医学講座
赤ちゃんに異常があったら
私が勤務していた1980年当時の北大病院は
南病棟6階に形成外科病棟がありました。
通称6-6(ろくのろく)と呼ばれていました。
6階が最上階で、
病棟の窓からは、
美しい北大構内の、
イチョウ並木や、
できたばかりの京王プラザホテル。
東急デパートのネオンサインなどが見えました。
■ ■
形成外科には、
6人部屋の大部屋が4室ありました。
男部屋、
女部屋、
学童部屋、
ベビー部屋、
と呼んでいました。
男部屋_601号室、
女部屋_602号室、
学童部屋_603号室、
ベビー部屋_604号室、
だったと記憶してます。
■ ■
604号室には、
常時6人の赤ちゃんが入院していました。
ほぼ全員が唇裂や口蓋裂の赤ちゃんでした。
唇裂(しんれつ)は生後3ヵ月、
口蓋裂(こうがいれつ)は生後1年6ヵ月で
それぞれ手術をしていました。
口蓋裂の子どもさんには、
唇裂の手術を生後3ヵ月で済ませていた子も
多数いらっしゃいました。
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くちびる(口唇)が割れているのが唇裂。
口の中の上あごが割れているのが口蓋裂。
(前歯の後ろから口蓋垂(のどちんこ)まで)
くちびるから口蓋垂まで割れているのが
唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)です。
この赤ちゃんたちが、
約2週間の入院生活で手術を受けます。
当然、お母さんもいっしょに入院して、
ミルクをあげたり手術後のケアーを学びます。
■ ■
不安いっぱいで入院されてきたお母さん。
入院後に医師や看護師が説明するより、
先輩のお母さんと赤ちゃんとご対面。
先輩からのアドバイスが何よりの励みになりました。
口蓋裂で入院したお母さんに、
小学生程度に成長した、
学童部屋のお姉ちゃんが
仲良く話しかけている姿もありました。
■ ■
形成外科は
体表面の先天異常を手術で治す科です。
内蔵の異常よりも、
余計に気になるのが、
赤ちゃんの顔の異常です。
待望の赤ちゃんに異常があったら、
お母さんは衝撃を受けます。
産んでしまった私の責任と…
■ ■
せっかく赤ちゃんが生まれたのに…
写真も撮れず…
親戚や友人にも見せられない…
お母さんの悩みは深く、傷つきます。
前にも書きましたが、
現在の医学でも
はっきりとした原因はわかっていません。
お母さんの責任ではありません。
■ ■
お母さんの責任は生まれたあとです。
赤ちゃんにしっかりと治療(手術)を受けさせ、
その後もしっかりと通って治療を続けます。
私が感激したことに、
口蓋裂の子どもさんのお母さんが、
子どもに一本も、
むし歯を作らなかったことがありました。
そのお母さんは、
むし歯もつくらず、
娘を立派に育て、
お嬢さんは看護師さんになりました。
■ ■
もし万が一、
生まれてきた子どもに…
異常があったら…
泣いていてもダメです。
自分を責めてもダメです。
いいお医者さんを見つけて、
ちゃんと手術を受けて
キレイに治してもらうことです。
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美容外科の先生を見つけるより大変です。
どの先生に手術をしていただくかで
その子の将来が決まります。
産んだ責任は
立派に育てることでとるのです。
赤ちゃんは可愛いです。
立派に成長した先輩が何人もいます。
安心して大丈夫です。