医学講座
メール相談への礼儀
私は自他共に認める、
ばかが10個くらいつく、
くそ真面目な人間です。
曲がったことは大嫌いです。
人をだますのも大嫌いです。
自分もだまされたことがあります。
■ ■
この院長日記をはじめてから、
今年10月で丸10年になります。
よく続けたものだと、
自分でも感心しています。
HPを作ってくださった、
愛知県豊橋市の
ウェブデザインオフィスクロスロード
須崎克之さんのおかげです。
感謝しています。
■ ■
メール相談へのお願い
2015年7月30日の院長日記です。
最低限必要なのは、
いつ、
どこで、
どんな治療を受けたか?
お名前もフルネームで、
住所も電話番号もしっかり記載してください。
そうしないと正確に回答できません。
■ ■
メールの送信は、
相談フォームからその都度送信してください。
そうすると、
自動返信メールが届きますし、
セキュリティーがしっかりしたメールになります。
もし心配なことがあれば、
治療を受けたクリニックに、
何という薬を、
どれだけ注射したか聞いてください。
■ ■
法律で定められたカルテの保存期間は5年間です。
どんなクリニックでも、
法律で、
治療内容を記載する義務があります。
自分がどんな治療を受けたのか?
何という薬を注射してもらったのか?
正確に知っておくことが大切です。
ネットの情報にはうそもたくさんあります。
注意してください。
■ ■
困るのが、
次のようなメールです。
【お名前】:はなこ
【性別】:女性
【年齢】:22
【ご住所】:〒 0600001 北海道札幌市
【電話番号】:060-000-0000
【メールアドレス】:hanakokomattemasu@gamail.com
【ご相談項目】:眼瞼下垂
【ご相談内容】:自分の目が眼瞼下垂と他の病院で言われました。その病院では保険適応にならないと言われました。保険適応になるかどうか写真で見てもらえますか?
■ ■
メールでいくら相談してもらっても、
実際に診察をしてみないとわかりません。
北海道以外からの相談メールも多数届きます。
どこの病院で手術を受けたのか?
今までに何回手術を受けたのか?
詳しくわからなければ正確な回答はできません。
せめて姓名くらいは入力するのが、
最低限の礼儀だと私は思います。
■ ■
奥さんと喧嘩しながら返信することもあります。
『メールの返事書いているから静かにして!』
『考えているから黙っていて!』
家内も負けじと反論します。
『あなたは四六時中仕事をしている。』
『家庭の団欒(だんらん)というのがない。』
『じゃぁ、あんた代わりに書いてょ!』
■ ■
私は働き者の頑固おやじです。
メールのご返事も…
ためてしまうと書けなくなるので、
時間がある時に…
すぐに、ご返事をするようにしています。
返事に困るメールもいただきます。
できる限り、
親切にご返事を書くようにしています。
最低限の礼儀はわきまえて送信してください。
そのほうがいっぱい返信を書いてもらえます。

医学講座
ケナコルトの注射2016
毎日、私のつたない院長日記を読んでいただきありがとうございます。
少しでも役立つこと。
ネットで検索しても出ていないこと。
どれを信じたらいいかわからなくて、
いろいろ調べて、
とうとう私の院長日記にたどり着いた方に、
♡少しでも役立つ♡
♡有益な情報♡
…を提供するように努力しています。
■ ■
今までに受けた相談の中で、
困るのが、
bFGF注射による後遺障害です。
第37回日本美容外科学会(東京)④
2014年9月5日の院長日記です。
自分の血から採った血小板を注射して、
シワを取ったり若返りをする治療です。
b-FGFが入ったフィブラストスプレーを混ぜると、
劇的な効果が出ます。
■ ■
このフィブラストスプレーを混ぜることについて、
積極的に治療をすすめる先生と、
私のように超慎重で、
今のところ絶対にしないという医師がいます。
良い結果だけを見ると、
実にすごいと思います。
問題なのは、
注射後に予想以上に膨らんでしまったり、
『しこり』が残る方がいることです。
■ ■
膨らんでしまった方を、
【簡単】に治す方法がありません。
これが慎重派が使わない理由です。
b-FGFを入れるか入れないか?
入れたものを使うのだったら、
患者さんにはどう説明して、
副作用にはどう対処するのか?
学会として結論が出ることを期待しています。
残念なことですが、
2016年5月現在、日本美容外科学会としての結論は出ていません。
■ ■
この後遺障害に対して、
ケナコルトという薬を注射してほしい、
注射しようと思う、
…そんな相談を受けることがあります。
申し訳ありませんが、
札幌美容形成外科では実施していません。
理由は次の通りです。
注射薬による失明
2015年10月21日の院長日記です。
■ ■
2015年10月21日
私が不思議に思うのが、
レディエッセ(Radiesse)という注射で、
鼻を高くしようと思った女性が、
失明までしているのに、
マスコミが一向に報道しないことです。
ふつうの日本国民は、
鼻を高くする注射で失明したなんて、
信じられないと思います。
■ ■
美容形成外科のHPで、
レディエッセ(Radiesse)という注射で失明した人がでたので、
この注射の取り扱いを止めました
…と書いているのは、
札幌美容形成外科の他にはあまり見ません。
まして、
【謹告】
当院で鼻を高くする目的で、
注入治療を受けた患者さんが、
皮膚が壊死になってしまいました。
失明してしまいました。
そのため鼻の注入治療を今後は行いません。
…というような文言はどこにもありません。
■ ■
事故を起こした美容外科では、
性懲りもなくなんちゃっての先生が、
他の注入剤で鼻を高くしましょう!
…というようなブログまで書いています。
失明というのは、
重大な医療事故なのに、
厚生労働省も、
国民生活センターも、
消費者庁も、
注意喚起をしていません。
残念なことです。
■ ■
経験を積んだ医師は、
注射剤によって失明することを知っています。
形成外科でケロイド治療によく使う、
ケナコルトAという注射薬があります。
皮内用関節腔内用
水懸注50mg/5ml
トリアムシノロンアセトニド水性懸濁注射液
…という薬です。
形成外科医なら誰でも知っています。
■ ■
この薬の
重大な副作用
10)失明、視力障害
頭頸部(頭皮、鼻内等)への注射により、網膜動脈閉塞が生じ、失明、視力障害があらわれたとの報告があるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
これが書いてあることを知っている形成外科医は、
意外と少ないと思います。
実際に、
眉の近くに注射をして失明したという例があります。
■ ■
ネットで検索すると、
耳鼻科の先生が書かれた文章があります。
愛媛県西条市大町520-8の
篠原内科外科耳鼻科のHPです。
ここに、
医事問題委員の方のコメントです。
「ケナコルトに関して医事問題委員会からの注意喚起が出されていますので、ご報告しておきます。
ケナコルトの下鼻甲介粘膜注射で失明による事例が、
九州で1件、近畿で数件あり、危険性の高い治療法と報告さています。
患者さんの安全を考えるなら、決して行うべき治療法でないとの見解になっています。
…と書かれています。
■ ■
形成外科でケロイドに注射するのは問題がないと私は考えます。
ただ、
目の近くにケナコルトを注射する時には、
この網膜動脈閉塞が生じ失明に気をつける必要があります。
レディエッセ注射による失明も、
このケナコルトによる、
網膜動脈閉塞が生じ失明と同じ仕組みです。
台湾の事故がネットに掲載されてから、
私は注意して使用していました。
札幌美容形成外科では失明事故はありません。
■ ■
bFGFの後遺障害を治すのは難しいです。
私のところにもbFGF注射後の相談が来ます。
申し訳ありませんが、
注射してもらったクリニックに相談してください。
当院では治療できません。
…と回答しています。
責任を持って治せないからです。
bFGFを使った治療を受けたい人や
後遺障害で困っている人には、
福岡の飯尾形成外科をおすすめします。
信頼できる先生です。
医学講座
ある日突然_薬でショック⑤
このシリーズの最終回です。
局所麻酔薬のキシロカインで、
これほど重篤な症状になった人を、
はじめて知りました。
あらためて、
日常診療で注意しなくてはいけないと痛感しました。
記事を書いてくださった、
朝日新聞社の鍛治信太郎記者に感謝しています。
■ ■
平成28年5月13日金曜日、朝日新聞朝刊の記事です。
(患者を生きる:3051)ある日突然_薬でショック⑤情報編_アレルギーの特定検査を
アレルギー反応は、体に入ってくる異物を攻撃して排除する免疫機能が過剰に働いて起きる。原因となるのは食物や花粉、ダニなどさまざまで、薬も含まれる。
同志社女子大薬学部の杉浦伸一(すぎうらしんいち)教授は「どんな薬でも原因になりうる」と話す。
日本アレルギー学会のウェブサイトによると、抗菌薬や消炎鎮痛薬、かぜ薬、抗けいれん薬、痛風治療薬はアレルギーを起こしやすく、また、重症になる恐れもあるので注意が必要という。高血圧や糖尿病の治療薬、造影剤、局所麻酔薬、抗がん剤などでも起きることは少なくない。症状で最もよくみられるのは皮膚症状で、じんましんや湿疹といった軽症から、体中がただれる重症まである。ほかの症状には呼吸器障害や肝障害、腎障害などもある。
連載で紹介した兵庫県の女性(49)は局所麻酔薬で「アナフィラキシー」を起こした。これは即時型のアレルギー反応で、呼吸困難、発疹、吐き気、腹痛など全身に症状が現れる。特に、血圧の低下や意識障害を伴う場合は「アナフィラキシーショック」と呼ばれ、命にかかわる。
学会のアナフィラキシーガイドラインによると、アナフィラキシーショックによる死亡の原因は、医薬品が最も多かった。次いで、ハチによる刺し傷、食物、血清と続く。血清は、毒ヘビにかまれた時などの治療に使われる。
アナフィラキシーショックの治療では、血圧を上げたり、気管を広げたりする作用のあるアドレナリンを注射する。効果の持続時間が短いので、症状が続く場合はアドレナリンを追加する。酸素吸入や食塩水の点滴、抗アレルギー薬なども使う。
ショックを起こさないようにするには、どうすればよいのか。埼玉医科大の土田哲也(つちだてつや)教授は「薬剤に対するアレルギーは一度なるとその体質は一生続くと考えた方がよい。対策はその薬を使わないようにすることに尽きる」と語る。
アレルギーのある薬をカードに書いてふだんから健康保険証などと一緒に持ち、診療を受けるときに医師や薬剤師に必ず見せるようにする。そのためには、どの薬にアレルギーが疑われるのか検査で調べる必要がある。
(鍛治信太郎)

アナフィラキシーの主な症状/アナフィラキシーショックによる死亡数
(以上、朝日新聞より引用)
■ ■
上の表を見て驚いたのは、
2001年~2013年までの、
アナフィラキシーショックによる死亡数。
医薬品323人、
ハチ刺傷266人です。
13年間で、
ハチに刺されて266人も亡くなっていることを、
恥ずかしながら知りませんでした。
■ ■
なっちゅんさんからコメントをいただき、
調べたらこちらのページがヒットしました。
蜂に刺されたときの症状と対策
蜂に刺されたときの症状には、刺された場所のまわりにだけ現れる局所症状と、体中にでる全身症状とがあるので、症状をよく観察し、直ちに緊急処置を行うこと。
軽い全身症状では、顔や体が酒を飲んだ時のように赤くなり、全身にかゆみが起こり、なんとなくだるい、苦しいといった症状があらわれます。
中ぐらいの全身症状では、軽い全身症状に加えて、喉がつまったような感じがして胸苦しくなったり、口が渇き、口のなかがしびれたような感じがします。また、腹痛、下痢、吐き気を起こしたり、さらに頭痛、目まいがしたり、全身がむくんだりします。
重症症状では、息をするのも苦しくなり、物を呑み込めなくなり、声がしわがれて、全身の力が抜け、その場にうずくまってしまいます。また、目が見えなくなったり耳が聞こえなくなったりして、意識がはっきりしなくなったりしますので、一刻を争って緊急処置をとらなければ、死亡してしまいます。
林業・木材製造業労働災害防止協会の資料から引用
■ ■
刺す蜂の中で怖いのは、
スズメバチとアシナガバチで、
夏から秋がピークで危険です。
こんなことも知りませんでした。
アナフィラキシーはこわいです。
アレルギー体質の人は、
くれぐれも注意してください。
この連載を書いてくださった、
朝日新聞社の鍛治信太郎記者に感謝しています。
医学講座
ある日突然_薬でショック④
平成28年5月12日(木)昨日の朝日新聞朝刊の記事です。
(患者を生きる:3049)ある日突然_薬でショック④_直接ふれる作業は回避
兵庫県の准看護師の女性(49)は昨年10月、勤務先の総合病院で過って麻酔薬の瓶を床に落として割ってしまい、薬を吸い込んでアレルギーのショック症状を引き起こした。
3時間ほどで意識がはっきりしたが、救急科の部長(63)は「24時間、経過観察をする」と帰宅を認めなかった。ショックで腎臓などの臓器に障害が起きている可能性や、症状が数時間後にぶり返すことを心配したためだ。女性は大事をとって、集中治療室(ICU)に1日入院した。
退院した後も、だるさが残り、食欲がなかった。1週間ほど仕事を休んだ。
出勤すると、上司の師長に呼ばれた。
「この部署は危険だから、麻酔薬をあまり使わない内科に研修に行ってみてはどうでしょうか」
当面の所属は内視鏡検査部門のままにして、内科で働くことと理解した。検査部門の同僚たちも女性の薬剤アレルギーのことは知っていた。それでも、ショック症状で倒れる事態が起きてしまい、責任を感じているようだった。
「周りの人たちに気を使わせて、申し訳ない」と、女性は応じることにした。
内科での仕事は点滴や採血などが主だった。約1カ月後、内科へ正式に異動となった。
ショックで倒れるまでは、「自分が病気やけがをしたときに、アレルギーを起こす薬を使わなければいいだけ」と軽く考えていた。女性は麻酔薬のほかに、一部の抗生剤などでもアレルギーを起こす可能性がある。かつてはそうした薬剤も、医師に手渡すなどしてきた。しかし、再び落とす危険がある。いまは薬剤に直接ふれる作業でなくても、ほかの看護師に代わってもらい、容器にもさわらないようにしている。
病院は、看護師が足りない部署があると、ほかの部署から応援を出すが、女性については麻酔薬を扱う機会が多い部署に行くことがないように配慮している。
職業柄、予想外の事態で薬にさらされることがあると思い知らされた。薬の扱いに一層注意しながら、子どもの頃からのあこがれだった看護の仕事を続けていきたいと考えている。
<アピタル:患者を生きる・ある日突然>
(鍛治信太郎)

看護職の労働安全に関する指針。薬剤の付着などによる健康被害を防ぐ方法が書かれており、女性も活用している
(以上、朝日新聞より引用)
■ ■
私はこの看護師さんはラッキーだったと思います。
病院の内視鏡室は、
看護師さんが一人で準備をすることもあります。
たまたま近くに先生がいらして、
たまたま発見が早かったので助かりました。
ICUもあって、
救急科もある大きな病院だと思います。
■ ■
もし一人で勤務していて、
発見されるのが遅かったら、
助からなかった可能性もあります。
農業や林業で、
山で蜂に刺されてアナフィラキシーショックになったら、
助けて~と叫んでも、
誰も近くにいないことが考えられます。
■ ■
この患者さんは看護師さんでした。
看護師さんでも、
今日は死ぬな
もうだめだ
…と昨日の院長日記、
ある日突然_薬でショック③に書いてあります。
いつ何が起こるかわかりません。
アレルギーがある方は、
エピペンという注射を、
先生に処方していただいて持っていると安心です。
医学講座
ある日突然_薬でショック③
朝日新聞朝刊の連載記事、
ある日突然_薬でショックの続きです。
大浦武彦先生のお誕生日の院長日記で、
1日遅れになりました。
毎日興味深く読んでいます。
今日の院長日記は昨日の朝刊です。
■ ■
平成28年5月11日(水)朝日新聞朝刊の記事です。
(患者を生きる:3049)ある日突然_薬でショック③_瓶割れ吸引「もうだめだ」
2015年10月、兵庫県の准看護師の女性(49)は勤め先の総合病院の内視鏡部門で、検査の準備に取りかかろうとしていた。受診者に内視鏡を入れる前に、「キシロカイン」という麻酔薬をスプレーでのどに吹き付ける処置で、女性はこの薬にアレルギーがある。
スプレーをするとき、女性はマスクと手袋をし、肌が出ない感染防護用のエプロンを身につけていた。噴射した薬が自分にかからないよう、なるべく腕を伸ばして体から遠ざけてもいた。
いつも通り、薬の瓶にスプレー用のノズルを付けようとしたが、うまくはまらなかった。力を入れてノズルを押し込んだところ、瓶を落としてしまった。瓶が割れ、薬がこぼれて床に広がった。
「早く拭かないと」
アレルギーのことが頭にあり、慌てた。近くの紙おむつをつかみ、しゃがんで薬を吸わせ、ごみ箱に捨てた。マスクをしていても蒸発した薬を吸い込んだようで、次第に気分が悪くなった。
スプレーを終え、受診者の頭が動かないよう押さえているときに、耐えられなくなった。
「キシロカイン吸った」
そうつぶやくと、しゃがみ込むように床に倒れた。顔も手足も蒼白(そうはく)になった。呼吸が乱れ、酸素が足りなくて唇が赤紫色になるチアノーゼを起こした。吐き気がしてえずいた。
約30年前に虫歯治療の麻酔薬で初めてアレルギーが起きたときよりも、ずっとつらく、症状も重い気がした。血圧の低下と意識の障害が伴うアナフィラキシーショックという状態だった。
「今日は死ぬな。もうだめだ」
意識が徐々に薄れていった。
近くにいた消化器内科の医師にその場で酸素吸入や、血圧を上げるアドレナリン注射などをしてもらった。救急外来へ運ばれた後、ステロイド剤や2度目のアドレナリン注射などを受けた。
瓶が割れてから約1時間後、ICU(集中治療室)に移され、意識が少しずつ戻ってきた。気付くと、顔見知りの職員たちに取り囲まれていた。
「恥ずかしい」「これ以上迷惑をかけたくない」。そんな思いから「もう、うちに帰りたい」と口にした。(鍛治信太郎)

女性が落としたのと同型の麻酔薬
(以上、朝日新聞より引用)
■ ■
キシロカインという薬は、
歯科麻酔にも使います。
けがの治療にも使います。
内視鏡にも使います。
耳鼻科で鼻を診る時にも使います。
座薬を入れる時に使うこともあります。
二重埋没法にも使います。
ヒアルロン酸に入っている製剤もあります。
■ ■
これほど世界中で使われている麻酔薬はありません。
不整脈の治療に使う、
静注用キシロカイン
じょうちゅうようキシロカインという注射薬もあります。
医療関係者で、
この薬にアレルギーがある人は、
私は今までに聞いたことはありませんでした。
■ ■
薬剤の瓶を落として、
割れて、
その液体を吸入しただけで、
このようなショックは恐ろしいです。
マスクをしていたと書いてあるので、
吸った量は微量だと思います。
今日は死ぬな
もうだめだ
…と思ったのも当然です。
■ ■
私が強調したいのは、
キシロカインスプレーを、
落として吸入しただけでショックです。
外傷の処置などで、
局所麻酔として注射していたら、
もっと重篤な症状になった可能性があります。
きわめてまれなことでも、
起こってしまうと大変です。
なんちゃっての先生でも
アナフィラキシーショックに適切に対応できることが大切です。
昔の記憶
大浦武彦先生85歳のお誕生日
今日5月11日は、
恩師、
大浦武彦先生のお誕生日です。
先生は、
昭和6年5月11日(1931年5月11日)に台湾でお生まれになりました。
お父様が高等師範学校の教員をなさっていらしたと、
お聞きしたことがあります。
■ ■
先生のHPによると、
1962年3月 北海道大学大学院 医学研究科修了(医学博士)
1978年6月 北海道大学医学部 形成外科学講座 教授
1993年4月 北海道大学医学部附属病院長就任
1995年3月 北海道大学 定年退官(北海道大学名誉教授))
1995年4月 医療法人渓仁会 会長、褥瘡・創傷治癒研究所 所長(兼任)
2002年8月 医療法人社団 廣仁会 褥瘡・創傷治癒研究所 所長 現在に至る
85歳の今も現役で働いていらっしゃいます。
■ ■
最愛の奥様、
大浦憲子様がお亡くなりになったのが、
平成25年11月19日です。
大浦先生は、
奥様が準備された、
札幌駅近くのマンションで、
お元気で生活されています。
『ご飯も作れるようになった』と、
先生が楽しそうに話してくださいました。
■ ■
下の写真は北大形成外科50周年記念誌です。
准教授の小山明彦先生が作ってくださいました。
笑顔の大浦武彦先生です。
私を含め、たくさんの弟子を育てていただき、
ありがとうございました。
これからもお元気でご活躍ください。

医学講座
ある日突然_薬でショック②
平成28年5月10日、朝日新聞朝刊の記事です。
毎日、とても興味深くこの連載を読んでいます。
われわれ医師も歯科医師も、
看護師も薬剤師も、
授業でアナフィラキシーを習います。
もちろん国家試験にも出ます。
でも実際に、
このような患者さんの記録を学ぶことは、
めったにないことです。
■ ■
この連載を企画し、
書いてくださっている、
朝日新聞の鍛治信太郎記者に感謝します。
(患者を生きる:3048)ある日突然_薬でショック②_アレルギー意識せず仕事
福井県内の歯科医院で30年前、虫歯の治療中に局所麻酔薬でショック症状を起こした准看護師の女性(49)は、治まった後に再び受診すると、「ここではもう歯の治療はできない」と告げられた。
紹介された公立病院の口腔(こうくう)外科では、麻酔薬のアレルギーかどうかを確かめるため、医師が見守る中でごく少量を注射された。すると、症状は軽いものの、同じように気分が悪くなった。「薬剤アレルギー」と確かめられた。
日を改めて、この局所麻酔薬とは異なる全身麻酔薬を使って虫歯を治すことになった。歯のX線写真を撮ると、虫歯のほかに、親知らずが4本あった。親知らずも治療が必要な状態だった。
「ついでに親知らずも抜いてしまいましょう」。担当医にそう告げられた。
数日後、全身麻酔で歯の治療を受けた。意識のないうちに進み、目が覚めると抜いた親知らずのあとが痛かった。
公立病院ではさまざまな薬とのアレルギー反応を調べられた。代表的な局所麻酔薬のキシロカインだけでなく、セフェム系というタイプの抗生剤、造影剤、解熱鎮痛剤などでアレルギーを起こす恐れがあることがわかった。
「ああ、そうなんやな」
薬を取り扱うことが多い仕事にもかかわらず薬にアレルギーがあることに、深刻な気持ちにはならなかった。
「自分の治療では、ほかの薬を使えばいい」と軽く考えた。
21歳で結婚し、1995年に夫の仕事の都合で兵庫県へ引っ越した。県南部の総合病院に勤め始めた。薬剤のアレルギーには特に悩まされることもなく過ぎた。
2012年、自宅で飼い犬のシーズーに右手の甲をかまれた。細菌が入ったのか、翌日、傷口がうんだため、勤め先の病院で診てもらった。薬剤アレルギーの情報が病院の電子カルテに入っており、アレルギーの恐れがないペニシリン系の抗生剤が出された。
「アレルギーの説明をしないで済むので、何かあったら勤め先で診てもらえばいい」
アレルギーのことは頭の片隅にある程度で、それほど意識せずに働く中、再びショックに見舞われる事態が起きた。(鍛治信太郎)

女性がアレルギーを持つか、持っている可能性が高い薬の一覧
(以上、朝日新聞より引用)
■ ■
写真は電子カルテに記載された、
アレルギーを起こす原因薬剤です。
キシロカイン ショック
セフェム系 パッチテストで発赤
クラビット錠100mg 気分不良
オムニパーク300シリンジ 100ml 気道・呼吸器症状(喘鳴)
ブスコパン錠10mg 詳細不明
ブスコパン注20mg 詳細不明
ロキソニン錠60mg 気道・呼吸器症状(喘鳴)
■ ■
これだけの薬にアレルギーがあるのは、
医師としてかなり注意が必要です。
外傷などで搬送された患者さんが、
これらの薬を使えなかったら、
緊急の縫合処置も難しいです。
アレルギーの原因薬剤が、
わかっていないともっとこわいです。
■ ■
美容外科でも同じです。
二重埋没法
当日手術ができます
当日手術で、
キシロカインで麻酔をしたら、
アナフィラキシーショックです。
なんちゃっての先生は、
対処できない可能性もあります。
ヒアルロン酸注入などの治療でも、
危険です。
■ ■
一番大切なのは、
アナフィラキシーになった時に、
最初に気付くことです。
大変だと感じることです。
この
何か変だぞ、
何かおかしいぞ、
気付かないで処置や手術をすすめると、
大きな事故につながります。
医学講座
ある日突然_薬でショック①
平成28年5月8日、朝日新聞朝刊の記事です。
この記事は、
医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士、薬剤師など、
医療関係の方にぜひ読んでいただきたいです。
とても大切なことです。
(患者を生きる:3047)ある日突然_薬でショック①_歯科の麻酔注射で異変
兵庫県に住む准看護師の女性(49)は、県南部の総合病院の内科で働いている。薬剤の取り扱いには普通以上に気を使っている。代表的な局所麻酔薬にアレルギーがあり、一部の抗生剤などほかの薬剤にもアレルギーの疑いがあるからだ。
初めてアレルギーの症状が出たのは30年前。19歳だった。出身地の福井県で産婦人科医院の准看護師になって、2年ほど過ぎた頃。憧れの職業につき、日々、奮闘していた。
虫歯の治療で勤務先近くの歯科医院に行った。診療台に横たわり、口の中に注射器で麻酔を打たれると、異変が起きた。血の気が失せ、顔面そうはくになり、息が苦しくなった。横になっていられず、「いすを起こしてください」と頼んだ。
歯科医が言った。「これは、麻酔薬のアレルギーじゃないか」
食べ物によるじんましんなどアレルギー性の病気とは、幼い頃から無縁だった。家族の間でも、アレルギー体質だという話を聞いたことはなかった。「本当にアレルギーだろうか」とにわかには信じられなかった。
歯の治療は中止になった。勤務先から同僚の看護師に迎えに来てもらい、勤務先に戻った。近くの内科病院から駆けつけた医師の診察を受けた。この内科医も「アナフィラキシーではないか」。アナフィラキシーは全身に強いアレルギー症状が出る状態。点滴をしてもらい、そのまま勤務先に1日入院した。
アレルギーは体を守る免疫の過剰反応だ。原因物質それぞれに個別に働く抗体という免疫の担い手があり、アレルギーの引き金になる。薬も原因物質になる。ただ、抗体があれば必ずアレルギーになるわけではなく、なぜなるのかははっきりしない。
当時の女性の勤務先では、出産の際に局所麻酔薬を使っていた。女性は正式に雇われる2年前から見習いをし、採用後は麻酔薬を瓶から注射器に移す作業もしていた。少量でも長年その物質に接しているとアレルギーになることがある。女性の場合もそのケースということもありうるが、もともとアレルギーがあった可能性も否定できなかった。(鍛治信太郎)
◆5回連載します。

歯科治療でよく使われる局所麻酔薬。女性も同種の薬を打たれたとみられる
(以上、朝日新聞より引用)
■ ■
朝日新聞に掲載された写真は、
歯科用麻酔薬です。
この麻酔薬は、
キシロカインという商品名です。
歯科だけではなく、
医科でも使います。
動物にも使います。
■ ■
私たち外科系医師は手術の際に使います。
内科医が内視鏡をする時ものどや鼻に使います。
耳鼻科で鼻を診る時にも使います。
とてもいい薬です。
世界中で長い間使われています。
残念なことですが、
きわめて極めてまれに、
朝日新聞に掲載されたようなことが起こります。
■ ■
新聞に掲載された女性は、
担当の歯科医師が、
「これは、麻酔薬のアレルギーじゃないか」
…と気付きました。
気付くことが大切です。
点滴をしてもらい、
そのまま勤務先に1日入院した。
…これで済んでよかったです。
適切な処置をしないと死亡事故です。
■ ■
私自身は、
キシロカインでアナフィラキシーは経験したことがありません。
でもいつも気にしています。
ごくまれに、
キシロカインの効きが悪い人もいます。
なんちゃって美容外科医や、
なんちゃって美容皮膚科医の
『先生』も注意してください。
■ ■
どんな患者さんでも起きる可能性があります。
適切な処置をしないと、
生命にかかわることになります。
美容医療に使う、
ヒアルロン酸に、
このキシロカインが入った製剤があります。
添付文書をよく読むと、
アナフィラキシーのことが書いてあります。
くれぐれも注意してください。
日記_わきが
汗は無臭です
毎年、5月と6月に多いのが、
脇汗ボトックス注射です。
なんとか保険診療で注射をしようとして、
赤字決算になった年もありました。
2016年4月からは、
重度原発性腋窩多汗症の注射実施料が新設されました。
【注射実施料】
G017_腋窩多汗症注射(片側につき)200点が認められました。
■ ■
手技料が上がった代わりに、
ボトックスの価格が、
87,536円から84,241円に下がりました。
3,295円クスリ代が安くなりました。
値上がり分は、
3割負担の方で160円、
1割負担の方で60円です。
患者さんには160円の値上げで申し訳ありませんが、
医療機関としてはありがたいことです。
■ ■
脇汗ボトックス注射をしていると、
多くの患者さんがにおいを気にされます。
お気持ちはよくわかります。
自分で自分のにおいがわからないことがあります。
先生、私くさくないですか?
先生、僕くさくないですか?
なかなか聞けない質問です。
■ ■
私は、
臭いはまったくしません。
無臭です。
汗は無臭なんです。
よくこうご説明しています。
鼻の頭にも汗をかきます。
上口唇(うわくちびる)にも汗をかきます。
脇に出る多汗症の汗と同じ成分です。
鼻の頭に汗が出たら…
汗くさ~って感じますか?
■ ■
わきの臭いは消せるか?
2015年1月17日の院長日記です。
もともと汗そのものは…
くさいものではありません。
汗をかいて…
皮膚にいる細菌が悪さをして…
汗くさいニオイになります。
洗濯物を干す時に…
乾燥が悪いとくさくなるのと同じです。
■ ■
汗をかいても、
顔からにおいがしないのは、
すぐに流れてしまうし、
顔の汗をふくからです。
脇が汗くさくなるのは、
蒸れて乾燥しないからです。
洗濯物の乾燥が悪いとくさいのと同じです。
汗の量が減ってむれなくなると、
臭いも減ります。
制汗剤だけで十分な方も多いです。
■ ■
わきのにおいは消せませんが、
他人より何倍も強いにおいを、
ふつうの人なみにすることはできます。
自分のにおいがどの程度かわからない人は、
【相談無料】
【無料カウンセリング】
の美容外科ではなく、
初診料を払って診ていただく、
形成外科を受診して確かめてください。

医学講座
形成外科と保険診療の歴史2016
私の保険診療へのこだわりには理由があります。
形成外科医になってもうすぐ40年になります。
25年は勤務医として働きました。
大きな病院の形成外科は、
原則として保険診療しかできません。
公立病院などは、
条例改正までしないと、
自費診療ができないところがあります。
■ ■
中村純次先生の想い出
2011年6月14日の院長日記です。
私たちの年代の形成外科医にとって、
日本形成外科学会社会保険委員会と、
中村純次先生のお名前は、
忘れることができない記憶です。
毎年春の日本形成外科学会で、
中村純次先生のお話しがありました。
■ ■
中村先生は、
東京慈恵医大のご出身で、
東京厚生年金病院で形成外科を担当されました。
日本形成外科学会の重鎮でした。
昔は…
保険で治してあげたいのに…
保険適応にならない 病気がありました。
■ ■
2008年6月30日の院長日記、
山形大学の事件⑥に書いてあります。
生まれつき、
耳がない子どもさんがいます。
今は、保険適応になっていますが、
昔は耳をつくる手術が
保険適応になりませんでした。
昭和50年の毎日新聞社会欄に
「ボク、左耳がほしい。健保なぜきかないの?」
という記事が出ました。
耳がない病気の子どもさんが、
当時の田中厚生大臣に手紙を書きました。
■ ■
その翌日に、
「左耳、手術できるよ」と、
田中厚生大臣が健康保険の適応を認め、
それが毎日新聞の記事になっています。
このことを書かれたのは
日本形成外科学会で、
長い間、社会保険委員をなさった、
東京厚生年金病院の故中村純次先生でした。
中村先生が、
1982年に
日本形成外科学会25周年記念誌に書かれました。
■ ■
キレイなるために
鼻を高くする、
おっぱいを大きくする、
これはもちろん美容外科の手術です。
保険はききません。
不慮の事故や
熱傷で
キズができてつっぱっている、
そのキズを少しでもよくしたい。
これは形成外科の手術です。
形成外科では保険診療で手術をしています。
■ ■
私たちの先輩にあたる形成外科医が
長い年月をかけて保険適応にしてきた、
【形成外科戦いの歴史】があります。
今では、
乳癌手術で無くなった乳房を再建するのに、
健康保険が使えます。
誰も不思議には思いません。
10年前は保険適応ではありませんでした。
■ ■
厚生労働省と折衝して、
形成外科の必要性や有用性を説明し、
長い年月をかけて…
保険適応を拡大してくださったのが、
故 中村純次先生でした。
毎年春の学術集会では、
私たちに保険診療のしくみやルールを、
懇切丁寧に指導してくださいました。
形成外科の保険診療を発展させて下さった業績は、
日本形成外科学会にとっては、
勲一等以上の偉業だと思っています。
■ ■
私がJA帯広厚生病院形成外科に勤務した時代、
釧路労災病院形成外科に勤務した時代、
市立札幌病院皮膚科に勤務した時代、
なんとか保険で治してあげようと、
たくさん努力をしました。
あまり知られていないことですが、
今でも、
事故でできた顔のキズでも、
保険で治すのが難しいことがあります。
■ ■
交通事故と顔のけが
2011年12月17日の院長日記に書いてあります。
一番困るのが…
健康保険の適用にならない治療です。
現在の日本の健康保険制度では…
運動制限がない傷あとは…
手術費用が出ません。
つまり…
目が閉じられないとか…
口が開かない場合以外は、
目立つ傷あとでも健康保険の対象とはなっていません。
■ ■
日本形成外科学会では…
長年にわたって国と交渉していますが…
◇瘢痕拘縮形成術について
⑴単なる拘縮に止まらず運動制限を伴うものに限り算定する。
…と明文化されています。
運動制限のない拘縮(単純な傷あと)は、
算定できない⇒保険請求できない
…という決まりになっています。
■ ■
もっと困るのが…
傷あとの茶色の色素沈着です。
このような『しみ』は保険の対象となりません。
でも…
交通事故の被害に遭った女性は…
事故のおかげで…
私の(美しい)顔が台無しになって…
先生何とか治してください
どんなにお金がかかっても…
保険会社に請求してください
…と来院されます。
■ ■
私は30年以上形成外科をやっていますが…
何度か保険会社と喧嘩したことがあります。
患者さんは困ってるんだから…
保険で治療できるようにするのが…
あなたたちの仕事でしょうに!
形成外科で治療する頃には、
自賠責保険を使い果たしていて、
治療費を払ってもらうのに苦労した人もいました。
保険会社には、
自分の娘がけがをしたら…
…という気持ちで対応して欲しいと…
いつも思っています。
■ ■
私の人生の中で、
北海道中央バスの車内放送で、
『わきが手術は健康保険で受けられます』という、
広告を流したのは、
開業への思い②に書いた、
少しでも形成外科のことを知ってほしい、
形成外科は保険診療で受けられることを知ってほしいという、
私の強い願いからです。
無理なお願いをきいてくださった、
KMアドの門脇さんには今でも感謝しています。