医療問題
障害のある受刑者
平成20年6月18日、朝日新聞朝刊-私の視点-への投稿記事です。
障害のある受刑者
再犯防止へ自立支援を
山本譲司(やまもと じょうじ)
元衆議院議員
わが国の刑務所は今や、
その一部が福祉の代替施設になってしまっている。
犯罪を繰り返して刑務所に何度も入ってくる
障害者が増えているからだ。
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私は、
国会議員の秘書給与を詐取した罪により、
2001年7月から1年余り、
栃木県の黒羽刑務所に服役した。
私に与えられた作業は、
知的障害者、
精神障害者、
認知症老人など、
心身に障害のある受刑者たちの世話係だった。
自分が今どこにいるのかさえ理解できない
受刑者も少なくなかった。
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当初、
法務省が障害のある受刑者を
黒羽刑務所に集めたのかと思っていたが、
そうではなかった。
近年の調査では、
全国の刑務所が同じような状態だった。
とくに、
服役が2度目以降の「累犯者」を収容する刑務所では
障害者の割合が高く、
私が最近訪ねた累犯刑務所では、
受刑者の約6割が何らかの障害を抱えていた。
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彼らの多くは、
実社会で福祉から見放され、
ホームレスに近い生活を続けた揚げ句、
無銭飲食や置き引きといった
軽微な罪で刑務所に送られてくる。
知的障害があるのに
障害者手帳も持っていない受刑者にもよく出会った。
彼らは福祉の支援が届かない環境で生活し、
犯罪者として逮捕されても
取り調べや裁判で自らの境遇を語って
情状酌量を得ることさえ難しい。
もし福祉とのかかわりがあれば、
犯罪そのものを防げた事例も多い。
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彼らは福祉のセーフティーネットからこぼれ落ちて、
やっと司法という網に引っかかり、
獄中で保護されている。
それが日本の福祉の現実だ。
私はこうした暗澹(あんたん)たる状況を
「累犯障害者」などの著書を通じて訴えてきた。
一方、ここ数年、
障害者福祉をめぐる環境は大きく変化している。
2003年に障害者に対する支援費制度が導入され、
障害者の自立を促し、
施設入所型から地域定住型への
政策転換が始まった。
「脱施設」の流れは、
2006年施行の障害者自立支援法で、
さらに推し進められた。
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しかし、
障害者を施設でなく地域で支えるシステムは
まだまだ弱い。
福祉の網からこぼれ落ち、
そのうち、
少なからぬ障害者たちが罪を犯してしまう可能性がある。
これは、
同じような障害者福祉政策をとってきた欧米などで顕在化した問題だ。
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そこで私は、
問題意識を共有する関係者らと2006年、
「罪を犯した障害者の地域生活支援に関する研究班」
を立ち上げ、
厚生労働省の研究事業になった。
調査だけでなく、
出所した障害者を福祉施設につなぐ実践活動もしている。
今年は、
障害のある受刑者向けの相談窓口として、
「社会生活支援センター」を開設するに至った。
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しかし、民間主導で取り組むには限界がある。
政府はぜひ、自立支援策を制度化してほしい。
例えば、
罪を犯した障害者を受け入れた福祉施設に
助成金を手厚くする制度や、
福祉施設と更生保護施設が相乗りした
「障害者更生保護施設」を新設することなどが考えられる。
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この問題でぜひとも必要なのは、
法務行政と福祉行政の一体化だ。
法務省(矯正)と厚労省(福祉)が
縦割り意識を捨てて連携しないと、
累犯障害者は救い出せない。
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受刑者1人当たりに使われている法務省予算は
年間300万円近い。
刑務所に入る前に福祉の場で支えれば、
それほどお金はかからないし、
再犯防止の効果もあるだろう。
日本の福祉の力が問われている。
(以上、朝日新聞より引用)
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刑務所に勤務する医師を、
矯正医官といいます。
私がはじめて矯正医官を知ったのは、
札幌医大の学生の時でした。
矯正医官を希望する医師は少なく、
30年前から、
奨学金制度などで医学生に呼びかけていました。
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私が大学病院に勤務していた頃は、
札幌刑務所の矯正医官として働きながら、
大学で研究をしている先生がいました。
法務大臣が認めた、‘勉強’だったと思います。
刑務所の受刑者も病気になります。
私はケガをした受刑者しか治療した経験がありません。
受刑者には末期ガンの人も糖尿病の人もいるそうです。
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治療が必要な受刑者には、
‘治療’が施されます。
矯正医官が少ないのに、
どのような‘治療’が行われているのでしょうか?
受刑者には、健康保険がありません。
治療費は全て国庫負担です。
受刑者一人当たり、年間300万円には驚きです。
塀の中に入れておくのにも、
ずいぶんお金がかかるものです。
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私は、この山本譲司さんを直接は知りません。
秘書給与問題が出た時に、
有罪判決を受けて、
服役されたこともはじめて知りました。
私たちは、犯罪のない、
安全な社会に住みたいと願っています。
どうしたら、再犯を防げるか?
どうしたら累犯者をなくせるか?
塀の中のことも情報を開示して、
広く国民が考えるべきだと思いました。
山本譲司さん
(朝日新聞より引用)