医療問題

救急外来の限界

 私が勤務した地方の総合病院を例にとって、
 夜間の急患診療についてご説明します。
 診療科は20近くありました。
 通常の外来受付時間は、
 午前中でした。
 待ち時間が2時間近くかかることもありました。
 病院は月曜日から金曜日まで。
 土日祝日は休診です。
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 病院には、受付や会計をする医事課。
 診察をする各診療科。
 お薬をくれる薬剤部。
 X線やCTの検査をする放射線部。
 検査をする、臨床検査部。
 看護師さんをまとめる看護部。
 給食を作ったり栄養指導をする栄養科。
 さまざまなセクションに別れています。
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 総合病院のベッド数が700床あったとすると、
 それ以上の人が働いているのが病院です。
 労働基準法の規定があるので、
 週の労働時間は40時間。
 一日8時間働くと、5日で40時間です。
 一日、24時間のうち、
 病院がフルに稼動できるのは、
 理論上8時間です。
 一週間7日のうち、
 フルメンバーのスタッフが揃っているのは、
 5日間です。
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 人間は一年365日、
 24時間いつ具合が悪くなるか、
 いつ病気になるかわかりません。
 500床も700床もあるような、
 大病院ですら、
 一年365日のうち、
 フルに稼動できるのは
 暦で計算しても7割(土日祝があるため)。
 一日24時間のうち
 8時間しかフル稼働できないのです。
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 つまり、大病院ですら、
 いつでも最高水準の医療が受けられるのではない
 ということです。
 消防の119番は24時間、365日
 同じように対応できるように、
 人員が配置されています。
 ところが、病院は昼と夜とでは、
 診療できる体制が大きく異なるのです。
 つまり一年365日のうち、
 病院が病院としてフルに機能できるのは、
 半分以下なのです。
 24時間営業のコンビニと違うところです。
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 700床の総合病院には、
 多いところですと100人近い医師が勤務しています。
 医療崩壊が社会問題になっていますが、
 勤務医は朝8時には出勤して仕事をはじめます。
 夕方17:00で仕事が終わる病院はマレで、
 だいたい20:00頃までは仕事をしています。
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 当直医は、17:00からオンコールといって、
 急患や再来があれば呼ばれる仕組みになっています。
 自分の専門外でも、
 まず診察に呼ばれます。
 わからなければ専門医に連絡をしますが、
 すぐに呼べない病院もあります。
 難しいのが頭痛と腹痛です。
 緊急を要する痛みなのか?
 経過観察でよいのか?
 判断に迷うことがたくさんあります。
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 CTやMRIの検査をしようとしても、
 診療放射線技師が当直をしていない病院もあります。
 (診療放射線技師の当直義務はありません)
 (病院に当直が法律上必要なのは医師だけです)
 そうすると、
 診療放射線技師を呼ばなくてはなりません。
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 頭痛の患者さんが来た時に、
 すぐに脳神経外科の先生を呼べるとよいのですが、
 脳外科が非常勤で大学から来ているだけの病院もあります。
 専門医が診察をしても
 原因がわからないこともあります。
 耳鼻科の病気が原因で頭痛が出ることもあります。
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 腹痛も同じです。
 盲腸だけが腹痛の急患ではありません。
 泌尿器科の病気や
 女性の場合は
 婦人科疾患が
 急性腹症(緊急を要する腹痛)の
 原因となることもあります。
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 当直医は病院に一人です。
 たまたま、
 専門医が当直に当たっていると、
 患者さんはラッキーですが、
 専門外の先生が当直のこともあります。
 最近の若い先生は、
 自分は急患を診る自信がないので、
 (医療ミスで訴えられると嫌なので)
 当直はお断りします!と
 病院の管理者を困らせる人すらいるようです。
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 つまり、夜間は、
 昼間の‘病院’とはまったく違うということを、
 患者側も理解して、用心してかかる必要があります。
 ‘運悪く’、
 正しい診断と治療ができない‘先生’に
 当たる可能性があるのです。
 当直医は、真面目にできる限りの治療をします。
 ただ、昼と夜では、
 同じ病院でもできることが大きく違うのです。
 これが日本の医療体制の現実です。

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