昔の記憶

忘れられない患者さん

 私が医師になったのが、28年前でした。
 昭和55年、1980年です。
 私は札幌医大を卒業して、
 北大形成外科へ入局しました。
 実は…
 北大形成外科をよく知らずに…
 北大へ来てしまいました。
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 私は、形成外科というのは、
 事故のキズをキレイに治したり、
 顔や体の表面を治す外科だと思っていました。
 それは、間違ってはいませんでした。
 私の予想外だったのは、
 皮膚ガンの診断と治療でした。
 北大形成外科は、
 もともと皮膚科から独立したので、
 皮膚ガンの診断、治療(手術や抗癌剤治療)も
 形成外科でしていました。
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 悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)
 通称:メラノーマ
 というホクロのガンがあります。
 今でも難しいガンの一つです。
 皮膚ガンの中では、
 もっとも怖いガンの一つです。
 足の裏のホクロが
 突然黒く大きくなってきたら要注意です。
 リンパ節や肺に転移して、
 亡くなってしまう方もいらっしゃいます。
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 私が、免許取立ての新米医師の時に、
 このホクロのガンができて、
 北大形成外科にいらした患者さんが
 いらっしゃいました。
 残念なことに、
 その方は外来にいらした時に、
 ガンがかなり大きくなっていました。
 その上、リンパ節にまで転移していました。
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 本人はガンだと知っていましたが、
 まさかそんなに重体とは思っていませんでした。
 混んでいた北大病院でも、
 大至急手術が必要なので、
 最優先で入院待ちとなりました。
 入院前に、全身の検査をします。
 もちろん会社も休まなくてはなりません。
 本人には、
 『○○さん、大至急入院して手術が必要です。』
 『会社も3ヵ月以上休まなくてはなりません。』
 外来チーフの先生が説明しています。
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 『冗談じゃない、こんなおできで3ヵ月も入院できません。』
 『私は8月に大事な国家試験がある、そのためにずっと勉強してきました。』
 本人は黒いおできができたので、
 それを切ってもらえば治ると思っています。
 本人への説明の後で、
 奥さんへの説明がありました。
 『悪性のガンです。』
 『手術をしても、リンパ節に転移があるので、
 進行が早い方もいらっしゃいます。』
 『早い方は、6ヵ月程度で…』
 と上の先生が説明しています。
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 新米医者の私は…
 まだお若いのに、ガンになって死んでしまう…???
 とてもやり切れない気持ちになりました。
 その方は、北大形成外科へ入院して手術を受けました。
 リンパ節郭清(かくせい)の手術もしたので、
 手術の後はパンパンに腫れていました。
 その上、抗癌剤治療も受けていました。
 ふつうの人でしたら、手術だけで音をあげます。
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 驚いたことに、
 その患者さんは、
 手術後にパンパンに腫れて、
 しかも吐き気がすごい抗癌剤治療まで受けながら、
 病室で毎日消灯まで、
 国家試験の受験勉強をしていました。
 私は、
 こんなに勉強しても…
 余命6ヵ月とか言われていたのに…
 と思いながら、
 上の先生に指示された抗癌剤の点滴をしていました。
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 病理検査の結果も悪性黒色腫で、
 リンパ節にも複数の転移が見つかりました。
 今でも救命が難しいケースだと思います。
 ところが、
 その患者さんは見事に国家試験に合格。
 そのパワーに驚かされたのか?
 ガンも再発せず、
 私が知っているだけで、
 その後15年はお元気でした。
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 私は30年近くたった今でも、
 その患者さんのことが忘れられません。
 人の命は、はかないものですが、
 医学でも説明できない奇跡も起こります。
 1%でも可能性があるのなら、
 最後まで望みを捨てないというのは、
 とても大切なことのように思います。
 私が同じ立場だったら、
 病室で勉強ができるかどうか?は
 わかりませんが、
 主治医を信じて治療を受けると思います。

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