院長の休日
3回目の旭岳登山
平成20年7月3日(木)に
また旭岳に登山してきました。
今回で3回目です。
前回と同じように、
姿見の池までは
旭岳ロープウェイで上りました。
■ ■
11:45分発のロープウェイに乗車。
約10分ほどで着きます。
ロープウェイの中では、
ビデオで旭岳の自然について解説してくれます。
日本で最初の国立公園だそうです。
■ ■
登山で一番気になるのが天候です。
下から山頂が見えていても、
突然、雲に隠れてしまうこともあります。
今回は、快晴ではありませんでしたが、
最初から最後まで視界は良好でした。
■ ■
ロープウェイが到着すると、
自然保護監視員の方から説明があります。
遊歩道のマナーや
歩き方の注意事項などを説明してくださいます。
自然が大好きなお兄さんたちが
優しく丁寧に説明してくださいます。
■ ■
11:55に入山記録に署名して出発しました。
姿見の池まで、
整備された遊歩道を歩きます。
姿見の池まででしたら、
スニーカーでも大丈夫です。
(ヒールの靴は無理です)
■ ■
今年は雨が少ないせいか、
山頂までの道は歩きにくかったです。
昨年購入した靴が活躍しました。
すれ違う方たちと、
『こんにちは』
と挨拶を交わしながら上ります。
■ ■
街ですれ違っても、
挨拶はしないのに、
山道では挨拶をします。
知らない人同士でも、
友だちになったような感覚で、
挨拶をするのは気持ちの良いものです。
■ ■
今年は足元が悪かったために、
1時間50分で山頂に着きました。
3回目にしてはじめて、
山頂から360度の大パノラマが見えました。
登山は辛いですが、
山頂に着いた時の達成感が、
また山に登ろうという気にさせるのだと思います。
■ ■
帰りに姿見の池付近の
お花畑を見てきました。
お花だけを楽しむのでしたら、
山頂まで上る必要はありません。
小さくてかわいいお花がたくさん咲いていました。
旭岳山頂
後方に見えるのが
姿見の池です
チングルマ
ツガザクラ
医学講座
ヤケドとシミの関係
日本熱傷学会の話題ではありません。
ヤケドとシミのお話しです。
役に立つ、ヤケド講座です。
昨年も書いたことがあります。
おさらいです。
■ ■
天ぷら油がはねて、
ヤケドをすることがあります。
そこから、
シミになったという方が
たくさんいらっしゃいます。
■ ■
これは、
‘炎症後色素沈着’というシミです。
天ぷら油のヤケドは、
Ⅰ度か浅いⅡ度熱傷です。
上手に治療すると、皮膚は治ります。
ところが治った皮膚は赤くなっています。
皮膚が赤い間に、紫外線に当てると、
そこに色素沈着(シミ)ができます。
手術後のキズも同じです。
■ ■
このシミを防ぐためには、
紫外線が当たらないようにします。
一番確実なのは、
ガーゼの間に
銀紙(アルミホイルやチョコの包装紙)
を挟んで、
これをテープで固定することです。
遮光(しゃこう)と呼びます。
■ ■
レーザーで
高いお金を払ってシミを治したのに…
かえって悪くなったと
怒っている方がいらっしゃいます。
大部分は、
しっかり遮光をしなかったために、
紫外線が当たってできた
‘炎症後色素沈着’です。
■ ■
キレイに治すには…
赤みがある間は
光に当てないようにします。
札幌美容形成外科では
カバーマークという化粧品をお薦めしています。
もともと子供のアザを隠すために
開発された商品です。
私が医師になった25年前からありました。
■ ■
デパートで売っているカバーマークとは違います。
特定の美容室やクリニックでしか売っていません。
市販の日焼け止めより抜群に効果があります。
SPFという紫外線防御指数の値は50です。
■ ■
このカバーマークがよいのは、
塗った色がついている間は
効果があることです。
他の日焼け止めクリームは、
汗をかいて落ちてしまったり、
ハンカチで汗を拭いて落ちてしまっても、
落ちたこと自体がわかりません。
カバーマークは、
ゴルフなどの時でもばっちりです。
医学講座
第34回日本熱傷学会②
日本熱傷学会の続きです。
われわれ形成外科医や救急医にとって、
ヤケドをキレイに治すのは至難のワザです。
昨年の熱傷学会の報告でも書きましたが、
ヤケドのことについて
もう一度、おさらいをします。
■ ■
ステーキを注文すると焼き加減を聞かれます。
・レア、
・ミディアムレア、
・ミディアム、
・ウエルダン。
ヤケドも
・Ⅰ度、
・浅達性Ⅱ度、
・深達性Ⅱ度、
・Ⅲ度、
と分類されます。
日焼けしてピリピリ痛いのがⅠ度、
水胞ができるのがⅡ度、
皮膚が全部焼けてしまったのがⅢ度です。
■ ■
問題なのはⅡ度のヤケドです。
キズ痕が残るか残らないかは、
いかにヤケドの処置を、
上手にするかどうかで決まります。
Ⅱ度のヤケドには水疱ができます。
この水ぶくれは、破らずに処置をします。
そうすると、
中から新しい皮膚ができてきます。
■ ■
昨年の日本熱傷学会で
フィブラストスプレーという薬が、
ヤケドをキレイに治すという発表がありました。
遺伝子組み換えのバイオ技術で作った製品です。
この薬を、子供のヤケドに使ったところ、
普通なら絶対に痕が残るヤケドなのに
キレイに早く治ったのです。
すごいことです。
■ ■
今年もたくさんの施設から、
このbFGF(ベーシック・エフジーエフ)という薬が
子供のヤケドに効くという報告がありました。
広島県の皮膚科の先生は、
詳しくまとめて報告されていました。
大学の先生からも評価されていました。
■ ■
問題なのは、
熱傷学会で早くキレイに治ることがわかっても、
保険診療でこの薬をヤケドに使うことができません。
厚生労働省が認可していないからです。
もっと悪いことに、
薬の説明書にはヤケドにも子供にも使わないようにと
記載されています。
とても残念なことです。
■ ■
一本一万円以上もする薬ですが、
それだけの価値があります。
厚生労働省に働きかけて、
早く正式に認可していただきたいと思います。
製薬メーカーにも頑張っていただきたいです。
医学講座
第34回日本熱傷学会①
平成20年6月28日(土)と29日(日)に
名古屋で第34回日本熱傷学会が開催されました。
私が医師になった、
昭和55年(1980年)に、
札幌で第6回日本熱傷学会が開催されました。
28年間の進歩というのは、
素晴らしいものです。
■ ■
今回の学会では、
聖マリアンナ医科大学形成外科の
熊谷憲夫教授の招待講演がありました。
‘皮膚再生医療による創傷治療’
というタイトルでした。
熊谷先生は、
日本における培養表皮移植のスペシャリストです。
今回の講演でも、
培養表皮移植の素晴らしさを見せていただきました。
■ ■
熊谷先生の講演をお聞きして、
正直なところ、
培養表皮移植を見直しました。
オブラートのように薄い培養表皮で、
よく治せるものだ…
というのが、
私の感想です。
■ ■
何度も書いていますが、
ふつうの人は、
培養表皮移植をすると、
どんなにひどいヤケドでも、
元のツルツルのお肌に戻せる…
と‘誤解’されます。
実際に、焼けただれてしまった皮膚を、
元に戻せるのではありません。
■ ■
今回の熊谷教授の講演をお聞きして、
先人の培養表皮に対する思い。
培養表皮移植の歴史。
現在の培養表皮移植の状況が、
とてもよくわかりました。
まだまだ私たち開業医が、
手軽に利用できる状況ではありませんが、
熊谷教授の聖マリアンナ医大形成外科でしたら、
世界一の治療が受けられます。
■ ■
私たち形成外科医が、
一番頭を悩ますのが、
ヤケドのキズ痕です。
若い女性に、
広範囲にヤケドの痕が残っている。
なんとかキレイにしてあげたいと思っても、
なかなか、
元のツルツルのお肌にはできません。
■ ■
もちろん培養表皮を使っても、
完全に元通りにはできません。
熊谷教授がスライドで見せてくださった症例は、
今まで私たちが考えていたより、
ずっとキレイになっていました。
費用も時間もかかりますが、
聖マリアンナ医大形成外科へ行けば、
かなり改善できると思います。
■ ■
神様がおつくりになった皮膚には、
表皮だけではなく、
真皮も、
毛も
汗腺も
神経も
皮脂腺などの付属器もあります。
培養できるのは、
今のところはこの一番上の
表皮だけです。
■ ■
将来、
表皮以外の皮膚成分も培養できるようなれば、
ヤケドやキズの治療は変わると思います。
火災や事故で
大ヤケドをした人の命を救うのが皮膚です。
救命のためには、
培養表皮だけではなく、
スキンバンクに保存された、
屍体皮膚も必要なのが現状です。
医療問題
山形大学の事件⑥
美容形成外科、
美容外科、
美容整形、
このうち厚生労働省が認めた、
正式な標榜科目名はどれでしょうか?
医師免許を持っていても間違う人がいます。
■ ■
正解は美容外科です。
いちばん一般的な美容整形は、
認められていません。
でも、
‘整形する’
という日本語を聞くと、
整形外科で骨の手術をするのではなく、
美容外科で
二重の手術や鼻を高くするする手術を連想します。
■ ■
形成外科は、
よく誤解されます。
最近では、
さすがに、
形成外科医です、
といって
整形外科医と間違える人は
少なくなりました。
でも、形成外科と美容外科は混同されます。
■ ■
いちばん多い誤解は、
山形大学医学部が間違った誤解です。
つまり、
事故などでできたキズを
キレイに治す手術は、
‘美容外科的手術’であるという誤解です。
これは、
私の先輩にあたる形成外科医が
長い年月をかけて保険適応にしてきた、
‘形成外科戦いの歴史’です。
■ ■
生まれつき、
耳がない子どもさんがいます。
今は、保険適応になっていますが、
昔は耳をつくる手術が
保険適応になりませんでした。
昭和50年の毎日新聞社会欄に
「ボク、左耳がほしい。健保なぜきかないの?」
という記事が出ました。
耳がない病気の子どもさんが、
当時の田中厚生大臣に手紙を書きました。
■ ■
その翌日に、
「左耳、手術できるよ」と、
田中厚生大臣が健康保険の適応を認め、
それが毎日新聞の記事になっています。
このことを書かれたのは
日本形成外科学会で、
長い間、社会保険委員をなさった、
東京厚生年金病院の故中村純次先生でした。
中村先生が、
1982年に
日本形成外科学会25周年記念誌に書かれました。
■ ■
キレイなるために
鼻を高くする、
おっぱいを大きくする、
これはもちろん美容外科の手術です。
保険はききません。
不慮の事故や
熱傷で
キズができてつっぱっている、
そのキズを少しでもよくしたい。
これは形成外科の手術です。
形成外科では保険診療で手術をしています。
■ ■
日本形成外科学会HPには、
次のように書かれています。
生まれつきの病気や
変形の治療、
外傷や熱傷(ヤケド)の治療、
ガン切除後の再建手術などは
健康保険の対象になります
■ ■
山形大学医学部に入院された患者様は
私の推測では、
健康保険の適応手術だったと思います。
それを
「美容的外科手術」
などと報道発表すること自体が、
形成外科を理解していない証拠なのです。
■ ■
同じような事故を防ぐためには、
山形大学医学部に形成外科をつくり、
形成外科の診療体制を確立することです。
それが患者様への償いになります。
私は、
今でも患者様の脚にはキズが残り、
少しでも、
それを改善したいと
願っていらっしゃると思います。
医療問題
山形大学の事件⑤
山形大学の医療事故は、
山形大学医学部が
形成外科のこと、
手術を希望する患者さんのことを、
軽視したために、
起こるべくして起こったと考えます。
山形大学医学部が
いかに形成外科を理解していなかったか?
ということは、
発表された文書を見ても明らかです。
■ ■
2007年1月の調査委員会発足の会見で、
事故のことを附属病院長から
「生命と関係ないいわゆる美容的外科手術」
と発表されました。
2007年12月19日に、
【医療事故に係る手術名訂正について】と
山形大学医学部附属病院長山下英俊先生の名前で
と訂正の公示が出ています。
「美容的外科手術」を
「形成外科的再建術」
と訂正させていただきます。
という内容です。
■ ■
何のことか?
よくわからない方がいらっしゃると思います。
大学当局は、
「美容的外科手術」と
「形成外科的再建術」
の違いすら認識していなかったのです。
本間先生、何?言ってんの?
『美容形成外科』って言うくらいだから、
美容も形成も同じでしょ?
という方がいらっしゃると思います。
■ ■
そこが大きな違いなのです!
「形成外科的再建術」であれば、
保険適応で手術をすることができます。
「美容的外科手術」であれば、
大学病院といえども、
絶対に保険適応にはできません。
保険適応にならない、美容的外科手術を、
保険請求していたとします。
そうすると、不正請求になります。
■ ■
不正請求をした病院は、
保険医療機関の取消しになることもあります。
社会保険事務局の調査が入って、
山形大学医学部附属病院が、
保険医療機関の取消し処分を受けると、
さくらんぼさんも診療が受けられなくなります。
これは、
【重大な誤り】です。
ちょっと、文言を誤りましたで、
済むことではありません。
■ ■
もし、山形大学医学部が
形成外科専門医に相談をして、
報道発表をしていれば、
絶対に「美容的外科手術」とは書きません。
山形大学医学部HPの記載です。
【医療事故に係る手術名訂正について】
山形大学医学部附属病院は、
平成17年5月に本院で手術された患者様が
術後経過不良となった件について、
平成19年1月に調査委員会発足の会見をした際、
現病及び診療科名等から患者様が特定されないよう
「生命と関係ないいわゆる美容的外科手術」
の表現を用いました。
■ ■
平成19年3月の調査結果報告の会見をした際は、
調査結果を踏まえ、
手術名は
「形成外科的再建術」
と訂正し、
診療科名と共に公表いたしました。
この案件に関しては、
「美容的外科手術」を
「形成外科的再建術」と訂正させていただきます。
平成19年12月19日
山形大学医学部附属病院長 山下英俊
■ ■
もっともらしく発表していますが、
読む人が読めば不正請求の疑いがあります。
山形大学は荻野先生を処分して、
安全対策を万全にしたと公表しています。
ところが、実際には
事故の後も、
発表の後も、
何も変わっていません。
残念なことに、山形大学医学部には、
形成外科的再建術を必要とする患者さんを
これからどうしようという姿勢がありません。
同じような形成外科患者さんの手術で、
また事故が起こる可能性も考えられます。
医療問題
山形大学の事件④
北海道には、
北海道大学医学部、
札幌医科大学、
旭川医科大学の
3つの医育機関があります。
旭川医科大学には形成外科はありません。
形成外科専門医もいません。
■ ■
東北には、
青森県→弘前大学医学部、
岩手県→岩手医科大学、
秋田県→秋田大学医学部、
山形県→山形大学医学部、
宮城県→東北大学医学部、
福島県→福島県立医科大学
の医学部があります。
このうち、秋田大学医学部と
山形大学医学部には形成外科がありません。
■ ■
日本の医学部や医科大学には、
形成外科専門医すらいないところがあります。
何回か書いたことがありますが、
もともと形成外科は、
皮膚科や整形外科の一部から独立しました。
北大に形成外科ができたのが、
昭和53年でした。
私の恩師である、
大浦武彦先生が血の出るような努力をされて、
北大に形成外科をつくられました。
■ ■
北大に形成外科ができたのは、
大浦先生の恩師である、
北大皮膚科教授の三浦祐晶先生のおかげだと
私は大浦先生から何度もお聞きしました。
大学や大きな総合病院に新しい診療科をつくることは、
大変なことだというのは、
私自身が肌で感じてきたことです。
北大では、皮膚科から別れて形成外科ができました。
当時の詳しいことはわかりませんが、
一般的には形成外科ができるということは、
皮膚科の教官が減るということです。
■ ■
私の推測では、
三浦先生は皮膚科の教官数が減っても、
形成外科という新しい科をつくって、
手術が必要な患者さんを助けたいと思われたのです。
三浦先生のような、
よき理解者がいないと、
形成外科のような新しい診療科はできません。
もちろん、北海道大学医学部付属病院長や
北海道大学総長の英断もあったと思います。
■ ■
北大と同じ昭和50年代前半から、
形成外科があった国立大学は、
東大、
京大、
長崎大学
だけだったように記憶しています。
私は、30年近く形成外科を専門としてきました。
私自身が、市立札幌病院で、
平成元年から平成6年まで、
皮膚科医師として形成外科の診療を、
6年間も担当しました。
■ ■
交通事故で顔の骨を骨折した患者さんが搬送されました。
救急部へ行って、
『手術が必要です』
『手術は○○のように行います』と
ご家族に説明しました。
何も状況がわからないご家族から、
『失礼ですが…、
皮膚科の先生に顔の骨の手術ができるのですか?』
というようなことを聞かれたことがありました。
■ ■
山形にも、
脚のキズをキレイに治したい。
脚にある、アザをキレイに治したい。
という患者さんが必ずいると思います。
形成外科がないので、
患者さんはどこを受診したらよいかわかりません。
病院の受付で聞いてもわかりません。
皮膚のキズだから皮膚科?
なんて感じで皮膚科をすすめられたことも
実際にありました。
■ ■
もし、山形大学医学部に形成外科があれば、
形成外科専門医が最初から診察し、
入院・手術計画を立て、
患者さんやご家族に説明していたと思います。
そうすれば、形成外科の中で
手術法についてカンファレンスがあり、
術後も形成外科専門医がチェックできたはずです。
患者さんがご不幸だったのは、
しっかりとした形成外科の診療体制がなかったことです。
形成外科専門医として本当に申し訳なく思います。
医療問題
山形大学の事件③
ここからの記載は、一般的な術後経過です。
私は山形大学と何の関係もなく、
手術に入ったわけでもありません。
ひとりの形成外科専門医の推測です。
山形大学の先生は、
下腿のキズを丁寧に縫合したと思います。
手術終了時には何の問題もなく、
無事に終了してよかったよかった!
と手術を終わりました。
■ ■
手術のトラブルは手術後に起こります。
術後出血、
術後感染、
術後の肺合併症、
など
手術の後の管理が大切です。
外科医は、
研修医時代に先輩からイヤというほど叱られて
術後管理を覚えます。
■ ■
手術が終わると、
患者さんは入院していた皮膚科病棟へ帰りました。
ご家族が心配してお待ちになっています。
ふつうの一般的な大学病院でしたら、
患者さんの術後管理は入院している病棟、
すなわち皮膚科病棟で行います。
問題はそこからです。
■ ■
病棟へ戻ってから、
手術後の腫れが出てきます。
手術直後は問題がなくても、
手術後の腫れ(医学用語で腫脹(しゅちょう)といいます)
によって、血流障害が出ることがあります。
病棟では、担当の看護師が
術後の観察をします。
■ ■
麻酔が切れて、
腫れが強くなってくると、
患者さんは痛みを訴えます。
術後の一過性の痛みか?
合併症による痛みか?
の判断が重要になります。
持続硬膜外麻酔という麻酔が効いていると、
痛みを訴えないことがあります。
その時は、足先の血流を見て判断します。
■ ■
ベテランの看護師が夜勤をしていると、
すぐに判断ができて、医師へ報告されます。
報告先は、皮膚科の当直医です。
皮膚科の当直医は患者さんを診察して、
異常が認められれば、主治医へ報告します。
主治医は、診察をして、
自分で対応ができなければ、
手術を手伝ってくれた形成外科専門医へ報告します。
これが、大学病院のごく一般的な流れです。
■ ■
病棟での責任者は、
①主治医
②病棟医長(ふつうは皮膚科の准教授か講師)
③皮膚科診療科長(皮膚科教授)
④附属病院病院長
となるのが一般的です。
実際に毎日回診して、キズを診るのが、
研修医+指導医(皮膚科)
何か問題が生じたら…
整形外科の形成外科専門医に連絡!
というのが、
日本における平均的な医学部附属病院です。
■ ■
白い巨搭でおなじみの教授回診。
浪速大学医学部第一外科では、
外科の財前教授が回診をしていました。
内科の里見助教授は、外科の回診には来ません。
山形大学の患者様は、
皮膚科に入院されていたので、
ふつうの医学部附属病院であれば、
診療科長である皮膚科教授が責任者です。
皮膚科病棟の教授回診は皮膚科教授がします。
教授が不在の時は、准教授がします。
■ ■
医療事故の報告も同じです。
このような、事故があった際には、
まず担当した診療科の皮膚科医師から
診療科長の皮膚科教授に報告が上がり、
そこから病院長へと報告が上がるのが
一般的なルールです。
■ ■
山形大学の患者様の主治医は
皮膚科医師であり、
手術に際して、
皮膚科から整形外科に組織的な要請はなく、
整形外科の所属である形成外科専門医に
直接執刀をお願いしたことで、
結果的に、整形外科内でのカンファレンスがおこなわれず、
整形外科長(荻野教授)に状況が伝えられないまま
医療事故になりました。
■ ■
私は、
患者様が、
もし整形外科病棟へ入院されていたら…
この事故は防げたと考えます。
整形外科の病棟では、
術後に下肢の状態をチェックするのは…
日常茶飯事。
どんな新人のナースでも、
患者さんの訴えを見逃すはずはありません。
■ ■
荻野教授の指揮監督下であれば、
必ず教授回診で善処されたと思います。
この事故は、
荻野教授の守備範囲以外の部署で起こりました。
ですから、
処置が後手後手になったのだと推測します。
私は荻野教授の手術を知っています。
とても丁寧でキレイな手術をなさる先生です。
問題なのは山形大学医学部の診療体制なのです。
その理由を次に書きます。
医療問題
山形大学の事件②
報道発表によると、
20代の女性患者さんの医療事故の原因は
コンパートメント症候群です。
コンパートメント症候群?って何?
ネットで検索すると、いろいろな説明がでてきます。
どの説明を読んでも、あまりピンときません。
■ ■
話しをわかりやすくするために、
ブーツを例にとってお話しします。
女性が冬に履くブーツ。
いろいろなデザインがあります。
たいていのブーツに、ファスナーがついています。
体重が増えて、脚(下腿)が太くなったとします。
昨年は履けたブーツがきつくて入りません。
ショックです。
■ ■
気に入っていたブーツで、
あまり痛んでもいないので、
無理やりファスナーを引っ張り上げて…
ブーツが裂けそうになるくらい…
無理矢理ブーツを履きます。
ようやく入りました。
パンパンになったまま、朝お出かけします。
■ ■
最初はなんとかガマンできていても、
そのうち痛みで耐えられなくなってきます。
でもファスナーを緩めると、
ブーツが脱げてしまい歩けません。
仕事中に靴屋さんに行くこともできません。
痛みをガマンして歩いていると、
そのうち感覚が麻痺してしまいます。
■ ■
仕事で外回りをしている。
通勤に長時間かかる。
きついブーツを長時間履いて、
歩いていると、脚がパンパンになってきます。
感覚が麻痺しても歩いていると、
脚がしびれて、最後には血流が止まってしまいます。
これがコンパートメント症候群の原理です。
■ ■
つまり、脚をしめつけて血流が悪くなる病態です。
ブーツで…
そこまでガマンする人はいないでしょうが、
真冬の寒い時期などにガマンしていると
足先の感覚がなくなってしまうのと同じです。
痛みを感じているうちは大丈夫ですが、
きついブーツを履いたまま、
酔って泥酔してしまったりすると…
大変なことになります。
脚が壊死(えし)してしまいます。
■ ■
日本救急医学会HPの説明です。()内は私の捕捉です。
(下腿のように)複数の筋肉がある部位では,
いくつかの筋ごとに,
骨,筋膜,筋間中隔などで
囲まれた区画に分かれて存在する。
その区画のことをコンパートメントという。
■ ■
骨折や打撲などの外傷が原因で
筋肉組織などの腫脹(しゅちょう)がおこり,
その区画内圧が上昇すると,
その中にある筋肉,血管,神経などが圧迫され,
循環不全のため壊死や神経麻痺をおこすことがある。
これをコンパートメント症候群という。
とくに多くの筋が存在する
前腕,
下腿や
大腿部で起きやすい。
■ ■
骨折や打撲だけではなく
ランニングやジャンプなどの
激しい運動によってもおこりうる。
強い疼痛が特徴であり,
他に
腫脹(しゅちょう),
知覚障害,
強い圧痛などがみられる。
処置が遅れれば筋肉壊死や神経麻痺をおこす。
筋区画内圧が40mmHg以上であれば,
筋膜切開(減張切開)が必要となる。
■ ■
コンパートメント症候群は珍しい病態ではありません。
整形外科医、
救急医、
外科医、
形成外科医
であれば、
必ず知っているべき病態です。
■ ■
救急医学会HPにあるように、
処置が遅れれば後遺障害が残ります。
逆に処置が早ければ
後遺障害を残さずに治癒することもあります。
きついブーツだって、
早く脱げば脚はしびれませんし、
後遺障害が残るようなことはありません。
残念なのは、
山形大学医学部付属病院で
どうして早く処置ができなかったか?です。
この理由は、別の日に書きます。
医療問題
山形大学の事件①
さくらんぼさんが、
何回かコメントしてくださっている事件のことです。
私が山形大学の事件を知ったのは、
さくらんぼさんからの、一通の相談メールでした。
最初に、
手術を受けながら、後遺障害が残ってしまった患者様に、
一人の形成外科医として、心からお詫びいたします。
詳細は
山形大学職員組合ホームページに
荻野先生の裁判を支援する会として記載されています。
この医療事故は形成外科に関係があります。
新聞記事や職員組合HPによると次の通りです。
■ ■
2005年5月一人の女性患者さんが、
下肢の手術のために、
山形大学病院の皮膚科に入院しました。
主治医は皮膚科の先生です。
手術を引き受けて、
入院の指示をした皮膚科には、
形成外科専門医はいませんでした。
もちろん美容外科を専門とする医師もいません。
経緯はわかりませんが、
整形外科に所属する形成外科専門医が手術を執刀しました。
■ ■
手術の結果が思わしくなく、
結果的に手術前より状態が悪化したのだと私は思います。
その事実については、一人の形成外科医師として、
患者様に本当に申し訳なく思います。
皮膚科に入院していた患者様は、
2005年8月山形県外の病院に転院。
2006年 9月患者側が、山形地裁に証拠保全の申し立て。
2006年11月27日 山形地裁、証拠保全の決定。
事件は山形地裁の証拠保全命令が出て、
初めて明るみに出ました。
■ ■
2007年6月山形大学医学部附属病院長は、
荻野教授に対し科長解任および診療中止の処分。
2007年11月山形大学教育研究評議会が
荻野教授に対し7日の停職処分決定をしました。
この事故で整形外科の荻野教授が処分されました。
それは手術を執刀した形成外科専門医が
整形外科の所属だったからです。
荻野先生は診療も手術もできなくなりました。
■ ■
その結果、さくらんぼさんが書かれていたように、
ある日、大学病院へ行ったら、
突然、荻野教授の名前がなくなっていた…
という事態になったのです。
皮膚科の担当医は2007年8月までに
定年退職および転出。
何の処分も受けなかったようです。
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私は、
もし山形大学に形成外科があって、
形成外科の担当教官がいれば、
この事故は防げたと思います。
山形大学の診療体制が事故の原因です。
荻野教授を処分しても、
何の問題解決にもなりません。
荻野先生を頼っている、
たくさんの患者さんが心配しています。
この事件に関して数回に分けて記載します。