医学講座
熱傷治療のスタッフ
どんなに優秀なお医者さんでも…
一人では絶対にできないのが…
重症熱傷の治療です。
救命率が上がったのは、
救急医療の進歩によります。
全身管理ができる…
救急専門医や、
ICUの看護師さんが、
常に状態を見て対応してくださるので、
急性期の死亡率が激減しました。
■ ■
救急医療が進歩した…
今でも大変なのが、
焼けてしまった皮膚の手術です。
どんなにバイオ技術が発達しても、
死体から採取した…
ヒトの皮膚には叶いません。
スキンバンクがなければ…
救命率は上がりません。
■ ■
救急医…
形成外科医…
看護師…
の他に…
薬剤師…
管理栄養士…
理学療法士…
作業療法士…
病院中の医療スタッフがかかわります。
■ ■
各部門に分かれている…
医療スタッフが、
一人の熱傷患者さんのために、
全力で取り組まなければ…
重症熱傷は助かりません。
また助かった後も、
施設入所や、
リハビリ施設でお世話にならなければ…
簡単に社会復帰はできません。
■ ■
重症熱傷から回復しても…
元の身体には戻れません。
下肢を切断した人もいました。
精神的にも大きなダメージを受けます。
もともと精神疾患を持った人が、
自殺企図で重症熱傷となることもあります。
そうすると…
精神神経科の先生にお世話になります。
■ ■
札幌医大高度救命救急センターには、
優秀なスタッフが揃っています。
院内感染が問題となったので、
札幌医大微生物学講座と共同で
耐性菌(たいせいきん)の研究も進んでいます。
2年間も熱傷治療をしていないと、
せっかく築いた熱傷チームも…
ばらばらになってしまいます。
北海道知事の英断で、
この問題を何とかしていただきたいと…
一人の北海道民として願っています。
医学講座
重症熱傷の処置
重症の熱傷(やけど)は…
処置が大変です。
熱傷患者さんは意識があります。
ちょっとやけどをしても痛いのに…
身体の半分以上が焼けていると…
その処置は想像を絶するものがあります。
医師一人と
看護師2~3人で、
最低1時間以上かかります。
■ ■
昔は熱傷処置室で…
ガウンを着て…
白い長靴を履いて…
処置をしたものでした。
長靴でなければ…
処置をする側の足も…
汚れてしまうからです。
処置中にも…
患者さんの状態をチェックしないと…
血圧が下がってしまうこともあります。
■ ■
身体中が…
包帯でぐるぐる巻きになります。
ガーゼなどの量も半端ではありません。
処置の前に…
看護師さんが…
軟膏をのばして準備しておきます。
この準備にも時間がかかります。
処置が終わると…
汚物の処理や…
処置室の清掃と消毒があります。
■ ■
一人の処置に…
慣れないと半日かかることもありました。
この処置を…
手際よくするには、
医師も…
看護師も…
慣れた人でなければできません。
2年間もの間…
熱傷患者を診ていないと…
慣れたスタッフもいなくなります。
■ ■
一人の重症熱傷患者さんが入院すると…
『あぁ…』
『これで…』
『2ヵ月は土日も休みなしだなぁ…』
と思ったものです。
少ない医師で…
土日も毎日ガーゼ交換。
休日は…
看護師の数も少ないので…
大変な思いをして…
熱傷患者さんの処置をしました。
医療者側にも大変なのが…
重症熱傷の処置です。
処置中の私です(2001年)
転院して来た患者さんです
医療問題
重症熱傷の治療
高度救命救急センターでも…
重症熱傷の患者さんの救命は、
とても大変なことです。
一施設で…
一度に治療できる…
重症熱傷患者さんには限りがあります。
無理をして収容しても…
全員亡くなってしまいます。
■ ■
全身の半分以上が焼けてしまった…
重症熱傷は、
外傷の中でも、
もっとも侵襲(けがの程度)が大きいです。
胃癌の手術や…
脳腫瘍の手術よりも…
ずっと身体の負担が大きいのが…
重症熱傷です。
■ ■
救命救急センターがなかった時代には、
形成外科、
外科、
皮膚科などで…
熱傷(やけど)の治療をしていました。
私の幼馴染(おさななじみ)だった、
お医者さんの子どもが、
大ヤケドで亡くなってしまいました。
当時は外科か皮膚科の先生が診たと思います。
■ ■
私が医師になった30年前は、
形成外科だけで熱傷の治療をしていました。
はっきり言って…
50%以上のⅢ度熱傷は、
救命できませんでした。
補液や呼吸管理という…
全身管理ができなければ…
重症熱傷は救命できません。
■ ■
皮膚が焼けると…
焼けたところが身体中の‘水’を奪います。
火を消すために水をかけるようなものです。
身体中の‘水’が足りなくなるので、
たちまち血圧は下がり、
おしっこが出なくなります。
広島の原爆で亡くなった方が…
『水をくれ…』と最期に言ったのは…
このためです。
■ ■
重症熱傷の患者さんが搬送されると、
まず点滴を何本もします。
‘ルートを取る’と業界では呼びます。
何リットルも点滴をするので、
身体はパンパンになります。
焼けた部分の皮膚は伸びないので、
皮膚を切開して、
血液循環を維持します。
これを減張切開(げんちょうせっかい)といいます。
■ ■
一般の外傷(腹部損傷など)に比べて、
何倍も人手がかかるのが…
重症熱傷の治療です。
救急のスタッフを総動員しても、
一人の治療に何時間もかかります。
その間に…
救急隊や…
一次二次の病院から、
受入要請の依頼が入ります。
熱傷患者さんを治療中だからといって…
他の外傷を断ることもできません。
■ ■
熱傷治療には、
熱傷用ベッドなど…
高価な特殊設備も必要です。
設備面でも…
重症熱傷の治療ができる施設は
極めて限られています。
札幌医大高度救命救急センターには、
設備も優秀な先生も、
優秀な看護師さんも揃っています。
2年間もの受入中止で…
貴重な医療資源が使えないのは、
とても残念なことです。
医療問題
札幌医大の熱傷患者受入中止問題
昨日の日記に書いた…
小学生の子どもさんが…
札幌→東京まで、
自衛隊機で
搬送されなけれならなかったのには、
大きな理由があります。
札幌医科大学高度救命救急センターが、
2年間もの間、
熱傷患者診療を停止しているためです。
■ ■
札幌市内には、
重症熱傷の治療ができる施設として、
①市立札幌病院、
②北海道大学病院先進急性期医療センター
③札幌医科大学高度救命救急センター
の3つがあります。
このうち最も熱傷治療の歴史が古いのが、
札幌医科大学高度救命救急センターです。
■ ■
私が学生だった30年前から…
札幌医大には、
北海道が作った…
道民のための大学…
道民のための大学病院…
という意識がありました。
札幌医大高度救命救急センターは、
災害外傷部という、
地下にあった救急部がはじまりでした。
■ ■
私が学生の頃から、
札幌医大には、
重症熱傷の患者さんが搬送されていました。
学生実習で…
はじめて重症熱傷の患者さんを見た時…
‘うゎ…すごいなぁ…’
と思ったのをよく覚えています。
まさか自分が熱傷治療をすることになるとは…
夢にも考えませんでした。
■ ■
ロシアから来た…
有名なコンスタンチンくんを治したのは、
私の先輩である阿部清秀先生です。
北海道で、
歴史と実績があり、
高度救命救急センターに指定されている、
札幌医科大学附属病院が、
院内感染の後処理のために、
2年間も重症熱傷患者の受け入れをしていません。
■ ■
医科大学には、
①診療
②教育
③研究
という3つの役割があります。
熱傷治療に関して言えば…
札幌医大で現在行われているのは、
③の研究だけです。
■ ■
昨日の学会でも、
札幌医科大学救急・集中治療学講座と
微生物学講座の…
耐性緑膿菌(たいせいりょくのうきん)についての
素晴らしい研究成果が発表されていました。
昨年夏に…
もし札幌医大病院で、
小学生の子どもさんを受け入れてくれたら…
わざわざ自衛隊機で…
東京まで搬送しなくてもよかったのです。
■ ■
小学生の子どもが…
身内も友だちもいない東京で…
数ヶ月も入院して、
大きな手術を受けなくてもよかったのです。
私はとても残念に思いました。
札幌医大の浅井教授も…
無念の表情をしていらっしゃいました。
大学の教授でも、
組織が決めたことには抵抗できません。
札幌医大高度救命救急センターの
浅井康文教授は立派な先生です。
■ ■
昨日の地方会で、
浅井教授が残念そうに…
札幌医大で治療できなくて、
申し訳ございません。
と話されていたのが印象的でした。
院内感染対策も大切ですが、
2年間も受入停止をする必要性の…
エビデンスレベルがどの程度なのか?
一人の医師として疑問に思います。
■ ■
この院長日記を…
ぜひマスコミの方に読んでいただき、
札幌市と北海道内の…
重症熱傷治療の危機的状況について、
広く世間に知らせて欲しいと思います。
北海道の高橋はるみ知事さん。
もし…
あなたの子どもさんや
お孫さんが…
大やけどをしたら、
東京まで自衛隊機で搬送しますか?
医療問題
第16回日本熱傷学会北海道地方会
今日は北海道大学学術交流会館で、
第16回日本熱傷学会北海道地方会がありました。
北大正門を入った左手にある建物です。
昨年は大雪で来れなかった、
まみ子師長さんも
学会に参加してくださいました。
■ ■
今日は10題の演題がありました。
今日の学会で印象に残ったのが…
市立札幌病院救命救急センターの
牧瀬博先生の発表でした。
小児重症熱傷患者の東京への搬送経験
という演題でした。
■ ■
昨年夏に、
札幌で小学生の子どもさんが、
遊んでいる時に、
何かが爆発して、
全身に大やけどをしました。
体の約70%が焼けてしまった…
きわめて重症なやけどです。
■ ■
設備が整っている、
救命救急センターでも…
命が助かるかどうか…?
というほど重症のやけどです。
重症のやけどの患者さんは、
たくさんの人手や設備が要ります。
救命救急センタでも…
一度に入院できる…
重症熱傷の患者さんは限界があります。
■ ■
子どもさんが搬送された時に、
市立札幌病院には…
3人の重症熱傷患者さんが入院していました。
それ以上の患者さんが入院しても、
人的にも…
設備面でも…
十分な治療ができません。
札幌市内には、
他の救命救急センターがありますが、
そちらも満床でした。
■ ■
小学生の子どもさんを助けるには…
設備の整った…
熱傷治療の専門施設へ搬送する必要がありました。
これだけのやけどを助けられる施設は限られています。
牧瀬先生は、
悩んだ末に…
東京の杏林大学救命救急センターへ依頼しました。
牧瀬先生のネットワークです。
■ ■
やけどの子どもさんは、
医師2人が付き添って、
市立札幌病院→救急車で
丘珠空港→自衛隊機で
立川基地→救急車で
杏林大学救命救急センターへ
搬送されました。
■ ■
何度かの大手術で、
子どもさんの命は助かりました。
札幌→東京への搬送は、
患者さんにも…
医療者側にも…
とても大変なことです。
狭い航空機の中では、
十分な処置ができません。
■ ■
牧瀬先生のご発表を聴いて…
子どもさんの命が助かって…
ほんとうによかったと思いました。
ご両親や
ご家族も
何ヵ月も東京へ行かなければならず、
とても大変なことだったと思いました。
東京まで行かなくても…
重症のやけどが治せるとよいのにと思います。
医学講座
ネットワークの強み
私は形成外科医になって30年です。
毎年、
日本形成外科学会へ出席しています。
日本熱傷学会にも…
2つある…
日本美容外科学会にも…
毎年、参加しています。
■ ■
学会へ参加する目的は…
もちろん新しい知識の習得です。
医学は日々進歩しています。
昨日まで‘正しい’と言われていたことが…
急に‘ダメ’と言われることもあります。
常に新しい知識を求めています。
■ ■
韓国など…
同じ東洋人として…
共通する課題もあります。
キズの目立ち方は、
欧米人とは明らかに違います。
米国やヨーロッパで開発されて…
素晴らしい結果が出ているのに…
東洋人には向かないこともあります。
■ ■
学会へ行くと…
旧知の先生との楽しい会話があります。
発表できないような…
企業秘密を教え合うこともあります。
学会では、
自然と親しい先生ができます。
私と同年代の先生は…
形成外科部長だったり…
教授だったり…
私より偉い先生ばかりです。
■ ■
昨日の日記、
弁護士さんの選び方
に書きましたが…
弁護士さんにも…
札幌医療事故問題研究会という会や…
全国医療弁護団の集いなどの、
研究会があります。
このような会に出る先生は、
勉強熱心で真面目な方です。
■ ■
私には…
形成外科医30年としての、
形成外科のネットワークがあります。
高橋智先生も、
医療問題を扱う弁護士さんとしての…
ネットワークをお持ちです。
私は遠方から相談を受けた時には、
私の信頼する先生をご紹介しています。
チェーン店にはない…
ネットワークの強みを持っています。
医療問題
弁護士さんの選び方
私の医療ミスの経験という日記に、
京都の方からコメントをいただきました。
とてもお気の毒な事故です。
事故後の診療所側の対応にも
問題があります。
京都の冨士森先生に診ていただき…
形成外科医として…
ほんとうによかったと思いました。
■ ■
コメントに次のように書かれていました。
私が弁護士に依頼しても
弁護士費用で、結局私には何も残らない
と弁護士相談で言われたりと、
どうしたものかと、
「やられ損」とはこのことなんだと、
思いは巡り・・・
あちこち、当たってはいますが、
頼むにしてもどの弁護士さんが
勝てる人なのかの情報もなく、
困っています。
■ ■
弁護士さんを選ぶのも…
医者選び以上に難しいものです。
私も苦労しました。
こちらの日記に書いてあります。
京都の方のように、
医療事故となると…
特に引き受けてくれて…
勝訴できる弁護士さんは少ないと思います。
■ ■
私の経験からアドバイスすると…
弁護士さんにも専門があります。
医療の標榜科(ひょうぼうか)…
つまり…
形成外科とか
美容外科とか
という診療科目とまではいかなくても、
離婚専門家
破産専門家
交通事故専門家
という得意分野があります。
■ ■
医療事故専門家の弁護士さんは…
なかなか探すのが難しいです。
札幌の弁護士さんには…
札幌医療事故問題研究会という会があります。
高橋智先生は、
長い間、事務局長をされていました。
全国医療弁護団の集いなどにも
積極的に参加なさっていらっしゃいます。
先生のSammy’sダイアリーに書いてあります。
2010年は札幌で大会があり、
高橋智先生が責任者です。
■ ■
最近、
TVで盛んにCMを流している…
弁護士事務所があります。
駅にも看板を見かけます。
私はTV-CMを流している弁護士さんは選びません。
TV-CMには莫大な広告宣伝費がかかります。
TV-CMの分だけ、
着手金や弁護士報酬が高いと考えます。
■ ■
弁護士会の無料相談や…
当番弁護士にも…
慎重に頼むと思います。
たまたま…
よい弁護士に当たれば(失礼!)
よい結果が出ますが…
悪い弁護士に当たる可能性もあります。
弁護士にもいろいろな人がいます。
■ ■
私が高橋先生を選んだ決め手は…
北大・給湯族の思い出
という先生の文章でした。
この先生なら信頼できる!と思いました。
市立札幌病院の先生にもお伺いして、
先生のお人柄を知りました。
先生が書かれていらっしゃる、
Sammy’sダイアリーに
私のことを書いていただきました。
弁護士さんを選ぶ時には、
HPやブログを読んで選んでください。
毎日ウソは書けないものです。
文章に人柄が出ると思います。
昔の記憶
人生で一番ひまな時
医師国家試験も…
看護師国家試験も…
終わりました。
今年の医師国家試験は…
難しかったようです。
3月末の発表までは、
人生で一番ひまな時です。
■ ■
私が医師国家試験を受けたのは…
1980年(昭和55年)でした。
ちょうど30年前です。
当時は4月に国家試験があり、
合格発表は5月でした。
仕事は、
5月の連休明けからが…
一般的でした。
■ ■
運転免許証は…
試験場に行って…
学科試験に通ると即日交付となります。
(昔は交付まで時間がかかりました)
医師免許証は…
合格発表から…
免許証の取得まで時間がかかります。
■ ■
合格発表の後で、
診断書などを提出して…
医籍(いせき)という…
お医者さんの戸籍のようなところへ登録して、
医籍登録番号をいただいて、
はじめて医師免許取得となります。
医籍登録の前は、
無免許です。
私の登録は5月26日でした。
■ ■
国家試験が終わってから…
仕事を始めるまでの期間は、
免許証がないので…
何もできない時期です。
多くの医学生は、
この人生で最後の…
一番ひまな時期を有意義に使っています。
■ ■
一般的なのは旅行です。
私が卒業した30年前でも…
海外旅行へ行く友人もいました。
当時も格安航空券がありました。
ヨーロッパへ行った友人が、
格安航空券のために…
帰りの飛行機に乗れなかった…
…なんて事件もありました。
■ ■
私は離島が好きだったので…
医師になったら…
絶対に行けないだろうと考えた、
小笠原に行きました。
おがさわら丸という船で、
東京の竹芝桟橋から丸一日以上かかりました。
小笠原の父島に着き、
民宿に泊まりました。
今でも小笠原には飛行場がありません。
人生で一番のんびりと過ごした、
私の忘れられない時期です。
私の医師免許証です
医学講座
医療ミスの経験
前にも一度書いたことがあります。
私には苦い経験があります。
私がJA帯広厚生病院の
形成外科主任部長だった時のことです。
JA帯広厚生病院は、
十勝地方で最大規模の病院です。
夜間の救急患者さんも診ていました。
形成外科の夜間の担当は…
2年目の形成外科医でした。
■ ■
私の下に形成外科専門医が一人いて、
3人体制で形成外科を担当していました。
夜間は、
病院の近くに住む若い医師が呼ばれて、
患者さんの診察や手術をしていました。
自分で手に負えないと判断すると、
私の次の先生を呼ぶのが…
当時の暗黙のルールでした。
■ ■
若い先生は、
有名国立大学を卒業し、
医師国家試験も一発で合格した…
‘優秀な’先生でした。
残念なことですが…
私が‘こうしてはいけない’と
口うるさく注意していた
医療ミスをしてしまいました。
実に単純なミスでした。
■ ■
次の日の外来で…
そのミスに気付きました。
外来が終了してから、
私に報告がありました。
幸い後遺障害にはなりませんでした。
私は担当副院長に報告し、
医事担当次長、
医事課長と相談しました。
■ ■
ベテランの事務方は、
事故の対応にも慣れていらっしゃいました。
事務次長が菓子折りを準備してくれました。
私は研修医と一緒に…
患者さんのご自宅まで…
謝りに行きました。
幸い後遺障害がなかったこと、
痛みもなく、
キズも治ったので、
患者さんからは訴えられませんでした。
■ ■
それどころか…
『そんなに謝らないでください』
『言われなければ…』
『私はミスに気付きませんでした』
とまで言ってくださいました。
この事例は…
明らかに医療者側に原因がある、
医療ミスでした。
■ ■
今の医学教育や、
臨床研修システムでは、
自分が医療ミスを起こした時に、
どのように対処して…
誰に報告して…
どう謝ったらよいか…
なんてことは教えません。
ベテラン医師でも…
患者さんの家まで、
謝りに行った先生は少ないと思います。
■ ■
交通事故と同じです。
医療事故は、
誰でも起こす可能性があります。
出身大学とか…
センター試験の成績には関係ありません。
大切なのは…
自分も事故を起こすことがある
…と自覚することです。
もし事故を起こしたら、
誠心誠意、患者さんと対応することです。
これが30年の経験から言えることです。
医療問題
裁判傍聴のすすめ
2008年10月8日に…
裁判の傍聴という日記を書きました。
弁護士の高橋智先生が担当されている、
医療訴訟の公判を傍聴しました。
被告は札幌の公立学校法人でした。
大学病院で行われた手術の結果…
手術前よりも症状が悪化したという医療訴訟でした。
■ ■
私は北海道内の総合病院に、
25年間、形成外科医として勤務しました。
幸いなことに…
私自身は訴えられたことはありませんが、
医療訴訟がない病院はありませんでした。
他科の訴訟で、
病院が和解金を払ったとか…
他の先生が訴えられたので…
私が書類を準備したことがありました。
■ ■
医療は…
どんなに気をつけていても…
必ず事故が起きます。
いかに事故を回避するか…
同じような事故を起こさないようにするか…
一番大切なことは…
他人の失敗から学ぶことです。
残念なことですが、
自分がした失敗を
発表する先生はいません。
■ ■
山形大学の事件は…
医療事故の責任を…
執刀医の上司である、
荻野利彦先生一人になすり付けた点、
事故が起こった根本原因を…
病院側も大学側も…
まったく改善していないところに…
問題があります。
■ ■
山形大学医学部に…
形成外科の診療体制ができていれば…
事故は起こらなかったと思います。
患者さんが…
皮膚科病棟ではなく、
整形外科病棟に入院していれば、
後遺症が少なかった可能性があります。
一人しかいない形成外科専門医を、
大学が、
都合のいいように使ったために起きた事故です。
■ ■
医療関係者にとっては…
医療事故が起こった場合の、
報告義務。
担当医や、
執刀医の上司と、
患者さんが入院していた、
所属科のリスクマネージャーや
診療科長の責任範囲など、
実に興味深い事件です。
■ ■
過去の懲戒事例と比べて、
荻野利彦教授だけが、
不当な扱いを受けたことも、
見逃してはならない争点です。
現職の教授でも、
いつ何時…
紛争に巻き込まれて…
職を失うかわかりません。
失業を経験した者にしかわからない、
無念さがあります。
■ ■
お医者さんは失業しない、
大学教授は失業しない、
…というのは幻想です。
自分もいつ医療事故を起こすかわかりません。
自分もいつ失職するかわかりません。
事故が起きた時にどうするか…?
事故後の報告義務や対応をどうすべきか…?
荻野先生の事件は、
医療関係者や
大学病院の医師・医学生にも、
是非、傍聴していただきたい訴訟です。