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おねだん以上

 今日は北海学園大学のニトリ寄附講座「流通・サービスを科学する」の講義を受講してきました。3回目です。講師は似鳥昭雄社長。講義のためにわざわざ東京からいらしていただいています。私は自分が40代の時に、看護学校や札幌医大で90分の講義を1コマするのも大変でした。ニトリ講座は90分の講義が2コマ連続。途中に10分の休憩があるだけです。似鳥社長は休む間もなく話し続け、休憩時間の間にも携帯電話で忙しそうに打ち合わせをなさっていらっしゃいました。脱帽です。
 ニトリのTV-CMで‘おねだん以上ニトリ’というフレーズが流れます。今年の小学生用の机では他社を引き離して、圧倒的にニトリ製品が売れたそうです。
 ニトリでは価格が安いことが一番。買う立場から買いやすい価格を設定し、それを目標に製品開発をします。同じ品質なら他社より3割以上安いこと。同じ価格なら他社より5割以上品質が良いことがニトリの大原則です。
 製品は人件費が安い海外で現地生産。品質は使う立場から、‘適正’な品質にします。高品質だけを考えるとどうしてもコストが高くなるので、実用的な品質で安い製品を提供します。これがニトリ成功の秘訣です。
 医療は典型的な労働集約型の産業です。日本は世界一人件費が高く、その中でも特に医療従事者の人件費は高額です。海外で現地生産し輸入することもできません。医療の品質は世界で一番良く、安全でなければなりません。
 私は札幌美容形成外科を開業する時に、なんとか安価に最高品質の医療を提供できないかと考えました。そこで私が考えたのが‘保険診療’です。一般の方が保険が利かないと考えている、ワキガ、陥没乳頭、眼瞼下垂などを保険診療で行うことにより、最高品質の医療を安価に提供できます。
 ワキガ手術の一般的な価格は25万円~30万円です。札幌美容形成外科では、保険診療の自己負担分が全身麻酔でしても8万円程度です。
 陥没乳頭手術は30万円~35万円が約6万円。
 眼瞼下垂症手術は35万円~38万円が約6万円。
 これはニトリ様の同じ品質なら他社より3割以上安いことを十分にクリアーしています。安すぎる位です。
 特に手術用顕微鏡を使用した若い方の眼瞼下垂症手術は、世界でも最高水準の‘品質’で他社には絶対に負けない‘製品’です。HPで公開しているのは、決して特殊な例ではありません。目の機能を回復して、その上、とてもキレイになっています。絶対にお買い得な‘おねだん以上、札幌美容’です。
 私はお金儲けだけを考えて診療をしているわけではありません。少しでも‘お客様’に喜んでいただき、毎日快適に生活していただきたいと願って深夜まで仕事をしています。

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医療問題

人工呼吸器

 和歌山県の病院で88歳の脳死状態になった患者様から人工呼吸器を外して‘殺人’をしたと、医師が書類送検された記事が掲載されていました。
 和歌山県立医科大付属病院紀北(きほく)分院(和歌山県かつらぎ町)で、延命措置を中止する目的で80歳代の女性患者の人工呼吸器を外して死亡させたとして、県警が、50歳代の男性医師を殺人容疑で和歌山地検に書類送検していたことが22日、わかった。
 調べによると、男性医師は脳神経外科が専門で、県立医大の助教授だった2006年2月27日、脳内出血で同分院に運ばれてきた女性患者の緊急手術をした。しかし、患者は術後の経過が悪く、脳死状態になっていたため、家族が「かわいそうなので呼吸器を外してほしい」と依頼。医師は2度にわたって断ったが、懇願されたため受け入れて人工呼吸器を外し、同28日に死亡したという。
 医師は3月1日に紀北分院に報告。分院では射水市民病院での問題が発覚した直後の同年3月末、和歌山県警妙寺署に届け出た。捜査段階の鑑定では、呼吸器を外さなくても女性患者は2~3時間で死亡したとみられるが、県警は外したことで死期を早めたと判断、今年1月に書類送検した。
 飯塚忠史・紀北分院副分院長は「呼吸器の取り外しについては医師個人の判断だった。医療現場の難しい問題なので、司法の判断を仰ぎたいと考えて県警へ届け出た」と話している。家族は被害届を出しておらず、「医師に感謝している」と話しているという。
 呼吸器取り外しを巡っては、北海道立羽幌(はぼろ)病院の女性医師が05年5月に殺人容疑で書類送検(不起訴)されており、今回の書類送検が2例目。羽幌病院の問題では、女医が呼吸器を外した行為と、患者の死との因果関係が立証できずに証拠不十分で不起訴となった。
 しかし、問題発覚後、呼吸器の取り外しは医療の現場では一般的に行われている可能性があることなどが判明。これを契機に、国や医学界が延命措置中止に関するルールを明確にしようと指針作りに乗り出したこともあり、富山県警は、慎重に捜査を進めている。分院の医師が書類送検されたことで、富山県警の捜査関係者からは「同様の事件で死亡者数はこちらの方が多いのに、書類送検しないという選択肢があるのかは微妙な問題だ」との声も出ている。
(2007年5月22日読売新聞)
 ここまでが新聞の報道です。人工呼吸器は医療現場ではレスピレーターと呼ばれます。高価な医療機器です。
 新聞には書いていませんが、人工呼吸器を使用すると料金がかかります。内科医しかいない病院にも急速に普及したのは‘儲かる’からです。一日使用すると\7,450がかかります。30日間使用すると\223,500です。一年365日使うと\2,719,250です。
 もし国が人工呼吸器の料金を大幅に引き下げると誰も使わなくなります。あるいはICUなど特殊な病床にだけ認めると一般病院からは姿を消します。
 私はこの脳外科の先生がとてもお気の毒に思います。一生懸命手術しましたが助けられず、身内の人を呼んでくださいと伝えました。東京からあと○時間で身内が来ます。それまでなんとか持たせてくださいと言われレスピレーターを装着したようです。
 最期のお別れをして、『先生ありがとうございました。もう結構です、苦しそうなので外してください』と言われて外したら殺人罪です。
 早く法律を変えて安心して医療を行えるようにしてください。法律を変えられるのは政治家だけです。医師は無力です。私は自分自身には‘絶対に’人工呼吸器は要りません。早く死んでも本望です。

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医療問題

美容外科がなくなる?

 松山の美容外科学会で高須先生から‘美容外科’という科目がなくなると伺いました。帰ってからネットで検索すると次の記事が見つかりました。
 厚生労働省は21日、医療機関が広告などで使える38の診療科名を26に整理し、新たに「総合科」などを加える案を、医道審議会診療科名標榜(ひょうぼう)部会に提出した。同部会で今後検討する。
 同省案は診療科目を減らす一方で、「乳腺」「頭痛」「ペースメーカー」など、医療機関が得意とする分野を明記することも認めており、同省は「広告の規制緩和を進めるとともに、患者の利便性を高めることができる」と説明している。
 削減案の対象となったのは、アレルギー科、心療内科、心臓血管外科、呼吸器科など。アレルギーを専門とする場合は、「内科(アレルギー)」と表記することが可能という。ただ、患者団体や専門医から反発が出る可能性もある。(2007年5月20日 読売新聞)
 美容外科という名前(正式には標榜科目と言います)が認められるまでには、私たちの先輩が大変な苦労をなさいました。美容整形がいいか美容外科がいいかは別として、美容外科がなくなると困るのは一般市民です。
 厚生労働省の案では形成外科は残るそうです。すると形成外科(得意な手術は美容整形です)なんて広告や、内科(アンチエイジングが得意です)なんて広告もOKになるのでしょうか?
 松山の美容外科学会でも話題になっていましたが、一般の内科や外科を‘標榜’なさっていた先生が、保険診療だけでは儲からなくなったので、自由診療をどんどんなさっているそうです。眼科の先生が二重をしたり(韓国では多いです)、内科の先生が毛はえ薬を処方したり。婦人科の先生がレーザー脱毛をしたり…。
 私も職員のインフルエンザの予防注射くらいはしますが、自分の専門分野以外は手を出しません。厚生労働省は何を考えているのでしょうか?こんなことをしても日本の医療はよくなりません。

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医学講座

鼻プチ整形の副作用

 昨日の日本美容外科学会でヒアルロン酸の副作用に関する報告がありました。ヒアルロン酸による鼻のプチ整形を受けた後で、鼻先が部分的に壊死になってしまった症例です。正直なところ驚きました。副作用を起こしたヒアルロン酸はPerlane(パーレーン)というスウェーデン製の製品で当院でも使用しています。世界で一番安全性が高く、FDAの承認も受けています。私は身内の治療にも使用しています。
 この副作用を報告してくれたのは、日本でおそらく一番大きな美容外科チェーンを経営なさっているクリニックです。こういう学会発表は、経営面からはマイナスになるので経営者としては発表したがらないものです。
 そこの大手美容外科では何万症例という鼻のプチ整形を施術されていると考えられます。今回、報告されたのは20歳~50歳までの5症例でした。頻度は一万人に一人の割合以下かもしれません。たとえ一万分の一でも副作用が出ると大変です。
 副作用の原因は、ヒアルロン酸の粒子が鼻の血管の中に入って血管が詰まってしまうことです。学会ではこれに対処する方法も発表されました。私も会場で意見を述べさせていただきました。
 自宅に帰ってからPubMedという米国の医学情報を検索するサイトで早速調べました。世界中でまだ一例も文献的な報告はないようです。学会に参加するのは、新しい治療法を見つける目的もありますが、こうした副作用を知ることも極めて大切です。今回の発表をしてくださった、大手美容外科の先生に心から感謝し敬意を表します。
 今まで当院で鼻のプチ整形をなさっていただいた患者様で不安になられた方がいらっしゃいましたら、ご予約の上、診察にいらしてください。これからも安全第一で診療を行って参ります。

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日本美容外科学会

 日本美容外科学会の報告です。この学会はいわゆる十仁学会と呼ばれる美容外科学会です。形成外科医の参加が少なく、開業美容外科医の参加が多い学会です。韓国の美容外科学会である、大韓美容外科学会の先生も参加され、会場のアナウンスは韓国語でも行われます。
 今回の学会長は松山市で開業されている、さくらクリニックの福井卓也先生。福井先生は東邦大学医学部をご卒業後外科学を専攻、その後十仁病院で美容外科を研鑽されました。中央クリニック名古屋院院長の後、地元の松山市で開業されました。
 学会を開催するのは大変な仕事で、開業医が業務の傍ら準備するのは本当に大変なことです。さくらクリニックのスタッフに伺ったところ、約1年前から準備され、クリニックの10人の職員で学会を運営されたそうです。
 今日は学会のプログラムの他に、青色LEDの発明で有名な中村修二先生(米国カリフォルニア大学(UCSB)教授)の特別講演がありました。
 中村教授は徳島大学工学部電子工学科を卒業後、日亜化学工業に入社。研究部門に所属していましたが、業績が上がらないため、入社10年目に会社を辞めろと言われました。その時に青色発光ダイオードの開発を社長に直訴し、米国・フロリダ大学に1年間留学。1989年に日亜化学工業に戻り、約2億円する製造装置を自分で改造して開発に成功しました。その後、発明に関して日亜化学工業と裁判になり、2005年1月東京高裁で特許等の対価等として、日亜化学工業側が約8億4000万円を中村先生に支払うという和解が成立しました。 中村教授は私と同じ1954年生まれ。日本の大学入試制度が悪いので米国のような独創的研究やベンチャー企業が生まれないという考えです。講演をお聞きして、教授の考えに共感しました。
 今日の学会で美容外科のトピックはフェイスリフトのシンポジウムでした。シンポジストはリッツ美容外科の廣比利次先生、Dr.ゴールドマンクリニックの高橋金男先生、名古屋美容外科の平田修人先生、鶴舞公園クリニックの深谷元継先生、国際美容外科の荒木義雄先生、特別発言としてご自身が2回フェイスリフト手術を受けた高須クリニックの高須克弥先生でした。形成外科系の美容外科学会では聞けない貴重なお話しでした。
 中でも圧感は高須先生ご自身の手術ビデオでした。以前の国際学会でも拝見しましたが、手術を受けている院長が手術中にあれこれ指示を出されるのはすごかったです。2回目の手術は、ご子息の高須幹弥先生が執刀。この時は、息子と手術中に親子喧嘩になっては困るので全身麻酔でなさったそうです。
 フェイスリフト手術は古くから行われている手術ですが、手術後の後戻りなどの問題点があります。今回のシンポジウムでも各先生の創意工夫が見られ参考になりました。明日からの診療に役立てます。

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道後温泉

 日本美容外科学会に参加するため、四国の松山に来ました。四国に来たのははじめてです。昨日は14:00まで診療して、その後東京経由で松山に来ました。松山はいで湯と文学の街。有名な道後温泉や夏目漱石の小説「坊っちゃん」の故郷です。
 道後温泉は日本三古湯の一つ。兵庫の有馬温泉、和歌山の白浜温泉、そして道後温泉といわれています。中でも道後温泉は、「日本書紀」にも登場し、文献的には我が国最古の温泉であるといわれています。温泉好きの私は、今朝6:00からこの道後温泉に行ってきました。
 3000年の歴史を誇る日本最古の道後温泉。なんと聖徳太子まで入浴なさったという温泉です。期待して行きました。
 道後温泉は、明治27年に道後湯之町初代町長・伊佐庭如矢が現在の本館を造りあげました。国の重要文化財で松山市が管理しているようです。
 早起きして張り切って行ったのですが、正直なところ期待はずれでした。まず、細かいことですが、何にでも料金がかかります。受付や係りの女性は親切でしたが、貴重品はコインロッカーにお入れください。料金は\100で一度入れると戻りませんのでご注意ください(北海道なら戻りますね)。でロッカーにカバンをいれました。風呂は朝6:00だというのに、とても混んでいました。私が入ったのは一番安い‘神の湯’です。風呂から上がって髪を乾かそうとすると、ドライヤーが3分10円。今時あまり見かけない、昔、銭湯によくあったタイプでした。コインロッカーに小銭を入れてしまったので使えません。ドライヤー代がかかりますので10円お持ちくださいって言ってくれたらよかったのに…。
 お風呂は、明治時代にしては立派だったのでしょうが、北海道の温泉に慣れた私にとっては狭くて期待外れでした。洗い場も順番待ちでした。もちろんサウナもジャグジーもありません。明治時代にできたので当たり前ですね。
 お客様は大部分が年配の方でした。中には観光客と思われる若者もいましたが、おじいさんが多い印象でした。
 浴室と脱衣所で、とても臭いのきついワキガの方がいらっしゃいました。半径2m以内に近づくと強烈に臭いがしました。20歳位の青年で、髪や髭はこぎれいにしていましたが、本人は臭いに気づいていないと思います。札幌だったら手術してあげるのになぁ~と思いました。朝から形成外科の必要性を再認識しました。これから学会へ行って勉強してきます。

3000年の歴史がある道後温泉本館

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消毒と滅菌

 医学部や看護学校の講義のようですが、解説を続けます。消毒と滅菌は似ているようですが大きく違います。
 手術を終わった後で、「先生、キズはいつから濡らしてもよろしいですか?」「どのお薬で消毒すればよろしいでしょうか?」などとご質問を受けることがあります。
 札幌美容形成外科では、原則として手術後に消毒薬はお渡ししておりません。大部分の手術後にお渡しするのは抗生物質と消炎剤が入った軟膏です。
 唯一、消毒薬だけをお渡しするのがピアスです。米国製の医療用ピアスを使用していますが、そのマニュアルに消毒が記載されているためお渡ししています。ボディーピアスも同じです。ピアスという異物を体に装着するので消毒します。
 ワキガ手術、包茎手術、目の手術、鼻の手術のいずれの術後にもキズは消毒いたしません。傷はキレイに縫合してあるので、わざわざ消毒しなくてもバイ菌が入る可能性は低いのです。
 むしろ消毒薬で皮膚炎を起こすことの方が心配です。術後は抗生物質を内服し、抗生物質が入った軟膏を外用するだけで十分です。
 キズはシャワーなどで洗った方がキレイに治ります。重傷のヤケドでも、生理的食塩水と同じ濃度にした風呂で全身を洗います。こうするとヤケドがよく治ります。生理的食塩水はヤケドやキズにもしみません。ある種の温泉がヤケドに効くのはこうした理由です。
 消毒とは人体に有害なバイ菌を消すことです。ただ完全にゼロにはできません。減らす程度です。死なない菌もいます。ふつうのキズならこれで十分ですし、消毒は不要という先生もいます。私もキズは消毒しない派です。
 滅菌はすべての菌を殺してしまうことです。抹殺するのです。細菌もウイルスもカビも殺します。手術に使う器具は‘消毒’ではダメです。熱湯をかけるのも消毒です。滅菌は高圧をかけて温度も100℃以上に上げます。
 生身の人間はヤケドをしてしまうので滅菌はできません。手術をする前には術野を消毒します。皮膚をキズつけるので消毒をしないと有害な菌がキズに入る恐れがあるからです。
 感染が問題になるのは抗生物質や消毒薬が効かない菌がいるためです。医学が進歩して薬をたくさん使うようになったのでバイ菌も力をつけました。術後にトラブルを起こすのは大部分が耐性菌です。耐性菌については別の日に書きます。

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医学講座

清潔と不潔

 私はキレイ好きです。毎日お風呂に入り、歯も一日4回(朝昼夕食後と寝る前)磨きます。お風呂にも入らず歯も磨かない人は不潔ですね。一般的にいう清潔・不潔の概念はこんなところです。ところが医学(特に外科学)でいう清潔と不潔は大きく違います。
 1860年代に英国の外科医リスターが滅菌法を確立しました。近代外科学は滅菌法が発見されたことにより大きく発展しました。リスター以前の外科手術は創が膿んで、膿が出るのがキズによいと考えられていました。ですから今なら考えられないくらい手術による感染が多く、死亡率も高かったのです。足一本切断しただけで感染して死んでしまっていました。今ならすぐに訴訟です。
 医学でいう清潔とは菌がまったく存在しないこと、すなわち無菌状態を意味します。不潔とは無菌状態ではない状態を指します。外科手術で使用する器具やガーゼは‘滅菌’されています。ガーゼ交換で使用する器具やガーゼも同じです。高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)という滅菌器やエチレンオキシドというガスを使用して無菌状態にします。どんな菌も全くいない状態です。
 白い巨塔などのTVドラマを見ると、手術の時に外科医は薄いゴムの手袋をしています。これは手が汚れるのを防ぐのではなく、むしろ逆に手についたバイ菌を術野につけないためなのです。この手袋も滅菌されています。清潔そうに見える人の手にも常在菌という細菌がいます。人間の体は皮膚という厚いバリアーで覆われているため、手にバイ菌がついても感染しません。
 ところが手術で皮膚にキズをつけると、バリアーがなくなり菌が体に入ってしまいます。性病がうつるのは、性器の粘膜が薄く、皮膚に比べるとバリアー機能が落ちるためです。昨日のタンポンでTSSになりやすいのも同じ理由です。
  この手術で使うゴム手袋は1889年に米国の外科医ハルステッドが考えました。手術室のナースが消毒剤で手が荒れて困っていました。ハルステッドは彼女のためにゴム手袋を使わせました。するとナースの手荒れがよくなっただけではなく、手術の感染率が激減しました。こうして米国のボルティモアから全米へ手術用手袋が普及しました。手術室ナースはハルステッドの恋人で、医学史に残るラブストーリーと言われています。
 私が札幌美容形成外科を開業する時に、一番充実させたのが滅菌設備と手術器具です。札幌美容形成外科には合計4台の滅菌器があります。目に見えない部分ですがこれが外科の基本です。器械は高価でたくさん揃えることは大変です。しかし、外科の基本を無視しては安全に手術はできません。残念なことですが、美容外科の中にはこの手術器具の滅菌という基本中の基本を守っていない施設があります。他人に使用した器械を簡単に洗って、消毒剤で簡単に消毒しただけで次に使用しているところもあります。
 キャンペーンで割安だからといって、価格でクリニックを選ぶととんでもない目に遭うことがあります。自分の体は自分で守ってください。

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医学講座

タンポンショック

 昨日書いた脂肪吸引によるショックはブドウ球菌という細菌が出す毒素によって起こります。このブドウ球菌によるショックをToxic Shock Syndrome、略してTSSと呼びます。
 1970年代に欧米でタンポンショックという病気が報告されました。タンポンを使用した女性が急に具合が悪くなり最悪の場合は死にいたることがあります。
 女性の生理用品であるタンポンは医療用具です。厚生労働省の認可が必要で滅菌されています。タンポンの説明書には必ずTSSについての記載があります。機会があれば読んでみてください。
 こちらのトキシックショック症候群情報サイトによると、イギリスの人口約5800万人のうち、毎年報告されている発症件数は約40件で、そのうち半数がタンポンを使用している女性です。TSSは、ほとんどの医師が一生の間に一度も治療をする機会がないくらい非常にまれな病気です。極めてまれですが、TSSは命にかかわる場合があります。患者数が少ないですが、不幸にも英国では年間2、3人がTSSにより死亡しています。TSSは、男性、女性また子どもの誰でもかかる可能性がある病気です。報告されているTSS発症者の半数はタンポンを使用している女性で、残りの半数は、例えば熱傷、炎症性の腫瘍、虫刺されや手術後の局所感染によるものです。TSSを引き起こす毒素から保護するために必要な抗体は、年齢とともに増加します。そのため、TSSの危険性は若い人ほど高くなります。
 私は、このTSSの患者様を治療したことがあります。その方はタンポンでTSSになったわけではありませんが極めて重症でした。
  通常の生理で普通にタンポンを使ってもTSSにはなりません。問題なのはタンポンをとり忘れる人(信じられないかもしれませんが、とり忘れて次に入れてしまう人がいます)。仕事で疲れて、朝入れたタンポンをそのままにして寝てしまう人。病院などに勤務する女性で、多剤耐性の黄色ブドウ球菌(MRSA)が手について、MRSA付きタンポンを使用してしまう人などなど…。
 婦人科の先生は、とり忘れて腟の中でとんでもない悪臭を放っていたタンポンを取り出すことがあるそうです。
 タンポン使用時には、次のことを忘れないで、衛生的に使用してください。
・タンポンの挿入時と取り出すときは手を洗う。
・タンポンは、説明書に記載されている通り、定期的に交換する。
・一度に2つ以上挿入しない。
・夜寝る前には、新しいタンポンと交換し、朝起きたら取り除く。
・生理期間の最後には、タンポンを取り除く。
 脂肪吸引で死亡することはマレです。タンポンで死亡することも極めてマレです。ただ、タンポンといえど正しく使わないととんでもない目にあいます。
 自分の体は自分で守らなくては誰も守ってくれません。タンポンでショック死するなんて信じられないと思うでしょうが正しく使わないと怖いのです。

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医学講座

脂肪吸引のトラブル

 この症例はPRSという米国形成外科学会雑誌に掲載された学術論文です。
 患者様は20代の女性。日本のある美容外科で腹部・殿部・大腿の脂肪吸引を受けました。
 手術の翌日、脂肪吸引を受けた部位の痛みがあり手術を受けた病院へ入院しました。その翌日には状態が悪化し、大学病院の救急部に転院しました。手術後の感染によって腹部から大腿部にかけて広範囲に壊死になってしまいました。血圧は低下し感染症でショック状態になっていました。
 呼吸不全で生命の危険があったため2週間は人工呼吸器の助けを借りました。腹部から大腿にかけて壊死になった皮膚と軟部組織を2日目と12日目に除去しました。キズは体表面積の22%にもなり重症のヤケドと同じ状態でした。約1ヵ月間の集中治療で一命を取り留めたものの、大きなキズが残りました。以下がPRSに掲載されたタイトルと原文の一部です。
 Toxic Shock Syndrome after Suction Lipectomy.
Plastic and Reconstructive Surgery:Volume 106(1)July 2000 p204-207.
 Case Report
  A woman was admitted to our hospital 2 days after suction lipectomy. The patient had received aesthetic suction lipectomy of the abdomen, buttocks, and thighs during an office procedure by a cosmetic surgeon. On postoperative day 1, the patient contacted the cosmetic surgeon complaining of wound-related pain and was admitted to the cosmetic surgery hospital. On postoperative day 2, the patient was referred to the emergency department of our hospital.
 The patient was in toxic shock. Chest x-ray showed acute respiratory distress syndrome, which required intubation and controlled ventilation for 2 weeks and intensive medical treatment for about 1 month. Surgical debridement was repeated on hospital days 2 and 12, leaving open wounds covering 22 percent of the total body surface area. Signs of multiple organ failure resolved slowly, and desquamation of the skin on the palm was observed 18 days after suction lipectomy. The patient was transferred to a regular ward 29 days after admission, and her wounds were covered with a meshed autograft. The patient required intensive medical treatment for about 1 month and great effort to adapt herself psychologically after the illness.
 この論文には次のコメントが掲載されました。
 すべての形成外科医は日常診療に潜んでいる潜在的な危険性を認識し警戒すべきである。貴重な症例報告で注意を喚起してくれ、卓越した治療で生命を救ってくれた著者に感謝する。
 This report of toxic shock and necrotizing fasciitis after suction lipectomy is an important reminder that should alert all plastic surgeons of the potential dangers lurking in almost every routine case. I thank the authors not only for bringing this case to our attention, but also for outlining the superb postoperative care that saved this patient’s life.
 あまり知られていない事実ですが、脂肪吸引により日本では何件もの死亡事故が起こっています。大手美容外科で行ったからといっても安心はできません。どんな手術にもリスクはつきものです。
 重要なのは、事故を起こさないようにする経験と技術です。新米のパイロットが操縦する旅客機には恐ろしくて搭乗できません。救急や感染に対する知識も必要です。感染を起こさないようにする設備も必要です。整備不良の飛行機は事故を起こします。
 美容外科は決して楽で儲かる診療科目ではありません。一朝一夕に促成栽培でなれる科目でもありません。この日記を読んでいただいている、医学生や研修医の先生に対する私からの警告です。

Plastic and Reconstructive Surgery,Vol.106p204,2000より引用

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