医学講座
タンポンショック
昨日書いた脂肪吸引によるショックはブドウ球菌という細菌が出す毒素によって起こります。このブドウ球菌によるショックをToxic Shock Syndrome、略してTSSと呼びます。
1970年代に欧米でタンポンショックという病気が報告されました。タンポンを使用した女性が急に具合が悪くなり最悪の場合は死にいたることがあります。
女性の生理用品であるタンポンは医療用具です。厚生労働省の認可が必要で滅菌されています。タンポンの説明書には必ずTSSについての記載があります。機会があれば読んでみてください。
こちらのトキシックショック症候群情報サイトによると、イギリスの人口約5800万人のうち、毎年報告されている発症件数は約40件で、そのうち半数がタンポンを使用している女性です。TSSは、ほとんどの医師が一生の間に一度も治療をする機会がないくらい非常にまれな病気です。極めてまれですが、TSSは命にかかわる場合があります。患者数が少ないですが、不幸にも英国では年間2、3人がTSSにより死亡しています。TSSは、男性、女性また子どもの誰でもかかる可能性がある病気です。報告されているTSS発症者の半数はタンポンを使用している女性で、残りの半数は、例えば熱傷、炎症性の腫瘍、虫刺されや手術後の局所感染によるものです。TSSを引き起こす毒素から保護するために必要な抗体は、年齢とともに増加します。そのため、TSSの危険性は若い人ほど高くなります。
私は、このTSSの患者様を治療したことがあります。その方はタンポンでTSSになったわけではありませんが極めて重症でした。
通常の生理で普通にタンポンを使ってもTSSにはなりません。問題なのはタンポンをとり忘れる人(信じられないかもしれませんが、とり忘れて次に入れてしまう人がいます)。仕事で疲れて、朝入れたタンポンをそのままにして寝てしまう人。病院などに勤務する女性で、多剤耐性の黄色ブドウ球菌(MRSA)が手について、MRSA付きタンポンを使用してしまう人などなど…。
婦人科の先生は、とり忘れて腟の中でとんでもない悪臭を放っていたタンポンを取り出すことがあるそうです。
タンポン使用時には、次のことを忘れないで、衛生的に使用してください。
・タンポンの挿入時と取り出すときは手を洗う。
・タンポンは、説明書に記載されている通り、定期的に交換する。
・一度に2つ以上挿入しない。
・夜寝る前には、新しいタンポンと交換し、朝起きたら取り除く。
・生理期間の最後には、タンポンを取り除く。
脂肪吸引で死亡することはマレです。タンポンで死亡することも極めてマレです。ただ、タンポンといえど正しく使わないととんでもない目にあいます。
自分の体は自分で守らなくては誰も守ってくれません。タンポンでショック死するなんて信じられないと思うでしょうが正しく使わないと怖いのです。
医学講座
脂肪吸引のトラブル
この症例はPRSという米国形成外科学会雑誌に掲載された学術論文です。
患者様は20代の女性。日本のある美容外科で腹部・殿部・大腿の脂肪吸引を受けました。
手術の翌日、脂肪吸引を受けた部位の痛みがあり手術を受けた病院へ入院しました。その翌日には状態が悪化し、大学病院の救急部に転院しました。手術後の感染によって腹部から大腿部にかけて広範囲に壊死になってしまいました。血圧は低下し感染症でショック状態になっていました。
呼吸不全で生命の危険があったため2週間は人工呼吸器の助けを借りました。腹部から大腿にかけて壊死になった皮膚と軟部組織を2日目と12日目に除去しました。キズは体表面積の22%にもなり重症のヤケドと同じ状態でした。約1ヵ月間の集中治療で一命を取り留めたものの、大きなキズが残りました。以下がPRSに掲載されたタイトルと原文の一部です。
Toxic Shock Syndrome after Suction Lipectomy.
Plastic and Reconstructive Surgery:Volume 106(1)July 2000 p204-207.
Case Report
A woman was admitted to our hospital 2 days after suction lipectomy. The patient had received aesthetic suction lipectomy of the abdomen, buttocks, and thighs during an office procedure by a cosmetic surgeon. On postoperative day 1, the patient contacted the cosmetic surgeon complaining of wound-related pain and was admitted to the cosmetic surgery hospital. On postoperative day 2, the patient was referred to the emergency department of our hospital.
The patient was in toxic shock. Chest x-ray showed acute respiratory distress syndrome, which required intubation and controlled ventilation for 2 weeks and intensive medical treatment for about 1 month. Surgical debridement was repeated on hospital days 2 and 12, leaving open wounds covering 22 percent of the total body surface area. Signs of multiple organ failure resolved slowly, and desquamation of the skin on the palm was observed 18 days after suction lipectomy. The patient was transferred to a regular ward 29 days after admission, and her wounds were covered with a meshed autograft. The patient required intensive medical treatment for about 1 month and great effort to adapt herself psychologically after the illness.
この論文には次のコメントが掲載されました。
すべての形成外科医は日常診療に潜んでいる潜在的な危険性を認識し警戒すべきである。貴重な症例報告で注意を喚起してくれ、卓越した治療で生命を救ってくれた著者に感謝する。
This report of toxic shock and necrotizing fasciitis after suction lipectomy is an important reminder that should alert all plastic surgeons of the potential dangers lurking in almost every routine case. I thank the authors not only for bringing this case to our attention, but also for outlining the superb postoperative care that saved this patient’s life.
あまり知られていない事実ですが、脂肪吸引により日本では何件もの死亡事故が起こっています。大手美容外科で行ったからといっても安心はできません。どんな手術にもリスクはつきものです。
重要なのは、事故を起こさないようにする経験と技術です。新米のパイロットが操縦する旅客機には恐ろしくて搭乗できません。救急や感染に対する知識も必要です。感染を起こさないようにする設備も必要です。整備不良の飛行機は事故を起こします。
美容外科は決して楽で儲かる診療科目ではありません。一朝一夕に促成栽培でなれる科目でもありません。この日記を読んでいただいている、医学生や研修医の先生に対する私からの警告です。
Plastic and Reconstructive Surgery,Vol.106p204,2000より引用
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医学部にへき地枠
2007年5月13日の北海道新聞に医学部に「へき地枠」-国公立大に創設検討-という記事が掲載されていました。
記事の内容です。
政府、与党は12日、深刻化する医師の不足や偏在を解消するため、すべての都道府県の国公立大学医学部に、卒業後のへき地での勤務を義務付ける枠を設ける方向で調整に入った。定員100人当たり5人程度を「へき地枠」として増員する案が上がっている。
医学部の定員をめぐっては、東北など10県の大学医学部で最大10人まで最長10年にわたり増員する措置のさらなる拡充が政府、与党の検討項目に上がっており、「へき地枠」創設はそれを一段と進め全国に拡大する形だ。
与党幹部と厚生労働相ら関係閣僚で構成し、近く開かれる医療問題に関する政府与党協議会で検討し、6月に策定する政府の「骨太の方針」に盛り込みたい考えだ。
これに関連して自民党の丹羽雄哉総務会長は12日、新潟市での講演で、卒業後にへき地などでの勤務を義務付けている自治医科大の例を挙げ「これを47都道府県の国公立大に拡大したらどうか。実現すれば医師不足は間違いなく解消する」と強調した。
私が、医学部で4年間教員をした経験と、医学部の学生や研修医を知る立場から発言させてもらうと、これで北海道の僻地医療は改善されません。
北海道新聞の解説にも書かれていますが、医学生が順調に医学部を卒業するまで6年。私の時代でも6年間で卒業できたのは90%弱です。医師国家試験まで順調に合格したのは80%強でした。今は国家試験合格後2年間の臨床研修があります。研修を終えたばかりの医師では頼りなくて一人で僻地医療は担え(ニナエ)ません。医師の養成には時間がかかります。
医学生や研修医は医療現場をよく見て自分の将来を決めます。今の若者は、3Kの職場は嫌います。医学部も同じです。小児科は診療報酬が低く、きつく辛いので嫌われています。産科は肉体的にきつく訴訟も多いので嫌われています。一般の3Kは「きつい(Kitsui)」「汚い(Kitanai)」「危険(Kiken)」。医者の3Kは「きつい(Kitsui)」「危険(訴訟が多い)(Kiken)」「給料安い(Kyuryou)」だと聞いたことがあります。
若い医師が一番心配するのは、一人で指導者がいない僻地勤務をして医療事故を起こすことです。医療事故をおこさなくても、患者様からのクレームでめげます。『今度来た先生はヤブだ!』という住民の言葉でやる気をなくします。良い指導者がいないと名医になれません。
自治医大出身で美容外科医になった先生はあまり聞いたことがありません。しかし、国が日本を守るために作った防衛医科大学校を卒業した医師で、現在は美容外科を専業にしていらっしゃる先生はいらっしゃいます。
職業選択の自由は憲法で保障された基本的人権の一つです。いくら国の政策で僻地枠を作っても、へき地に勤務して医師が幸せになる条件を整えなければへき地に医師は赴任しません。
今の若い先生は、美容外科が楽で儲かると考えて選択しています。楽ではなく儲からないことを少しずつ解説します。
医療問題
72.1%の病院が労基法違反
昨日の医師と労働基準法についてのつづきです。医療法で‘病院(20床以上のベッドがある医療機関)’には当直医が勤務することが義務付けられています。例外的に病院と院長の自宅が同一敷地内にある場合は、宅直(タクチョク)といって自宅で当直をすることが認められますが、原則は病院の当直室で勤務です。当直医は夜間も入院患者に対応しなければならないので宅直でも晩酌はできません。
大学病院は各診療科毎に当直医がいますが、一般病院では、20床の個人病院から1000床を超える大病院まで、最低一人の当直医が当直をしています。問題になるのは100床以下の病院です。病院の種類(救急患者を扱うか?老人病院か?など)や規模によって、医師の定数が法律によって決められています。ベッド数が少なければ医師定数が3人でも病院として認可されます。
ところが、3人で当直を回すとなると一ヵ月に最低10回は当直勤務です。ここで労働基準法に引っかかることになります。昨日も書きましたが、労基法では当直は週一回、日直は月一回が限度です。こうなると3人しか医師がいない病院は‘絶対’に違反になります。
厚生労働省HPを調べたところ、厚労省でもこの問題を検討していることがわかりました。平成17年4月25日に行われた第4回医師の需給に関する検討会議事録が検索できました。読むのがイヤになる位、長い冗長な文章です。
この中に労働基準局監督課の庭山監督官の答弁がありました。労働基準局では平成15年から平成16年に、全国47都道府県の596病院で監督実施を行いました。この596病院のうち何らかの法違反があったのが430病院です。違反率72.1%です。
驚くべきとことに、この72.1%という違反率は、病院に限らずどんな事業場でもこのぐらいあると書かれていました。庭山監督官の言葉で『こういう言い方もなんですが、特別な違反率ではありません』と書かれていました。
もし、手術の失敗率が72.1%だったら絶対に手術は受けません。返品率が72.1%だったら企業は間違いなく倒産です。労働基準法は違反するためにある法律でしょうか?
労働基準監督署は‘署’という肩書きがつくお役所です。もし、警察署で違反率72.1%の犯罪を見逃していたら日本はとんでもない国になります。税務署が72.1%の脱税を見逃していたら日本は倒産します。
厚生労働省は医療と労働の両方を監督する官庁です。‘女性は産む器械’と発言していた大臣もいました。政府は、もう少し医療を真剣に考えないと、参議院議員選挙で手痛い目にあうと思います。
医療問題
医師と労基法
私は医師になってから25年間以上、勤務医をしていました。医師は患者様の急変に備えて、一年365日24時間待期しています。昔はポケットベルでした。休日に買い物をしている時も常に携帯していました。ポケベルが鳴ると、『あぁ、昨日手術したあの患者さんかなぁ…?』なんて考えながら公衆電話を探して電話したものです。
札幌美容形成外科を開業してからも同じように対応しています。2007年2月21日からは夜間はテープによる案内にしましたが、緊急連絡先はご案内しています。医療法による規定はありませんが、私の方針で24時間連絡ができるようにしています。
私が学会出張などで、電話対応ができない時は職員に頼んで電話応対をしてもらっています。自分が医師として勤務していた時には、待期に対して手当が出たことはなく、特に考えもしませんでした。それが医師として当たり前だと思っていました。ところが、診療所の経営者になって立場が変わりました。社会保険労務士に相談したところ、待期は労基法施行規則第23条による断続的な宿直・日直業務に該当するので、労働基準監督署に届けを出すべきだと助言を受けました。
厚生労働省HPには詳しい記載がないので、神奈川県商工労働部HPで調べました。宿直又は日直業務で断続的な業務とは、本務に関する労働時間に引き続き、又は休日になされる勤務の一態様であって、本務とは別個の、構内巡視、文書や電話の収受又は非常事態に備えて待機するもので、常態としてほとんど労働する必要のない勤務です。労基署長の行う許可については、①「勤務の態様」(下記のとおり)、②「宿日直手当」(原則同種労働者1人1日の平均額の1/3を下らないこと)、③「宿日直の回数」(原則日直月1回宿直週1回以内)、④「その他」(宿直勤務については、相当の睡眠設備の設置)の各項目の基準をすべて満たしていることが必要です。
これを読んで医師の勤務実態と極めてかけ離れていることに驚きました。労基法では当直は週一回、日直は月一回が限度です。3人しか医師がいな病院で当直が週一回しかできないのでは医療法を守れません。今でも、大部分の勤務医は日曜出勤手当もなく、日曜日に回診に行くのが当然だと思われています。先生の都合で回診時間がずれたりすると病棟の看護師さんに怒られます。
Dr.コトーじゃないですが、僻地の診療所に一人で勤務している医師は、休む暇もなく拘束されています。大病院の勤務医は救急当番や緊急手術をした後に、次の日も平常勤務は当たり前です。私が帯広厚生病院形成外科部長だった時にも、部下の先生を午後から帰してあげたことなどなかったと記憶しています。市立札幌病院でも同じでした。
美しい国をつくりたい日本の首相は、現在の医師不足をなんとか解消したいと考えているようです。北海道知事も僻地の医師不足を解消しようと努力しているようです。
もし、日本の政治家が本当に良い医療を提供しようと考えているなら、労働基準監督署に医師の勤務実態を調査・改善させて、医師にも人並みの休日を与えてください。
日記_わきが
汗の臭い
自分はわきがじゃないか?と悩んでいる方の中には、汗の臭いをワキガと勘違いしている方がいらっしゃいます。
人間の体から出るものは必ず臭いがします。動物でも同じです。私がよく説明に使うたとえです。ペットショップに行くと可愛い仔犬がたくさんいます。どんなに可愛い仔犬でもおしっこをすると臭います。ペットショップでは頻回にシーツを交換して対応しています。人間もふつうの汗でしたら制汗剤で十分に対処できます。
ワキガの方はほぼ100%耳垢が湿っています。耳垢が湿っていても、ワキガの臭いがしなければ手術の必要はありません。
私が子供の頃は、家にお風呂がない家庭もたくさんありました。風呂に入るのも毎日ではありませんでした。銭湯には必ず定休日があり、昔の札幌では確か月曜日でした。風呂に入れない日は体を拭くだけで済ませたものです。
今の時代は学生さんでも、バス・トイレつきのマンションが当たり前です。毎日、必ずシャワーに入りシャンプーもします。
これだけお風呂やシャワーがあっても臭いが気になる人は手術を受けると快くなります。ただ、何度も書いているようにワキガ手術は簡単ではありません。手術後に安静にしていないと必ずキズが残ります。
心ない美容外科では、単に汗の臭いが気になって相談に来ているだけなのに『あなたはワキガです』と‘診断’して手術を薦めるところがあります。広告宣伝費を一ヶ月に何百万円もかけているところは、せっかく来た‘お客様’を逃すわけには参りません。必要がない手術を薦めてお金をとるところがあります。
美容外科が他の診療科より低く見られるのは、こうした業界の体質によると思います。私も残念に思いますが事実です。どこのクリニックがよいか見分けるのは本当に難しいことです。汗の臭いとワキガの臭いは違います。心配でしたら相談にいらしてください。
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形成外科に対する想い
ここ数日の日記を読み返してみました。IBM健康保険組合を厳しく追及しているように感じました。別にIBMのHPに文句があるわけではありません。私が25年以上経験してきた形成外科が正当に評価・理解されていないことに対する怒りです。
形成外科は英語のPlastic Surgeryを訳して作った日本語です。同じ漢字を使う中国語では、Plastic Surgeryは整形外科です。日本の整形外科は中国語では骨科です。こちらの方がわかりやすいと思います。
形成外科ってどんな科?と聞かれて、即座に正しく答えられる先生や看護師さんはあまりいらっしゃいません。美容外科と形成外科の違いもはっきりしない方が多いと思います。
美容整形という日本語があります。美容形成とは言いませんね。簡単に言うと形成外科は健康保険が使える科、美容外科は保険が使えない科です。
私が形成外科医になった昭和55年には、北海道で形成外科があったのは、北大病院、旭川厚生病院、美唄労災病院、釧路労災病院の4施設だったと記憶しています。
当時は、北大に北海道中から患者様が集まり、手術を受けるまで3年待ちなんていうのもザラでした。ヤケドで指が動かない患者様、交通事故で顔にひどいキズが残っている方、生まれつきの病気で早く手術を希望されている方などなど…。
当時は札幌医大でも旭川医大でも形成外科の講義はなく、医学部を卒業しても形成外科とはどんな科か知らない先生がたくさんいました。
年配の先生でも形成外科を知っている方は少なく、私たちが保険診療をして手術料を請求しても、これは不適切だと査定されたことが何度もありました。
北大形成外科の先輩は、講演会などを通じて形成外科はどんなにすばらしいかを機会あるごとに啓蒙していかれました。一度でも形成外科のすばらしさを理解していただけると、形成外科に対する偏見はなくなります。
人間で一番大切なのは心の中身で外見は二の次という意見もあります。でも医学の進歩で外見をよくすることができるようになりました。
美容外科に保険がきかないのはもっともですが、形成外科に使うお金は決して医療費の無駄遣いにはなりません。外見がよくなれば心もより強くなれます。
医学生や医師の中には、形成外科をちょっとかじって、お金儲けのために美容外科医になろうという人もいます。
本物の形成外科医はキズを治すのに命を懸けています。形成外科も美容外科もお金儲けだけを考えていると絶対に長続きしません。
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小耳症と永田悟先生
5月6日に小耳症(ショウジショウ)という生まれつき耳がない病気について記載しました。実は、この小耳症の子供さんに耳をつくるのは、形成外科の中でも最も難しい手術と言われています。大学病院の有名な先生がした手術でも不満足な例があるのが小耳症です。
日本に小耳症手術では世界一の先生がいます。日本国内より海外で有名です。PRSという形成外科では世界一の雑誌に何度も論文が掲載されました。海外で手術のデモンストレーションを何度もなさっていらっしゃいます。
その先生が永田悟(ナガタサトル)先生です。今回、小耳症のことを書いたので永田先生を想い出して検索してみたところ、埼玉県で開業されたことを知りました。
ここが永田先生のHPです。Microtia(マイクロシアと発音します)とは英語で小耳症のことです。アドレスのhttp://www.nagata-microtia.jpは外国人医師が見てもすぐに永田先生だとわかります。
永田先生の手術はNagata-method(ナガタ-メソッド)として世界的に認められています。日本人の名前がついている手術で、これほど世界的に有名な手術はありません。間違いなく世界一です。
小耳症は頻度が少ない耳の形態異常です。確かに、耳がなくても日常生活に支障はないかもしれません。自分の子供が生まれて、もし耳がなくて、幼稚園や小学校で‘耳なし○○’といじめられたら…。
聴覚という身体の機能にさしさわりが無くても、小耳症は健康保険で治療すべき疾患だと思います。耳つくりに命をかけているのが永田先生です。
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IBMからの回答
日本IBM健保組合にメールを出したところ回答が来ました。以下は原文のままです。‘保健’と書いてありますが正しくは‘保険’です。
日本アイ・ビー・エム健康保険組合の○○と申します。この度は、当健保ホームページ記載の内容に関し、ご意見頂戴しありがとうございました。
早速ですが、ご指摘の掲載について当健保といたしましては、産業医の意見等も参考に、「日常生活にさしさわりのないものは、保健適応外となる」という理解で例示しております。
”日常生活へのさしさわり”の理解は、個々人によって異なることもあろうかと存じますが、「腋臭症」として、診療報酬点数の算定が可能である一部の「わきが」治療が、保健適応として申請された場合は、個々の事例に従って処理をすすめております。
ありがとうございました。
日本アイ・ビー・エム健康保険組合(IBMJ-HIA)
わきがで悩んでいる方は、制汗剤をつけて、毎日朝と夜に必ずシャワーに入って、制服は家に持ち帰って洗濯して、他人に気づかれないように常に注意して、それでどうしても対処できないので勇気を出して美容外科を受診します。
‘日常生活に支障がある’わきがだけに保険を適応するのは間違いではありません。ただ‘個々の事例に従って処理’するのでしたら、いちいちIBM健康保険組合に出向いて、保健師や産業医にワキの臭いを嗅いでもらって、『ハイあなたは、重症のわきがで日常生活に支障があるから保険を使ってOKですよ』と判定してもらうのでしょうか?
保険適応にするかどうかは診療に当たる保険医の判断で可能ですが、保険医が健康保険組合に手術料を請求しても、最終的に健康保険組合が‘適応外’だからと判断して手術料金を払わないことが考えられます。
健康保険組合で実際の業務に携わる、保健師、産業医の方にはもう少し形成外科について知って欲しいと思いました。是非、日本形成外科学会HPをご覧になってください。
ワキガ手術に日本人が使っているお金は膨大な金額になります。大多数は自由診療の美容外科で手術を受けています。中にはとんでもないクリニックもあります。
社員の健康を守るのが保健師の仕事です。わきがで悩んでいる人の声に少し耳を傾けてください。
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顔のケガと健康保険
日本IBM健保組合HPに‘けがの処置のための整形手術’は健康保険でかかれると記載があります。一見もっともなようですが、実は大きな問題があります。そもそも整形手術という項目が保険に収載されていません。
私たち保険医が保険診療をする際は、国が決めた方針に基づいて診療を行います。『医科点数表の解釈』という本が社会保険研究所というところから出されています。一般の方でも大きな本屋さんで購入できます。
この中に手術料という項目があります。皮膚・皮下組織や形成などの項目ごとに細分化されています。たとえばK219眼瞼下垂症手術 1眼瞼挙筋前転法7,200点というぐあいです。これは眼瞼下垂症手術を眼瞼挙筋前転法という手術法で行った場合、片目が\72,000ですよ。という意味です。盲腸の手術はK718虫垂切除術6,210点、\62,100です。盲腸の手術でしたら全身麻酔の料金や入院料、薬剤料がかかるため請求金額はもっと増えます。
法律でこの医科点数表にない手術は保険診療ができないことになっています。先ほどのけがの処置のための整形手術はありません。
唯一、それに近い手術がK010瘢痕拘縮形成術 1顔面9,740点です。ただ、これには注釈がついていて、単なる拘縮に止まらず運動制限があるものに限り算定する。と記載されています。簡単に言うと、目が引きつって閉じることができないとか、口が開けないという程度のキズでないとダメということです。
他人につけられてしまった、キズはたとえ軽微なものでも‘ちゃんと治してください’と言いますね。この軽微なキズは、そもそも健康保険で治すという前提がないために診療報酬点数表にありません。点数表にない手術は保険診療ができないのが原則です。
実際に診療していても困ります。特に自由診療ができない公立病院や国公立大学の附属病院で困ります。日本形成外科学会では、運動制限がない瘢痕は皮膚良性腫瘍摘出術で算定すると回答していますが、事故で腫瘍ができることは通常考えられないため医療現場では混乱します。早く関係法令を改正していただきたいと思います。