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日本美容外科学会
日本美容外科学会の報告です。この学会はいわゆる十仁学会と呼ばれる美容外科学会です。形成外科医の参加が少なく、開業美容外科医の参加が多い学会です。韓国の美容外科学会である、大韓美容外科学会の先生も参加され、会場のアナウンスは韓国語でも行われます。
今回の学会長は松山市で開業されている、さくらクリニックの福井卓也先生。福井先生は東邦大学医学部をご卒業後外科学を専攻、その後十仁病院で美容外科を研鑽されました。中央クリニック名古屋院院長の後、地元の松山市で開業されました。
学会を開催するのは大変な仕事で、開業医が業務の傍ら準備するのは本当に大変なことです。さくらクリニックのスタッフに伺ったところ、約1年前から準備され、クリニックの10人の職員で学会を運営されたそうです。
今日は学会のプログラムの他に、青色LEDの発明で有名な中村修二先生(米国カリフォルニア大学(UCSB)教授)の特別講演がありました。
中村教授は徳島大学工学部電子工学科を卒業後、日亜化学工業に入社。研究部門に所属していましたが、業績が上がらないため、入社10年目に会社を辞めろと言われました。その時に青色発光ダイオードの開発を社長に直訴し、米国・フロリダ大学に1年間留学。1989年に日亜化学工業に戻り、約2億円する製造装置を自分で改造して開発に成功しました。その後、発明に関して日亜化学工業と裁判になり、2005年1月東京高裁で特許等の対価等として、日亜化学工業側が約8億4000万円を中村先生に支払うという和解が成立しました。 中村教授は私と同じ1954年生まれ。日本の大学入試制度が悪いので米国のような独創的研究やベンチャー企業が生まれないという考えです。講演をお聞きして、教授の考えに共感しました。
今日の学会で美容外科のトピックはフェイスリフトのシンポジウムでした。シンポジストはリッツ美容外科の廣比利次先生、Dr.ゴールドマンクリニックの高橋金男先生、名古屋美容外科の平田修人先生、鶴舞公園クリニックの深谷元継先生、国際美容外科の荒木義雄先生、特別発言としてご自身が2回フェイスリフト手術を受けた高須クリニックの高須克弥先生でした。形成外科系の美容外科学会では聞けない貴重なお話しでした。
中でも圧感は高須先生ご自身の手術ビデオでした。以前の国際学会でも拝見しましたが、手術を受けている院長が手術中にあれこれ指示を出されるのはすごかったです。2回目の手術は、ご子息の高須幹弥先生が執刀。この時は、息子と手術中に親子喧嘩になっては困るので全身麻酔でなさったそうです。
フェイスリフト手術は古くから行われている手術ですが、手術後の後戻りなどの問題点があります。今回のシンポジウムでも各先生の創意工夫が見られ参考になりました。明日からの診療に役立てます。
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道後温泉
日本美容外科学会に参加するため、四国の松山に来ました。四国に来たのははじめてです。昨日は14:00まで診療して、その後東京経由で松山に来ました。松山はいで湯と文学の街。有名な道後温泉や夏目漱石の小説「坊っちゃん」の故郷です。
道後温泉は日本三古湯の一つ。兵庫の有馬温泉、和歌山の白浜温泉、そして道後温泉といわれています。中でも道後温泉は、「日本書紀」にも登場し、文献的には我が国最古の温泉であるといわれています。温泉好きの私は、今朝6:00からこの道後温泉に行ってきました。
3000年の歴史を誇る日本最古の道後温泉。なんと聖徳太子まで入浴なさったという温泉です。期待して行きました。
道後温泉は、明治27年に道後湯之町初代町長・伊佐庭如矢が現在の本館を造りあげました。国の重要文化財で松山市が管理しているようです。
早起きして張り切って行ったのですが、正直なところ期待はずれでした。まず、細かいことですが、何にでも料金がかかります。受付や係りの女性は親切でしたが、貴重品はコインロッカーにお入れください。料金は\100で一度入れると戻りませんのでご注意ください(北海道なら戻りますね)。でロッカーにカバンをいれました。風呂は朝6:00だというのに、とても混んでいました。私が入ったのは一番安い‘神の湯’です。風呂から上がって髪を乾かそうとすると、ドライヤーが3分10円。今時あまり見かけない、昔、銭湯によくあったタイプでした。コインロッカーに小銭を入れてしまったので使えません。ドライヤー代がかかりますので10円お持ちくださいって言ってくれたらよかったのに…。
お風呂は、明治時代にしては立派だったのでしょうが、北海道の温泉に慣れた私にとっては狭くて期待外れでした。洗い場も順番待ちでした。もちろんサウナもジャグジーもありません。明治時代にできたので当たり前ですね。
お客様は大部分が年配の方でした。中には観光客と思われる若者もいましたが、おじいさんが多い印象でした。
浴室と脱衣所で、とても臭いのきついワキガの方がいらっしゃいました。半径2m以内に近づくと強烈に臭いがしました。20歳位の青年で、髪や髭はこぎれいにしていましたが、本人は臭いに気づいていないと思います。札幌だったら手術してあげるのになぁ~と思いました。朝から形成外科の必要性を再認識しました。これから学会へ行って勉強してきます。
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3000年の歴史がある道後温泉本館
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消毒と滅菌
医学部や看護学校の講義のようですが、解説を続けます。消毒と滅菌は似ているようですが大きく違います。
手術を終わった後で、「先生、キズはいつから濡らしてもよろしいですか?」「どのお薬で消毒すればよろしいでしょうか?」などとご質問を受けることがあります。
札幌美容形成外科では、原則として手術後に消毒薬はお渡ししておりません。大部分の手術後にお渡しするのは抗生物質と消炎剤が入った軟膏です。
唯一、消毒薬だけをお渡しするのがピアスです。米国製の医療用ピアスを使用していますが、そのマニュアルに消毒が記載されているためお渡ししています。ボディーピアスも同じです。ピアスという異物を体に装着するので消毒します。
ワキガ手術、包茎手術、目の手術、鼻の手術のいずれの術後にもキズは消毒いたしません。傷はキレイに縫合してあるので、わざわざ消毒しなくてもバイ菌が入る可能性は低いのです。
むしろ消毒薬で皮膚炎を起こすことの方が心配です。術後は抗生物質を内服し、抗生物質が入った軟膏を外用するだけで十分です。
キズはシャワーなどで洗った方がキレイに治ります。重傷のヤケドでも、生理的食塩水と同じ濃度にした風呂で全身を洗います。こうするとヤケドがよく治ります。生理的食塩水はヤケドやキズにもしみません。ある種の温泉がヤケドに効くのはこうした理由です。
消毒とは人体に有害なバイ菌を消すことです。ただ完全にゼロにはできません。減らす程度です。死なない菌もいます。ふつうのキズならこれで十分ですし、消毒は不要という先生もいます。私もキズは消毒しない派です。
滅菌はすべての菌を殺してしまうことです。抹殺するのです。細菌もウイルスもカビも殺します。手術に使う器具は‘消毒’ではダメです。熱湯をかけるのも消毒です。滅菌は高圧をかけて温度も100℃以上に上げます。
生身の人間はヤケドをしてしまうので滅菌はできません。手術をする前には術野を消毒します。皮膚をキズつけるので消毒をしないと有害な菌がキズに入る恐れがあるからです。
感染が問題になるのは抗生物質や消毒薬が効かない菌がいるためです。医学が進歩して薬をたくさん使うようになったのでバイ菌も力をつけました。術後にトラブルを起こすのは大部分が耐性菌です。耐性菌については別の日に書きます。
医学講座
清潔と不潔
私はキレイ好きです。毎日お風呂に入り、歯も一日4回(朝昼夕食後と寝る前)磨きます。お風呂にも入らず歯も磨かない人は不潔ですね。一般的にいう清潔・不潔の概念はこんなところです。ところが医学(特に外科学)でいう清潔と不潔は大きく違います。
1860年代に英国の外科医リスターが滅菌法を確立しました。近代外科学は滅菌法が発見されたことにより大きく発展しました。リスター以前の外科手術は創が膿んで、膿が出るのがキズによいと考えられていました。ですから今なら考えられないくらい手術による感染が多く、死亡率も高かったのです。足一本切断しただけで感染して死んでしまっていました。今ならすぐに訴訟です。
医学でいう清潔とは菌がまったく存在しないこと、すなわち無菌状態を意味します。不潔とは無菌状態ではない状態を指します。外科手術で使用する器具やガーゼは‘滅菌’されています。ガーゼ交換で使用する器具やガーゼも同じです。高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)という滅菌器やエチレンオキシドというガスを使用して無菌状態にします。どんな菌も全くいない状態です。
白い巨塔などのTVドラマを見ると、手術の時に外科医は薄いゴムの手袋をしています。これは手が汚れるのを防ぐのではなく、むしろ逆に手についたバイ菌を術野につけないためなのです。この手袋も滅菌されています。清潔そうに見える人の手にも常在菌という細菌がいます。人間の体は皮膚という厚いバリアーで覆われているため、手にバイ菌がついても感染しません。
ところが手術で皮膚にキズをつけると、バリアーがなくなり菌が体に入ってしまいます。性病がうつるのは、性器の粘膜が薄く、皮膚に比べるとバリアー機能が落ちるためです。昨日のタンポンでTSSになりやすいのも同じ理由です。
この手術で使うゴム手袋は1889年に米国の外科医ハルステッドが考えました。手術室のナースが消毒剤で手が荒れて困っていました。ハルステッドは彼女のためにゴム手袋を使わせました。するとナースの手荒れがよくなっただけではなく、手術の感染率が激減しました。こうして米国のボルティモアから全米へ手術用手袋が普及しました。手術室ナースはハルステッドの恋人で、医学史に残るラブストーリーと言われています。
私が札幌美容形成外科を開業する時に、一番充実させたのが滅菌設備と手術器具です。札幌美容形成外科には合計4台の滅菌器があります。目に見えない部分ですがこれが外科の基本です。器械は高価でたくさん揃えることは大変です。しかし、外科の基本を無視しては安全に手術はできません。残念なことですが、美容外科の中にはこの手術器具の滅菌という基本中の基本を守っていない施設があります。他人に使用した器械を簡単に洗って、消毒剤で簡単に消毒しただけで次に使用しているところもあります。
キャンペーンで割安だからといって、価格でクリニックを選ぶととんでもない目に遭うことがあります。自分の体は自分で守ってください。
医学講座
タンポンショック
昨日書いた脂肪吸引によるショックはブドウ球菌という細菌が出す毒素によって起こります。このブドウ球菌によるショックをToxic Shock Syndrome、略してTSSと呼びます。
1970年代に欧米でタンポンショックという病気が報告されました。タンポンを使用した女性が急に具合が悪くなり最悪の場合は死にいたることがあります。
女性の生理用品であるタンポンは医療用具です。厚生労働省の認可が必要で滅菌されています。タンポンの説明書には必ずTSSについての記載があります。機会があれば読んでみてください。
こちらのトキシックショック症候群情報サイトによると、イギリスの人口約5800万人のうち、毎年報告されている発症件数は約40件で、そのうち半数がタンポンを使用している女性です。TSSは、ほとんどの医師が一生の間に一度も治療をする機会がないくらい非常にまれな病気です。極めてまれですが、TSSは命にかかわる場合があります。患者数が少ないですが、不幸にも英国では年間2、3人がTSSにより死亡しています。TSSは、男性、女性また子どもの誰でもかかる可能性がある病気です。報告されているTSS発症者の半数はタンポンを使用している女性で、残りの半数は、例えば熱傷、炎症性の腫瘍、虫刺されや手術後の局所感染によるものです。TSSを引き起こす毒素から保護するために必要な抗体は、年齢とともに増加します。そのため、TSSの危険性は若い人ほど高くなります。
私は、このTSSの患者様を治療したことがあります。その方はタンポンでTSSになったわけではありませんが極めて重症でした。
通常の生理で普通にタンポンを使ってもTSSにはなりません。問題なのはタンポンをとり忘れる人(信じられないかもしれませんが、とり忘れて次に入れてしまう人がいます)。仕事で疲れて、朝入れたタンポンをそのままにして寝てしまう人。病院などに勤務する女性で、多剤耐性の黄色ブドウ球菌(MRSA)が手について、MRSA付きタンポンを使用してしまう人などなど…。
婦人科の先生は、とり忘れて腟の中でとんでもない悪臭を放っていたタンポンを取り出すことがあるそうです。
タンポン使用時には、次のことを忘れないで、衛生的に使用してください。
・タンポンの挿入時と取り出すときは手を洗う。
・タンポンは、説明書に記載されている通り、定期的に交換する。
・一度に2つ以上挿入しない。
・夜寝る前には、新しいタンポンと交換し、朝起きたら取り除く。
・生理期間の最後には、タンポンを取り除く。
脂肪吸引で死亡することはマレです。タンポンで死亡することも極めてマレです。ただ、タンポンといえど正しく使わないととんでもない目にあいます。
自分の体は自分で守らなくては誰も守ってくれません。タンポンでショック死するなんて信じられないと思うでしょうが正しく使わないと怖いのです。
医学講座
脂肪吸引のトラブル
この症例はPRSという米国形成外科学会雑誌に掲載された学術論文です。
患者様は20代の女性。日本のある美容外科で腹部・殿部・大腿の脂肪吸引を受けました。
手術の翌日、脂肪吸引を受けた部位の痛みがあり手術を受けた病院へ入院しました。その翌日には状態が悪化し、大学病院の救急部に転院しました。手術後の感染によって腹部から大腿部にかけて広範囲に壊死になってしまいました。血圧は低下し感染症でショック状態になっていました。
呼吸不全で生命の危険があったため2週間は人工呼吸器の助けを借りました。腹部から大腿にかけて壊死になった皮膚と軟部組織を2日目と12日目に除去しました。キズは体表面積の22%にもなり重症のヤケドと同じ状態でした。約1ヵ月間の集中治療で一命を取り留めたものの、大きなキズが残りました。以下がPRSに掲載されたタイトルと原文の一部です。
Toxic Shock Syndrome after Suction Lipectomy.
Plastic and Reconstructive Surgery:Volume 106(1)July 2000 p204-207.
Case Report
A woman was admitted to our hospital 2 days after suction lipectomy. The patient had received aesthetic suction lipectomy of the abdomen, buttocks, and thighs during an office procedure by a cosmetic surgeon. On postoperative day 1, the patient contacted the cosmetic surgeon complaining of wound-related pain and was admitted to the cosmetic surgery hospital. On postoperative day 2, the patient was referred to the emergency department of our hospital.
The patient was in toxic shock. Chest x-ray showed acute respiratory distress syndrome, which required intubation and controlled ventilation for 2 weeks and intensive medical treatment for about 1 month. Surgical debridement was repeated on hospital days 2 and 12, leaving open wounds covering 22 percent of the total body surface area. Signs of multiple organ failure resolved slowly, and desquamation of the skin on the palm was observed 18 days after suction lipectomy. The patient was transferred to a regular ward 29 days after admission, and her wounds were covered with a meshed autograft. The patient required intensive medical treatment for about 1 month and great effort to adapt herself psychologically after the illness.
この論文には次のコメントが掲載されました。
すべての形成外科医は日常診療に潜んでいる潜在的な危険性を認識し警戒すべきである。貴重な症例報告で注意を喚起してくれ、卓越した治療で生命を救ってくれた著者に感謝する。
This report of toxic shock and necrotizing fasciitis after suction lipectomy is an important reminder that should alert all plastic surgeons of the potential dangers lurking in almost every routine case. I thank the authors not only for bringing this case to our attention, but also for outlining the superb postoperative care that saved this patient’s life.
あまり知られていない事実ですが、脂肪吸引により日本では何件もの死亡事故が起こっています。大手美容外科で行ったからといっても安心はできません。どんな手術にもリスクはつきものです。
重要なのは、事故を起こさないようにする経験と技術です。新米のパイロットが操縦する旅客機には恐ろしくて搭乗できません。救急や感染に対する知識も必要です。感染を起こさないようにする設備も必要です。整備不良の飛行機は事故を起こします。
美容外科は決して楽で儲かる診療科目ではありません。一朝一夕に促成栽培でなれる科目でもありません。この日記を読んでいただいている、医学生や研修医の先生に対する私からの警告です。
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Plastic and Reconstructive Surgery,Vol.106p204,2000より引用
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医学部にへき地枠
2007年5月13日の北海道新聞に医学部に「へき地枠」-国公立大に創設検討-という記事が掲載されていました。
記事の内容です。
政府、与党は12日、深刻化する医師の不足や偏在を解消するため、すべての都道府県の国公立大学医学部に、卒業後のへき地での勤務を義務付ける枠を設ける方向で調整に入った。定員100人当たり5人程度を「へき地枠」として増員する案が上がっている。
医学部の定員をめぐっては、東北など10県の大学医学部で最大10人まで最長10年にわたり増員する措置のさらなる拡充が政府、与党の検討項目に上がっており、「へき地枠」創設はそれを一段と進め全国に拡大する形だ。
与党幹部と厚生労働相ら関係閣僚で構成し、近く開かれる医療問題に関する政府与党協議会で検討し、6月に策定する政府の「骨太の方針」に盛り込みたい考えだ。
これに関連して自民党の丹羽雄哉総務会長は12日、新潟市での講演で、卒業後にへき地などでの勤務を義務付けている自治医科大の例を挙げ「これを47都道府県の国公立大に拡大したらどうか。実現すれば医師不足は間違いなく解消する」と強調した。
私が、医学部で4年間教員をした経験と、医学部の学生や研修医を知る立場から発言させてもらうと、これで北海道の僻地医療は改善されません。
北海道新聞の解説にも書かれていますが、医学生が順調に医学部を卒業するまで6年。私の時代でも6年間で卒業できたのは90%弱です。医師国家試験まで順調に合格したのは80%強でした。今は国家試験合格後2年間の臨床研修があります。研修を終えたばかりの医師では頼りなくて一人で僻地医療は担え(ニナエ)ません。医師の養成には時間がかかります。
医学生や研修医は医療現場をよく見て自分の将来を決めます。今の若者は、3Kの職場は嫌います。医学部も同じです。小児科は診療報酬が低く、きつく辛いので嫌われています。産科は肉体的にきつく訴訟も多いので嫌われています。一般の3Kは「きつい(Kitsui)」「汚い(Kitanai)」「危険(Kiken)」。医者の3Kは「きつい(Kitsui)」「危険(訴訟が多い)(Kiken)」「給料安い(Kyuryou)」だと聞いたことがあります。
若い医師が一番心配するのは、一人で指導者がいない僻地勤務をして医療事故を起こすことです。医療事故をおこさなくても、患者様からのクレームでめげます。『今度来た先生はヤブだ!』という住民の言葉でやる気をなくします。良い指導者がいないと名医になれません。
自治医大出身で美容外科医になった先生はあまり聞いたことがありません。しかし、国が日本を守るために作った防衛医科大学校を卒業した医師で、現在は美容外科を専業にしていらっしゃる先生はいらっしゃいます。
職業選択の自由は憲法で保障された基本的人権の一つです。いくら国の政策で僻地枠を作っても、へき地に勤務して医師が幸せになる条件を整えなければへき地に医師は赴任しません。
今の若い先生は、美容外科が楽で儲かると考えて選択しています。楽ではなく儲からないことを少しずつ解説します。
医療問題
72.1%の病院が労基法違反
昨日の医師と労働基準法についてのつづきです。医療法で‘病院(20床以上のベッドがある医療機関)’には当直医が勤務することが義務付けられています。例外的に病院と院長の自宅が同一敷地内にある場合は、宅直(タクチョク)といって自宅で当直をすることが認められますが、原則は病院の当直室で勤務です。当直医は夜間も入院患者に対応しなければならないので宅直でも晩酌はできません。
大学病院は各診療科毎に当直医がいますが、一般病院では、20床の個人病院から1000床を超える大病院まで、最低一人の当直医が当直をしています。問題になるのは100床以下の病院です。病院の種類(救急患者を扱うか?老人病院か?など)や規模によって、医師の定数が法律によって決められています。ベッド数が少なければ医師定数が3人でも病院として認可されます。
ところが、3人で当直を回すとなると一ヵ月に最低10回は当直勤務です。ここで労働基準法に引っかかることになります。昨日も書きましたが、労基法では当直は週一回、日直は月一回が限度です。こうなると3人しか医師がいない病院は‘絶対’に違反になります。
厚生労働省HPを調べたところ、厚労省でもこの問題を検討していることがわかりました。平成17年4月25日に行われた第4回医師の需給に関する検討会議事録が検索できました。読むのがイヤになる位、長い冗長な文章です。
この中に労働基準局監督課の庭山監督官の答弁がありました。労働基準局では平成15年から平成16年に、全国47都道府県の596病院で監督実施を行いました。この596病院のうち何らかの法違反があったのが430病院です。違反率72.1%です。
驚くべきとことに、この72.1%という違反率は、病院に限らずどんな事業場でもこのぐらいあると書かれていました。庭山監督官の言葉で『こういう言い方もなんですが、特別な違反率ではありません』と書かれていました。
もし、手術の失敗率が72.1%だったら絶対に手術は受けません。返品率が72.1%だったら企業は間違いなく倒産です。労働基準法は違反するためにある法律でしょうか?
労働基準監督署は‘署’という肩書きがつくお役所です。もし、警察署で違反率72.1%の犯罪を見逃していたら日本はとんでもない国になります。税務署が72.1%の脱税を見逃していたら日本は倒産します。
厚生労働省は医療と労働の両方を監督する官庁です。‘女性は産む器械’と発言していた大臣もいました。政府は、もう少し医療を真剣に考えないと、参議院議員選挙で手痛い目にあうと思います。
医療問題
医師と労基法
私は医師になってから25年間以上、勤務医をしていました。医師は患者様の急変に備えて、一年365日24時間待期しています。昔はポケットベルでした。休日に買い物をしている時も常に携帯していました。ポケベルが鳴ると、『あぁ、昨日手術したあの患者さんかなぁ…?』なんて考えながら公衆電話を探して電話したものです。
札幌美容形成外科を開業してからも同じように対応しています。2007年2月21日からは夜間はテープによる案内にしましたが、緊急連絡先はご案内しています。医療法による規定はありませんが、私の方針で24時間連絡ができるようにしています。
私が学会出張などで、電話対応ができない時は職員に頼んで電話応対をしてもらっています。自分が医師として勤務していた時には、待期に対して手当が出たことはなく、特に考えもしませんでした。それが医師として当たり前だと思っていました。ところが、診療所の経営者になって立場が変わりました。社会保険労務士に相談したところ、待期は労基法施行規則第23条による断続的な宿直・日直業務に該当するので、労働基準監督署に届けを出すべきだと助言を受けました。
厚生労働省HPには詳しい記載がないので、神奈川県商工労働部HPで調べました。宿直又は日直業務で断続的な業務とは、本務に関する労働時間に引き続き、又は休日になされる勤務の一態様であって、本務とは別個の、構内巡視、文書や電話の収受又は非常事態に備えて待機するもので、常態としてほとんど労働する必要のない勤務です。労基署長の行う許可については、①「勤務の態様」(下記のとおり)、②「宿日直手当」(原則同種労働者1人1日の平均額の1/3を下らないこと)、③「宿日直の回数」(原則日直月1回宿直週1回以内)、④「その他」(宿直勤務については、相当の睡眠設備の設置)の各項目の基準をすべて満たしていることが必要です。
これを読んで医師の勤務実態と極めてかけ離れていることに驚きました。労基法では当直は週一回、日直は月一回が限度です。3人しか医師がいな病院で当直が週一回しかできないのでは医療法を守れません。今でも、大部分の勤務医は日曜出勤手当もなく、日曜日に回診に行くのが当然だと思われています。先生の都合で回診時間がずれたりすると病棟の看護師さんに怒られます。
Dr.コトーじゃないですが、僻地の診療所に一人で勤務している医師は、休む暇もなく拘束されています。大病院の勤務医は救急当番や緊急手術をした後に、次の日も平常勤務は当たり前です。私が帯広厚生病院形成外科部長だった時にも、部下の先生を午後から帰してあげたことなどなかったと記憶しています。市立札幌病院でも同じでした。
美しい国をつくりたい日本の首相は、現在の医師不足をなんとか解消したいと考えているようです。北海道知事も僻地の医師不足を解消しようと努力しているようです。
もし、日本の政治家が本当に良い医療を提供しようと考えているなら、労働基準監督署に医師の勤務実態を調査・改善させて、医師にも人並みの休日を与えてください。
日記_わきが
汗の臭い
自分はわきがじゃないか?と悩んでいる方の中には、汗の臭いをワキガと勘違いしている方がいらっしゃいます。
人間の体から出るものは必ず臭いがします。動物でも同じです。私がよく説明に使うたとえです。ペットショップに行くと可愛い仔犬がたくさんいます。どんなに可愛い仔犬でもおしっこをすると臭います。ペットショップでは頻回にシーツを交換して対応しています。人間もふつうの汗でしたら制汗剤で十分に対処できます。
ワキガの方はほぼ100%耳垢が湿っています。耳垢が湿っていても、ワキガの臭いがしなければ手術の必要はありません。
私が子供の頃は、家にお風呂がない家庭もたくさんありました。風呂に入るのも毎日ではありませんでした。銭湯には必ず定休日があり、昔の札幌では確か月曜日でした。風呂に入れない日は体を拭くだけで済ませたものです。
今の時代は学生さんでも、バス・トイレつきのマンションが当たり前です。毎日、必ずシャワーに入りシャンプーもします。
これだけお風呂やシャワーがあっても臭いが気になる人は手術を受けると快くなります。ただ、何度も書いているようにワキガ手術は簡単ではありません。手術後に安静にしていないと必ずキズが残ります。
心ない美容外科では、単に汗の臭いが気になって相談に来ているだけなのに『あなたはワキガです』と‘診断’して手術を薦めるところがあります。広告宣伝費を一ヶ月に何百万円もかけているところは、せっかく来た‘お客様’を逃すわけには参りません。必要がない手術を薦めてお金をとるところがあります。
美容外科が他の診療科より低く見られるのは、こうした業界の体質によると思います。私も残念に思いますが事実です。どこのクリニックがよいか見分けるのは本当に難しいことです。汗の臭いとワキガの臭いは違います。心配でしたら相談にいらしてください。