院長の休日

頑張っている人からのエール

 平成21年10月26日(月)朝日新聞朝刊、
 ひとときへの投稿です。
 頑張っている人からのエール
 出産して約3年。子どもの世話の繰り返しに耐えられず、約2ヵ月前に、看護師の仕事に復帰した。
 久しぶりの仕事は、かなり疲れた。さらに、帰宅後には、家事や育児もある。ついつい「やはり無理か」と弱気にもなった。
 そんな時、職腸で、ある病室へ入ると、「いつも頑張っているね」と患者さんに声をかけられた。思うように仕事がはかどらず、慌ただしく動き回る姿がそう見えたのだろうか。
 私は「いえ、まだまだです」と答えた。
 その患者さんは、毎日、テレビを見て過ごしている。「今夜は、何か面白い番組がありますか」と尋ねてみた。すると「プロレスがあるんだよ」とうれしそうに話してくれた。「楽しみですね」と応じて部屋を出た。
 翌日、同じ病室へ行ったので、明るく「プロレスどうでしたか?」と聞いた。患者さんは「見なかったよ。だって、自分でチャンネル変えられないもの。ずっとニュース見ちやった」とごく普通に言った。
 言葉に詰まった。彼は首から下が動かない。不覚にも涙が出そうになった。これまで、どんなに我慢を強いられてきたことか。
 毎日、頑張っているのは彼の方だった。
 私も、もっともっとお役に立てるように、頑張っていきたいと思った。
 (東京都東大和市 内山清美 看護師 39歳)
      ■         ■
 私もよく患者さんから元気をいただきます。
 形成外科医をしていた頃は、
 首から下が動かない方を
 担当させていただいたこともありました。
 何もできない新米医師でも、
 毎日、私の回診を待っていてくださいました。
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 ある日、突然の事故で
 首から下が動かなくなることがあります。
 若い方でも年配の方でも、
 今まで自然にできていたことが…
 突然できなくなることがあります。
 本人も家族もパニックになります。
 動かない部位に、
 褥瘡(じょくそう)という
 キズができることもあります。
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 私たち形成外科医は、
 この褥瘡の治療を担当しました。
 何度も褥瘡の再発を繰り返すこともあります。
 排尿や排便も、
 思うようにできなくなります。
 看護師さんや、
 リハビリの先生と協力して、
 治療に当たりました。
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 中には自暴自棄になって、
 俺なんて生きていても仕方がない…
 なんて言っていらした方も
 いらっしゃいました。
 自分だったら…
 どうだろうか?
 おそらく自分でも、
 自暴自棄になるかも…?
 と思いました。
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 少しずつ、
 自分でできることを見つけて、
 毎日リハビリに励む患者さんは、
 私たちに元気をくださいます。
 小さなことでも、
 少しでも何かできるように…
 がんばっている人
 は美しく見えました。
 そんな時代を想い出しました。

“頑張っている人からのエール”へのコメント

  1. 函館の看護師 より:

    実際に病気をしたり不自由になったりしないと分からないことがあるのですね。

    私も病気になって看護師復帰して1週間。

    今まで気がつかなかったことばかり・・・
    まだまだ病気になって自分が不自由になったわりにまだまだ気がつかないこともあります。

    今日も朝から立ちっぱなしでやっと今夕食と夫の夜勤のお弁当作りを終えて、今座りました(笑)

    こんなに前は忙しかったのかな?と以前働いていた時は感じなかったことを考えながら看護師と家事をこなすのが今はやっとです(汗)

  2. さくらんぼ より:

    病気を告知された時はだれでも落ち込みます。でも 前向きにがんばれば必ずよい結果がでると信じています。「リハビリに 耐えて芽をだす福寿草」 つらかったリハビリ 今は思い出です。今日も今まで仕事で目まいがしましたが、私より 悪い人もがんばっているんだから私も頑張ろうとおもっています。

  3. らずべりー より:

    プロレスの番組があると言われた時、『何時頃あるんですか?何チャンネルであるんですか?』という会話があればなって思いました。 首から下が動かない方は、テレビのチャンネルを押せないのだからその時間にチャンネルを変えに行くのは自分だと思わないといけなかったと思いますね。ナースコールも恐らく手で押すタイプの物ではなく何らか工夫されて顔の一部を使って押されていたのかなっと推測しました。
    忙しい看護師さんを見てなるべく迷惑をかけたくないとの思いの方もいらっしゃるかもしれません。
    『気を研ぎ澄ます、気を配る』というのは、簡単なようで難しい事なのかもしれません。 特に身体が不自由な方、病状や意識がいまいちで巡視を増やして患者様のサインを見て、聞いたりしながら、組みとらないといけない。
    首から下が動かない方の場合、褥創に注意が必要です。新たに作らないようにしないといけないです。
    体の向きの変更や除圧、浴衣などシワ大丈夫かなとか水分摂取や位置、排泄の有無、ナースコールの位置など他に不自由は無いか確認して退出したいところですね。
    新聞に掲載された看護師さんは最後に気づいてらっしゃっています。忙しいと心のゆとりが無くなる事は誰にでもあります。
    忙しいのはあっても、ほんの少しのスペースと気配りと心がけで違うように感じました。

  4. 内山清美 より:

    こんにちは。私はこの記事を書いた内山清美です。
    自分の名前を検索しましたらこちらに辿りつきました。
    お医者様のブログに掲載していただき大変光栄に思います。

    文章では「勤務して2ヶ月」となっておりますが、実際にはその文章を投稿したのは就職して3週間の時。
    投稿した文章が編集の方の目に止まったのが、私が就職して2ヶ月目になっていた頃でしたので、「2ヶ月」に編集されました。
    なので、患者さん自身でテレビのチャンネルを変えられるなどの工夫をしてあげられるどころか、その患者さんの部屋に入るのもまだ数回程度でしたので、まだまだその患者さんのことは知らない時期でした。
    今は患者さんとの関わりも多くなり、どうしてテレビのチャンネルを変えて欲しいと言わないのか・・などの続編の話は沢山あるのですが、それは患者さんのプライバシーもありますのでここでは書きません。

    私が朝日新聞に投稿した文章は、実はこれの3倍ぐらいの長い文章でした。
    もっともっと感じたこと、思ったことも書かせてもらっていましたが、字数が限られているので「頑張っている人からのエール」という部分をメインに編集の方が字数を合わせてその長さにしてくれました。

    では大変しつれいしました。
    読んでくださりありがとうございました。

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