医療問題
通勤災害と交通事故
帰宅途中に交通事故に遭った私は、
当然、労災事故(通勤災害)になると思っていました。
病院で事故に遭った患者さんを診察する時、
交通事故や労災事故に、健康保険は使えません。
健康保険は、ふつうに生活していて、病気になった時に使う保険。
仕事中の事故は、労災保険です。
料金体系も若干異なります。
国が決めた決まりです。
■ ■
交通事故は、大部分が車かバイクの事故で起こります。
自動車損害賠償責任保険(通称:自賠責)という制度があります。
健康保険は、自動車事故のように、
第三者によって起こされたケガについては使えないことになっています。
もし使うとしても、誰にケガをさせられて、
相手方保険会社は○○損害保険ですと、
通知しなければならないことになっています。
これも、国が決めた決まりです。
■ ■
社会保険は、ただでさえ大赤字です。
自動車事故で、自賠責から支払われるべき治療費まで支払っては大変です。
近年は特に厳しくなってきています。
また、労災保険は仕事中や通勤途中の事故でケガをした時に使います。
私のように、仕事を終わって、
通勤届けに届けた通りの道や交通機関で、
自宅に帰る途中の事故は、通勤災害になります。
■ ■
ちなみに、同じ帰宅途中の事故でも、
仕事帰りに、ちょっと一杯飲んで、帰りに転倒したような時。
仕事帰りにデパートで買い物をして、
その帰りにエスカレーターで転倒してケガをした時。
は残念ながら通勤災害にはなりません。
寄り道すると、通勤災害にならないという規定があります。
■ ■
会社の業務命令で、取引先の○○社の接待があったとか、
デパートへ買い物へ行ったのは、自分の買い物ではなく、
上司から指示された物品を購入に行ったという場合は、
合理的な説明ができれば、労災になる可能性があると思います。
この辺は、医師ではなく、社会保険労務士が詳しいです。
通勤災害か私病による事故かにこだわるのは、補償が違うからです。
もし、労災の通勤災害でしたら、休業補償も出ます。
■ ■
この程度の知識は、労災病院に勤務していたり、
通勤災害で負傷した患者さんを治療していると、
医師でもわかるようになります。
私は、自分の事故は当然、労災扱いになると思っていました。
ところが、労働基準監督署に問い合わせても、
交通事故の場合は、まず自賠責保険を使ってください。
という回答がきました。
■ ■
つまり、帰宅途中に轢かれた場合は、
通勤災害でも、自賠責を使って保険会社に費用を請求する。
というのが、正しいルールだと、その時はじめて知りました。
問題はそこからでした。
ランクルの運転手さんは、深く反省していました。
もし、私の事故が人身事故扱いになると、
点数がないので免停になる可能性が高いということでした。
私は、自分の足が轢かれてケガをして、
警察にも届けたので、当然人身事故だと思っていました。
■ ■
帯広市内は、交通の便が悪く、
仕事をするには、車がないとできません。
相手の運転手さんは、私に泣きついてきました。
私は、轢かれた原因は見通しの悪い交差点にあると思っていました。
高架事業をしている会社に、文句を言いました。
すぐに、右折車は歩行者に注意!という大きな看板がつきました。
相手を責める気持ちもなかったので、保険会社に任せると言いました。
■ ■
ここで問題が起こりました。
相手方の保険会社は人身事故扱いでないと、
自賠責保険を出さないと言って来ました。
私は好きで人身事故扱いを外したのではありません。
相手が泣きついてきたので、そうしただけです。
そこで、私は弁護士さんに相談しました。
相談した弁護士さんは、適切に回答をしてくれました。
■ ■
しばらくすると、相手方の損害保険会社の所長が謝りに来ました。
私のケースは、その損害保険会社で責任を持って支払いをするという内容でした。
私としては、治療費をしっかり払ってくれて、
補償もしてくれるのなら了承することにしました。
私のケースは、人身事故扱いにしたかどうかはわかりませんが、
治療費は自賠責から払ってもらいました。
ただ、仕事は休まなかったので、
痛い思いをしたのに、
私がいただいた補償金は多くはありませんでした。
今では、ケガのことは忘れるくらい快くなりました。
数年間は寒くなると左足が痛くなり、事故を思い出しました。
昔の記憶
私の交通事故
私は帯広厚生病院に勤務していた時に、交通事故に遭いました。
病院からの帰り道で、右後方から右折して来た、
1ナンバーのランドクルーザーに轢かれました。
ちょうど、帯広厚生病院の裏にあった、JRの高架工事をしていました。
ただでさえ、見通しが悪い交差点なのに、
高架工事で、ますます見通しが悪くなっていました。
■ ■
私も注意して交差点を横断していました。
気づくと、自分のすぐ左後方にランクルがいました。
とっさに、身をかわしましたが、
左足が残りました。
私の左足の上を、ランクルの右前輪が通り過ぎました。
一瞬のことで、どのくらいの痛みがあったかは覚えていません。
■ ■
私はすぐに、買ったばかりの携帯電話を取り出しました。
110番通報をしました。
私:もしもし、もしもし、車に轢かれました。
110番:場所はどこですか?
私:厚生病院の裏の交差点です。
110番:どちらの厚生病院ですか?
私:はぁ…?、厚生病院は帯広に一箇所しかありませんょ。
110番:こちらは釧路警察署です。
■ ■
その当時は、帯広から携帯で110番をすると、
なんと釧路に繋がりました。
今は、最新型FOMAから110番をすると、
GPSのデーター?を送り、自分の位置まで教えてくれるようです。
私は、自分がいる場所を正確には言えませんでした。
帯広厚生病院の住所は、
帯広市西6条南8丁目でした。
私が轢かれた場所は、おそらく西6条南9丁目付近だったと思います。
釧路警察署の110番は、帯広警察署に連絡をしてくれ、
まもなくパトカーが来てくれました。
■ ■
私を轢いたランクルは、若い運転手さんでした。
『すみません。大丈夫ですか?』
轢いた方も驚いています。
『病院へ行きますか?』
私:私はそこの厚生病院の医者です。
轢いた運転手さんは、二度びっくりしていました。
そこへ、パトカーが来ました。
警察官:大丈夫ですか?救急車を呼びますか?
私:大丈夫じゃないけど、救急車は呼ばなくてもいいです。
私は厚生病院の医者なので、病院まで送ってください。
■ ■
私はパトカーに乗せてもらい、
すぐそこに見えている、帯広厚生病院へ戻りました。
救急外来の当直の看護婦さんがいました。
『あら、先生、どうしたの?』
私:そこで轢かれました。
『大丈夫ですか?』
私:左足の中足骨(チュウソクコツ)から先が折れているかもしれません。
レントゲン当直の方を呼んでくれますか?
看護婦さんは、私を車椅子に乗せてレントゲン室へ運んでくれました。
■ ■
当直のレントゲン技師さんは、すぐに来てくれました。
先生どうなさったのですか?
いやぁ、そこで轢かれました。
私の左足は、パンパンに腫れており、ずきずきと痛みます。
1ナンバーのランクルが乗っかったのですから、
折れているに違いありません。
レントゲンは、すぐにできました。
不思議なことに、私が見ても骨折線は見えません。
ランクルが乗っかったのに、骨は折れませんでした。
■ ■
次に、私の頭をよぎったのは、仕事のことです。
当時は、私の他に2名の形成外科医が勤務していました。
合計3名でも、毎日忙しく働いていました。
約3ヵ月先まで、手術予定が入っていました。
もちろん、翌日にも手術が入っていました。
困ったなぁ…。
骨が折れていないのなら、仕事はできるかなぁ…?
あの手術は、自分でなければできないしなぁ…などなど。
■ ■
左足がパンパンに腫れたまま、
私は翌日からも仕事をすることにしました。
普通の人でしたら、最低一週間は休むところです。
ここが、医師のつらいところです。
私は、足を引きずりながら、翌日からも仕事をしました。
一番大変だったのが、会う人ごとに、
交通事故でケガをしたと説明しなければならなかったことでした。
首から、説明文をぶら下げようかと思ったほどでした。
未分類
弁護士特約
毎日、日記を書くのは、正直なところ大変です。
ネタを見つけるのが容易ではありません。
新聞をよく読むようになりましたし、
他の方が書いたブログもよく読んでいます。
私のお気に入りは、塩谷先生のブログと
弁護士の高橋智先生のSammy通信です。
■ ■
お二人とも、毎日更新なさっています。
先日、
高橋先生の日記に、弁護士特約のことが掲載されていました。
私は、自分で交通事故を起こして、
弁護士さんのお世話になったことはありませんが、
帯広厚生病院時代に、帰宅途中に車に轢かれたことがあります。
足を轢かれました。
■ ■
その時は、被害者でした。相手方の過失割合が100%でした。
私の自動車保険の弁護士特約は、
被害者でも相談できるシステムでした。
夜でしたが、フリーダイヤルに電話しました。
担当の弁護士さんが出てくださいました。
とても親切で心強かったです。
それ以来、少し保険料が高くても、
三井住友海上に保険契約をお願いしています。
詳しく計算はしていませんが、弁護士特約をつけても
保険料は年間で数千円高くなるだけだったと記憶しています。
■ ■
高橋智先生は、とてもご立派な先生です。
北大法学部の講師もなさっていらっしゃいます。
私も北大が好きなので、
先生の日記を読んで共感するところがたくさんあります。
講義の後で、生協の食堂で昼食を食べるところが好きです。
私も北大生協の食堂が好きです。
学生さんの中で食べると、自分の若い頃を思い出します。
■ ■
庶民派の高橋先生の日記で気になったのが、
弁護士報酬の着手金です。
先生は、
『(交通事故では)どんな事件でも着手金は10万円しかいただいていない。』
『着手金が少ない分報酬は通常より高額に設定されている』
と書かれています。
確かに、他の弁護士さんにお願いすると、
もっと高額の着手金を取られるケースも多いと思います。
■ ■
10万円は、ビンボーな学生などには大金です。
なかなか払える額ではありません。
誤解して欲しくないのは、相談料と着手金の違いです。
着手金は、契約をして、お願いする時に払う金額です。
相談料は、事故を起こして、困っている時に、
まず相談するだけの費用です。
素人には、相談料と着手金の区別がつきません。
私の記憶違いでなければ、
高橋先生の事務所では、簡単な相談でしたら無料のはずです。
これでしたら、ビンボーな大学生でも相談できます。
■ ■
医者や弁護士は、とかく‘高い!’という印象を持たれます。
私も、美容外科の相談だけでしたら無料でお引き受けしています。
また保険診療ができるものは、出来る限り保険診療で治療しています。
これは、自分が学生時代にビンボーだったからです。
私の学生時代は、自分でアルバイトをして、
父親から車を借りて、
使ったガソリンは、自分で入れていました。
高橋先生も、カップヌードルを食べながら、
北大法学部の給湯族として勉強をして、
司法試験をパスされました。
私が、先生を信頼しているのは、
そのような下積みの時代を経験なさっていて、
庶民感覚でお仕事をされているからです。
困ったことがあれば、高橋智先生にご相談なさってください。
医療問題
受刑者の入院
刑務所でケガをした受刑者を入院させることになりました。
刑務官は、管理面から個室を希望しています。
受刑者が入院中に脱獄しては、大変なことになります。
刑務所は、入院中24時間、
刑務官2名を監視のために貼り付けます。
無線で刑務所に定時連絡をします。
刑務官は、医療に関しては素人です。
ただ、しっかり管理していてくれるので、
脱獄する恐れも、暴力を振るわれる恐れもありません。
■ ■
受刑者のように問題がある方を入院させる時、
真っ先に相談しなければいけないのは、病棟婦長(現在は師長)です。
どの研修医マニュアルにも書いていませんが、
相談する順番を間違えると、大変なことになります。
私は病棟婦長を外来へ呼び、受刑者を見てもらいました。
その病棟で、受刑者を入院させるのははじめてでした。
■ ■
私:婦長さんどうだろう、個室は空いてないよね。
婦長:○○号室は◎◎さんの容体が悪いので移せませんし…。
先生、放射線科の患者さんが、退院になっていますので
○○号室はいかがでしょうか?
私:はぁ、悪いね。放射線科の○○先生には、ボクからお願いします。
婦長:でも先生、もし放射線科の患者さんの容体が悪くなったら、大部屋でもいいですか?
私:仕方ないよね。
私:刑務所の方も、もし病室がなくなった時は、大部屋でお願いします。
刑務官:わかりました。
■ ■
入院が決まったら、次は手術室へ連絡です。
手術室も婦長に連絡をします。
私:あぁ~。婦長さん。形成の本間です。
臨時をお願いします。
[緊急で手術室で手術することを、臨時手術(通称臨時)と呼びます。]
手の外傷で、取れた皮膚を移植します。
麻酔は、ロカール(局所麻酔のこと)でもできるのですが、
患者さんが受刑者なんです。
手術室婦長:先生、○○時に手術室が一つ空きます。
器械の準備は、手の外科セットでよろしいですか?
私:はい、それでお願いします。
電メス(電気メスのこと)はバイポーラーもお願いします。
手術室婦長:承知しました。先生、申し込み(手術申込書)を出してください。
■ ■
入院・手術はこのようにして決まります。
医師といえど、総合病院で働くには、
他の部署(特に看護師さん)の協力がないとできません。
私が入院を決めても、病棟婦長からNO(ノー)と言われては、
入院できないでのです。
こうして上半身に立派な刺青が入った患者さんは、
入院できることになりました。
■ ■
受刑者の手術は順調に終わりました。
手術は成功しました。
ただ、皮膚が安定するまでに指を少しでも動かすと、
移植した皮膚がくっつきません。
前腕から手にかけてギプスで固定し、指が動かないようにします。
受刑者は、治療に協力的でした。
挨拶もしっかりしてくれました。
回診の度に、お礼を言ってくれました。
看護婦さんの評判も極めて良好で、
婦長も私も内心ホッっとしていました。
■ ■
可哀想なのは刑務官でした。
受刑者は病院のベッドで寝ることができます。
病院食も3食出ます。
検温も、清拭も、若くて美人の看護婦さんが
他の患者さんと何の差別もなく、丁寧にしてくれました。
それに比べて、刑務官は床に簡易ベッドか、マットを敷くだけです。
24時間監視が原則です。
患者さんは、夜グーグー寝ていても
刑務官は起きて監視です。
食事もコンビニの弁当を食べていました。
■ ■
一週間を過ぎた頃から、刑務官に疲労の色が濃くなってきました。
刑務官:先生、キズの具合はいかがでしょうか?
私:とても良好ですよ。
刑務官:入院は、あとどの位必要ですか?
私:最初に、診断書に書いた通りではダメですか?
刑務官:実は……
われわれ、入院に付き添ってから、休みも取れず、全員参っています。
受刑者は、術後経過も良好で、回診の時も楽しそうにしています。
それに比べて、刑務官は、可哀想なくらい疲れていました。
■ ■
私は、術後経過が良好であったことから、
予定より早く退院していただきました。
皮膚は無事に生着し、指の機能障害も残りませんでした。
最後に診察に来た時に、受刑者は丁寧にお礼を言ってくれました。
その後、出所して真人間になったかどうかはわかりません。
ただ、その手で悪いことはしていないような気がしてます。
受刑者にも人権があることは理解できます。
私は受刑者だからといって、治療で差別はしません。
■ ■
悪いことをした人は、罪を償う(つぐなう)べきです。
罪を償う場所は、刑務所です。
病院は医療を提供する場所です。
医療が必要な人に医療を提供するのが、われわれ医療者の役目です。
精神に異常があるから、無罪にするのは納得できません。
刑務所に入れて、必要に応じて、精神も治すことはできないのでしょうか?
病院と刑務所では、
対応や待遇が違うということをお伝えしたかったので、
昨日と今日の日記を書きました。
医療問題
受刑者の手術
私は刑務所に入っている受刑者の手術をしたことがあります。
また殺人犯の手術もしたこともあります。
受刑者といえど、ケガをしたら手術が必要になります。
刑務所内では、作業があります。
刑務所内で作業中の事故は、労災にはなりませんが、
刑務所(法務省)が治療費を払ってくれます。
■ ■
大きな刑務所には、矯正医官というお医者さんがいます。
北海道で、専任の矯正医官がいるのは、おそらく札幌刑務所だけです。
他の、地方都市にある刑務所は、嘱託医が対応しています。
私が受刑者の手術をしたのも北海道の地方都市です。
作業中に手をケガしました。
嘱託医の先生が診察をして、
専門的な治療が必要と判断したので私に紹介されました。
■ ■
混雑している病院の外来に、
囚人服を着て、腰縄をつけられた受刑者が来ました。
少し異様な風景です。
お隣の眼科の患者さんが不安そうに見ています。
診察室に刑務官と一緒に入ってきました。
患者さんは、一見してその筋の方とわかる外見です。
囚人服を脱ぐと、胸と腕には立派な刺青が入っていました。
私:いつ、どうやってケガをしました?
今日、○○の作業中に○○でケガをしました。
■ ■
診察をすると、片手の手掌(手のひら)側の皮膚が、
ベロッととれて血が出ています。
嘱託医の先生が、ガーゼを当ててくれていました。
ガーゼは血だらけです。
ベロッと取れた皮膚は、拾って来てありました。
嘱託医の先生が、生理食塩水につけてくれたのでビンに入っていました。
患者さん(受刑者)への説明です。
私:手にケガをして、皮膚がなくなってしまっています。
ここに拾ってきた皮膚がありますが、くっつけるのは難しいです。
手術をしても、くっつかないこともあります。
一番、簡単なのは、
断端形成術といって、指を短く詰めてしまう手術です。
■ ■
私:もし、痛いのがイヤで、早く治したいなら、
指を短くするのが確実です。
あなたたちの世界では、指が短いのはよくあることでしょう?
受刑者:先生お願いです。
どうか、この拾ってきた皮膚をくっつけてください。
痛いのはガマンします。
刑期を終えたら、ちゃんと真人間になります。
もう悪いことはいたしません。
どうか治してください。お願いします。
■ ■
私たち医師は、相手がたとえ受刑者であろうと、
『どうか治してください。お願いです。』
という言葉には弱いのです。
私:そんなことを言って、
刑務所を出たら、またこの手で悪いことをするのでしょう?
短くした方が、早く治りますよ。
痛いのも短くて済みますよ。
(ちょっと意地悪な言い方です…)
■ ■
受刑者:痛いのもガマンします。
たとえ皮膚がくっつかなくても、文句は言いません。
ちゃんと先生や看護婦さんの言うことも聞きます。
どうか治してください。お願いします。
刺青が入っているのに、怖そうなところはありません。
確かに、私が手術をすれば皮膚がくっつくかもしれません。
ただ、もし皮膚がうまくくっつかなければ、後遺障害も残ります。
痛みもかなり続く可能性があります。
また、くっつけた皮膚が化膿してしまうリスクもあります。
早く治すには、指を短く詰めるのが一番です。
■ ■
私は、診察室の奥へ行って、刑務官と話しました。
受刑者は、皮膚をくっつけてくださいと話しています。
もし、皮膚をくっつける手術をすると、入院が必要になります。
入院期間は、最低2~3週間は必要です。
刑務官は困った顔をしています。
結局、その取れた皮膚をくっつける手術をすることになりました。
刑務所では、受刑者が入院して手術をすることを認めてくれました。
手術が必要になったのはいいのですが、それからが大変でした。
何がどう大変だったのかは、明日の日記に書きます。
医療問題
精神と犯罪
各地で凶悪な犯罪が目立っています。
優秀な弁護士さんは、‘責任能力’を強力な武器として、
無罪を主張してきます。
そうすると、‘犯罪者’の中には、刑務所ではなく、
精神病院へ入院させてもらえる人が出てきます。
■ ■
刑務所と精神病院では待遇に雲泥の差があります。
食事一つとっても、
‘犯罪を犯した患者’だからといって、
差別されることはありません。
一般の入院患者さんと同じ、病院食が出されます。
希望すれば、おかわりもできます。
■ ■
私は学生時代に、真剣に精神科医になろうと思った時期がありました。
理由は、簡単です。
‘血を見るのが怖かったから’です。
今の私を知る人は、
『えぇ~???』と驚かれるに違いありません。
毎日、血を見て仕事をしていますから…。
■ ■
私が精神科を諦めた理由も簡単でした。
治らない、
治せない、
患者さんが実に多いからです。
どこの精神病院にも、
人生の大半を病院で過ごしている方がいらっしゃいます。
他の診療科では考えられないことです。
■ ■
大部分の方は、生活保護を受けていらっしゃいます。
すなわち、税金が使われています。
患者さんの中には、医師免許証を持った人もいました。
医師免許証を持っていても、
人生の大半を精神病院で過ごしていました。
そこの病院の治療方針が悪くて治らないのではありません。
ある割合で、どうしても治せない患者さんがいるのです。
悲しいことですが、これが精神医学の限界です。
■ ■
私は、犯罪を犯した人を、精神を理由に無罪にするのには反対です。
無罪にして、精神病院へ入れたとしても社会はよくなりません。
精神病院では、刑務所ほど厳重に患者さんを管理しません。
いや、管理なんてできません。
タバコを吸うのも自由です。
中には、病院で妊娠しちゃう人も出てきます。
他の病棟と比較すると、看護職員の数が少ないのが精神科です。
看護職を増やすと、それだけお金がかかるからです。
国の方針です。
■ ■
精神科勤務の職員には、程度に応じて、
‘危険手当’が支払われる場合があります。
閉鎖病棟で、凶暴性のある患者さんを看護する職員などです。
私が、知っている看護職の方で、
患者から暴行を受けて意識不明の重体となった男性がいます。
残念なことに、後遺障害も残ってしまいました。
精神科勤務は、時に命がけです。
■ ■
医学生は全員精神神経科を履修します。
選択科目ではありません。
実習へ行くと、分厚い辞書のようなカルテを目にします。
何十年も、精神科に入院していた患者さんのカルテです。
そのカルテを見ただけで、精神医療の難しさを痛感できます。
■ ■
私は、司法修習生など、法曹界の方が、
精神神経科に実習に来ているの見たことがありません。
もし、私が間違っていたら、ごめんなさい。
弁護士さんや裁判官、検察官になる方は、
日本の精神医学の状況や精神病院の現実を見るべきだと思います。
どうしたら、日本を安全で住みやすい国にできるか?
‘犯罪を犯した患者’を精神病院に入れるだけでは、
決して、安全な国はできないと思います。
■ ■
形成外科や美容外科も万能ではありません。
私が手術をしても、治せないキズもあります。
私が手術をしても、満足していただけないこともあります。
でも、それは治療前に説明していますし、
納得していただかなくては、手術をお引き受けしていません。
まさか、美容外科に行ったら、
どんな人でも美人になれるとは考えていないと思います。
でも、ひょっとすると、法曹界では?
精神病院に入院したら、
‘犯罪を犯した患者’が治ると思っているのでしょうか?
医学講座
犬に咬まれる
飼い犬に手を咬まれるという言葉があります。
実際に飼い犬に手を咬まれる人がいます。
私も、チェリーが仔犬の時に咬まれました。
医学用語では、犬咬傷(イヌコウショウ)と呼んでいます。
‘犬咬傷’で検索すると、かなりひどいケガの写真が出てきます。
勇気のある方はチャレンジしてみてください。
■ ■
私は、美容形成外科医になる前は、
総合病院の形成外科医を20年以上していました。
今から、20年以上前のことです。
釧路労災病院形成外科に勤務していました。
毎年、春になると、
犬に咬まれたという患者さんが増えました。
一緒に働いていた、
藤岡浩賢(ふじおかひろたか)先生に調べてもらいました。
■ ■
藤岡先生は、とても真面目で優秀な先生でした。
釧路労災病院形成外科を開設してから、
10年近くのカルテを丹念に調べてくれました。
その結果、釧路労災病院形成外科では、
毎年、春と秋に犬に咬まれてケガをし、
受診する人が多いことがわかりました。
藤岡先生は詳しく調べてくれましたが、
春と秋に多い原因は不明でした。
当時は、まだ今ほど室内で飼うのは一般的ではなかったと思います。
ただ、犬の発情期と何らかの関係があるようでした。
■ ■
私はチェリーに手を咬まれました。
それは、仔犬の時にしつけをしている最中でした。
私は散歩こそ、チェリーの晩年にしませんでしたが、
チェリーの歯磨きと歯石取りは最期まで私の仕事でした。
家内や子供がすると、
最期まで「う~」っとうなって抵抗しました。
私がしても嫌がって逃げ回りましたが、
つかまると観念しておとなしくさせてくれました。
■ ■
形成外科で外傷を診ていると、犬の他に
人間に咬まれて受診する方も、マレにいらっしゃいました。
たいていは、喧嘩か痴情のもつれによるものです。
犬に咬まれても、人間に咬まれても、
咬まれた傷は汚くなります。
これは、口の中には想像以上に雑菌が多く、
どんなに可愛い仔犬でも、
どんなに美しい女性でも、
咬んだ歯に、バイ菌がついているからです。
■ ■
犬で問題になるのが、パスツレラという菌腫です。
私は一度しか診たことがありませんが、
パスツレラに感染すると、痛くて赤く腫れ上がって、
それはそれはひどいキズになります。
そうなるとキズを治すプロの形成外科医でも難しくなります。
■ ■
実は、犬に咬まれたキズで一番困るのが顔のケガです。
私もよくしていましたが、
犬に顔を近づけて‘よしよし’をします。
チェリーはよく私の顔をペロペロしていました。
この時に、犬が間違って咬むと大変です。
口唇がちぎれてなくなった人もいます。
鼻の頭が、食いちぎられてしまった人もいます。
■ ■
若い女性や子供さんには、絶対に、
犬にペロペロは避けていただきたいです。
私が今までに診た患者さんの中で、
一番重症だったのは、
女性に鼻の頭を食いちぎられた男性でした。
‘男だからしょうがないさ’と簡単に片付けられない状態でした。
修復するのに何年もかかりました。
春はうきうきして楽しい季節ですが、
‘不慮の事故’が多いのも春です。
くれぐれも気をつけてください。
医療問題
精神鑑定
平成20年3月23日、北海道新聞の記事です。
香山リカのひとつ言わせて⑬
精神鑑定ってなんだろう
東京・渋谷の夫殺害事件の精神鑑定が話題となっている。
検察側、弁護側、双方の鑑定医が
「被告は短期精神病状態にあり、責任能力はなかった」
という鑑定結果を公判で述べたのだ。
■ ■
特に検察側の鑑定医が
被告の罪が軽くなるような鑑定結果を述べることは異例、
と言われている。
精神科医には「文系」と「理系」のタイプがいるが、
検察側の鑑定医は、
日本でも珍しい「文系、理系どちらも得意」のひとり。
精神医学の世界の中にも、
「あの彼が言うなら」
と鑑定結果を支持する人も少なくない。
■ ■
大学で学生たちにこの件について意見を聞いたら、
「殺人を犯して責任能力がないから無罪や減刑、というのはおかしい」
という声とともに、
「そもそも、検察側の鑑定医だからといって厳しいことを言え、というのはどうして」
という声があった。
確かに客観的でなければならない精神鑑定で、
「弁護側だから」
「検察側だから」
という主観が入るのはおかしな話のような気もする。
■ ■
とはいえ、
「短期精神病という一過性の病名で、夫を殺しても無罪?」
と疑問に思う人がいるのも当然だ。
裁判のスピードアップが要求され、
精神鑑定のあり方も変わってくると言われている。
この「異例の鑑定結果」は、
私たちにもう一度、「精神鑑定ってなに」
と問いかけているのではないだろうか。
(精神科医)
(以上、北海道新聞から引用)
■ ■
秋田の児童殺害事件でも、
精神鑑定が問題になっています。
そもそも、精神状態が普通の人は、
自分の子供や夫を殺しません。
自殺を図って、救命救急センターに搬送される方も、
精神疾患がベースにある方が多いと言われています。
■ ■
それでは、精神鑑定が出て、
複数の精神科医が、
『この人が犯罪を犯したのは、病気のためです』
と鑑定書を出せば、無罪にしてよいものでしょうか?
私は、そうは思いません。
精神病院に入院している患者さんの中には、
『オレは○○で人を殺した』と、
大っぴらに公言している人もいました。
■ ■
その患者さんが言っていることが、
ウソかホントかはわかりません。
ただ精神病院に入れたからといって、
‘完治’させられる訳ではありません。
精神疾患は再発率も高く、
一番治しにくい病気の一つです。
■ ■
犯罪者は犯罪者です。
精神疾患を免罪符にして、
無罪放免だけは勘弁してください。
子供を殺された親の気持ちはおさまりません。
精神科医といえども万能ではありません。
ウソを言われても、わかりません。
オウム真理教の教祖様を‘精神疾患’で無罪にできますか?
仮病(けびょう)を見分けるのは、難しいのです。
精神医学にも限界があります。
犯罪者は犯罪者として刑務所に入れて、
死刑にするのは法律家の仕事です。
‘医学’が関与すべきではないと思います。
横綱だって、‘病気’を理由にしていたではありませんか!
昔の記憶
春の訪れ
札幌はすっかり雪がなくなりました。
一ヵ月前の大雪がうそのようです。
昔は、春になると、道路の雪を割る、
『雪割り』という作業がありました。
道路に小さな川ができて、池のようになります。
その池のようになった水溜りから、
低いところへ流れるように、‘道’をつくります。
■ ■
暖かな日差しで溶けた雪は、
ちょろちょろと流れて、低いところへ広がります。
いつの間にか、小さな流れが少しずつ大きくなり、
水溜りが消えた頃には、水の‘道’の跡形もなくなります。
そこには、雪の下で眠っていた道路が出てきます。
道路が出ると、大好きな自転車を持ち出します。
半年ぶりに乗る自転車は爽快で、
いくつになっても気分がよいものです。
■ ■
私は、小さい頃に足を悪くしたためか…
スポーツは苦手でした。
唯一得意科目だったのが、スキーでした。
走るのもダメ、
球技もダメ、
一番嫌いだったのが、体育のマット運動などでした。
4月に学校が始まると、
マット運動から始まるのでイヤでした。
自転車だけは、運動神経と関係なく好きでした。
■ ■
はじめて自転車に乗ったのは、
小学校入学前だったと思います。
補助車という、支えをつけてもらって、
親に後ろを支えてもらって練習しました。
あまり苦労せず、
痛い思いもせずに乗れたと思います。
だから自転車が好きになったのでしょう。
■ ■
最初の自転車は16インチ。
次に買ってもらったのが、丸石自転車の24インチ。
お小遣いをためて、貯金して、
親にもお金を足してもらって買ったのが、
ミヤタ自転車の26インチ。
外装5段変速のついた、カッコいい自転車でした。
嬉しくて、毎日ピカピカに磨いていました。
■ ■
私が茶志内にいた頃、
小学校6年生くらいで買ってもらった記憶があります。
生協から買ったので、
私が買う前に展示してありました。
他の子供たちも、その自転車が欲しかったと思います。
今のようにホームセンターに
何十台も山積みになっているのではありません。
そのカッコいい自転車は一台限りでした。
■ ■
どこへ行くのも自転車でした。
茶志内から美唄までは、
路線バスがありましたが、
休日には一家で自転車に乗り、
美唄の公園まで行きました。
自家用車なんてありませんから、自転車でも最高でした。
茶志内周辺には、
石狩川の河川改修でできた三日月湖がたくさんありました。
そこへ、父親と釣りに行きました。
■ ■
この50年で、自転車の価格は驚くほど安くなりました。
札幌駅周辺では、指定場所でしか自転車をとめられません。
しかも駐輪場は有料です。
自転車はいたるところに放置されています。
誰もが、自転車を大切にしなくなりました。
自転車好きの私にはとても残念なことです。
もう少し、自転車を大切にする世の中になって欲しと思います。
CO2を排出するのは、乗る人だけです。
医療問題
診察券
平成20年3月21日の朝日新聞朝刊、
声の欄(読者からの投稿)に掲載されていた記事です。
奥さんが、心筋梗塞を発症して救急車を呼んだ。
救急隊員から、最近かかった病院の診察券がないか聞かれた。
健康保険証と一緒にしてあった、大病院の診察券を見せた。
救急隊員は、その診察券をひったくるようにして取り上げ、
病院へ連絡。
すると、即座に入院のOKが出た。
■ ■
この男性投稿者が言いたいのは、
診察券の有無で、受け入れが決まってもよいものだろうか?
病院としては、医療費不払いを防ぐために、
診察券の有無で、救急患者を振り分けているのでは?
道義に反しているのではないだろうか?
診察券の有無にかかわらず、
目の前の救急患者を受け入れるべきではないだろうか?
というのが、投稿の主旨です。
■ ■
この投稿者が不思議に思われるのはもっともです。
ただ、医療費不払いを怖れて、
診察券の有無で振り分けているのではありません。
診察券を持っているということは、
現在その病院で治療を受けているか、
過去に治療を受けたことがあることの証明です。
■ ■
診察券の番号がわかると、すぐにカルテが出てきます。
その方の病歴もわかります。
入院癧があると、詳細な記録が残っています。
病院は、『一見(いちげん)さんお断り』の高給店とは違います。
診察券を持っていらっしゃる方に治療上の責任があるので、
たとえ急病になっても診てもらえるのです。
ですから、たとえ2時間待ちの3分診療でも、
大病院の診察券を持っていると役に立ちます。
■ ■
私が勤務していた時代の市立札幌病院も同じでした。
まず、通院中の患者さんと一般の救急患者さんは
担当する当直医が違います。
通院中の患者さんの容態が悪くなって
病院へ電話が来た時は、
まず、‘一般当直’の看護師・医師が診察します。
‘一般当直’は、私のように、
救急医療部以外の診療科の医師や看護師が、
輪番制で当直をします。
医師は、当直をしても、翌日に通常の診療や手術をします。
■ ■
一番多かったのが、喘息患者さんでした。
患者さんが苦しそうに、
『先生、いつもの点滴をお願いします』
と言われます。
カルテにも主治医から、
救急外来を受診した際には、
○○の点滴をしてくださいと指示が書いてあります。
何度か当直をしていると、主治医ではないのに
喘息患者さんと顔見知りになることもありました。
■ ■
専門外の私でも、指示があれば、その通りに点滴はできます。
救命救急センターとは、救急のレベルが違いました。
突然、通院中の患者さんの容態が極端に悪くなることもあります。
その時は、一般当直の当直医が診察し、
必要に応じて、主治医と連絡をとって対処します。
小児科や循環器内科などは、担当医を呼ぶこともありました。
■ ■
たとえ札幌市民が作った
札幌市民のための市立札幌病院でも、
無条件に夜間の救急患者を受け入れると、
パニックになります。
札幌市の夜間救急は、夜間急病センターが担当。
急病センターで手に負えない方が、
二次救急、三次救急の病院へ来られます。
それが、札幌市が決めたルールです。
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朝日新聞へ投稿された読者の奥様は
「もう少し処置が遅かったら危なかった」と言われながら、
10日後に無事に退院できたそうです。
日本の救急医療現場は大変です。
一瞬の判断が、生死やその方の予後を大きく変えます。
救命救急センターに、風邪の患者さんまで来ては
助かる患者さんも助からなくなります。
受診する方のモラルも必要なのが救急医療です。