医学講座
妊娠・授乳と薬
平成21年1月24日(土)朝日新聞朝刊、生活欄の記事です。
子ども
妊娠・授乳と薬
自己判断せず専門機関へ
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妊娠中、薬を飲んだけれど大丈夫かな。母乳育児はできないのだろうか--。そんな妊娠・授乳と薬に関する相談に乗ったり、景新情報を病院で提供したりする動きが広がっています。むやみに薬を控えて病気を悪化させるより、心配を取り除くことが先決です。 (森川敬子)
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千葉県我孫子市の会社員ロビンソン恵子さん(30)は、じんましんのため10年以上前からアレルギー症状を抑える薬を毎日飲んでいる。最近妊娠がわかり、複数の皮膚科や産婦人科の医師に相談した。「安全性はわからない。覚悟して飲むか、やめるしかない」と言われた。
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薬をやめるとかゆみが激しく、一日おきに飲むことにしたが、不安でたまらない。そんなとき、インターネットで国立成育医療センター(東京都世田谷区)の「妊娠と薬情報センターを知った。問診票を送ると、日時を指定され、先週、電話相談することができた。
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生まれてくるすべての赤ちゃんの3%程度には統計的になんらかの奇形がある。担当した薬剤師はそのことを話した上で「この薬を飲んだ方の出産の統計も同程度なので、薬が危険だとは言えません」。説明を受けたロビンソンさんは「飲んだ人の子がどうだったか知りたかったので、安心した。受話器を置いた途端、うれしくて泣いてしまった」と話す。
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センターは国の事業として2005年に開設された。世界中のデータを集めて薬の安全性を評価し、主治医や相談者に伝えている。母性内科医長の村島温子さんは「最新の客観的情報を提供することで不安をなくしたい」と話す。相談者のアンケートによると、妊娠に気づかず薬を飲んだ人は妊娠を続けるかどうか迷って来るが、相談後は迷いがふっきれる人が多いという。
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虎の門病院(東京都港区)では1988年から産婦人科医と薬剤師による「妊娠と薬相談外来」を開いている。これまでに延べ約一万人の相談を受けた。その9割はほとんど問題のないケースだという。
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薬剤部長の林昌洋さんは「妊娠と気づかず市販のかぜ薬を飲んでも赤ちゃんをあきらめるほどのリスクはまずない」と言う。妊娠2、3ヵ月は要注意だが、前回の生理から一カ月以内は影響がない。
最近は不安神経症や精神病の薬の相談が急増しているという。「奇形との関連が指摘される薬もあるが、比較的安全な薬もある。自己判断せず、ぜひ相談してほしい」
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両病院とも、母乳と薬の質問にも答えている。薬の成分は母乳に出るが、林さんは「体重あたりの移行量を計算すると、影響が少ないと思われる場合もある」と話す。妊娠と薬情報センターのサイトには、インフルエンザ治療薬のタミフルなど授乳中でも問題ないとされる薬と、抗がん剤や麻薬など使用してはいけない薬の代表例の一覧表が載っている。
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母乳育児を支援するNPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会代表で産婦人科医の涌谷桐子さんは「赤ちゃんに必ず薬の影響があるわけではない。必要な薬は飲みながら母乳を続けると、母と子の双方に恩恵がある。小児科医に赤ちゃんの状態を確認してもらうと安心」と話している。
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●国立成育医療センター「妊娠と薬情報センター」(03-5494-7845 http://www.ncchd.go.jp/kusuri/index.html)問診票を郵送すると、全国10ヵ所の協力病院の専門外来か、主治医のもとで説明を受けられる。
●虎の門病院「妊娠と薬相談外来」薬剤部医薬情報科(03-3588-1111、内線3410)に電話で予約。
●NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会 (http://jalc-net.jp/)母乳育児Q&Aにインフルエンザや花粉症と授乳について解説している。
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私たち医師は製薬会社から提供される、
薬剤の添付文書に従って、
患者さんへ薬剤の情報をお知らせします。
大部分のお薬には、
妊婦,産婦,授乳婦等への投与
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には,
治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
妊娠中の投与に関する安全性は確立していない
と書かれています。
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私は約20年の間、
形成外科医として、
数多くの先天異常の赤ちゃんを手術してきました。
生後間もない赤ちゃんの時に…
外来で診た子が、
もう多数、
成人して立派になっています。
赤ちゃんに何らかの異常があると、
おかあさんは悩みます。
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本来、人生で一番幸福で、
一番、楽しいはずの…
赤ちゃんの誕生が…
一転して、不幸のはじまりとなることがあります。
先天異常の子どもの治療は
お母さんへの教育からはじまるという、
外国の有名な形成外科医の言葉があります。
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唇顎口蓋裂をはじめとする、
体表面の先天異常の大部分は、
現代医学でもはっきりとした原因はわかっていません。
妊娠初期に何らかの異常が起こり、
正常な発達が妨げられて、
唇裂や口蓋裂となります。
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私が在籍していた時の北大形成外科では、
形成外科病棟を見学していただきました。
実際に手術を受けられたお母さんから、
手術の体験記をお聞きして、
辛いのは自分だけじゃないと知るだけでも、
どんなに心強かったことでしょうか?
私の患者さんの中には、
今でもお母さん同士が仲良しで、
交流が続いていらっしゃるご家庭もあります。
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国立成育医療センターには金子剛先生という、
すばらしい形成外科の先生がいらっしゃいます。
妊娠・授乳に限らず、
こうした国の施設は是非ご利用していただき、
少しでも健やかな子どもの成長を
助けていただきたいと思います。