果、
患者は住んでいた地域社会から離れざるをえなくなった。
入院期間が長いため、帰る家や家族をなくし、
札幌で入退院を繰り返しているという。
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札幌市は4年かけて
退院可能な400人を社会に帰す目標を揚げた。
本年度、まず約1,000万円をかける。
国は、受け入れ条件が整えば退院可能な
「社会的入院」を、入院者全体の2割とみている。
札幌にあてはめると、1,400人台になる。
目標は控えめすぎる。
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どう進めたらいいか。
先行例となる札幌の病院2ヵ所を見学した。
日本の精神科の平均入院期間が300日を超える中、
昨年度の平均が114日だった民間病院を訪ねた。
フェンスや鉄格子もなく精神科に見えない。
代わりに、危険防止を考えて窓ガラスを厚くし、
全開できないよう工夫していた。
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ストレス疾患に対応した病棟を見た。
3ヵ月以内に退院させている。
部屋はホテル並みで快適そう。
長期入院患者を退院させるため、
家族を2年かがりで説得し、
クループホームに送り出した例もある。
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病状が悪化すると、
家族が「病院に入れておきたい」と思うからだ。
難しいのは地域でその人らしい生活をすることにある。
楽しみや役割、住民との連携など、
生活の質を大切にしている。
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この病院は長期入院者の退院先として
民間アパートの一室を借り上げ、
女性2人で暮らす共同住居を18年前に開設した。
当時は偏見が強く、賃貸契約にも苦労した。
だが、病院が支え、家主の信頼を得た。
現在はグループホームを含め
7ヵ所の住居を運営している。
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市立病院静療院は、5つあった
成人・老人病棟院患者を少しずつ減らし、
すでに3棟を閉鎖した。
安田素次院長は
「良い薬がどんどんできて、今は3ヵ月ぐらいで退院できる」
と語る。
その分、外来患者が膨れあがっている。
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問題は長期の患者を多く抱えた民間病院だろう。
病床を減らせば、
それまでいた看護師らスタッフの人件費が賄えなくなる。
どう軟着陸させるか。
もうひとつの課題は、地域の受け皿づくりだ。
札幌には、受け皿となる地域生活支援センターが5ヵ所ある。
そのうちの一つでは、
退院した人や入院患者も来て、
話をしたり、お茶を飲んだりしていた。
相談窓口もある。
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市は各センターに、
地域と病院の双方に働きかける調整役と
自立支援員を置くことにしている。
退院した人たちが、
社会で生きられる仕組みを充実させたい。
道内には、十勝管内に全国的な先進例がある。
入院する必要がない人を
病院の都合で入院させてはいけない。
(以上、北海道新聞より引用)
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私は何回か書いたことがありますが、
学生時代に精神科医になろうと思った時期がありました。
『血を見るのが怖かったからです』
今となっては笑い話ですが、
当時は本当に血を見るのを想像しただけで、
背筋がぞっとしたものでした。
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医療費を含む社会保障費の中で、
精神科や精神病院の費用がどの程度かは知りません。
長期入院中の精神科患者さんは…
大部分が生活保護を受けていらっしゃいます。
医療費と生活費に税金が使われています。
うつ病で長期に職場を離れる人も増えています。
国は、精神疾患に対する根本的な対策をとるべきです。
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札幌の精神科病床数との因果関係は不明です。
札幌は同規模の他都市と比較して、
重大犯罪が少ないと聞いたことがあります。
北海道新聞の記事に掲載されてはいませんでした。
精神疾患をどう扱うかで、犯罪率にも影響すると言えます。
重大な犯罪を犯した犯人の弁護士さんは、
精神鑑定の結果、責任能力がないと…
無罪を請求します。
社会問題の一つとしてもっと政府に取り組んで欲しい課題です。