医療問題
救急延命の指針
平成19年10月16日、朝日新聞朝刊の記事です。
救急延命、中止に指針 本人意思不明なら医療チーム判断 救急医学会
日本救急医学会は15日、救急医療の現場で延命治療を中止する手順を示した初のガイドライン(指針)を決めた。治療しても数日以内に死亡が予測される時、本人の意思が明らかでなく、家族が判断できない場合、主治医を含む「医療チーム」で延命治療を中止できるとしている。
終末期医療をめぐるあり方には、日本医師会が「尊厳死」を容認する報告をしているほか、今春、厚生労働省の検討会が指針をまとめた。しかし、終末期の定義や人工呼吸器を外す手続きを具体的に定めた指針は学会レベルとして初めてとなる。
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延命治療中止の手順。
学会は、2月に公表した指針案について、会員や国民から意見を募り、寄せられた207件の意見や提言をもとに一部を修正し、この日、大阪市であった評議員会で賛成多数で承認された。
救急の現場では、本人や家族の意思確認ができずに延命治療が続けられるケースがある。しかし、医師の判断で人工呼吸器を外した結果、刑事責任を問われることがあり、「ルールづくりが必要」という声が上がっていた。国も指針づくりに乗り出し、延命治療の中止をチームで判断することを求めた。ただ、患者の意思を基本とし、終末期の定義や中止容認の条件などは先送りした。
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学会の指針では、終末期を「突然発症した重篤な疾病や不慮の事故などに対して適切な医療の継続にもかかわらず死が間近に迫っている状態」とし、具体的には、脳死と診断されたり、人工呼吸器などに生命の維持を依存し、移植などの代替手段がなかったりするなど四つの状態を挙げた。
一方、末期がんなど慢性疾患で入院している患者は対象に含まない。
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終末期と判断した後は、家族らが
①治療を希望
②延命措置中止を受け入れる
③意思が不明確、あるいは判断できない
④本人の意思が不明で、身元不詳などの理由で家族らと接触できない
に分け、①以外は、人工呼吸器の取り外しや薬剤をやめる際の手続きを定めた。④の場合も、最善を尽くしつつ、医療チームで治療中止を判断。チームで結論が出なければ院内の倫理委員会で検討するとした。
指針作成にあたり、刑法学者らからも意見を聞いた。学会特別委員会委員長の有賀徹・昭和大教授は「延命治療を中止した際、司法の介入を招く事態も起きている。だが、ガイドラインに沿って判断すれば、法的にとがめられるはずがないと考えている」と話した。(野瀬輝彦、行方史郎)
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《解説》 現場には慎重論も
日本救急医学会の終末期医療の指針は、患者本人の意思が不明でも、手続きや要件を満たせば延命治療が中止できるという踏み込んだ内容になった。
東京大学の前田正一・准教授(生命・医療倫理)は「医療チームや倫理委員会で判断するという位置づけが明確にされた。指針に沿えば刑事責任を問われることはないと思う」と評価する一方、「患者と家族が必ずしも円満とは限らず、倫理委員会がどこまで機能するか分からないなど課題もある」と話す。
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現場の医師には「指針を、そのまま採用する病院は少ない」といった慎重論がある。本人の意思が不明で、家族と連絡がとれなければ、判断は医療チームや倫理委員会にゆだねられる。この点について秋田赤十字病院(秋田市)の皆河崇志・脳神経外科部長は、現時点で人工呼吸器の取り外しに社会的合意が得られる条件の一つに「本人が延命治療を希望しないという明確な意思があること」を挙げる。「はっきりしない時はもっと慎重であるべきだ」とする。
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学会に来た意見の中には「死期を早めることが日常化すれば、弱者切り捨てにつながりかねない」と懸念する声があった。「手続きさえ踏めばいいのか」といった批判を受けないためにも厳密な運用が求められる。
以上、平成19年10月16日朝日新聞朝刊より引用。
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救命救急センターでは毎日救急蘇生が行われています。
平成19年7月26日に書いた、市立札幌病院救命救急センターの鹿野先生が、学会抄録に次のように書かれていました。
『救急集中治療領域における終末期医療のなかで、どんなに懸命に治療しても救命不能な患者は必ず存在する。それは救急医療の限界であり、救急医にとって敗北の瞬間でもある。』
とても残念なことですが、どんなに頑張って治療しても、救命不可能な方はいらっしゃいます。
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私は、2006年11月7日に書いたようにドナーカードを持っています。延命治療は要りません。レスピレーター(人工呼吸器)も要りません。
使える組織はすべて提供します。
少しだけ希望を言わせていただければ、組織の一部だけでも、(キレイな)女性の一部として生きていたいと、ひそかに願っています。
家内には、そんなこと無理ょ…と言われていますが…。
朝日新聞より引用
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講義の準備
今日から3週間にわたり3回の講義をしています。5年前に大学をクビになるまでは、4年間講義を担当しました。
予備校や普通の大学の先生は授業をするのが仕事で、毎日講義をなさっていらしゃいます。
医科大学や医学部の教員は、毎日の講義がない代わりに、診療をしながら講義や臨床実習を行います。
人にものを教えるのは、かなり大変な作業で、資料を一つ作るのにも時間がかかります。
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どんなに優秀な学生さんを相手にしても、講義内容が退屈だと居眠りをされてしまいます。
米国の学会に参加すると、セミナーでは、
・講義の内容はよく理解できたか?
・話し方のスピードは適切だったか?
・資料は準備されていたか?
・資料の内容は適切だったか?
・講師に熱意は感じられたか?。
などのアンケート用紙が配られ最後に採点されます。
日本でも学生側から評価する制度を取り入れている大学があるようです。
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‘撃墜王’とか‘鬼’とか呼ばれる教官がいます。厳しく学生を採点し、一学年の10%も再試験になると聞いたことがあります。
教員にとって、再試験をすることは、それだけ手間も時間もかかります。再試験を何回したところで、その教員の評価にはつながりません。
教員の評価は、英文論文を何篇書いたかが客観的な評価対象となります。
厳しい先生は、それだけ教育にかける熱意があると考えてください。
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私の講義は、形成外科という認知度が低い診療科目を、少しでも知ってもらいたいという思いで行っています。
私が札幌医大6年生の時に、大浦武彦教授と濱本淳二助教授のお二人の先生が北大形成外科から特別講義にいらしてくださいました。
私はその講義をお聞きして、形成外科を志すようになりました。
大浦武彦先生は、現在も褥瘡(ジョクソウ)治療のパイオニアとして、日本中を駆け巡りながら講演をなさっていらっしゃいます。
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講義のすごいところは、一度に数十人の学生さんに私の思いを伝えられることです。
私が予備校時代に生物を教わった矢野雋輔先生の声は、35年も経った今でも私の脳裏に焼きついています。
昨年の日記に矢野先生のことを書いたところ、ご親切に数年前にお亡くなりになったと、知らせてくださった方がいらっしゃいました。
とても残念なことですが、先生が亡くなられても私の記憶の中には鮮明に残っています。
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私は、私が死んだ後に一人でも私のことを覚えていてくれて、『形成外科ってすげー』という感動を伝えたいと願っています。
3時間以上もかけて作り直したプリントとパワーポイントのファイルを持参して講義に行きました。
2名ほど講義の最中に居眠りしている人がいました。
残りの学生さんは熱心に聴いてくれました。あと2回頑張って講義に行きます。
医学講座
客室乗務員さんの手術
旅客機の客室乗務員は昔はスチュワーデス、今はキャビン・アテンダント(CA)と呼んでいます。
契約社員が増えて、待遇は昔ほど良くないようですが、女性に人気がある職業の一つです。男性にとっては一つの憧れで、これは今も昔も変わらないようです。
実際の勤務は重労働で、国際線になると長時間拘束されます。
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かなり前のことですが、国際線の客室乗務員をなさっていらっしゃる方からワキガ手術を依頼されたことがありました。
とても光栄なことですが、正直なところ困りました。まず客の荷物を収納するだけでも、手をかなり上まで上げなくてはなりません。
狭い厨房で機内食を準備したり、ワゴンにのせて配るにも腕を伸ばします。ワキガ手術をすると、どう考えても2週間以上は無理です。
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しかも、国際線になると勤務が不規則で、通院もできません。正直なところ最初はお断りしようと思いました。
しかし彼女の悩みも深刻でした。長時間勤務の国際線では、どんなに‘お手入れ’をして乗務しても、目的地に到着する頃には気になるそうです。
制服も汗で傷みやすいし、どうしても手術して欲しいと懇願されました。
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幸い、約1ヵ月の長期休暇が取れたので、手術をお引き受けすることになりました。
手術は順調に終わり、ご自宅で安静にしていらしたので、キズもキレイに治りました。
長時間勤務も苦にならなくなり、快適にお仕事に復帰されました。
数ヵ月後の診察の時です、『先生、臭いがするんです』と言われました。私は耳を疑いました。
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手術後数ヵ月はまったく気にならなかったそうですが、ある日、長時間の勤務を終える頃に気づいたそうです。
以前とは比べものにならない位、汗は減り、臭いも通常は気にならないのですが、せっかく手術したのに…と。
その方は注意深くワキを観察されました。
臭いが出ていたのは、おっぱいの横に近い、腋毛も生えていないところからでした。
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形成外科や美容外科の教科書には、ワキガ手術をする範囲は、毛の生え際から1~2㎝と記載されています。
標準的な範囲は、成書には10×4㎝程度と書かれています(腋臭症の治療、克誠堂出版、p64)。
臭いが出ていた部位には腋毛がなく、一見したところアポクリン腺はなさそうな部位でしたが、確かにそこから臭いがしました。
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最初に手術したキズがキレイだったので、また新たにキズができても構いません。と了解をいただきましたので、追加手術をしました。
そのおっぱいの横の少し窪んだ部分には、少しですがアポクリン腺がありました。
そのアポクリン腺を切除すると臭いは消失しました。
それ以来、私はそこまでアポクリン腺を除去するようにしています。
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私が手術する範囲は、広い方だと10×18㎝にもなります。
今までの最高は、12×20㎝でした。その方の体重は100㎏を超えていました。
臭いに対するこだわりは、総合病院の形成外科を受診なさって手術を受ける方と、形成外科・美容外科のクリニックを受診なさる方の要求度の違いかもしれません。
ただ、経過を診察していて、臭いが残っていると、本人の次に気になるのは執刀医です。私は保険で手術をしても、できる限り臭いをゼロに近づけるよう努力しています。
形成外科勤務医の先生にも、ちょっとだけ耳を傾けていただければと思います。
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私は、その臭いがすると教えてくれた方に感謝しています。
今は手術をする前に、必ずご自身に鏡で手術する範囲を確認していただいています。
この取り残しが、一般に‘再発’といわれる症状なのだと思います。
医療問題
カレスサッポロ格付け取り下げ
平成19年10月11日北海道新聞朝刊の記事です。
カレスサッポロ格付け取り下げ
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格付け大手のフィッチ・レーティンクス(東京)は10月10日、特定医療法人社団カレスサッポロ(札幌、西村昭男理事長)の円建て長期発行体デフォルト格付け(IDR)について、「2007年3月期決算から監査報告書の提出がない」ことを理由に、投資適格の「BBB」から非投資適格の「BB」に格下げした上で、格付け自体を取り下げたと発表した。
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IDRは長期無担保債務の支払い能力を格付けしたもので、カレスサッポロは2006年3月に「BBB」を取得した。
しかし今年夏に西村氏が理事長を兼務していた室蘭の医療法人社団で理事長解任騒動があり、カレスサッポロの経営への影響が取りざたされていた。
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カレスサッポロは「『格付けが財務内容を不透明にしている』などの誤解もあり、騒動が沈静化するまで格付けを取り下げたい」との意向を示した上で「経営体制を構築し、あらためて格付けを取得したい」という。
以上、北海道新聞10月11日朝刊より引用。
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特定医療法人社団カレスサッポロは、2006年3月16日にフィッチ・レーティングスから、円建て発行体デフォルト格付(IDR)「BBB」を取得していました。
フィッチ・レーティングスのHPには2006年03月16 日の時点で、次のように記載されています。
カレスサッポロは2005年3月末には 1)北光記念病院、2)形成外科メモリアル病院、3)北光記念クリニック、4)家庭医療クリニック西岡の4医療施設を運営しており、病床規模は合計260であった。
しかしながら、過去12ヶ月間に実施された時計台病院、稲積公園病院、稲積公園クリニックの買収・統合および時計台記念クリニック新規開設の結果、現在では4病院、4診療所の8施設を運営することとなり、病床規模も合計475へと拡大している。今2006年3月期の医業収入はおよそ90億円と前年比で倍増する見込みである。
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カレスサッポロの格付は、経営陣の優れた経営手腕を反映している。同法人には、経営不振に陥った病院に対する経営面、医療面の支援要請が持ち込まれることが多いが、支援先病院はいずれも業績が急回復している。
フィッチは、カレスサッポロの経営陣が規制環境の変更や人口動態の動向を見据えた戦略にたけ、医療法人に対する透明性の向上や説明責任を求める環境変化に前向きに対応していることを評価している。(2006年03月16 日のフィッチHPより引用)
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それが、2007年5月23日には、『フィッチは特定医療法人社団カレスサッポロの円建て長期発行体デフォルト格付(IDR)「BBB」を格付ウォッチ「ネガティブ」の対象にした。
適時開示の条件が満たされず、信用力に懸念が生じたためである。』と記載されています。
フィッチ・レーティングスは、世界三大格付機関の一つと言われる、権威ある会社です。
天使病院に端を発した今回の騒動で、格付けが下がったことはとても残念です。
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救命救急センターが休止したり、循環器センター・産婦人科が休止したりすれば、病院の収益は急速に悪化します。
私のような個人経営の医療法人は銀行からお金を借りて経営しています。カレス位になると、銀行ではなくファンドからお金が出ています。
格付けが下がり、非投資適格の「BB」とされ、財務内容が不明であれば誰もお金を出してくれなくなります。
私のような個人事業でしたら、すぐに倒産です。
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時計台記念病院は、形成外科の急患にも対応していただけるので、当院で手術中などの時はいつもお願いしてます。
先日書いた循環器センターではとても素晴らしい仕事をなさっていらっしゃいます。
一日も早く、事態が正常化して欲しいと願っています。
医療問題
救急救命センター休止
平成19年10月12日北海道新聞朝刊の記事です。
日鋼記念病院 「救急救命センター」を休止へ
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【室蘭】医療法人社団カレスアライアンス(室蘭)が経営する日鋼記念病院(室蘭市新富町)は11日、医師不足から、高度救急医療(三次救急)を担う「救急救命センター」を休止する方針を固めた。近く、道などに意向を伝える。救命救急センターの休止は全国初。
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日鋼記念病院は今年9月、同社団の西村昭男理事長の解任に伴い、前院長を含め西村氏に近い医師ら5人がすでに退職。11月末までにさらに5人の退職が決まっており、医師は69人にまで減る見通し。退職医師には循環器科の4人や脳神経外科、形成外科の各1人が含まれているため、救急救命センターの機能維持は難しいとの判断に傾いた。
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救急救命センターは、重症の救急患者を治療するための医療機関として、都道府県知事が定める。交通事故の負傷者や心筋梗塞(コウソク)、脳卒中などの治療に当たるが、日鋼記念病院は医師不足から脳神経外科と循環器科の新規患者の診療をすでに休止し、救急救命センターも事実上の休止状態となっていた。
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同病院は、センターを当面の休止とし、医師が確保できれば復活したい考え。救急救命センターは全国に約200カ所、道内に10カ所あるが、厚生労働省は「休止や廃止は聞いたことがない」としている。
同社団の混乱は、同社団が経営する天使病院(札幌)の別法人への移管問題が発端。移管を提案した西村前理事長に病院職員が反発、天使病院の産婦人科医師6人が退職を申し出る事態になった。その後、9月の臨時社員総会と理事会で西村氏が解任され、西村氏に近い日鋼記念病院の医師の退職が相次ぐなど、混乱が室蘭に飛び火した。
以上、北海道新聞の記事より引用。
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救命救急センターは一刻を争う救急患者の救命を行うセンターです。日鋼記念病院救命救急センターへは札幌医大から優秀なスタッフが派遣されていました。
来年の洞爺湖サミットの際に、一番近くて頼りになるのが日鋼記念病院です。
日鋼記念に救命救急センターがなくなると、万一の際は、ヘリで札幌まで搬送です。
ヘリは悪天候に弱く、霧が出て視界が悪ければ飛べません。そうなると、高速道路を使って救急車で搬送です。
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循環器センターもなくなってしまったので、もし、サミットで日本や外国の首脳が心筋梗塞になっても治療ができません。
札幌まで搬送している間に、手遅れになります。
そんなことは、北海道の医療行政を担当していれば、すぐにわかることです。
カレスアライアンスの事情もわかりますが、とても残念なことです。
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サミットは来年ですが、室蘭市を中心とする登別市、伊達市など近隣住民の方にはもっと切実な問題です。
一医療法人の問題ではありません。西村先生は、北大第一外科助教授から、室蘭の日鋼病院へ赴任され、見事に病院を建て直されました。
その業績は、医療界では有名な話しです。
救命救急センターは、地域住民にはなくてはならないものです。一度休止してしまうと、優秀なスタッフもバラバラになってしまい、再建するのも容易ではありません。
一日も早く、正常な状態に戻って欲しいと願っています。
未分類
看護師の活用
平成19年10月11日朝日新聞夕刊の窓-論説委員室から-に、看護師の活用という記事が記載されていました。
以下は朝日新聞の記事です。
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病院で働く看護師の技術や能力をもっと高め、医師だけに許されている「診断や治療」の一部を、看護師もできるようにしてはどうか-。
国立病院機構の矢崎義雄理事長は最近、こんな思いを強めている。
医療行為は医師しかできず、看護師は患者の世話にあたる、と法律で定められている。その壁に少し風穴を開けることはできないか、というのだ。
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例えば手術。米国の医師は高い技術が求められる執刀にあたり、それ以外の仕事は専門の看護師や医療技師が支える。ところが、日本では若い医師が看護師や技師の仕事まで代行することが多いという。
病棟でもそうだ。米国では専門の看護師が簡単な医療を次々とこなす。しかし、看護師の裁量の幅が狭い日本では、若手医師が検査や診療に駆け回る。
医療をすべて米国式にする必要はない。しかし、看護師らにも医療の一部を担ってもらい、医師は専門性の高い仕事に専念できる仕組みをもっと考えていい。
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というのも、病院の医師不足は、医師の絶対数が少ないこともあるが、医療のすべてを医師が担うため、仕事が過酷になっていることも遠因となっているからだ。
問題は、責任が重くなる看護師の理解と協力が得られるかだ。
しかし、4年制の看護大学が増え、小児医療やがん専門の看護師の養成も進んでいる。権限の委譲を歓迎する看護師は意外と多いのではないか。〈梶本章〉
以上、平成19年10月11日朝日新聞夕刊 窓-論説委員室から-より引用
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日本では看護師が点滴の針を刺したり、静脈注射をすることが、つい10年くらい前までは‘正式に’認められていませんでした。
私が医師になった時は、どんなに新米で点滴が下手くそでも、点滴の針を刺すのは新人医師の仕事でした(北大病院では)。
地方の病院や大学病院以外では、看護師さんがごく当たり前に点滴をしていましたが、北大だけは違いました。
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手術室の器械出し(直接介助)という仕事があります。医師国家試験にも看護師国家試験にも、手術で使う器具の名前は出ません。講義でもあまり教えません。
手術室ナースは、術者の指や手の動き、手術の流れを読んで、的確に器具を手渡しします。
よくTVなんかで見る、『メス!(私はメスとは言いませんが)』と言って、ポンと渡すアレです。
これがテキパキできるのは優秀なナースです。
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北大では17:00になると、ナースは勤務時間が終了するので、研修医に交代していました。
ナースは文部技官で時間外手当を払わなくてはいけませんが、研修医はタダで使える(時間外手当無し)ので研修医に交代です。
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私たちが研修医の頃は、仕事の大部分が医師免許がなくてもできるような雑用でした。
臨床研修医制度で大学病院が嫌われ、都市部の一般病院に人気があるのも、そんな伝統があるからかもしれません。
今すぐに、看護師の業務が拡大するとは考えられません。
厚生労働省は看護師免許でできる業務、医師免許でできる業務を明確にすべきだと思います。
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シオゾールと光治療
日本美容外科学会で湘南鎌倉総合病院の山下理絵先生が、とても興味深い注意を喚起してくださいました。
山下先生は日本美容抗加齢医学会会長で、レーザーや光治療による、若返り治療がご専門です。
今回の学会でも、IPLやレーザーを用いた皮膚の若返りについて座長やコメンテーターをなさいました。
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シオゾールという薬があります。主成分は金チオリンゴ酸ナトリウム、塩野義製薬㈱で作られた、リウマチの薬です。
この薬の特徴は成分に金(ゴールド)を含むことです。
金製剤は、もともと抗結核薬として使われてきましたが、その過程でリウマチに対する治療効果が認められました。
シオゾールは注射薬で、投与を続けると、体内に金がたまっていき、おしっこによって排泄されます。
1970年に販売を開始した古くからある薬です。患者さんの中には、投与を受けたことを忘れてしまっている方もいると思います。
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この金(キン)の注射を受けたリウマチ患者さんが、光治療を受けて、皮膚に残っていた微量の金が光に反応して、通常では起こらない反応が出ました。
山下先生が出された症例の女性は、光治療を受けた顔が青く変色していました。
治療をする側も、された側も、まさかこんな反応が起こるとは夢にも思わなかったと思います。
シオゾールの添付文書を読んでも、投与後に光治療を受けると、皮膚が変色するとは書いていません。
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山下先生の別の症例では、金の糸による治療を受けていて、治療を受けたことを話さないで、光治療を受け、副作用が出た方がいらっしゃいました。
他のクリニックで受けた治療内容を、正直に申告してくださらない方もいらっしゃいます。
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メスを使わない治療は、ともすれば‘安全’‘副作用がない’と考えられがちです。
レーザー機器のメーカーも製薬メーカーもこのような副作用については承知していないと思います。
もちろん厚生労働省からは何の通達も出ていません。そもそも、レーザー機器の大部分は厚労省から認可されていないので、国はどんな治療機器が使われているかも知らないと思います。
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金の糸や金の注射を受けた方は、くれぐれも安易に光治療を受けないでください。。
巷では、レーザー治療だ、IPLだ、光治療だと、エステですら‘治療’がおこなわれています。
私は重篤な副作用が問題になる前に、厚生労働省がもっとしっかり指導すべきだと思います。
未分類
修正手術の難しさ
日本美容外科学会で10月7日(日)に聖路加国際病院形成外科の小松一成先生が、「当院におけるsecondary blepharoplastyへの遊離脂肪移植の検討」という演題を発表されました。
聖路加国際病院形成外科は大竹尚之先生をトップとする日本でもトップクラスの形成外科です。
大竹先生は元北里大学形成外科助教授、№2の松井瑞子先生は元東京慈恵医大形成外科講師でスタッフも超一流です。
先日書いた、塩谷先生のお薦めが大竹先生です。
聖路加国際病院形成外科の特徴は、他院で手術を受けたが、結果が不満足だったので修正を希望される方が多いことです。
私も本州からメール相談を受けた方には、大竹先生をご紹介しています。
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secondary blepharoplastyとは二次的眼瞼形成術と訳します。簡単に言うと修正手術のことです。
修正手術は、一度も手術を受けたことがない人に比べて、手術が何倍も十倍以上も難しいのです。
聖路加国際病院では2004年4月から2006年4月までの2年間に、245例の眼瞼形成術を行い、そのうち154例が修正手術でした。63%が修正手術というのは、他の病院ではない数字です。
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修正手術が難しい理由は、前の手術により瘢痕というキズが皮膚の下にできているためです。その目に見えないようなキズに引っ張られて、ラインが乱れたり、キレイに二重の線ができないことが原因です。
よい結果を出すまでに、何度も手術をしなければならないこともあります。
修正手術を希望される方は、
・ちょっとだけ二重の幅を狭くしたい
・ちょっとだけ二重の幅を広くしたい
・かすかについた余計な線を消して欲しい
・わずかな左右差をちょっとだけ直して欲しい
・右が平行型で左が末広型なので、両方とも平行にしてほしい
などなど…、ご希望はよく理解できるのですが、実際に治すのは大変なのです。
中には、誰が見ても不自然でお気の毒な方もいらっしゃいます。
問題なのは、本人が指でちょっとクセをつければ‘治る’ような軽微な修正です。一見、手術が‘簡単’だと思われるような修正手術でも難しいことがあります。
簡単に直ることもありますが、何度も手術を受けている方は思わぬ線ができることもあります。
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小松先生が学会で発表された症例は、いずれも変形が高度で、難しい症例ばかりでした。
聖路加では、左上腕内側(二の腕の内側)から、脂肪を取ってそれを上まぶたに移植して修正していました。
脂肪を移植するのは、瘢痕というキズに皮膚が引っ張られて、余計なラインができるのを防ぐためです。
他院で手術をされていると、最初にどんな手術をされたのかわからないこともあり、修正には苦労します。
苦労して治しても、はじめて手術をした方よりも結果が劣ることが多いのが修正手術です。
聖路加のような「駆け込み寺」があるので、暗い夜道も明るくなります。
未分類
手術をしてはいけない人
日本美容外科学会の続きです。10月7日の学会でサフォクリニックの白壁征夫(シラカベユキオ)先生が興味深い質問をなさいました。
白壁先生は、日本美容外科学会理事で、第27回学会会長。2004年10月、軽井沢で行われた学会に、形成外科系としてはじめて、高須クリニックの高須克弥先生と当時の聖心美容外科総院長の山川雅之先生を招かれた偉大な先生です。
台風の影響で飛行機が飛ばず、しかも軽井沢だったため、全員必死の思いで学会へ行きましたが、とても実りの多い学会でした。
白壁先生の質問は、手術をしてはいけない方をどうやって判断しますか?というものでした。
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この人を手術すると、必ずトラブルになると思われる方がいらっしゃいます。
これは美容外科を開業していても、雇われ院長をしていても、美容外科の勤務医をしていても同じです。
先日書いた、醜形恐怖症の方も含まれますが、どんなに上手な先生が手術をしても、どんな完璧な手術をしても、結果に満足できない人です。
私は‘世界一の美容外科医’ではないので、そもそも‘完璧な’手術はできません。どの程度まで治せるかをしっかり理解していただくことが重要だと思います。
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・A先生(男性)。
(クリニックに)入ってきたらすぐにわかります。その方がどう言おうが手術はお引き受けしません。お帰りいただきます。
・B先生(男性)。
とても神経質な方。手術をした途端に豹変する方もいらっしゃいます。
・C先生(男性)。
態度。(初診の際の)第一声でわかります。同じことを何度説明しても、細かいことを何度も質問されます。
特に男性の方に気をつけます。手術を引き受けるまで、何度も来院する人もいらっしゃいます。
手術をすると、手術後に苦労することは目に見えていますので、手術はいたしません。
・D先生(女性)。
(精神病との)境界型の方がわからないことがあります。理解力のある方しか手術をしておりません。
・E先生(男性)。
笑わそうとしても(笑いを誘っても)笑わない人。
耳元でささやくように話す人。
・F先生(男性)。
米国で40~50年前に調査した結果です。一番、問題がないのが、女性の加齢によるシワの手術。
一番問題になるのが、男性の鼻の手術と言われています。
・G先生(男性)。
精神病の方。暴力団関係の方。
精神病の方が困ります。
・H先生(男性)。
最近はメール相談でも困ることがあります。
自分の不幸を他人のせいにする人。他人が悪いので自分は不幸になったというような人。
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美容外科医の宿命かもしれませんが、この人を手術するとトラブルになるという方はいらっしゃします。
ベテランの先生でも、たくさん困った経験があるようです。
ある開業医の奥様が、うちの先生はせっかくいらした‘お客様’を帰してしまうと嘆いていたことがありました。
ベテランの先生だからこそ、帰してしまうのだと思います。
ベテランになればなるほど、困った症例に出くわすこともあります。私などまだまだ修行が足りないと思いました。
学会に参加しなかった若い先生の参考になれば幸いです。
未分類
日本美容外科学会③
学会に出席する楽しみの一つに、友人の先生を増やすことがあります。
自分の手術について、真摯な発表をなさっている先生はわかります。
その先生の発表をお聞きして、内容についてディスカッションをして、昔なら論文を読んで…と交流が始まります。
今は、インターネットやメールがあるので、すぐに連絡がとれるので便利です。
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私はふだんは自宅とクリニックの往復だけです。学会の時だけは、他の先生と食事をしたり、話しをしたりするのを楽しみにしています。
学会を通じて友だちの輪を広がることは、医師としてとても楽しいことです。
四半世紀以上形成外科医をしているので、学会を通じてたくさんの先生と知り合い友だちになりました。
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私たちは、手術前後の写真や発表を見ると、その先生がどんな方かわかります。
形成外科や美容外科の先生にも、さまざまな方がいらっしゃいます。
昨日の鼻の発表です。北里大学名誉教授の塩谷信幸先生が、もし先生が手術を受けるとしたら、どなたに手術してもらいますか?というとても面白い質問をなさいました。
正直に、『私は麻酔がイヤなので、手術はうけたくありません』と答えられた先生もましたが、大部分の先生は『困った?』という感じでした。
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塩谷先生は、日本形成外科学会・日本美容外科学会の重鎮で、日本ではじめて北里大学に美容外科を開設なさった先生です。私など足元にも及ばない‘大大大先生’です。
塩谷先生のブログがあります。しかも、毎日更新なさっていらっしゃいます。今回の学会について、塩谷先生からブログでお褒めの言葉をいただいていました。
塩谷先生がお書きになっていらっしゃるように、今回の美容外科学会は画期的でした。、東京女子医大形成外科の野﨑幹弘(モトヒロ)教授が学会にいらっしゃいました。形成外科と美容外科が少し近くなったようです。
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これからの課題は2つの日本美容外科学会です。何年かかるかわかりませんが、十仁系学会と形成外科系学会が、一つの日本美容外科学会になれば…と願っています。
韓国では、日本以上に形成外科系と非形成外科系の美容外科学会の仲がよくないようです。
私は両方の美容外科学会に入会しています。
一部の形成外科重鎮の先生は、十仁系学会をよく思っていらっしゃらないようです。
私は、本当に‘悪い’美容外科医は、どちらの学会にも所属していない、勉強もしない、美容外科医とは言えないような‘先生’だと思います。