医学講座

セカンド・オピニオン

 さくらんぼさんから
 セカンド・オピニオンについてご質問をいただきました。
 セカンドオピニオンは大学病院や総合病院でも、
 保険外の自由診療で…
 料金も数万円と高額のところが多いようです。
 私は、有名な教授や准教授だけが、
 セカンド・オピニオンを求める相談相手として、
 適しているとは思いません。
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 身近に自分が信頼できる‘先生’を持つことが、
 一番頼りになることだと思います。
 よい先生には、
 よい先生のネットワークがあります。
 高いお金を払って、
 有名病院の先生に意見を求めるだけが、
 正しいセカンド・オピニオンの求め方ではないと、
 私は考えます。
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 次にご紹介する文章は、
 私が札幌医大形成外科に在籍していた時にいただいた、
 貴重な文章です。
 私の生涯の財産として大切にしているものです。
 ネットで検索することもできますので、
 実名を入れたまま公開させていただきます。
 文中のS市立病院は市立札幌病院。
 ベテラン医師は院長の吉田哲憲先生です。
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第19回「心に残る医療」私の体験記コンクール
平成13年3月2日表彰式、記念パーティー(於・帝国ホテル)
入選作品 佳作
「セカンド・オピニオン」
中田ひさえ(38)
札幌市・主婦
 医師の診断に異議申し立てをする事はなかなか難しい。医学に関して全くの素人は、素直に診断に従うしかないのだ。では、医師の診断に「それ以外の考え方はありませんか」と尋ねるならどうだろう。ある医師は、「私に何か文句があるのか」と怒るかもしれない。ある医師は、「そう思うなら、ヨソへ行けば」と突きはなすかもしれない。しかし私の出会った医師は違っていた……。
 ことの起こりは今年六月、七歳の娘のわきの下にできた、小さなできものだった。「ママ、何かプチッとしたものがあるの」「大きなニキビみたいね。痛い?」「別に痛くないけど、何か気になるんだ」。近所の皮膚科で診てもらい、気になるなら取りましょう、という事になった。「まあ取った方が、その組織を調べて、良性のできものかどうか確認もできますしね」。医師のその言葉がやけに耳に残り、ひどく不安な思いにとらわれた。
 切除は局所麻酔で三十分ほどで終わった。それから五日後、嫌な予感が現実のものとなる。
 病理検査の結果が出たのだ。あの小さなできものは「隆起性皮膚線維肉腫」。皮膚にできる悪性の腫瘍だった。すぐに大きな病院で診てもらうよう勧められた。
 紹介されたS医大病院では、皮膚に腫瘍が残っている可能性が高いので、もう少し広範囲に切除する必要があること、全身麻酔による切除手術を行い、二週間程度の入院が必要なこと、転移、再発の恐れの比較的少ない病気であることなどの説明を受けた。
 「できるだけ早い方がいいですね」。医師はコンピューターの画面とにらめっこしながら、手術日のやりくりをしている。「患者を見ずに、コンピューターばかり見ている、なんて批判されちゃうんですが……」と言いながら、娘の手術を少しでも早く組み込めるよう奮闘している様子だ。その気持ちをありがたく思う反面、そんなに大変な病気なのかと、改めてやるせない思いにもなった。
 本当に娘は悪性の腫瘍に侵されているのか、切除するしか仕方ないのか、そんな思いを抱えながら、手術の前に必要な心電図、レントゲン、血液検査を終え、入院手続きの説明も受けた。最後に、医師は娘に優しく話した。「悪い所を取ってしまえば心配はいらないからね。でも退院した後も、体育は半年ぐらいお休みしなくちゃならないよ。動くと傷口が汚くなっちゃうんだ。傷の大きさは十センチぐらいになるかなと思う」
 話を聞いているうちに、手のひらに汗がじっとりとにじんできた。自分の身の上に何が起こったのか、まだよく理解できていないような娘の横顔を見ていると、「もうこれしか方法はないのか」という思いが、また頭をもたげてきた。この小さな体から、皮膚をはぎとらなければならないのか。走ることが何より大好きな娘に、半年も運動を禁じなくてはならないのか。
 次の瞬間、思うより先に言葉が出ていた。「先生、大変失礼ですが、乳がんでは病院によって、切除する、しないの見解も違うと聞きます。この子の場合、もうこれしか方法がないんでしょうか」医師は、びっくりしたように私を見つめた。が、すぐにうなずいて答えた。「お母さんのお気持ち、わかります。親ならそう思って当然です。それはセカンド・オピニオンを求めるといって、全然かまわないことなんですよ」。思いがけない返答だった。セカンド・オピニオンという言葉も初めてであった。
 「S市立病院に、悪性腫瘍に詳しい先生がいます。私の師匠です。そちらでもう一度診てもらいますか。検査結果はすべてお渡ししますから」と、すぐに紹介状を書いてくれた。さらに、「こちらでの手術の予約はそのままにしておきますので、どちらでするか決まったら、できるだけ早く連絡を下さい」とも言ってくれた。その親身な対応には、驚きにも似た深い感謝の思いがこみあげた。
 すぐに紹介されたS市立病院を受診し、改めて病理検査の結果を見直してもらった。新たに、組織を染色する検査も行った結果、切除範囲はもう少し小さくてもよいとの判断が出た。この症状を数多く見てきたベテランの医師の存在、入院中も快適に過ごせそうな新しくきれいな病棟、私は、この病院に娘の手術を託した。
 たとえ同じ診断結果であろうと、患者やその家族にとって、「自分が納得して選んだ病院」という思いがあるのとないのとでは、病気に向かう気持ちに大きな違いが出てくると思う。娘の入院中は、自分が信頼した医師に任せているのだから……。という思いが不安を抑えてくれた。その意味でも、セカンド・オピニオンを勧めてくれた医師に感謝している。
 娘は、術後一か月から、元気に走り回って毎日を過ごしている。

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