医療問題

サミット救急医療2008

 平成20年2月7日、朝日新聞朝刊の記事です。
 首脳の急病テロに備え
 救急医療、隠密大作戦
 厚労省・道が対策
 医師・看護師ら200人待機
 協力病院公表せず
      ■         ■
 首脳が病気で倒れだり、テロがあったりした時にどう対応するか。
 7月の北海道洞爺湖サミットに向け、厚生労働省や道が救急医療態勢づくりを進めている。
 警備上の都合から内容は一切公表されていないが、
 2000年の九州・沖縄サミットを参考に、
 全国から医師や看護師らを200人規模で洞爺湖周辺に集める方針だ。
      ■         ■
 ただ、会場の地理的条件やテロ対策など、
 8年前との変化に対応する必要もある。
 「史上最大の作戦」(関係者)が、
 より進化することになりそうだ。(若松聡)
      ■         ■
 1月下旬の夕方、札幌市内である会合が開かれた。
 内容はおろか、開催の事実も「話せない」(道職員)という集まり。
 厚労省と道が主催し、サミットでの救急医療態勢について協議する研究会だった。
 昨年10月に第1回が開かれ、この時が5~6回目だった。
      ■         ■
 サミットの場で首脳らに万一のことがあっては世界的一大事になる。
 それだけに不特定多数の人に情報を漏らすわけにはいかない-。
 それが秘密保持の理由だ。
      ■         ■
 だが、関係者によると、
 サミット本番では基本的には沖縄での態勢を踏まえるという。
 沖縄では、首脳会合の会場から数㌔離れた県立病院を「拠点基幹病院」とし、
 医師や看護師ら5人1組による計18の専門医療チームが24時間態勢で待機した。
      ■         ■
 会場から1㌔未満の施設には「救急医療合同対策本部」を設け、
 ICU(集中治療室)ベッドを持つバスを2台配備。
 9人の医師による
 「首脳対応チ-ム」は
 それぞれ、小型酸素ボンベやポータブル心電計などを持った。
 これらに携わった約200人は全国から集められた。
      ■         ■
 今回も200人規模で全国の医師や看護師らを集め、
 洞爺湖周辺や、高度な医療を施せる
 札幌市の病院にも待機してもらう方向という。
      ■         ■
 だだ、沖縄の時点とは事情が異なる面も多い。
 沖縄の会場は平地だっだが、
 洞爺湖の会場「ザ・ウィンザーホテル洞爺」は湖畔の山頂にある。
 周辺も山々に囲まれている。
 2001年の米国での9・11テロを経て、
 生物・化学兵器テロヘの対策も講じなければならない。
      ■         ■
 また、サミット開催時に各国首脳は
 主に「ウィンザー」で過ごすが、
 最終日には後志支庁留寿都村の国際メディアセンターで記者会見すると言われる。
 そのため、同村にも医師らを待機させる必要が出てくる。
      ■         ■
 こうした理由から厚労省は、
 複数の拠点基幹病院を決めるとともに、
 関係自治体や周辺の医療機関を救急協力病院に指定する。
      ■         ■
 前者の一つには札幌医大病院が選ばれ、
 後者もすでに内定しているというが、具体名は公表しない方針だ。
 沖縄で組織された救急態勢は、関係者から「史上最大の作戦」と呼ばれた。
 洞爺湖では、それが進化することになる。
      ■         ■
 沖縄サミットの医療チームの一員を務め、
 今回の研究会にも属する札幌医大の浅井康文・救急・集中治療部長は
 「どんな不測の事態にも対応できる態勢をつくらないといけない」
 と話している。


(以上、朝日新聞より引用)

      ■         ■

 国と北海道は万全の医療体制を準備しているようです。
 ICU設備を整えた、バスを準備して、最先端の医療が行えるのでしょうか?
 所詮(ショセン)バスはバスです。
 病院の機能すべてをバス2台で代行できるものではありません。
      ■         ■
 国が公表しなくても、洞爺湖周辺の医療機関は限られています。
 一番近いのが、総合病院伊達赤十字病院(ダテ日赤)です。
 昭和15年8月28日、創立。
 許可病床数:374床。(一般314床、精神60床、透析38床)
 脳神経外科はありませんが、麻酔科も循環器内科もあります。
 CT、MRI、血管造影撮影装置もあります。
      ■         ■
 一番、頼りになりそうだったのが、
 日鋼記念病院でした。
 ここには、優秀な救命救急センターがありました。
 札幌医大の浅井教授の医局から医師が派遣されていました。
 残念ですが、現在の日鋼記念病院では、
 ‘サミットの救急指定病院’にはなれないと思います。
      ■         ■
 札幌市内で唯一、高度救命救急センターの指定を受けているのが、
 浅井教授がいらっしゃる、札幌医科大学附属病院です。
 ここには、ヘリポートもあります。
 人的にも設備的にも、問題がない施設です。
      ■         ■
 札幌市内で、他にヘリポートを備えた施設は、
 市立札幌病院と手稲渓仁会(テイネケイジンカイ)病院です。
 手稲渓仁会病院は、親会社がサミット会場の「ザ・ウィンザーホテル洞爺」と同じSECOMです。
 あの警備保障のSECOMが親会社です。
 こう書くと、文句を言われそうですが、間違いないと思います。
      ■         ■
 私の考えでは、
 伊達日赤、
 札幌医大、
 市立札幌病院、
 手稲渓仁会病院
 がサミット救急協力病院の候補です。
      ■         ■
 浅井教授から聞いたのではありません。
 私の推測です。
 ただ、これで万全ではありません。
 霧が出て、ヘリが飛べなければ、終わりです。
 医療は、バス2台があれば、万全であるほど甘くはありません。
      ■         ■
 最先端の治療を行うには、高度な診断機器。
 手術室などの治療設備。
 有能なスタッフ。
 多数のパラメディカル。
 これらがすべて揃って、はじめて最先端の医療が行えます。
      ■         ■
 サミットで外国の首脳が急病になって…
 日本の医療体制を見直す機運が高まってくれれば…
 と、とても不謹慎なことを考えてしまいます。
 北海道の医療、日本の医療は崩壊寸前です。
 誰か、偉い人が病気になって…
 政治家が本気で考えないと、
 取り返しがつかないことになります。
 実際に北海道に住んでいる住民が困っているのです。
 外国の首脳だけ特別扱いは困ります。

 
 
 

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新聞記事の引用

 毎日、日記を更新するのは、しんどい作業です。
 早く書き終わる日でも、最低一時間はかかります。
 日記を書くようになってから、新聞をよく読むようになりました。
      ■         ■
 昨日引用した、北海道新聞の山崎先生の記事は、読んでいて涙が出てきました。
 記事を書いてくれた、佐藤千歳さんという記者さんに感謝します。
 以前、佐藤さんから取材を受けたことがありました。
 お若いのに、情熱的な記者さんでした。
 失礼な話しですが、先輩の男性記者より、意欲を感じました。
      ■         ■
 私が、新聞記事を引用して、日記に掲載するのは、
 一人でも多くの方に、
 私が記事から得た‘感動’や‘憤り(イキドオリ)’をお伝えしたいからです。
 平成19年10月5日にも書きましたが、今の若い人は新聞を読みません。
 息子も、クリニックの職員も同じです。
      ■         ■
 以前の日記では、新聞社のHPにリンクを張り、記事そのものは引用しませんでした。
 ところが、新聞社のHPでは、一定期間が過ぎると、記事が読めなくなることに気づきました。
 ネットで検索できる記事もありますが、紙面にしか載らない記事もあります。
 魅力的な記事は、紙面にしか載らない記事に多いような気がします。
      ■         ■
 私は、もっと若い人に新聞を読んで欲しいと思います。
 日本だけの現象ではないそうですが、
 米国でも、新聞社は危機感を持っているそうです。
 最近のNHKビジネス英語会話で話題に取り上げられていましたが、
 米国では郵便ポストが街角から消えています。
 インターネットの普及で、電子メールが郵便を‘駆逐’してしまいました。
      ■         ■
 ネットや携帯で記事を読むのと、新聞は違います。
 新聞社はすべての記事をネットに載せてしまうと、読者がいなくなります。
 新聞社がネットで記事を公開しているのは、
 自社の新聞を購読してほしいからです。
      ■         ■
 以前、記者の方と数ヵ月にわたりお付き合いしたことがあります。
 新聞記者は
 (他社を)抜け。
 書け。
 寝るな。
 と教育されるそうです。
      ■         ■
 特ダネを探し、自社だけ、一面のトップ記事にする。
 これが、新聞記者の‘使命’だそうです。
 私は、新聞を読むのが好きです。
 今日の北海道新聞にも、佐藤千歳さんの署名入り記事が出ていました。
 中国へ単身赴任した、銀行員のお父さんについてです。
      ■         ■
 毎日、新聞を制作してくれる新聞社の方。
 早朝から、配達してくれる新聞販売店の方に感謝しています。
 一人でも多くの方に
 新聞を読む習慣が残って欲しいと願っています。

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医学講座

山崎浩一先生を偲ぶ

 平成20年2月6日、北海道新聞朝刊の記事です。
 がんと闘った専門医・山崎さんがのこした言葉
 1%の希望 信じよう
 患者、最後まで支え続ける
      ■         ■
 北大大学院医学研究科で中皮腫や肺がんを専門としてきた医師(46)が1月12日、自ら専門とする中皮腫で他界した。
 治療者と患者、二つの立場を経験した医師がのこした言葉は「1%の希望」。
 死に直面して発せられた希望という言葉は、のこされた人に何を伝えようとしたのか。(佐藤千歳)
      ■         ■
 呼吸器内科学分野(第一内科)准教授、山崎浩一さん。
 2006年6月、職場の健康診断で肺に影が見つかる。
 すぐ精密検査。悪性胸膜中皮腫と診断された。
 当時44歳。肺の悪性腫瘍の専門家として活躍していた。
 検査結果を知ったのも、米国の学会から札幌に戻った日のこと。
 「こんなに元気なのに。信じられない」。
 息切れしないか、階段を一段おきに駆け上がってみた。
 「いつもと変わりないんだよ」-。妻の望美さん(44)に語りかけた。
      ■         ■
 6月末、左肺胸膜全摘出の手術を受ける。
 経過は順調だったが、9月、骨転移を含む全身性の転移が見つかった。
 衝撃はより大きかった。
 「転移して、抗がん剤が効く確率は30%。効かなければ余命三ヵ月だ」。
 望美さんに説明した。
◆命燃やし診察
 「責任感が強く、他人に厳しく、自分に最も厳しい人」。
 十年の間、一緒に仕事をしてきた第一内科の大泉聡史助教(41)は言う。
 仕事を離れれば、スポーツ好きの親しみやすい先輩だった。
      ■         ■
 北大の学生時代、山崎さんはテニス同好会にいた。
 ダブルスを組む友人が、強豪との対戦前、「勝つのは無理だ」と山崎さんに言ったことがある。
 「勝つ可能性が1%なら、練習で5%にできる。
 そこでうまく作戦を立てれば、10%にできる。
 10%なら、10回試合をやれば一回は勝てるってことなんだぜ。
 その一回が本番の試合かもしれないじゃないか」
      ■         ■
 真剣に怒る山崎さんの表情を、友人は忘れられない。
 二人は勝った。
 友人の思い出は、山崎さんの闘病の姿勢と重なる。
 「30%も可能性がある。良い面を見ていこう」。
 そう言って始めた再発後の抗がん剤治療は、効果を現した。
      ■         ■
 このころ、病棟と外来の仕事はやめていた。
 だが、症状が落ち着くと、他の病院にかかる患者が専門家の意見を求めるセカンドオピニオン外来で、肺がんや中皮腫を担当し始めた。
 「患者さんより山崎君の方がつらそうに見えました。
 それでも『患者さんに説明したい』と。
 やり続けたい仕事だったのでしょう」。
 第一内科の西村正治教授は言う。
      ■         ■
 第一内科の山谷敦子副看護師長(42)は、
 「患者さんの性格や職業、家族まで考えて治療方針を決める先生だった」。
 自らもがん患者となり、患者の立場を思いやる言葉は確実に増えた。
◆確率との戦い
 昨年9月26日。
 医局講演会で、山崎さんが講師を務めた。
 後輩の医師に、息切れを押さえながら、語りかけた。
 「がん患者に向き合う医師は、病気の進行について悲観的な見通しを言うのは絶対にやめてほしい。
 患者さんに希望を与えよう。
 そのためには、がん患者を治した経験をたくさん持ってほしい」
 患者として得た経験を医療現場に伝えようと、懸命だった。
      ■         ■
 現代のがん治療は、確率との戦いでもある。
 抗がん剤が効く確率、放射線治療が効く確率、五年生存率、余命-。
 それぞれの選択肢の持つ確率が、治療方針を決める鍵となる。
 悪性中皮腫は進行が早い。
 「骨転移があれば、過去の症例から、多くの医者は『もうだめだ』と思ってしまう。
 転移しても五年、十年と生きる人がいるが、可能性はかなり低い」 (西村教授)
      ■         ■
 治療の効果が出る確率が低ければ、積極治療を中止し、
 苦痛を取り除くことに重点を置くターミナルケアに移行する選択肢がある。
 「もういいですよ」。
 そう言って穏やかな末期を望む患者もいる。
 緩和ケア病棟やホスピスが増えた現在、尊重されるべき選択肢だ。
 ただ―。わずかな可能性にかける患者がいる。
 山崎さんはその一人だった。
      ■         ■ 
 主治医の大泉さんや、北大放射線科の白土博樹教授と相談しながら、
 抗がん剤や放射線の治療を続けた。
 病室にパソコンを持ち込み、仕事もやめなかった。
 「サッカーの試合なら、残り一分、0対4の状況でも、がんばる患者さんがいる。
 その気持ちを、最後のホイッスルが鳴るまで支えるのが医師の役目だと。
 私たちが普段忘れがちなことを、山崎先生に教わった」。
 白土教授は言う。
      ■         ■
 そして、昨年12月。山崎さんはホイッスルが間近いことを覚悟する。
 「エンドステージだ」。
 望美さんに言った。
 専門医として、自らの病状を冷静に見極めていた。
 まるで、学会の手配をするように、自分の葬儀の用意を始めた。
◆最後の元旦に
 2008年、元旦。
 外泊した自宅のソファで、
 山崎さんはノートパソコンをひざに抱き、
 葬儀で朗読してもらう「病状報告」を少しずつ打ち始める。
      ■         ■
 「本日はお忙しい中、お集まりいただきまして誠にありがとうございました…」
 翌日は、テレビ中継の箱根駅伝を、じっと見ていた。
 山崎さんは、スポーツが好きなわけを、望美さんに話している。
 「スポーツは、何があるか分からないよね。
 終わりの方に大逆転のドラマがあるかもしれない。それが楽しいんだ」
 12日早朝、山崎さんは北大病院で永眠した。
◆「心構え」託す
 18日、がん治療の医師や看護師を集めた研究会で、
 白土教授が「病状報告」にあった山崎さんの言葉を紹介した。
 今日は治らなくても、明日はよい治療法が見つかるかもしれない。
 1%の希望があれば、闘病意欲のある患者さんには、
 その1%にかけてがんばろうと言うべきだ-。

      ■         ■
 命の終わりを見つめながら、
 前を向いて生きること、
 その闘いを支える医療関係者の心構え。
 山崎さんのメッセージは、静かに波紋を広げている。
      ■         ■
 中皮腫
 胸膜や腹膜などの表面を覆う中皮細胞から発生する悪性腫瘍(しゅよう)のこと。
 アスベストが関与していることが多く、
 吸い込んでから30-50年後に発症するが、
 吸引歴のない人が発症することもある。
 胸腹中皮腫の場合、
 胸水による呼吸困難や痛みを伴い、病気の進行は早い。
 手術、放射線治療、抗がん剤治療が現在の標準的治療法。
      ■         ■ 
 山崎さん自らが書いた「症状報告」
 私は胸膜中皮腫という、アスベストの吸入歴のない比較的若い男性には非常にまれな病気になり、46歳という働き盛りの年齢で人生を終えることになりました。
 私の専門は肺がん、胸膜中皮腫などの呼吸器腫瘍(しゅよう)の診断、治療であり、たくさんの胸膜中皮腫の患者さんを診てきました。
 そのような私が自分の病状の経過がどうであったか、
 自分が専門であった致死的疾患に罹患(りかん)したとき、病気にどう対応したかを、
 本日お集まりのみなさまに正確にお伝えするのも一つの義務ではないかと考え、簡単な文章にまとめました。(中略)
 私は、1年半以上の闘病の生活のほとんどを、まだ治る可能性があると信じて、自らの治療を勉強し、選択してきました。
 この考え方は患者さんにとって非常に重要ではないかと思っています。
 肺がんや胸膜中皮腫の患者さんの多くは、
 最初の時点で医師から「もうあなたの病気は治りません」と宣告されていると思います。
 しかし、1%でも0.5%でも治る可能性があると思えるかどうかは、治療を前向きに受けられるかどうかにつながる非常に重要な点であると私は思います。
 最近では、現実的に5年も10年も長生きしている進行肺がんや胸膜中皮腫の患者さんが増えてきており、
 そのような例をとって患者さんたちを励ましてあげることが重要ではないかと、治療する側と治療を受けた側の両方を経験した一人として強くそう思います。
 (葬儀で大泉医師が朗読)
      ■         ■
 山崎先生のご冥福をお祈り申し上げます。合掌。
 北大第一内科HPにも、山崎先生のページがあります。

生前の山崎浩一さん。「熱い人だった」と周囲は口をそろえる
 仏壇には、愛用の聴診器と腕時計の横に、
 出身の札南高の甲子園出場を記念するボールが供えられた。
 (北海道新聞より引用)

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医学講座

歯の再植(サイショク)

 平成20年2月3日、朝日新聞朝刊、『ひととき』への投稿です。
 必死で捜した歯
 中1の息子と三女を送り出して、さてと思ったら、鏡の前に息子がいる。「どうしたの、遅刻しちゃうよ」と言いかけて言葉をのみ込んだ。
 振り向いた息子は血まみれの□から血を滴らせ、「もう元に戻らん」と泣き出しだ。
      ■         ■
 「歯はどこにあるの」と叫びそうになった。登校途中、自転車で転んだという息子の□には、上の前歯がなかった。
 息子をせっついて、血の跡の残る凍ったアスファルトにほおをすりつけるようにして捜したが、見つからない。
      ■         ■
 歯、息子の歯。毎晩仕上げ磨きし、毎年の検診で歯垢を除去し、虫歯のない、きれいに並んだ、これだけは本当に自慢の歯。
 早くみつけなくっちゃ、車にひかれてこなごなになっちゃう。
 必死の私に「母さん、あれ」と息子が指さした。側溝の水の中で、白い4㌢もある三日月形が輝いている。
 じゃぶじゃぶ入って拾いにいった。
      ■         ■
 切るのか縫うのかと思った修復手術は、抜け落ちた歯と穴をきれいにして差しこみ、隣の歯と接着剤でとめるものだった。
 歯がつくかどうかは本人の回復力次第という。
 がんばれ、息子。
 毎日好きなだけ食べて、眠って、野球をしているのは、こんな時のだめでしょう。
      ■         ■
 夜、4人の子どもに言った。
 「歯でも落としたら必ず拾いなさい。泣いて見失うようなまねをするんじゃない」
 山口市 平田美子 無職 42歳
 (以上、朝日新聞より引用)
      ■         ■
 口腔外科(コウクウゲカ)の先生に伺いました。
 歯の根っこ、歯根の表面には歯根膜という組織があります。
 その歯根膜が60%以上生きている場合は、速やかに戻せば元どおりにくっつくそうです。
 これを歯の、再植(サイショク)といいます。
      ■         ■
 もし、歯が取れてしまったら、歯を捜して、拾います。
 できれば、生理食塩液につけて、できるだけ早く歯医者さんへ行きます。
 生理食塩液は、医療機関であれば、だいたいどこにでもあります。
 少し大きな、ドラッグストアでは売っています。
 できれば、生理食塩液で歯を洗って、その液につけて歯医者さんへ行きます。
 何もなければ、拾った歯を口の中に入れて、
 飴(アメ)をしゃぶるようにして、口の中で‘保存’して、歯医者さんへ向かいます。
      ■         ■
 歯医者さんでは、歯が抜けた『穴』に歯を入れて
 ‘ひととき’の方のように、強力な糊(ボンドのようなもの)で固定します。
 歯根膜が、しっかりしていて、条件がよければつきます。
 早ければ早いほどよいそうです。
 間違っても、消毒用アルコールなんかには漬けないで下さい。
 歯が死んでしまいます。
      ■         ■
 歯の再植の専門は、口腔外科です。
 街の歯医者さんでも、できるそうです。
 良い歯医者さんを見つけられて、運がよければつきます。
 皮膚が削げてしまった時にも、付けることができます。
 これは形成外科が専門です。
 機会があれば、ご紹介したいと思います。

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昔の記憶

夫婦喧嘩

 平成20年2月3日、朝日新聞『天声人語』からの引用です。
 フランスのサルコジ大統領は「本音の人」である。
 昨秋に離婚し、14歳下の人気歌手カーラ・ブルーニさん(39)と結婚したらしい。
 在職中に配偶者を代えた仏元首は、本当かどうかナポレオン以来とも聞く。
 要職だからと、私生活を犠牲にする気はないようだ。
      ■         ■
 パリで4年前、公演後の楽屋にカーラさんを訪ねたことがある。
 缶ビールを片手に、来日への思いを気さくに語ってくれた。
 その応対ぶりから、仕事にも恋にも正直な人とお見受けした。
 大統領とは生き方も一致したのだろう。
      ■         ■
 自分に正直に、本音で生きてゆくのは楽じゃない。
 周囲との摩擦、好奇の目。
 「結婚は忍耐」と言う通り、夫婦がそれぞれ我を通せば破局に至ることもある。
      ■         ■
 されど人生は一度きり。
 二人をうらやましく思うかどうかは別にして、つまらぬ遠慮や辛抱で消耗したくはない。
 そうはいかないのが普通だろうが、辛抱しすぎると命が縮むというからご用心だ。
      ■         ■
 夫婦げんかを我慢すると早死にしやすいという説を、通信社が報じた。
 米ミシガン大学の研究者が、192組を17年追跡した結果だという。
 相手の言動を不当と感じた時、感情を押し殺して我慢し合う夫婦は、言い争って解決しようとする夫婦の倍の死亡率だった。
       ■         ■
 江戸川柳に〈喧嘩(けんか)には勝ったが亭主飯を炊き〉とある。
 言うだけ言われたおかみさんが「職場放棄」で反撃に出る。
 これならそろって長生きだろう。
 夫婦げんかや離別を長寿の秘訣(ひけつ)としてお勧めするのではない。
 愚痴も我慢もほどほどに、仲むつまじいのが一番です。
 (以上、朝日新聞より引用)
      ■         ■
 どこの家も似たようなものだなぁ~というのが感想です。
 お江戸の昔から、夫婦喧嘩をすると、奥さんはご飯をつくってくれなかったのですね。
 わが家も同じです。
 喧嘩した日は、お弁当がないので、すぐに職員にバレます。
      ■         ■
 朝、出勤して来た職員がPCの上に気づきます。
 『アら?』
 言われる前に、私が言います。
 『今日はお弁当なしさ…』
 お弁当がない日は、弁菜亭というお弁当屋さんの弁当を買ってきます。
 だいたい、500円程度のお弁当です。
 札幌駅前の札幌国際ビル地下2階に売店があります。
      ■         ■
 私も、結婚して子供が生まれるまで、約2年間は、
 あまり夫婦喧嘩をした覚えがありません。
 子供が生まれてから、
 嫁さんは母親になり…
 強くなりました…
      ■         ■
 本間家では、夫婦喧嘩をガマンしすぎて、早死にする心配はなさそうです。
 よく喧嘩をします。
 私は長男で、
 家内は長女です。
 両方とも、強情です。
 なかなか、激しい喧嘩もあります。
      ■         ■
 今では、子供もいなくなり、家内と二人だけの生活になりつつあります。
 30年前は、喧嘩もしなかったのに…
 ガマンしすぎて、早死にするよりマシかもしれません…
 長く生きていると、いろいろなことがあります。
 美容外科医だからといって、決して幸せな毎日ばかりではありません。
 人生で一番幸せだったのは、
 公団住宅に住んで、ドアの開かないサニーに乗っていた頃だったような気がします。

30年前のニセコアンヌプリです。
この頃は喧嘩はしませんでした

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医学講座

ワキガといじめ

 平成20年2月2日、朝日新聞夕刊の記事からの引用です。
 東京都内で行われている、日本教職員組合(日教組)の教育研究集会の分科会でのお話しです。
 福岡県内のある市立中学校での事件です。
 3年生の学年主任の教諭(44)が、「学校裏サイトとの闘い」を発表されました。
      ■         ■
 その中学校の学校裏サイトで、
 「○○(生徒の実名)体くさい」
 「あいつ死んだほうがいいよ 女子でいじめよう」
 「キモイ顔面しやがって」
 と書かれていました。
      ■         ■
 以下が朝日新聞からの引用です。
 (先生は)全クラスで道徳の授業を行い、裏サイトについて考えさせた。
 各クラスの担任は裏サイトの内容を黒板いっぱいに書き出した。
 書き込みの多さと内容の醜さ、ひどさに気づかせるためだ。
 書き込みが原因で殺人事件が起きたり、悪口を書かれた人が自殺したり、最悪の場合は死につながることも教えた。
      ■         ■
 主任は、その日の「帰りの会」(学年集会)でも訴えた。
「名前が出ないからと人を傷つければ、書き込むごとに自分の心がカサカサになる」
「嫌な書き込みをしたことがある人は今夜削除してほしい」
      ■         ■
 同時に、掲示板の管理人に誹謗中傷の書き込みの削除を要請した。
 ネット上に掲示板の場所を提供していたプロバイダーには、掲示板の閉鎖を依頼した。
 6月20日。
 授業参観後の父母らとの懇談会で書き込みの抜粋を示し、裏サイトで傷ついている生徒がいる現実を知らせた。
 「ひどい」。顔をしかめる親もいた。
      ■         ■
 プロバイダーが対応したのか、その後、掲示板は閲覧できなくなった。
 その後。3年生のあるクラスに新しい掲示板ができた。
 欠席したり早退したりした生徒のために、次の日の授業で準備が必要なことなどを書き込む場だ。
 生徒たちが自ら大事に運営し、「楽しい掲示板」になっているという。
      ■         ■
 主任は反省を込めて語る。
「教師は裏サイトのことを知らなさすぎる。もっと勉強しなければ。誹謗中傷があれば、削除や掲示板の閉鎖が必ずできる仕組みも必要だ」
 (以上、朝日新聞から記事の一部を引用しました。)
      ■         ■
 ワキガ体質の方は、思春期から症状が出始めます。
 女の子でしたら、12~13歳頃から、男の子は少し遅く、13~14歳頃から、というのが一般的です。
 ちょうど中学校入学の頃です。小学校までは制服がありません。
 中学校になると、制服を着るようになります。
      ■         ■
 私が、中学生だったのは、もう40年も前です。
 その頃は、男子はワイシャツに学ランと言われた学生服。
 女子は、ブラウスにブレザーかベストというのが一般的でした。
 ワイシャツもブラウスも白が基本。
 色柄物は、不可でした。
 白いワイシャツを着るようになって、自分も少し大人になったような気がしたものです。
      ■         ■
 ところが、ところが…
 白いワイシャツや白いブラウスは、ワキガ体質の方には過酷です。
 すぐに脇の部分が黄色く変色してしまいます。
 他人に敏感な年頃の子供たちです。
 『○○臭い(クサイ)』
 福岡の中学校で臭いといわれた子が、ワキガだったかどうかは不明です。
 ただ、誰かが『くさい』と言い出すと全体に広がります。
      ■         ■
 札幌美容形成外科を受診する方の中にも、ワキガが原因でいじめられた女子生徒がいます。
 もちろん、裏サイト対策も重要です。
 ワキガ以外が原因でいじめられることもあります。
 私も言語障害といじめられました。
 ただ、ワキガ体質の方は、社会に出てからも苦労します。
      ■         ■
 医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士、介護福祉士など
 医療分野で活躍する人は、白衣が制服です。
 他人と接触することが多い職種です。
 手を使う仕事なので、就職してからの手術はまず無理です。
      ■         ■
 私は、本人が気にしているなら手術を受けるべきだと思います。
 男の子でしたらお父さん
 女の子でしたらお母さん
 と同じ程度に腋毛が濃くなったら手術は可能です。
 高校生から大学生の間に手術を受ける方が多いです。
      ■         ■
 卒業式が終わってから、高校や大学へ進学するまでの間がチャンスです。
 高校3年生で、進路が決まっていて、2月に学校へ行く必要がない人は
 卒業式前もチャンスです。
 ワキガ手術は、一生に一度の手術です。
 健康保険も適用になります。
 いじめは中学校だけではありません。
 社会に出てからも、『くさい』と言われて気分がよい人はいません。
 時間がある時に、是非受けていただきたい手術です。

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医学講座

多汗症、吸引法で効果なし

 最近、ご相談にいらした方です。
 多汗症で、数年前に吸引法による手術を受けました。
 手術による効果はなく、すぐに汗が出るようになりました。
      ■         ■
 手術をしてくれた、クリニックへ相談に行きました。
『手術では、これ以上改善しないので、ボトックス注射をしましょう。』
『今だったら、お試しキャンペーン価格で、○万円です。』
 その日に、注射を受けました。
 若い先生が、片ワキ5箇所くらい注射してくれました。
      ■         ■
 少し汗が減ったような気がしますが、
 まだ汗は出ます。
 ボトックスもあまり効果がありませんでした。
      ■         ■
 私が、ワキを診察すると、確かに汗が出ていました。
 私:『何というボトックスを、何単位注射しましたか?』
 『……?』
 『何も聞いていません…』
 同じボトックス注射でも、注射する範囲と量によって効果が異なります。
      ■         ■
 ワキボトックス:キャンペーン価格、○万円
 二重埋没法:一点留め(保証なし)○○千円
 などなど、
 美容外科の価格はクリニックによってさまざまです。
      ■         ■
 同じようなメニューでも、中味が違います。
 安く見えても、効果がなければ、結局高いものにつきます。
 医療の安全性は、価格だけではわかりません。
 100万円もする、二重埋没法もあります。
 高ければよいというものでもありません。
      ■         ■
 中味が見えないものは、慎重に選ばなくてはなりません。
 私は、施術を迷っていらっしゃる方には、
 他の信頼できるクリニックへも、相談に行くように話します。
 こうして、毎日、日記を書いていると、
 遠方の方からも、ご相談を受けます。
      ■         ■
 美容外科選びは難しいものです。
 先生との相性もあります。
 私は、遠方の方から、ご相談を受けた時には、
 できる限り、信頼できる先生をご紹介するようにしています。
 同じように見えても、中味は違います。
 慎重にクリニックを選んでください。

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医療問題

中国製への信頼

 中国製のギョーザによる健康被害が問題になっています。
 被害を受けられた方へ、心からお見舞い申し上げます。
 一日も早く、健康を回復なさることを祈念しています。
      ■         ■
 私たちの身の回りには、たくさんの中国製品があります。
 これは、日本だけではなく、米国でも同様です。
 食品、衣料品、電化製品、医薬品まであります。
 米国では、昨年、中国産製品の安全性が次々と問題になりました。
 朝日新聞によると、1月31日付のニューヨークタイムズ紙は、
 上海にある中国国有の大手製薬会社が製造した白血病治療薬の汚染による薬害事件が起きていることを紹介し、
 この会社が米国への経口中絶薬の唯一の納入元であると報じました。
      ■         ■
 美容外科の分野でも、中国製薬品があります。
 以前にも書いていますが、ボトックスの中国版がBTXAです。
 BTXAは香港のHugh Source (Int’l) Ltd.社が販売権を持つ製品です。
 1993年に中国保健省によって眼瞼痙攣や 片側顔面痙攣、斜視の治療用製剤として認可されました。
 中国製のA型ボツリヌス毒素製剤です。
      ■         ■
 米国製、アイルランド製、英国製に比較して
 価格が安いのが特徴です。
 安全面でも、問題がないという‘先生’が数多くいらっしゃいます。
 確かに、餃子(ギョウザ)と一緒にするのは、申し訳ない気がします。
      ■         ■
 私は、ユニクロが好きですし、中国製品のすべてが悪いとは思っていません。
 ただ、自分の体の中に入るものは、
 食品でも医薬品でも、‘安全’を第一に考えています。
 ‘安全’にはお金がかかります。
      ■         ■
 札幌美容形成外科でも、一番、手間隙(テマヒマ)をかけているのが、
 消毒や滅菌という作業です。
 信じられないことですが、日本の美容外科でも、
 抜糸に使う、鋏やピンセットを『使いまわし』するところがあります。
 手術器械も、たくさん揃えるとお金がかかるので、
 一つの器械を、イソジンという消毒薬で、‘消毒’しただけで
 次の手術にまわすクリニックがあります。
      ■         ■
 食の安全、医療の安全は
 私たちが、健康に暮らすための必要最低限の条件です。
 毎日新聞によると、
 問題となった、中国河北省の天洋食品は
 「利益偏重」で元従業員から批判が相次いでいるそうです。
 人為的に、農薬をかけられた疑いもあります。
      ■         ■
 私たちは、自分の健康は自分で守る必要があります。
 確かに、中国産の食材は安い魅力があります。
 一個10円程度の餃子は、安くて魅力的です。
 ただ、私は少しくらい高くても、安全な日本製を食べようと思います。
 美容外科も同じです。
 あまりにも安すぎるところは、何か変です。
 

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医学講座

美と健康の維持

 ミス日本「空の日」に北大経済学部の八木菜摘さん(20)
 ミス札幌に、北大大学院生の中寺さくらさん(23)と北大生の佐藤由佳さん(21)が選出されました。
 北海道大学といえば、北海道の中では、一番の難関です。
 私は、高校・予備校の時に、北大に入りたかったのですが、学力が及びませんでした。
      ■         ■
 北大に入るには、小さい頃から、毎日勉強しなくては、なかなか合格できません。
 毎日の勉強の積み重ねが、合格への第一歩です。
 北大より、もっと難しい大学があります。
 北大に入れば、それで人生がバラ色になるというわけでもありません。
 大学は学問の場ですから、毎日の勉強が大切です。
      ■         ■
 大学に合格しただけで、毎日の勉強を続けなければ、卒業はできません。
 楽しいことばかりではなく、辛い定期試験もあります。
 ちょうど、冬の今頃は、定期試験の時期です。
      ■         ■
 ミスコンテストで入賞するには、生まれつきの才能もあります。
 ただ美人に生まれただけでは、入賞できません。
 本人の努力が必要です。
 あるミスコンテストの候補者が、コンテスト終了後に…
 『あぁ!これで、美味しいケーキが食べられる!』
 と言われたそうです。
 そばにいたお母さんが、
 『よく頑張ったね。好きなものもガマンして、偉かったね』
 と言葉をかけていたそうです。
      ■         ■
 美と健康の維持は、簡単なようで難しいものです。
 20歳前後のお嬢さんは、若いというだけで美しい時期です。
 同時に、ケーキ、アイス、お菓子などなど
 甘くて美味しいものが大好きで、食べたい時期でもあります。
      ■         ■
 毎日、ケーキや甘いものを、好きなだけ食べていると…
 あっという間に、体重が増えてしまいます。
 美容外科に来て、○○万円もかけて、脂肪吸引をしても…
 体重は簡単には落ちません。
 チョコをいっぱい食べると、ホッペにニキビがたくさん出てきます。
      ■         ■
 自分で自分をしっかりコントロールできないと、体重の管理はできません。
 100円でできるダイエットに書いたように、
 やせるためには、自分がどのくらい食べているかを、
 客観的に、しっかり管理しないとダメです。
      ■         ■
 ミスになられた方は、これから一年間、ミスとしての業務が待っています。
 美と健康を維持して、学問もしっかりしなくてはなりません。
 美しい女優さんやモデルさんは、しっかりと自己管理をなさっています。
 美と健康の維持は、簡単なようですが、
 自分との戦いであることも事実です。
      ■         ■
 優秀な北大生のミスが増えるのは、嬉しいことです。
 しっかりと自分を磨いて、一年間、元気で活躍していただきたいと願っています。
 たまには、美味しいケーキも食べてください。
 もし、体重が気になれば、半分は残して、彼とか家族に食べてもらってください。
 これが、太らないコツです。
 

2008 雪の女王・ミスさっぽろ
宮原里奈さん(21)(会社員)(左)
中寺さくらさん(23)(大学院生)(中央)
佐藤由佳さん(21)(大学生)(右)

さっぽろ雪まつりHPより引用

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医療問題

医師ドラフト制?

 平成20年1月28日、朝日新聞朝刊の社説です。
      ■         ■
 希望社会への提言(14)―医療の平等を守り抜く知恵を
 ・ドラフト制をヒントに、医師を公的に配置
 ・運営を県単位にして、診療報酬を決める権限も
      ■         ■ 
 社会保障の各論として、まず崩壊が心配されている医療から考えたい。
 「薬指だけなら1.2万ドル、中指は6万ドル。どっちにします?」。
 事故で指を2本切断した無保険者は手術に入る前、医者からこうたずねられる……
 昨夏、米国の医療の実態を描いたマイケル・ムーア監督の「シッコ」は、日本でも大きな衝撃を与えた。
      ■         ■
 公的な医療保険は高齢者と低所得者に限られ、民間保険に入れないと無保険者になる。
 米国ならではの光景だ。
 日本では、すべての人が職場や地域の公的医療保険に入る。
 いつでも、どこでも、だれでも医者に診てもらえる。
「皆保険」は安心の基盤である。
 シッコの世界にしないよう、まず医療保険の財政を確かなものにする必要がある。
      ■         ■
 患者負担を除いた医療費は、高齢化で2006年度の約28兆円から2025年度には48兆円へ跳ね上がる、と試算されている。
 それをまかなうため、保険料と税金がともに10兆円前後増える計算だ。
 試算では、サラリーマンの月給にかかる保険料率は平均して約1ポイント上がる程度だが、
 自営業者や高齢者が入る国民健康保険は、いまでも保険料を払えない人が多く、限界に近い。
 患者負担を引き上げるのはもう難しかろう。
 皆保険を守るためには、保険料と患者負担の増加を極力抑え、そのぶん税金の投入を増やさざるを得ないのではないか。
      ■         ■
 社会保障を支えるためには消費税の増税も甘受し、今後は医療や介護に重点を置いて老後の安心を築いていこう、と私たちは提案した。
 医療は命の公平にかかわるだけに、優先していきたい。
 もちろんムダもある。
 ・治療が済んでも入院を続けて福祉施設代わりにする。
 ・高齢者が必要以上に病院や診療所を回る。
 ・検査や薬が重複する。
 こんなムダを排していくことが同時に欠かせない。
      ■         ■
 医療保険の財政基盤が固まったとして、医療の現場は大丈夫か。
 そこが最近は怪しくなってきた。
 ・病院から医師がいなくなっている。
 ・患者のたらい回しもよく起きる。
 ・このままでは産科や小児科だけでなく、外科や麻酔科も足りなくなる。
 ・近ごろ医師の不足や偏在が目にあまる。
      ■         ■
 医師は毎年4,000人ほど増えているが、人口1,000人当たりの医師は2人だ。
 このままいくと韓国やメキシコ、トルコにも抜かれ、先進国で最低になるともいう。
 先進国平均の3人まで引き上げるべきだ。
 医師の養成には10年はかかる。
 早く取りかからなければならない。
      ■         ■
 医師が充足するまではどうするか。
 産科や小児科など、医師が足りない分野の報酬を優遇する。
 あるいは、医師の事務を代行する補助職を増やしたり、
 看護師も簡単な医療を分担できるようにしたりして、
 医師が医療に専念できる環境をつくることが大切だ。
      ■         ■
 そのうえで、診療科目の選択や医師の配置に対して、公的に関与する制度を設けるよう提案したい。
 医師の専門分野が偏らぬよう、診療科ごとの養成人数に大枠を設ける。
 医師になってからは、一定期間、医師の少ない地域や病院で働くことを義務づける、というものだ。
      ■         ■
 配置を受ける時期は、研修時や一人前になったとき、中堅になって、といろいろありうるだろうが、義務を果たさなければ開業できないようにする。
 医師は命を預かるかけがえのない仕事である。
 だから私立医大へもかなりの税金を投入している。
 収入が高く、社会的な地位も高い。
 たとえ公立病院に勤務していなくても、公的な職業だ。
      ■         ■
 自由に任せていては、医師の偏在は解消できない。
 社会の尊敬と期待にこたえて、このように一時期の義務を受け入れることはできない相談だろうか。
 以上の制度ができたとき、医師を計画的に養成するのは中央政府の仕事だ。
 しかし、それ以後は思い切り分権を進め、地域政府にまかせるべきだ。
      ■         ■
 前述した配置も、都道府県が地元の病院や医学部、医師会、市町村などと相談しながら決める。
 医師の多い県から出してもらう必要も生じるだろう。
 その際には、プロ野球のドラフト制度をヒントにしてみてはどうだろうか。
 新人だけでなく中堅の医師を含めて、医師不足の県が、医師の多い県から優先的に採用できるようにするのだ。
      ■         ■
 4月からは、75歳以上の高齢者が入る県単位の高齢者医療制度が始まる。
 中小企業のサラリーマンが入る政府管掌健康保険は全国一本だったが、これも10月から県ごとに運営される。
 市町村の国民健康保険や小さな健保組合も、県単位への統合を進めている。
      ■         ■
 したがって、医療の負担と給付を決めるのも県の仕事にするのが自然だ。
 医療への診療報酬は政府の審議会で決めている。
 これを、政府が決めるのはその基準にとどめ、知事が最終的に決めるようにしたっていい。
 必要とされる医療は地域によってさまざまなので、地域の実情に合わせやすくなるだろう。
      ■         ■
 長野県は、予防に力を入れて高齢者の医療費を全国最低に抑えつつ、長生きを実現している。
 県が責任をもつことで、そんな工夫が広がるよう期待したい。
 (以上、朝日新聞社説より引用)
      ■         ■
 医療問題への提起は、面白くない日記で、申し訳ありません。
 私としては、ちょっと看過できない社説でしたので、あえて引用させていただきました。
 医師のドラフト制?はどんなものでしょうか?
 何度も書いていますが、医療行為は自動車の運転に似たところがあります。
      ■         ■
 最初に習った‘先生’に影響されます。
 自動車学校で、乱暴な運転を教えるところはないと思いますが…
 繰り返し、慎重な運転を教えられた生徒は、事故率が低いと聞いたことがあります。
 自動車学校毎の、事故率が異なるとも聞いたことがあります。
      ■         ■
 形成外科に関していうと、最初に上手で慎重な‘先生’についた人は、
 キレイに丁寧に縫うクセがつきます。
 外国では、履歴書に、誰について何年間修行をしたか?
 という、経歴が重要視されます。
      ■         ■
 2年間の臨床研修で、いろいろな科を回るのが今のシステムです。
 各科の‘技術’を身につけることの重要性が叫ばれています。
 形成外科で3ヵ月間研修したとします。
 確かに、縫合法についての知識は増えますが、上手に縫えるまでにはなりません。
 研修医に、女性の顔を縫わせることはできません。
 現在の臨床研修制度による問題が、臨床現場を混乱させています。
 教えながら、診療するのは、想像以上に大変なことです。
 疲れ果てて、臨床研修指定病院を去る、指導医がいます。
      ■         ■
 数ヵ月~数年程度、形成外科研修をして、専門医も取得していない先生がいます。
 ○○大学医学部、形成外科卒業なんて…
 経歴に書いてあります。
 実際に○○大学医学部形成外科の先生にお聞きすると…
 あぁ、そんな奴いたかもしれないが、何もできませんよ。
 という答えが返ってきます。
      ■         ■
 もし、医師ドラフト制ができたら…
 医師は、自分の希望とか、適性とか、と関係なく
 『はい、本間賢一さん』
 『あなたは、北海道知事が決めた、択捉(エトロフ)国保診療所に勤務』
 『専門科目は、神経内科』
 『義務年限は10年間』
 『5年間皆勤すると、義務年限が7年に短縮されます』
 てな、ことになりませんか?
      ■         ■
 医師としての仕事は、肉体的にも精神的にも厳しいものです。
 自分の、夢とか、希望とか、ロマンがなければ続けられません。
 いくら高給を出しても、長続きしません。
 一番重要なのは、若い先生から、年輩の先生までが
 夢とロマンを持って働けることです。
 朝日新聞社が考える、ドラフト制がどんな仕組みかわかりませんが、
 簡単には解決できない問題だと思います。

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