医療問題

医師臨床研修

 平成19年10月19日、北海道新聞朝刊の記事です。
 道内の医局離れに歯止め 医師臨床研修、来春34人増 人材不足なお深刻
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 来春、医師となる医学生と病院側の希望を考慮し、臨床研修を行う病院を決める「マッチング」の結果が10月18日公表され、8,030人の研修先が決まった。
 大学病院の占める割合は前年比0.3ポイント増の49.1%と微増だが、3年連続で半数割れとなった。道内は大学病院の割合が同7.7ポイント増の43.4%と伸び、研修医の大学離れに一定の歯止めがかかった形だ。
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 研修先が道内の病院に決まったのは325人。うち大学病院は
・北大69人 (前年比12人増)
・札幌医大52人 (前年比13人増)
・旭医大20人 (前年比9人増)
の計141人(前年比34人増)だった。
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 募集定員に対し、実際に受け入れる医学生の割合(充足率)は
・北大が86.3% (前年比31.5ポイント増)
・札医大が75.4% (前年比33.9ポイント増)
・旭医大が51.3% (前年比25.1ポイント増)
 と前年を大きく上回った。大学を通じて地域医療に携わる医師の養成が期待される。
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 全国の大学病院の充足率の平均は71.6%で、100%となったのは東大、神戸大、慶応大など18病院だった。
 希望登録した全国の医学生は8,291人で、うち96.9%の研修先が決定。以前は70%前後を占めていた大学病院は、新制度導入後、58.8%、52.7%、48.3%と三年連続のダウンとなったが、今回は49.1%と少し上向いた。
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 病院の募集定員は11,563人。充足率は民間や公立など市中病院67.5%、大学病院71.6%。都道府県別の充足率は最高が東京の86.7%。道内は64.5%と、全国平均の69.4%を下回っており、医師不足は依然深刻だ。
 充足率を大きく伸ばした札幌医大病院は、2006年度から専門とする診療科を研修途中で変更できる制度を導入した。
 同病院臨床研修センターは「研修生の意向を尊重する姿勢を道内外でPRしてきたことが奏功した。ただ研修医の大学離れは全体では続いており、今後も楽観視できない」としている。
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 2004年度に導入されたマッチングは、医学生の研修希望と医療機関の受け入れ希望の順位を登録しコンピューターで合致させて決定する仕組み。
 (以上、北海道新聞より引用)
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 一般の大学生は、3年生の秋頃から就職活動が始まります。医学生は、6年目に、自分が臨床研修をする先を決めます。その病院の試験や面接を受けます。病院によって給与や待遇・研修システムが違います。
 学生と病院の双方から、希望順位を医師臨床研修マッチング協議会へ登録します。
 優秀な学生を選ぶのは病院の権利。良い病院を選ぶのは学生の権利です。
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 一人の優秀な学生が、たくさんの病院から‘内定’をもらい、次々に内定を蹴ってしまっては、臨床研修制度は成り立ちません。
 学生と病院の希望をコンピューターが判断し決めます。これが今の臨床研修病院を決めるシステムです。
 私の時代には大学病院を選ぶ学生が大部分でした。現在の医師不足の原因の一端は、この臨床研修制度にあると言われています。
 平成19年2月2日の日記‘医師引き上げ’にも記載してあります。
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  一般の大学生が将来性があり、夢があり、有名な企業に就職を希望するのと一緒で、現代っ子の医学生は3Kを嫌います
 学生や研修医は勉学の傍ら、先輩医師の仕事ぶりや生活をよく‘観察’しています。
・子供や家族と別れて一人で単身赴任
・毎日朝から深夜まで働いても
・住民からちょっとしたことで苦情が来る
・最後にバーンアウトしてしまう
 僻地の医者が嫌われるのは、こうした‘観察’の結果です。へとへとに疲れて、疲弊している先輩を見て、誰もそのようになりたいと思いません。
      ■         ■
  大学も一般病院も、学生や研修医に、‘夢とロマン’を持てるような将来像を示せないと、決して‘人’は集まってきません。
 内紛でゴタゴタしている会社に就職する人がいますか?今にも倒産しそうな会社に就職する人がいますか?
 厚生労働省のお役人に、医師が希望を持って働けるような制度を確立していただきたいと願っています。

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医療問題

内科医全員退職

 平成19年10月19日、北海道新聞朝刊の記事です。
 日鋼病院 内科医も全員退職へ
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 【室蘭】医師の退職が相次ぐ日鋼記念病院(医療法人社団カレスアライアンス経営)で、新たに内科医3人全員が11月末で退職することが18日分かった。同病院では、3人を含め11月末までに13人の医師が退職予定。医師確保が進まなければ4月から休診中の産婦人科に加え、脳神経外科、循環器科、内科の3科も休診する可能性がある。
      ■         ■
 同病院では、今年9月のカレスアライアンスの西村昭男前理事長解任を機に、西村氏に近い医師らを中心とした退職の動きが加速。9月末で5人が退職し、今月末に脳神経外科医1人が、11月末には循環器科の医師4人が退職することが明らかになっている。一方、産婦人科は大学病院の医師引き揚げにより今年4月から休診している。
      ■         ■
 同病院は、19日に室蘭市内で開かれる西胆振医療圏関係者会議で、内科医を含めた医師退職の現状について報告する。
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 平成19年10月16日、北海道新聞朝刊には次の記事も掲載されています。
 日鋼病院問題で医師の慰留を要請 室蘭など3市長
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 【室蘭】医師不足から、救命救急センターが事実上休止するなど、日鋼記念病院(室蘭市新富町)の体制縮小が進んでいることに関し、室蘭市の新宮正志市長、登別市の上野晃市長、伊達市の菊谷秀吉市長は10月15日、同病院を経営する医療法人社団カレスアライアンスの勝木良雄理事長に「退職の意思を示している医師が踏みとどまるよう伝えてほしい」と要請した。
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 日鋼記念病院は、室蘭市など三市の救急医療を支える重要な病院であることから、三市合同で要請に踏み切った。
 勝木理事長は要請に対し、「道内外の大学病院にお願いし医師確保に努めている」と述べるにとどまった。
 同病院では、カレスアライアンスが西村昭男理事長を解任したことに端を発し、すでに退職した医師を含めて、10人の医師が11月末までの退職を申し出ている。
 (以上、北海道新聞より引用)
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 医療法人の内紛から、地域医療に混乱をきたしているのは、医療人としてとても残念です。
 一番困るのは、地域住民です。内科の先生がいなくなった病院は異常です。
 先生がいなくなってしまった病院からは、優秀なスタッフもいなくなってしまいます。
 新しい先生が来ても、スタッフや住民と馴染んで診療が正常に戻るまでの時間がかかります。一日も早く混乱が収拾されることを祈念しています。

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医学講座

多汗症

平成19年10月15日、朝日新聞夕刊-体とこころの通信簿-の記事です。高山敦子さんというライターさんの署名記事で、多汗症について詳しく解説してあります。
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 多汗症「病気」認識薄く、人知れず苦悩
 多汗症。特に暑くもないのに、いつも汗をかいている。たいていは、手のひらや足の裏、わきといった、体の一部のことが多く、「局所多汗症」と呼ばれる。
 「一般に病気という認識がないため、人知れず悩んでいる人が多い」
 こう話すのは、塩谷ペインクリニック(東京都品川区)の塩谷正弘医師だ。
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 電車のつり革をつかむと汗が垂れてくる。文字を書こうとしても紙が汗で破れてしまう。手や足が汗でぬれて靴下がはけない。汗で針がすぐにさびてしまい、縫い物ができないー。
 日常生活に差し障りがあるほどの深刻な症状に悩む患者もおり、塩谷さんのクリニックを受診する。
 「手のひらがしっとり湿る程度の軽症も含めると、局所多汗症の人は100人に1人ほどいるのではないでしょうか」と塩谷さん。それほど、潜在患者は多いとみられる。
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 気温が高い時、人は自然に汗をかいて体温を調節しようとする(温熱性発汗)。人前で話をしたり、試験を受けたりするなど緊張した時にも汗をかく(精神性発汗)。
 多汗症の原因ははっきりしないが、緊張時によく汗をかく人の方に重い傾向があるという。自分の症状に不安を感じている人が多く、その不安が症状をさらに悪くするという悪循環に陥る場合もある。
 「人と会う」と考えるだけで、手のひらがじっとりぬれてくることもあるほどだ。
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 では、多汗症の人は、特異な体質なのだろうか。東京医科歯科大病院の横関博雄教授(皮膚科)は、汗を分泌するエクリン汗腺の数も大きさも、多汗症の人とそうでない人とでは「変わらない」と話している。
 どうやら、汗をコントロールする神経系に何らかの異常があるのではないか、と考えられる。ただ、原因ははっきりしていない。
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 そのため、治療は主に対症療法になる。汗をかくのを抑える働きがあるアルミニウムを利用する方法がある。
 コットンに10~20%の塩化アルミニウム水溶液を含ませ、汗をたくさんかく場所にはって寝る。横関さんは「軽症や中等度の人の約8割、重症の人でも約7割はこの治療で汗の量をかなり減らすことができます」と話す。ただし、かぶれるなどの副作用もあり、長く続けられないことがある。
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 わきの下に小さな穴をあけて汗をコントロールする交感神経を遮断する手術もある。しかし、手足の汗を減らした分、腹部など、ほかの場所でよく汗をかくようになる代償発汗も否定できない。
 ボツリヌス毒素の注射を導人する美容外科もあるが、長期的な効果は科学的に証明されていない。「現実的ではないでしょう」と横関さん。
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 「人に気づかれたら……」など、引け目を感じて内向的になる人もいて、心身両面からのケアも欠かせない。
 (ライター・高山敦子)
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 「局所多汗症」あなたは大丈夫?
①全身性疾患(結核などの感染症、パーキンソン病のような神経疾患、糖尿病、肥満症、甲状腺機能障害、更年期障害など)がないのに手のひらや足裏、わきの下など特定部位に汗をかき、全身にはかかない
②緊張時に手のひらや足裏、わきに多量の汗をかく
③汗で日常生活や仕事などに差し障る
④親や兄弟姉妹に同じ症状の人がいる
⑤寝ている間は汗をかかない
⑥両手足、両わきなど左右対称に汗が出る
⑦多汗の症状が幼少期~25歳くらいに出た
 のある人は全身に汗をかく全身多汗症を発症する傾向があり、特定部位に汗をかく局所多汗症とは異なります。
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 日本発汗学会のホームページ(http://dept.md.shinshu-u.ac.jp/I-1seiri/ase.office.html)に汗に詳しい医師や研究者の情報が紹介されている。
 皮膚科のほか、専門外来を設ける病院もある。脊髄に障害があったり、甲状腺の働きに異常があったりするほか、低血糖の場合にも多汗症がみられることもあり、注意が必要だ。
 (以上、平成19年10月15日(月)朝日新聞夕刊より引用)
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 立派な署名記事です。内容も一部を除き正しいと思います。残念なのは、ペインクリニックと東京医科歯科大学皮膚科の教授にだけ取材をし、美容外科の専門医に取材をしていないことです。
 厚生労働省が正式に認可していないため、大学病院の皮膚科教授といえどもボトックスの使用経験は少ないのが現実です。私はある有名な大学の教授にボトックスの打ち方を教えたことがあります。
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 ボトックスは腋窩多汗症には抜群の効果があります。精神性発汗が多いため、汗が出なくなるというだけでリラックスし、全身的な症状が改善する方もいらっしゃいます。
 日本では認可されていませんが、ワキの多汗にボトックスを注射するのは海外では当たり前です。効果も6ヵ月は持続します。署名記事なのですから、検証する取材をして欲しかったです。発汗学会のアドレスも間違っていました。

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医療問題

医師の激務

 平成19年10月17日、朝日新聞朝刊-声-の欄へ読者からの投稿です。
 医師の激務は分業で解消を  医師 44歳女性
 私は今月初めの3連休の日曜日、病院で小児科の救急診療を担当しました。診療は切れ目なく、昼食の時間もとれないほどでした。
 連休明け、匿名の母親から私あてに苦情メールが届きました。「2日続けて救急外来に通院したのに、ともに薬は1日分だけだった」「熱は下がったが、せきはひどくなった」。
 あげくに「風邪の患者を殺すつもりか」と非難されました。
      ■         ■
 救急外来は、生死にかかわる症状の患者さんのためにあり、救急での投薬も1日分しかできません。救急車で運ばれる患者さんは優先して診療しますが、「3日前から熱があって……」とかの方々が大半です。
 器具を使って赤ちやんののどを調べて泣かせた、との苦情もありました。こんなことは医師を消極的にさせます。そして、産婦人科や小児科、救急医療から医師を遠のかせます。(以上、朝日新聞より引用)
      ■         ■
 私が総合病院の救急当直をした時のことです。ピアスが化膿したという方がいらっしゃいました。
 数日前から調子が悪かったそうですが、昼間は混んでいるので、夜間の救急外来にいらっしゃいました。しかも午前0時を回ってからです。
 たまたま形成外科の私が当直でしたが、外科や整形外科の先生が担当だったら、申し訳ありませんが、明日、形成外科へかかってくださいで終わりです。
      ■         ■
 夜間や休日にできる治療や処置は限られます。
 救急病院を受診しても、専門医がいるとは限りません。
 子供さんの急病は仕方がないとは思いますが、小児科の先生もギリギリの人数で精一杯働いています。
      ■         ■
 一日分しか薬が出ないのは、その病院のシステムのためかも知れません。
 そのお母さんは、せめて3日分くらいお薬を出して欲しかった、ということを訴えたかったのか?とも解釈できます。
 いずれにしても、このような状況を続けていると、小児科を志す先生はいなくなってしまいます。
      ■         ■
 医学部を志す人は、少しでも社会の役に立ちたいと願って志願するはずです。
 小児科や産婦人科は、少子高齢化を防ぐのにはなくてはならない診療科目です。
 一人でも多くの医学生や臨床研修医が、希望を持って働けるようなシステムを作って欲しいと思います。
 楽で儲かる仕事なんかはありませんが、苦労が報われないと誰でも働く気力を失います。

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医療問題

救急延命の指針

 平成19年10月16日、朝日新聞朝刊の記事です。
救急延命、中止に指針 本人意思不明なら医療チーム判断 救急医学会
 日本救急医学会は15日、救急医療の現場で延命治療を中止する手順を示した初のガイドライン(指針)を決めた。治療しても数日以内に死亡が予測される時、本人の意思が明らかでなく、家族が判断できない場合、主治医を含む「医療チーム」で延命治療を中止できるとしている。
 終末期医療をめぐるあり方には、日本医師会が「尊厳死」を容認する報告をしているほか、今春、厚生労働省の検討会が指針をまとめた。しかし、終末期の定義や人工呼吸器を外す手続きを具体的に定めた指針は学会レベルとして初めてとなる。
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 延命治療中止の手順。
 学会は、2月に公表した指針案について、会員や国民から意見を募り、寄せられた207件の意見や提言をもとに一部を修正し、この日、大阪市であった評議員会で賛成多数で承認された。
 救急の現場では、本人や家族の意思確認ができずに延命治療が続けられるケースがある。しかし、医師の判断で人工呼吸器を外した結果、刑事責任を問われることがあり、「ルールづくりが必要」という声が上がっていた。国も指針づくりに乗り出し、延命治療の中止をチームで判断することを求めた。ただ、患者の意思を基本とし、終末期の定義や中止容認の条件などは先送りした。
      ■         ■
 学会の指針では、終末期を「突然発症した重篤な疾病や不慮の事故などに対して適切な医療の継続にもかかわらず死が間近に迫っている状態」とし、具体的には、脳死と診断されたり、人工呼吸器などに生命の維持を依存し、移植などの代替手段がなかったりするなど四つの状態を挙げた。
 一方、末期がんなど慢性疾患で入院している患者は対象に含まない。
      ■         ■
 終末期と判断した後は、家族らが
①治療を希望
②延命措置中止を受け入れる
③意思が不明確、あるいは判断できない
④本人の意思が不明で、身元不詳などの理由で家族らと接触できない
に分け、①以外は、人工呼吸器の取り外しや薬剤をやめる際の手続きを定めた。④の場合も、最善を尽くしつつ、医療チームで治療中止を判断。チームで結論が出なければ院内の倫理委員会で検討するとした。
 指針作成にあたり、刑法学者らからも意見を聞いた。学会特別委員会委員長の有賀徹・昭和大教授は「延命治療を中止した際、司法の介入を招く事態も起きている。だが、ガイドラインに沿って判断すれば、法的にとがめられるはずがないと考えている」と話した。(野瀬輝彦、行方史郎)
      ■         ■
《解説》 現場には慎重論も
 日本救急医学会の終末期医療の指針は、患者本人の意思が不明でも、手続きや要件を満たせば延命治療が中止できるという踏み込んだ内容になった。
 東京大学の前田正一・准教授(生命・医療倫理)は「医療チームや倫理委員会で判断するという位置づけが明確にされた。指針に沿えば刑事責任を問われることはないと思う」と評価する一方、「患者と家族が必ずしも円満とは限らず、倫理委員会がどこまで機能するか分からないなど課題もある」と話す。
      ■         ■
 現場の医師には「指針を、そのまま採用する病院は少ない」といった慎重論がある。本人の意思が不明で、家族と連絡がとれなければ、判断は医療チームや倫理委員会にゆだねられる。この点について秋田赤十字病院(秋田市)の皆河崇志・脳神経外科部長は、現時点で人工呼吸器の取り外しに社会的合意が得られる条件の一つに「本人が延命治療を希望しないという明確な意思があること」を挙げる。「はっきりしない時はもっと慎重であるべきだ」とする。
      ■         ■
 学会に来た意見の中には「死期を早めることが日常化すれば、弱者切り捨てにつながりかねない」と懸念する声があった。「手続きさえ踏めばいいのか」といった批判を受けないためにも厳密な運用が求められる。
 以上、平成19年10月16日朝日新聞朝刊より引用。
      ■         ■
 救命救急センターでは毎日救急蘇生が行われています。
 平成19年7月26日に書いた、市立札幌病院救命救急センターの鹿野先生が、学会抄録に次のように書かれていました。
『救急集中治療領域における終末期医療のなかで、どんなに懸命に治療しても救命不能な患者は必ず存在する。それは救急医療の限界であり、救急医にとって敗北の瞬間でもある。』
 とても残念なことですが、どんなに頑張って治療しても、救命不可能な方はいらっしゃいます。
      ■         ■
 私は、2006年11月7日に書いたようにドナーカードを持っています。延命治療は要りません。レスピレーター(人工呼吸器)も要りません。
 使える組織はすべて提供します。
 少しだけ希望を言わせていただければ、組織の一部だけでも、(キレイな)女性の一部として生きていたいと、ひそかに願っています。
 家内には、そんなこと無理ょ…と言われていますが…。

朝日新聞より引用

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講義の準備

 今日から3週間にわたり3回の講義をしています。5年前に大学をクビになるまでは、4年間講義を担当しました。
 予備校や普通の大学の先生は授業をするのが仕事で、毎日講義をなさっていらしゃいます。
 医科大学や医学部の教員は、毎日の講義がない代わりに、診療をしながら講義や臨床実習を行います。
 人にものを教えるのは、かなり大変な作業で、資料を一つ作るのにも時間がかかります。
      ■         ■
 どんなに優秀な学生さんを相手にしても、講義内容が退屈だと居眠りをされてしまいます。
 米国の学会に参加すると、セミナーでは、
・講義の内容はよく理解できたか?
・話し方のスピードは適切だったか?
・資料は準備されていたか?
・資料の内容は適切だったか?
・講師に熱意は感じられたか?。
などのアンケート用紙が配られ最後に採点されます。
 日本でも学生側から評価する制度を取り入れている大学があるようです。
      ■         ■
 ‘撃墜王’とか‘鬼’とか呼ばれる教官がいます。厳しく学生を採点し、一学年の10%も再試験になると聞いたことがあります。
 教員にとって、再試験をすることは、それだけ手間も時間もかかります。再試験を何回したところで、その教員の評価にはつながりません。
 教員の評価は、英文論文を何篇書いたかが客観的な評価対象となります。
 厳しい先生は、それだけ教育にかける熱意があると考えてください。
      ■         ■
 私の講義は、形成外科という認知度が低い診療科目を、少しでも知ってもらいたいという思いで行っています。
 私が札幌医大6年生の時に、大浦武彦教授と濱本淳二助教授のお二人の先生が北大形成外科から特別講義にいらしてくださいました。
 私はその講義をお聞きして、形成外科を志すようになりました。
 大浦武彦先生は、現在も褥瘡(ジョクソウ)治療のパイオニアとして、日本中を駆け巡りながら講演をなさっていらっしゃいます。
      ■         ■
 講義のすごいところは、一度に数十人の学生さんに私の思いを伝えられることです。
 私が予備校時代に生物を教わった矢野雋輔先生の声は、35年も経った今でも私の脳裏に焼きついています。
 昨年の日記に矢野先生のことを書いたところ、ご親切に数年前にお亡くなりになったと、知らせてくださった方がいらっしゃいました。
 とても残念なことですが、先生が亡くなられても私の記憶の中には鮮明に残っています。
      ■         ■
 私は、私が死んだ後に一人でも私のことを覚えていてくれて、『形成外科ってすげー』という感動を伝えたいと願っています。
 3時間以上もかけて作り直したプリントとパワーポイントのファイルを持参して講義に行きました。
 2名ほど講義の最中に居眠りしている人がいました。
 残りの学生さんは熱心に聴いてくれました。あと2回頑張って講義に行きます。

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医学講座

客室乗務員さんの手術

 旅客機の客室乗務員は昔はスチュワーデス、今はキャビン・アテンダント(CA)と呼んでいます。
 契約社員が増えて、待遇は昔ほど良くないようですが、女性に人気がある職業の一つです。男性にとっては一つの憧れで、これは今も昔も変わらないようです。
 実際の勤務は重労働で、国際線になると長時間拘束されます。
      ■         ■
 かなり前のことですが、国際線の客室乗務員をなさっていらっしゃる方からワキガ手術を依頼されたことがありました。
 とても光栄なことですが、正直なところ困りました。まず客の荷物を収納するだけでも、手をかなり上まで上げなくてはなりません。
 狭い厨房で機内食を準備したり、ワゴンにのせて配るにも腕を伸ばします。ワキガ手術をすると、どう考えても2週間以上は無理です。
      ■         ■
 しかも、国際線になると勤務が不規則で、通院もできません。正直なところ最初はお断りしようと思いました。
 しかし彼女の悩みも深刻でした。長時間勤務の国際線では、どんなに‘お手入れ’をして乗務しても、目的地に到着する頃には気になるそうです。
 制服も汗で傷みやすいし、どうしても手術して欲しいと懇願されました。
      ■         ■
 幸い、約1ヵ月の長期休暇が取れたので、手術をお引き受けすることになりました。
 手術は順調に終わり、ご自宅で安静にしていらしたので、キズもキレイに治りました。
 長時間勤務も苦にならなくなり、快適にお仕事に復帰されました。
 数ヵ月後の診察の時です、『先生、臭いがするんです』と言われました。私は耳を疑いました。
      ■         ■
 手術後数ヵ月はまったく気にならなかったそうですが、ある日、長時間の勤務を終える頃に気づいたそうです。
 以前とは比べものにならない位、汗は減り、臭いも通常は気にならないのですが、せっかく手術したのに…と。
 その方は注意深くワキを観察されました。
 臭いが出ていたのは、おっぱいの横に近い、腋毛も生えていないところからでした。
      ■         ■
 形成外科や美容外科の教科書には、ワキガ手術をする範囲は、毛の生え際から1~2㎝と記載されています。
 標準的な範囲は、成書には10×4㎝程度と書かれています(腋臭症の治療、克誠堂出版、p64)。
 臭いが出ていた部位には腋毛がなく、一見したところアポクリン腺はなさそうな部位でしたが、確かにそこから臭いがしました。
      ■         ■
 最初に手術したキズがキレイだったので、また新たにキズができても構いません。と了解をいただきましたので、追加手術をしました。
 そのおっぱいの横の少し窪んだ部分には、少しですがアポクリン腺がありました。
 そのアポクリン腺を切除すると臭いは消失しました。
 それ以来、私はそこまでアポクリン腺を除去するようにしています。
      ■         ■
 私が手術する範囲は、広い方だと10×18㎝にもなります。
 今までの最高は、12×20㎝でした。その方の体重は100㎏を超えていました。
 臭いに対するこだわりは、総合病院の形成外科を受診なさって手術を受ける方と、形成外科・美容外科のクリニックを受診なさる方の要求度の違いかもしれません。
 ただ、経過を診察していて、臭いが残っていると、本人の次に気になるのは執刀医です。私は保険で手術をしても、できる限り臭いをゼロに近づけるよう努力しています。
 形成外科勤務医の先生にも、ちょっとだけ耳を傾けていただければと思います。
      ■         ■
 私は、その臭いがすると教えてくれた方に感謝しています。
 今は手術をする前に、必ずご自身に鏡で手術する範囲を確認していただいています。
 この取り残しが、一般に‘再発’といわれる症状なのだと思います。

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医療問題

カレスサッポロ格付け取り下げ

 平成19年10月11日北海道新聞朝刊の記事です。
カレスサッポロ格付け取り下げ
      ■         ■
 格付け大手のフィッチ・レーティンクス(東京)は10月10日、特定医療法人社団カレスサッポロ(札幌、西村昭男理事長)の円建て長期発行体デフォルト格付け(IDR)について、「2007年3月期決算から監査報告書の提出がない」ことを理由に、投資適格の「BBB」から非投資適格の「BB」に格下げした上で、格付け自体を取り下げたと発表した。
      ■         ■
 IDRは長期無担保債務の支払い能力を格付けしたもので、カレスサッポロは2006年3月に「BBB」を取得した。
 しかし今年夏に西村氏が理事長を兼務していた室蘭の医療法人社団で理事長解任騒動があり、カレスサッポロの経営への影響が取りざたされていた。
      ■         ■
 カレスサッポロは「『格付けが財務内容を不透明にしている』などの誤解もあり、騒動が沈静化するまで格付けを取り下げたい」との意向を示した上で「経営体制を構築し、あらためて格付けを取得したい」という。
 以上、北海道新聞10月11日朝刊より引用。
      ■         ■
 特定医療法人社団カレスサッポロは、2006年3月16日にフィッチ・レーティングスから、円建て発行体デフォルト格付(IDR)「BBB」を取得していました。
 フィッチ・レーティングスのHPには2006年03月16 日の時点で、次のように記載されています。
 カレスサッポロは2005年3月末には 1)北光記念病院、2)形成外科メモリアル病院、3)北光記念クリニック、4)家庭医療クリニック西岡の4医療施設を運営しており、病床規模は合計260であった。
 しかしながら、過去12ヶ月間に実施された時計台病院、稲積公園病院、稲積公園クリニックの買収・統合および時計台記念クリニック新規開設の結果、現在では4病院、4診療所の8施設を運営することとなり、病床規模も合計475へと拡大している。今2006年3月期の医業収入はおよそ90億円と前年比で倍増する見込みである。
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 カレスサッポロの格付は、経営陣の優れた経営手腕を反映している。同法人には、経営不振に陥った病院に対する経営面、医療面の支援要請が持ち込まれることが多いが、支援先病院はいずれも業績が急回復している。
 フィッチは、カレスサッポロの経営陣が規制環境の変更や人口動態の動向を見据えた戦略にたけ、医療法人に対する透明性の向上や説明責任を求める環境変化に前向きに対応していることを評価している。(2006年03月16 日のフィッチHPより引用)
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 それが、2007年5月23日には、『フィッチは特定医療法人社団カレスサッポロの円建て長期発行体デフォルト格付(IDR)「BBB」を格付ウォッチ「ネガティブ」の対象にした。
 適時開示の条件が満たされず、信用力に懸念が生じたためである。』と記載されています。
 フィッチ・レーティングスは、世界三大格付機関の一つと言われる、権威ある会社です。
 天使病院に端を発した今回の騒動で、格付けが下がったことはとても残念です。
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 救命救急センターが休止したり、循環器センター・産婦人科が休止したりすれば、病院の収益は急速に悪化します。
 私のような個人経営の医療法人は銀行からお金を借りて経営しています。カレス位になると、銀行ではなくファンドからお金が出ています。
 格付けが下がり、非投資適格の「BB」とされ、財務内容が不明であれば誰もお金を出してくれなくなります。
 私のような個人事業でしたら、すぐに倒産です。
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 時計台記念病院は、形成外科の急患にも対応していただけるので、当院で手術中などの時はいつもお願いしてます。
 先日書いた循環器センターではとても素晴らしい仕事をなさっていらっしゃいます。
 一日も早く、事態が正常化して欲しいと願っています。

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医療問題

救急救命センター休止

 平成19年10月12日北海道新聞朝刊の記事です。
日鋼記念病院 「救急救命センター」を休止へ
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 【室蘭】医療法人社団カレスアライアンス(室蘭)が経営する日鋼記念病院(室蘭市新富町)は11日、医師不足から、高度救急医療(三次救急)を担う「救急救命センター」を休止する方針を固めた。近く、道などに意向を伝える。救命救急センターの休止は全国初。
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 日鋼記念病院は今年9月、同社団の西村昭男理事長の解任に伴い、前院長を含め西村氏に近い医師ら5人がすでに退職。11月末までにさらに5人の退職が決まっており、医師は69人にまで減る見通し。退職医師には循環器科の4人や脳神経外科、形成外科の各1人が含まれているため、救急救命センターの機能維持は難しいとの判断に傾いた。
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 救急救命センターは、重症の救急患者を治療するための医療機関として、都道府県知事が定める。交通事故の負傷者や心筋梗塞(コウソク)、脳卒中などの治療に当たるが、日鋼記念病院は医師不足から脳神経外科と循環器科の新規患者の診療をすでに休止し、救急救命センターも事実上の休止状態となっていた。
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 同病院は、センターを当面の休止とし、医師が確保できれば復活したい考え。救急救命センターは全国に約200カ所、道内に10カ所あるが、厚生労働省は「休止や廃止は聞いたことがない」としている。
 同社団の混乱は、同社団が経営する天使病院(札幌)の別法人への移管問題が発端。移管を提案した西村前理事長に病院職員が反発、天使病院の産婦人科医師6人が退職を申し出る事態になった。その後、9月の臨時社員総会と理事会で西村氏が解任され、西村氏に近い日鋼記念病院の医師の退職が相次ぐなど、混乱が室蘭に飛び火した。
 以上、北海道新聞の記事より引用。
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 救命救急センターは一刻を争う救急患者の救命を行うセンターです。日鋼記念病院救命救急センターへは札幌医大から優秀なスタッフが派遣されていました。
 来年の洞爺湖サミットの際に、一番近くて頼りになるのが日鋼記念病院です。
 日鋼記念に救命救急センターがなくなると、万一の際は、ヘリで札幌まで搬送です。
  ヘリは悪天候に弱く、霧が出て視界が悪ければ飛べません。そうなると、高速道路を使って救急車で搬送です。
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 循環器センターもなくなってしまったので、もし、サミットで日本や外国の首脳が心筋梗塞になっても治療ができません。
 札幌まで搬送している間に、手遅れになります。
 そんなことは、北海道の医療行政を担当していれば、すぐにわかることです。
 カレスアライアンスの事情もわかりますが、とても残念なことです。
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 サミットは来年ですが、室蘭市を中心とする登別市、伊達市など近隣住民の方にはもっと切実な問題です。
 一医療法人の問題ではありません。西村先生は、北大第一外科助教授から、室蘭の日鋼病院へ赴任され、見事に病院を建て直されました。
 その業績は、医療界では有名な話しです。
 救命救急センターは、地域住民にはなくてはならないものです。一度休止してしまうと、優秀なスタッフもバラバラになってしまい、再建するのも容易ではありません。
 一日も早く、正常な状態に戻って欲しいと願っています。

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看護師の活用

 平成19年10月11日朝日新聞夕刊の窓-論説委員室から-に、看護師の活用という記事が記載されていました。
 以下は朝日新聞の記事です。
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 病院で働く看護師の技術や能力をもっと高め、医師だけに許されている「診断や治療」の一部を、看護師もできるようにしてはどうか-。
 国立病院機構の矢崎義雄理事長は最近、こんな思いを強めている。
 医療行為は医師しかできず、看護師は患者の世話にあたる、と法律で定められている。その壁に少し風穴を開けることはできないか、というのだ。
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 例えば手術。米国の医師は高い技術が求められる執刀にあたり、それ以外の仕事は専門の看護師や医療技師が支える。ところが、日本では若い医師が看護師や技師の仕事まで代行することが多いという。
 病棟でもそうだ。米国では専門の看護師が簡単な医療を次々とこなす。しかし、看護師の裁量の幅が狭い日本では、若手医師が検査や診療に駆け回る。
 医療をすべて米国式にする必要はない。しかし、看護師らにも医療の一部を担ってもらい、医師は専門性の高い仕事に専念できる仕組みをもっと考えていい。
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 というのも、病院の医師不足は、医師の絶対数が少ないこともあるが、医療のすべてを医師が担うため、仕事が過酷になっていることも遠因となっているからだ。
 問題は、責任が重くなる看護師の理解と協力が得られるかだ。
 しかし、4年制の看護大学が増え、小児医療やがん専門の看護師の養成も進んでいる。権限の委譲を歓迎する看護師は意外と多いのではないか。〈梶本章〉
 以上、平成19年10月11日朝日新聞夕刊 窓-論説委員室から-より引用
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 日本では看護師が点滴の針を刺したり、静脈注射をすることが、つい10年くらい前までは‘正式に’認められていませんでした。
 私が医師になった時は、どんなに新米で点滴が下手くそでも、点滴の針を刺すのは新人医師の仕事でした(北大病院では)。
 地方の病院や大学病院以外では、看護師さんがごく当たり前に点滴をしていましたが、北大だけは違いました。
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 手術室の器械出し(直接介助)という仕事があります。医師国家試験にも看護師国家試験にも、手術で使う器具の名前は出ません。講義でもあまり教えません。
 手術室ナースは、術者の指や手の動き、手術の流れを読んで、的確に器具を手渡しします。
 よくTVなんかで見る、『メス!(私はメスとは言いませんが)』と言って、ポンと渡すアレです。
 これがテキパキできるのは優秀なナースです。
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 北大では17:00になると、ナースは勤務時間が終了するので、研修医に交代していました。
 ナースは文部技官で時間外手当を払わなくてはいけませんが、研修医はタダで使える(時間外手当無し)ので研修医に交代です。
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 私たちが研修医の頃は、仕事の大部分が医師免許がなくてもできるような雑用でした。
 臨床研修医制度で大学病院が嫌われ、都市部の一般病院に人気があるのも、そんな伝統があるからかもしれません。
 今すぐに、看護師の業務が拡大するとは考えられません。
 厚生労働省は看護師免許でできる業務、医師免許でできる業務を明確にすべきだと思います。

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