医療問題

医療体制の整備

 奈良県の妊婦さんが救急車の中で死産した問題は他人事ではありません。北海道でも十分に起こりえます。
 札幌でもお産で有名だった天使病院が、産婦人科医の退職で、お産ができなくなる可能性があります。
 理事長が退任勧告を受けるなど、昔では考えられなかったことが起こっています。
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 投資の世界だけではなく、医療業界でも高リスク低リターンは嫌われます。
 他の病院で手に負えない、難産が予想される妊婦さんは、治療する側も心身ともに疲れます。
 徹夜で治療をして、やっと一息ついたと思ったら、また急患では、産科医も身が持ちません。
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 病院経営の悪化から、勤務医の給与は下がっています。
 看護師や助産師は給与を低くすると辞めてしまうので、ある程度の給与を保証しなくてはなりません。
 一番手っ取り早く下げられるのが、医師の報酬です。最近、勤務医の友人から給料が上がったという話しを聞いたことがありません。
 また下がったよ、嫁さんに『あんた辞めて開業したら…?』って言われてるよ。と悲鳴が聞こえます。
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 私の給与が一番高かったのは、美容外科の雇われ院長をしていた時でした。
 何回か書いていますが、医師向けの転職情報サイトも求人情報誌もあります。
 実際はそんなに高くありませんが、‘高級優遇’という甘い誘惑の言葉で医師の転職を誘っています。
 高リスク低リターンの勤務医から、低リスク高リターン?の美容外科医になりたいと転職する先生がいらっしゃいます。
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 確かに、一部のチェーン店美容外科では5,000万円以上の年俸を出しているところもありました。
 大手美容外科の医師給与は、完全出来高払い制です。‘売り上げ’が悪いと収入も極端に悪くなります。
 大手美容外科新規採用医師が、一年後も残っている率は10%以下とも言われています。‘現実’は厳しすぎて残れないのです。
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 少子化対策の一つとして、産科の医師を増やそうと国が本気で考えているのなら、産科医の待遇を改善することです。
 給与につながる診療報酬を改定して、徹夜で働いてもそれに見合っただけの報酬を与えることです。
 きたない話に聞こえますが、給与が高くなれば、自然と産科医を目指す医学生が増えます。
 産科医になりたい医師が増えれば、過酷な勤務も改善されます。
 一人の優秀な産科医を育てるのに、最低10年はかかります。医学部6年+臨床研修2年+産科医として10年=18年です。こんなに長くかかるのが医師の養成です。
 医療体制を整備するなら、医師の待遇を良くしなければよい人材は集まりません。
 昔から医師の中で一番短命なのが、産科医だと言われています。それだけ激務なのです。

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医療問題

奈良の死産

 平成19年8月31日朝日新聞の社説です。
 奈良の死産―救急網に穴が多すぎる
 一刻も早い手当てが必要な妊婦がいるのに、引き受けてくれる病院がなかなか見つからない。そんな悲劇がまたも繰り返された。
 奈良県の女性が深夜、やっと見つかった約40キロ先の病院に救急車で向かう途中、車内で死産したのだ。交通事故に遭う不運も重なった。結局、11の医療機関に断られ、最後に病院に着いたのは救急車が来てから約3時間後だった。
 奈良県では1年前にも、出産の途中で意識不明になった女性が、19の病院に転送を断られ、8日後に亡くなった。
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 なぜこんなことになったのか。奈良県は調査するというが、きちんと究明し、その教訓を今後に生かしてもらいたい。
 産科の救急患者で切迫している場合には、かかりつけの医師の診断に基づく要請で、受け入れ先を探す病院間の搬送システムがある。
 ところが、今回の女性は医師にかかっておらず、妊娠の状態もよくわからなかった。このため、駆けつけた救急隊員が限られた情報をもとに、直接受け入れ先を探さざるをえなかった。
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 旅先や帰省先で異変に見舞われることも少なくない。かかりつけの医師の協力を得られない場合でも、必要なら病院間の搬送システムに乗せる方法を考えておく必要がある。
 もう一つの問題は、病院内での医師と事務担当者、さらに病院と救急隊との間で意思疎通がうまくいっていないのではないか、ということだ。
 受け入れを打診された病院では、事務担当者が断ったところがある。そのなかには、医師はほかの患者の治療中だったので、「後にしてほしい」といったが、断ったつもりはなかったというケースもあった。電話を医師につないでいれば、受け入れることができたかもしれない、という病院もある。
 どのような場合ならば、救急患者を受け入れられるのか。日ごろから医師と事務担当者、救急隊の間で話し合いを重ねておかなければならない。
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 こうした事件が奈良で続くのは、人口当たりの産科医が少ないこともある。医師の負担は大きく、とりわけ夜間の救急態勢は手薄になりがちだ。
 しかし、東京や大阪などでも、いくつもの病院に断られたあげく、遠くまで搬送する例が珍しくない。産科医が減り、お産を扱う医療施設も減っている中で、母親と赤ちゃんの命を救える搬送システムを再構築しなければならない。
 一方で、救急医療そのものを立て直すことも考えた方がいい。お産や病気、けがを問わず、救急患者を24時間、必ずどこかの病院が引き受ける。そんな態勢を地域の医療機関と病院が連携して作り上げていきたい。
(平成19年8月31日、朝日新聞社説より引用)
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 朝日新聞が言うことはもっともです。産科医が少なくなっている理由、医学生が産科医になりたがらない理由をご存知ですか?
 『お父さんの仕事は当直』と子供に言われ、当直明けでも通常の業務をこなし、心身ともにクタクタになっていのが産科医です。
 こんな産科医を見ると、どんなに志(ココロザシ)が高い医学生でも産科医になりたくなくなります。
 産婦人科の先生は、9:00にはじまって17:00には帰れる(と考えられる…)、婦人科専門医や不妊治療専門医になります。美容外科に転向する先生もいます。
 高リスクで、業務上過失致死罪に問われる産科医には誰もなりません。
 医学生が産科医になりたいと思うようなシステムを作らないと日本は滅び(ホロビ)ます。

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医療問題

理事長解任?

 平成19年8月30日北海道新聞の記事です。
 理事長に退任勧告 天使病院理事7人
 「地域医療に混乱」
 妊娠後期から生後約一週間の周産期医療の拠点となっている札幌市東区の天使病院の産婦人科医全員が退職する問題で、同病院を経営する医療法人社団カレスアライアンス(室蘭、西村昭男理事長)の理事17人のうち七7人が西村理事長に「地域医療に重大な混乱を招いた」として退任を勧告していることが、29日分かった。
      ■         ■
 退任勧告は西村理事長が今年5月、天使病院を、西村氏が別に理事長を務める特定医療法人社団カレスサッポロ(札幌)に移管することを決めたことをめぐる混乱が理由。
 この決定について、同病院の産婦人科医6人全員が「移管先の経営内容が不透明で、リスクの高い周産期医療は続けられない」として、9月末までの退職をカレスアライアンスに通告した。
      ■         ■
 7人の理事は
①西村氏は利害関係の異なる二法人の理事長を兼ねているが、移管手続きについて説明が不十分
②移管が産婦人科医の退職を引き起こし、地域医療を混乱させた-などと指摘。
 理事会と社員総会の招集に必要な理事7人と社員1人の署名を提出し、理事会と臨時社員総会の開催を求めている。
      ■         ■
 カレスアライアンスの定款によると、西村氏が自ら退任しない場合、理事会に出席した理事の過半数の賛成があれば、理事長職を解任できる。西村氏は進退について「理事会で決めること」と話している。
 カレスアライアンスは西村氏が発足当初の1980年から理事長を務め、日鋼記念病院(室蘭)など道内の複数の医療機関や福祉施設を経営している。(2007年8月30日(木)北海道新聞朝刊より引用)
      ■         ■
 西村先生は8月12日の日記に書いたように、元北大第一外科助教授だった方です。
 元助教授だろうが、医療法人を開設した功労者だろうが、病院運営ができなくなると、理事長といえども辞めなさいと言われる時代です。昔は西村先生に盾突く(タテツク)など、医師の間では考えられなかったことです。
 医師というのは、自尊心が強く、扱いづらい職種の代表です。医師不足の中でも、特に産婦人科医は少ないので売り手市場です。医師同士の喧嘩がはじまると、なかなか厄介です。
 天使病院から、産婦人科の灯を消さないように、理事会で穏便にことが決まってくれることを願っています。

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お詫び

 平成19年8月23日から相談フォーム、予約フォームを変更いたしました。日本ベリサイン株式会社(VeriSign)から認証をいただいて、https://s-bi.comではじまるURLを利用しています。
 こちらで使用したプログラムにバグがあり、相談内容が一部しか伝わりませんでした。
 メールでご相談いただいた方には、大変ご迷惑をおかけいたしました。謹んで、お詫び申し上げます。
 相談内容のところに改行を入れると、改行以降が送信されないバグです。
 申し訳ございませんが、バグが改善されるまで相談内容に改行を入れないでください。
 現在、大至急プログラムの変更をしております。もし、メールで伝わらない場合は、お手数でもお電話でご相談ください。
      ■         ■
  VeriSign Securedとは偽サイトでないことの証明です。企業(組織)の実在性の認証をVeriSignがしましたよ、という証明です。ブラウザーで見ると、右下に鍵のマークが出ます。最近は、新生銀行の偽サイトを作って、そこへ誘導して暗証番号、パスワードを盗む事件もありました。
 https://~ではじまるURLは、ベリサインのSSLサーバ証明書を使用して、個人情報を保護しています。 httpsで始まるアドレス上ではすべての情報がSSLで暗号化されてから送受信されます。
      ■         ■
 札幌美容形成外科が利用しているサーバーは、セキュリティの国際規格である「ISO/IEC 27001:2005」に対応しています。サーバーで送信・受信メールのウイルスチェックを行っています
 開院以来、メールから個人情報が漏洩(ロウエイ)することはありませんでしたし、個人情報の保護には十分に注意しています。
 カルテはSECOMの監視カメラで24時間監視し、セキュリティも万全にしています。
      ■         ■
 美容外科では泥棒にお金をとられるよりも、個人情報を盗まれる方が怖く、信用にかかわる大問題です。
 万一のために、個人情報保護保険にも加入しています。
 今回のフォーム修正も、情報保護とニセHPへ誘導を防ぐ目的で行いました。
 何回か動作確認をして、フォームを修正しましたが、こちらで入力した文字数が少なかったためにチェックができませんでした。
 ご迷惑をおかけして申し訳ございません。
      ■         ■
 インターネット時代になり、医師といえどもネットに詳しくないと生きて行けません。
 私は日記を書く程度はできますが、HPやネットの詳しいことはわからないので、専門家にお願いしています。
 これからはカルテも電子カルテになり、情報はすべて電子媒体で保存されます。
 情報管理がますます重要になる時代だと痛感しています。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。

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非喫煙者を守る会創立30年

 昨夜(平成19年8月27日)、非喫煙者を守る会、創立30年記念祝賀会が開かれました。
 1977年6月8日創立。弁護士の黒木俊郎先生が札幌の司法記者クラブで、設立の発表をなさったのがはじまりでした。
 その記事が北海道新聞に掲載され、それを読んで、札幌医大の学生だった私が、おそるおそる黒木法律事務所へ行きました。私は当時22歳でした。
 学生にとって法律事務所の敷居は高く、どんなところかわからないので、こわごわと伺ったのを覚えています。
      ■         ■
 私が学生だった頃の、札幌医大の講堂は禁煙ではありませんでした。
 灰皿はロビーという教室横のスペースにしかありませんでしたが、タバコ好きの学生が教室の後方に灰皿を持ち込んで吸っていました。
 ジュースの空き缶やコーヒーのカップなど、何でも灰皿にして吸っていました。
 ‘大人’はタバコを吸うのが当たり前の時代でした…。
      ■         ■
 はじめて伺った黒木法律事務所は、南大通にありました。札幌医大から歩いて行きました。
 黒木先生の部屋に本がたくさんあったのを覚えています。受付には非喫煙者を守る会のカード、ステッカー、バッチなど、さまざまなGoodsがありました。
 私は早速入会し、学友や大学の教官も‘勧誘’に歩きました。
 教授室なんてところは、学生はめったに行かない場所でしたが、各科の教授室や医局に行きました。
 教授が愛煙家かどうかはわかりませんでしたので、そんなのは気にしないで行きました。
 当時の札幌医大附属病院の院長は愛煙家だったそうです。
      ■         ■
 意外とたくさんの先生が入会してくださいました。『ボクもタバコを吸わないから入りたかったんだ』と喜んで入会してくれる先生もいらっしゃいました。
 特に外国留学から帰国された先生は『アメリカではタバコを吸う医者は軽蔑されるよ』と教えてくださいました。
 私が尊敬していた、法医学の八十島信之助先生も入会してくださいました。5千円のカンパをいただいたのを、今でも覚えています。
      ■         ■
 学部2年と呼ばれる、4年生の時でした。この年には、公衆衛生学実習がありました。私たちのグループは、医師の喫煙率調査を行いました。
 グループの中には喫煙者の学生もいましたが、各医局や札幌厚生病院などにアンケートに伺った記憶があります。
 私はクラスの中で『教室でタバコを吸うのはやめよう!』と訴えていました。
 昨日の会で黒木先生が出された創立当時のスライドに、若き日の私が写っていました。会にいらしていた、北海道医師会理事の先生(元同級生)から、『本間君が写っている!』と教えていただきました。22歳の若い私を見つけて、青春時代の1コマを想い出しました。

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医学講座

フィブラストスプレー

 昨日、科研製薬㈱が発売したフィブラストスプレーを紹介しました。この薬は、従来の薬とはまったく違った作用機序でキズを治す薬です。
 ヒトも動物もケガをすると、創傷治癒というメカニズムが働き自分で自分のキズを治します。
 服が破れても、そのままにしておけば破れたところが広がるだけです。
 ヒトや動物は、皮膚が切れたり骨が折れたりしたところは、自然に治るようになっています。
      ■         ■
 従来のキズ薬は、キズが治りやすい環境を整える作用が大部分でした。軟膏を塗ると、炎症をおさえるので、痛みが和らぎます。新しくできた細胞が成長しやすいように、湿潤(シツジュン)環境を作ります。
 外科手術でキズを縫合するのも、キズとキズをくっつけてキズの血管や細胞がくっつきやすくするだけです。
 キズは自分の力で、少しずつくっついて治ります。
 キズは安静にしていた方が治りやすいので、神様は‘痛み’という信号を作って、なるべく動かさないようにさせています。痛いと動かしませんから…。
      ■         ■
 キズができると、体の中にある、マクロファージという救急車のような細胞がキズに集まってきます。
 マクロファージは、血液中にある細胞です。マクロファージがキズに到着すると、細胞増殖因子(サイボウゾウショクインシ)という消化剤のようなものをキズに放出します。
 この細胞増殖因子の代表がbFGF(ベーシック・エフジーエフ)というタンパク質です。
 細胞増殖因子をかけられたキズは、自分の力で線維芽細胞(センイガサイボウ)、血管内皮細胞(ケッカンナイヒサイボウ)、表皮細胞(ヒョウヒサイボウ)という細胞を増殖させてキズを治します。
      ■         ■
 フィブラストスプレーはバイオ技術で合成したbFGFです。これを投与すると、自分の力で出した以上の‘キズを治す力’を発揮できるのです。
 この事実をヤケド治療に応用して、日本全国のさまざまな施設から学会で報告が出ています。
 ヤケド治療では全国トップレベルの、東京女子医大形成外科のグループは、統計学的有意差をもって、フィブラストスプレーの有用性を発表していました。私が尊敬する先生たちの発表で間違いありません。
 この治療法は日本発の‘画期的な’治療法です。そのうち世界標準になると思います。
      ■         ■
 残念なことに、こんなに素晴らしい治療法なのに、科研製薬㈱も厚生労働省も、フィブラストスプレーをヤケドに使うことを認めていません。
 承認が取れるまでに、かなり時間がかかるかもしれません。
 大手新聞社は、このような新しい薬のことを報道して、早くヤケド治療に使えるよう世論を動かして欲しいものです。
 朝日新聞の記者さんに、この日記を読んで欲しいです。

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医療問題

培養皮膚の現実

 昨日、名古屋のベンチャー企業、J-TECが開発した培養皮膚の記事を紹介しました。この新聞記事を読むと、培養皮膚を使うと、どんなヤケドでも元通りキレイに治るような印象を持ちます。
 6月8日の日記にも書いてありますが、1,000万円もする培養皮膚を使っても、深いヤケドを負うと‘絶対’に元のツルツルの肌には戻れません。
      ■         ■
 子供さんがヤケドをすると、『先生、どんなにお金がかかっても、私の皮膚を採っても、とにかく痕(アト)が残らないようにキレイに治してください』と懇願されることがあります。
 親として当然の気持ちですし、私も同じ立場だったらそう言うと思います。新聞に1,000万円の培養皮膚の記事が出ると、その切抜きを持っていらっしゃる方もいると思います。
 残念なことに、こんなに医学が進歩した世の中でも、神様がお作りになった、ヒトの皮膚を人工的に作ることはできません。
 培養皮膚と言っても、現時点でできるのは、オブラートのように薄くて弱いペラペラの‘培養表皮’です。
      ■         ■
 昨日、培養皮膚のことをGoogleで検索していたら、米国のサイトを見つけました。英語で培養皮膚のことをcultured skin(カルチャード スキン)といいます。
 そこに培養表皮で治療に成功した子供さんの写真が掲載されていました。
 下の写真は本人が特定できないように、顔の部分を外したものです。
 首から胸、両腕にかけて赤くなっている部分が、培養表皮で治したと考えられる部位です。
      ■         ■
 赤くなっているのは、瘢痕(ハンコン)とか肥厚性瘢痕(ヒコウセイハンコン)と呼ばれるキズです。
 培養皮膚は、元のツルツルの肌に戻せるのではなく、グチャグチャになって、血が出て滲出液が出て、そのままだとキズからバイ菌が入って死んでしまうようなキズを、早く治すのに役立つだけです。
      ■         ■
 それでも、そのままだと死んでしまう命を助けられるのはすばらしいことです。
 救命ということだけを考えると、現在は培養皮膚よりもスキンバンクという‘亡くなった方の皮膚’の方が有用性があると思います。
 私は直接治療にタッチしていませんが、あのコンスタンチンちゃんを救ったのは、東京から空輸された、亡くなったおばあさんの皮膚だと聞いています。
 現在、旭川赤十字病院形成外科部長をしていらっしゃる阿部清秀先生と札幌医科大学形成外科の当時のスタッフが救命しました。
      ■         ■
 新聞報道は、新しいことを伝えなければなりません。
 朝日新聞のような大新聞は購読者も多く、新聞を読むと‘すごい!’と驚くこともたくさんあります。
 署名記事で、記者の熱意も伝わってきます。ただ、もう少し専門家に検証するなどして、‘現実’を伝えないと、間違ったイメージを植えつけてしまいます。
      ■         ■
 現在、子供のヤケドを治すのに、もっとも優れた薬は6月7日の日記に書いた、bFGF(ベーシック・エフジーエフ)という薬です。商品名をフィブラストスプレーと言います。
 この薬は、もともと褥瘡(ジョクソウ)という床ずれのキズを治すのに開発されました。
 バイオ技術で作られた薬です。日本の科研製薬という会社が開発しました。
 残念なことに、科研製薬も厚生労働省も、ヤケドに使うことを認めていません。‘ヤケドに使うな’と注意が書いてあります。
 ところがこの薬を使うと、いままでは絶対に痕(アト)が残っていたようなヤケドもキレイに治ります。1万円ほどの薬ですが価値があります。
 私は一日も早く子供のヤケド治療に、この薬を使えるようにして欲しいと願っています。
 新しい厚生労働大臣に、この日記を読んで欲しいです。

培養皮膚で救命した子供さん
http://www.burnsurvivor.comより引用

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医療問題

培養皮膚1000万円

 平成19年8月24日(金)の朝日新聞朝刊に、培養皮膚の記事が出ていました。6月8日の熱傷学会③の日記で紹介した製品です。
 以下は朝日新聞の記事です。
      ■         ■
 「培養皮膚」の製造販売を承認
 再生医療、初の商業化
 厚生労働省の医療機器・体外診断薬部会は23日、愛知県の企業が申請していた「培養皮膚」の製造販売を承認した。
 重症やけど患者自身の組織から作った皮膚のシートで、患部に移植して治療する。病気やけがで失った体の一部を再生させる目的でヒト細胞や組織を使った製品が国内で承認されるのは初めて。再生医療が国内でも商業化の段階に入った。(岡崎明子、田村建二)
      ■         ■
 申請していたのは、ベンチャー企業「ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング」(J-TEC)。9月末にも開かれる薬事・食品衛生審議会薬事分科会を経て、正式に承認される。
 培養するのは、皮膚の一番外側の「表皮」と呼ばれる部分。損傷していない皮膚組織を1平方センチほど採取して表皮細胞を分離し、マウスの細胞を加えてウシの胎児血清で培養する。約3週間で、8×10㎝の表皮シートが十数枚できる。これを病院に出荷し、医師が患部に移植する。
      ■         ■
 重症やけど患者は、全国で年間4,000~5,000人ほど。やけどが大きい場合は自分や家族の皮膚などを移植することが多いが、自分の皮膚は足りなかったり、他人の皮膚だと拒絶反応が起きたりする問題がある。
 培養皮膚はこれらをクリアでき、3日~1週間で自分の皮膚として生着するという。J-TECは皮膚の培養のほか、出荷検査、輸送までを請け負う。販売価格は現時点で1,000万円ほどの見込みで、今後、公的医療保険適用の申請を行う。
      ■         ■
 同社は99年、名古屋大の技術協力などを得て設立。培養皮膚は02年から国内2施設で臨床試験を行い、04年10月に製造販売を承認申請していた。
 再生医療は90年代後半からベンチャー企業などが製品開発に取り組んできた。しかし、脳外科手術でヒト乾燥硬膜の移植を受けた人がクロイツフェルト・ヤコブ病に感染する被害が社会問題化したことなどから、厚生省(当時)は00年に規制を強化。審査や安全性の確認に時間がかかるようになった。培養皮膚以外では現在、2製品が臨床試験の段階まで進んでいる。(朝日新聞、2007年8月24日から引用)
      ■         ■
 培養皮膚は大学病院の形成外科で10年以上前から作られていました。日本で一番最初に培養表皮移植に成功したのが、聖マリアンナ医科大学形成外科の矢永博子先生でした。
 現在は北九州市小倉北区で医療法人風の会 矢永クリニックを開業なさっていらっしゃいます。私は矢永先生が日本で一番キレイな培養表皮を作成できる先生だと思います。
 矢永クリニックのHPには培養表皮によるニキビ痕治療が紹介されています。
      ■         ■
 矢永先生の培養表皮がおいくらか?私は存じませんが、J-TECよりかなりお安いと思います。
 今から10年くらい前に、米国のベンチャー企業が培養表皮の製造販売をしていました。日本にも宣伝に来ていました。
 当時で約100万円でしたが、保険も効かず高すぎて使えませんでした。そのベンチャー企業はその後広告も出していませんし宣伝にも来ていません。
 J-TECが開発から承認までにかかった費用を積算すると、1,000万円になるのだと思いますが、高すぎます。
 厚生労働省は、もう少し早く承認できるようにするべきです。学会で一般化してから10年以上たっています。
 体力がないベンチャー企業は倒産してしまうし、新しい企業は育ちません。

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カゼ薬でシミを治す

 平成19年8月23日(木)の北海道新聞朝刊に、しみ改善に効能。第一三共来月発売、初の厚労省承認薬品という記事が出ていました。
 以下は北海道新聞の記事です。
      ■         ■
 第一三共ヘルスケア(東京)は22日、しみの改善につながる成分を配合した医薬品「トランシーノ」を9月4日に発売すると発表した。
 30‐40代の女性のほおなどに見られるしみの一種「肝斑」に対する効能について、日本の医薬品で初めて厚生労働省から承認を受けた。
 肝斑は女性ホルモンの乱れなどが原因と考えられおり、トランシーノは有効成分のトラネキサム酸などを配合した。錠剤になっており、一日に6錠を約2ヵ月間、服用する。
      ■         ■
 一瓶が180錠(約1ヵ月分)入りで、希望小売価格は5,880円。会見した井手口盛哉社長は「トランシーノブランドの商品追加も考えたい」と述べた。
 広告に人気ヘア・メーキャップアーティストの藤原美智子さんを起用。本年度の出荷額は30億円を目指す。
 以上が北海道新聞の記事です。8面の経済欄に載っていました。
      ■         ■
 この記事だけを読むと、‘すごい薬が出た’、‘世紀の大発見’と思われる方もいらっしゃると思います。
 経済面ですから、第一三共の株を購入したら値上がり間違いなし?と思う方もいらしたと思います。
 実は、このお薬は、ずっと昔からある薬です。厚生労働省の承認も得ています。薬価(病院で請求するお薬の価格)は250mgで一錠12円です。ジェネリック品だともっと安い製品もあります。12×180=2,160で薬価だと180錠で2,160円です。5,880-2,160=3,720円は広告宣伝費ともうけです。
      ■         ■
 この記事は、あたかも世紀の大発明のように思えますが、‘オチ’があります。
 それは、しみの一つである‘肝斑’に対して一般医薬品(薬屋さんで買える薬)として承認を得たということです。
 お薬は、効果があることがわかっていても、厚労省が‘承認’しないと宣伝できません。このお薬は‘肝斑というしみに効きます’とお墨付きを得たのというのが今回の目玉です。
 皮膚科医や美容外科医の間では、肝斑にトラネキサム酸が効くことは昔から常識でした。
      ■         ■
 トラネキサム酸はカゼでのどが痛い時に、内科や耳鼻科の先生が処方してくださいます。
 トランサミンというのが一番有名な商品名です。札幌美容形成外科にはニコルダという製品があります。
 トラネキサム酸はすべてのしみに効くのではありません。肝斑というしみにしか効きません。見分けるのは専門医でも難しい場合があります。
 ほほに左右対称に出る薄いしみが肝斑です。かぜ薬が残っていたらチェックしてください。しみが治る可能性があります。

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医療問題

治療費未収

 平成19年8月23日(木)の北海道新聞朝刊のトップ記事です。北海道内の国立病院で、治療費の未収金残高が昨年度末で9,090万円になりました。今年度末には、1億円台になる可能性が高いそうです。
 治療費の未収金は公立病院にとって頭が痛い問題です。
      ■         ■
 私が市立札幌病院や帯広厚生病院に勤務していた時代にも未収金問題がありました。
 救急車で搬送されてきた患者様を目の前にして、『保険証がないと診療できません』とか『あなたは前月分の治療費が未払いなので治療できません』とは言えません。
 医師法第19条に【医師の応召義務】 という規定があります。 『診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない』という規定です。正当な事由とは、『医師の不在または病気等により、事実上診療が不可能な場合に限られる』という旧厚生省通達があります。
      ■         ■
 急病になって病院へ救急車で搬送され一命を取り留める。美談で終わるのはマレです。
 入院→仕事ができない→収入がなくなる→生活費もなくなる→入院費も払えない。となります。
 特に、高度救命救急センターに搬送され、集中治療室に入ると、とてつもない金額になることがあります。
 どんな高級リゾートホテルよりも高くつきます。
 私が知っている範囲で、一ヵ月の医療費が1,000万円を超えた方がいらっしゃいました。自己負担分だけで300万円になります。
      ■         ■
 このような一時的な高額医療費は、委任払(イニンバライ)制度を使います。事務手続きをすると、実際に病院窓口で支払う金額は低く抑えることができます。
 加入している保険の種類が、社会保険か国民健康保険かによっても違いますが、一ヵ月に10万円以上の負担はないのが通例です。
 それにしても、仕事ができなくなって、急に10万円払えと言われても困ります。
      ■         ■
 外国人も問題になります。私が札幌医科大学でロシア人の熱傷患者様を治療した際には、治療費を確実に支払うことで北海道が受け入れを決めていました。
 市立札幌病院に勤務していた時には、ロシア人船員が小樽で中古車を購入。無免許、酒酔いで運転して自損事故を起こし、救急車で搬送された方もいらっしゃいました。
 その方は治療費を支払えなかったので、未収金になっていました。
 最終的にどうなったかはわかりませんが、未収金になった場合は、札幌市民が納めた税金が使われることになります。
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 北海道新聞の記事によると、厚生労働省は、治療費を支払えない人は、治療を断れるように、医師の応召義務を見直す考えもあるようです。
 美容外科には関係ありませんが、私はお金がない人でも安心して治療を受けられる制度作りが必要だと思います。
 治療費が払えない人の分は、国が一時的に立替えて医療機関に支払うようにすれば、安心して治療が受けられます。
 議員さんに払っているわけのわからない‘調査費’なんか止めて、病気で苦しんでいる人を助けるべきです。

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