医学講座
膀胱炎の予防法
平成20年9月10日、北海道新聞朝刊の記事です。
ちょっと聞けない
泌尿器科の話⑰
膀胱炎の予防策
前から後ろにふいて
古屋聖児
膀胱炎の予防法があれば
多くの女性にとり朗報ですが、
残念ながら
「これだ!」
という絶対的な方法はありません。
■ ■
一般的に疲労や体の冷え、
排尿の我慢などに注意すると
よいと言われています。
米国のある泌尿器科医が勧める予防法は
①排尿をあまり我慢しないで、
だいたい3時間ごとの排尿を心がける
②排便後は肛門周辺を丁寧に前から後ろにふき、
同じトイレットペーパーを2度ふきしない。
■ ■
膀胱炎の原因菌となる大腸菌などは
肛門の周辺に常在しています。
そこから腟に移動して繁殖、
次に尿道を逆行して膀胱に侵入し、
膀胱炎を起こすのです。
ですから排便後はトイレットペーパーで
前から後ろの方向にふき、
肛門周辺の細菌を
腟の方向に移動させないことが
膀胱炎の予防になるというわけです。
■ ■
ところで、
18世紀までヨーロッパの女性は
ノー・パンティーで、
排尿後に紙でふく習慣はありませんでした。
ところが19世紀になり、
女性がパンティーをはくようになってから、
排尿後ぬれたままでは
パンティーが汚れるので、
紙でふくようになったのです。
■ ■
さて排尿後のトイレットペーパーのふき方には
前から後ろの方向に
ふくのがよいと言われています。
「前から後ろへ」
という方向は
尿道口、腟口、肛門の
位置関係を知っていれば
理解できますね。
(北見医師会長)
(以上、北海道新聞より引用)
■ ■
古屋先生の文章はわかりやすく、
前立腺のお話しなどは、
医師の私にも参考になりました。
この「前から後ろへ…」
の方向のことは、
医学生の時にも習いました。
そもそも、
おしっこはふつうは無菌です。
血液を漉過したものですから…
■ ■
腟の中には、
デーデルライン桿菌という乳酸菌がいます。
これらの乳酸菌が乳酸をつくるので、
膣内のpH(ペーハー)は酸性に保たれています。
健康な女性は、
この乳酸菌によって病原性細菌から
腟を守っています。
これを膣の自浄作用とか
生体バリヤーと言います。
簡単に言うと…
ヤクルトを飲んで
お腹を健康にしているのと同じことです。
■ ■
一方、腸の中には、
大腸菌などが住んでいます。
大腸菌にも、
病原性が強いものと、
悪さをしないものがいます。
うんこが汚いと言われるのは、
おしっこが血液を漉過(ろか)したものなのに、
うんこは食べ物のカスだからです。
お尻を拭いた後は、
手をよく洗わないと、
どんなにペーパーを重ねて使っても…
手にバイ菌がつきます。
■ ■
女性は解剖学的に、
肛門と尿道口が近いので、
大腸菌が尿道から入りやすいのです。
しかも男性より尿道が短いので、
尿道から入った菌が
膀胱に届きやすいのです。
ですから…
おしっこの後のペーパーは
前から後ろへ拭くとよいのです。
ご理解いただけましたでしょうか?
院長の休日
54歳になりました
昨日、9月8日は、
私の54歳の誕生日でした。
バースデーカードや
プレゼントをいただきました。
本当にありがとうございました。
さくらんぼさんからは、
元気がない私に、
生のブドウ糖をいただきました。
■ ■
今まで食べたこともないような、
最高のブドウでした。
さくらんぼさんには、
毎日コメントをいただき、
本当に感謝しています。
北里大学名誉教授の
塩谷信幸先生が
朝、ブログにコメントがないと…
ガッカリすると書かれていました。
■ ■
毎日、コメントをくださる
さくらんぼさんに感謝しています。
日記をはじめて、
10月22日で2年になります。
毎日書くのは…
正直なところ、
つらい日もあります。
でも、この日記を通じて、
さくらんぼさんとも知り合えました。
偏屈なオヤジである、
私という人間を理解していただくのに、
HPの記載以上に、
役に立っていると思います。
■ ■
弁護士の高橋智先生の、
サミーズダイアリーでも
私の日記を取り上げていただきました。
私たちの年代になると、
自分がした仕事で、
他人に喜んでいただけるというのが、
一番の生きがいになります。
何歳まで手術ができるか…?
わかりませんが、
毎日、仕事があることに感謝して…
これからも精一杯、頑張ります。
みなさま、ありがとうございます。
2008年9月8日
医療問題
医学教育と運転教習
優しくて、腕がよい、
お医者さんを
育てるのは大変です。
どんな職業でも
同じだと思いますが、
人にものを教えたり…
教えられたり…
というのは難しいことです。
■ ■
一般の方は、
医学部を卒業して、
医師国家試験に合格すると、
即、医師免許がもらえて、
簡単な診察、
簡単な処置、
簡単な手術、
などはできる……?
と思われるかもしれません。
■ ■
残念なことに、
そもそも‘簡単な’
診察・処置・手術なんてのが存在しません。
採血や注射など、
看護師免許でも、
認められていることもできないのが、
医師免許取得直後の新人医師です。
医学部6年間の教育で、
採血の実習はないか、
あっても1~2回です。
注射は免許がないとできないので、
医師も看護師も、
免許取得後に‘練習’します。
■ ■
自動車でいうと、
医師免許取得は、
仮免許で、
ようやく運転ができるようになったところ。
教官席に座って、
教習生と運命をともにして、
いつも非常ブレーキを踏めるように…
踏ん張っているのが、
指導医です。
■ ■
医学の難しいところは、
仮免許運転中のプレートをつけた、
自動車学校の教習車両ではなく、
営業中の
立派なリムジン?
と思わせるような、
有名な大病院で、
路上教習を教えなくてはならないことです。
■ ■
高いお金を払って、
立派なリムジンに乗っている、
つもりのお客様。
実際の運転が、
ベテランの運転手(指導医)ではなく、
新人の見習い運転手(研修医)
だと知ったら…
即、他のタクシーに乗り換えるか、
怒って、料金の返金を求めます。
それができないのが、
臨床研修指定病院です。
■ ■
名門の大病院ほど、
臨床研修を希望する研修医が集まります。
その病院で、
リスクがある…
手術や検査を受けるとします。
‘あなたの検査は、新人の研修医が行います’
‘当院では、十分な初期研修を行っています’
‘万一、不測の事態が起こっても、ベテランの指導医が対処します’
‘研修医がこの検査を担当するのは、3回目です’
‘2回の検査では、問題はありませんでした’
‘ただ、指導医が15分で終わる検査に、1時間を要しました’
‘以上の説明を受け、検査に同意します’
なんて同意書に署名・捺印ができますか?
■ ■
実際には、上記のような同意書なしに、
眠らされて…
ぼぉ~っとしているうちに、
検査や手術が終了します。
練習台になる患者さんも大変ですが、
詐欺のような…
指導医を続けるのも疲れます。
厚生労働大臣や
厚生労働省のお役人に
練習台になるボランティアをしていただくと、
実態がよくわかると思います。
医療問題
医学部定員増
平成20年9月7日、朝日新聞朝刊、
声の欄への投稿記事です。
医学部定員増
余裕ない現場
勤務医 安達智江 (千葉県柏市46)
医師不足解消のため、
厚生労働省の検討会が
医学部定員の大幅増を提言したのに対し、
国立大学医学部長会議が
教員や経費増を求める
批判的な内容の要望書を出したという
(8月28日朝刊)。
■ ■
当然である。
医師を教育養成するのは
研究・臨床の現場で働く現役医師だ。
教員が増えなければ、
大学での基礎系講義には、
学生が詰め込まれ、
教員の目が届かなくなる。
■ ■
臨床系の実習は大学病院で受ける。
だが、新医師臨床研修制度の導入で
医局の新人医師が激減し、
人手不足で市中の病院から
医師を引き揚げているような
大学病院の医師たちに、
増加した医学生を
教育する余裕などあるだろうか。
■ ■
卒業後に教育を受ける研修病院の
勤務医も減少している。
新しい臨床研修制度自体、
新人医師の教育に
うまく機能しているかどうかの
評価もされていないのに、
定員増で
この制度にさらに負荷をかけることになれば、
現場の混乱が増幅するだけである。
■ ■
いまの状態での定員の大幅増は
現場の医師をさらに疲弊させ、
十分な教育を受けていない
若手医師を誕生させるだけだろう。
現状では、
定員増は微増にとどめるべきだ。
医師の粗製乱造となれば、
将来に禍根を残す。
(以上、朝日新聞より引用)
■ ■
私もこの投稿者の先生に、
まったく同感です。
医学教育の現場の‘先生’
臨床研修指定病院の
指導医の‘先生’は
くたクタに疲れています。
学生や新人医師の教育は、
本当に疲れるものです。
自分ひとりで処置や手術をすれば…
30分で済むものを…
新人医師に指導をしながらすると、
倍以上の時間がかかります。
■ ■
その上、新人医師に何かをさせて、
失敗されると…
指導医の責任が問われます。
誰だって、
新人医師の…
練習台にはなりたくありません。
でも、‘練習台’になっていただく…
患者さんがいないと、
新人医師は上達しないのです。
臨床研修指定病院になって、
指導医になったからといって、
医師の待遇が良くなることはありません。
■ ■
医療という危険を伴う仕事を、
研修医に教えるのは疲れます。
もし、研修医が手術で失敗しても、
それを回復できて、
何もなかったかのように
手術を終える知識と技術がなければ、
研修医に手術を教えることはできません。
教官パイロットが、
訓練生に飛行を教える時、
もし機体が傾いても、
それを元に戻す技量が必要なのと同じです。
■ ■
飛行機はお客さんを乗せないで、
空(から)で飛ばして訓練ができますが、
手術とか検査は、
お客さんがいないと‘訓練’ができません。
厚生労働省が考える方針には、
どう考えても賛成できません。
質の悪い、
速成栽培の、
お医者さんを、
粗製乱造して、
将来困るのは国民です。
医療問題
不正行為の代償
私たち医師は、
医学部へ入学するために、
中学校→高校→(予備校)
と
他人が遊んでいる間も、
必死に勉強して合格できました。
医学部へ入学してからも、
解剖学・生化学・生理学と
それはそれは…
気が遠くなるような量の勉強をします。
ほぼ丸暗記です。
■ ■
医学部も上の学年になると…
お医者さんらしい勉強が増えます。
そこそこ楽しいうちに…
あっという間に6年間が過ぎます。
厳しい卒業試験があり、
これまた難関の医師国家試験があります。
ようやく卒業できた…!!!
医師免許証をいただいた…!!!
と喜んだのもつかの間…
免許証を取得しただけでは、
何もできません。
■ ■
医師免許証を取得してから、
臨床研修がはじまります。
毎日苦労しながら、
先輩から手取り足取り教えてもらって、
看護師さんから、
『何もできない!』
『へたくそ!』
と言われても、
じっと耐えて、耐えて、
少しずつ上達して、
10年程度かかって、
ようやく専門医となります。
■ ■
専門医になる前には、
専門医試験があります。
学会発表や論文作成もしなくては、
専門医になれません。
これが、
平均的な医師像です。
10代、20代、30代と
明らかに他人より勉強をしないと、
医師にはなれません。
私のように50代になっても、
勉強を続けないと、
最先端の医学は実践できません。
■ ■
これだけ苦労して、
せっかく開業して、
ようやく自分のお城で…
自分の好きな仕事ができるのに、
不正をして医師免許証をダメにする…
という感覚が私には理解できません。
まして、60歳を超えたら、
お金なんてどうでもいいから、
元気で働けて、
患者さんに喜んでいただけるだけで…
十分すぎると…
私は思います。
■ ■
不正や脱税をすると…
逮捕されて刑務所行きです。
医師免許証も停止です。
運転免許証だって、
取り消されて再取得は大変です。
医師免許証を取り消されて、
もう一度取得するのは、
まず、絶対に不可能です。
ですから、私は不正はしません。
院長の休日
私の疑問?
昨日、耳鼻科の先生が不正をしたのが…
どうも理解できないと書きました。
医者になると…
お金持ちになれる…
というのは、
遠い昔の話しです。
労働や責任の重さから考えると
決して割りの良い職業ではありません。
医師優遇税制も死語です。
■ ■
偏見があったらごめんなさい。
お金持ちになりたいなら、
投資家になるとか、
投資家相手の職業とか、
IT企業の社長さんとか、
が…よいと思います。
私たちのように、
自分の手足を酷使して稼ぐ職業はダメです。
手は2本、
足も2本、
しかないので、
どう頑張っても限界があります。
■ ■
高齢者が増えて、
医療費が高騰すると、
国が破産するので、
医療費は毎年削減されます。
これからも、
夢のような話しはないと思います。
医療機関の経営環境は、
ますます悪くなります。
一種の構造不況業種です。
■ ■
私たちが、
医師としての喜びを感じられるのは、
他人から感謝された時です。
‘先生、ありがとうございました’
と言っていただけるので、
なんとか頑張っていられます。
『オレは医者だから偉いんだ』
なんて考えていたら…
あっという間に倒産です。
■ ■
私は大学病院をクビになって、
失業しそうになって、
一家四人が…
明日からどうしよう…?
と本当に困ったことがありました。
今から6年前、
平成14年(2002年)のことでした。
その時に、
中央クリニックの社長さんに
拾っていただきました。
ご恩は一生忘れないくらい感謝しています。
■ ■
雇われ院長に採用していただいたので、
一生懸命、働きました。
まだ景気もよく、
競争相手もあまりいなかったので、
業績は上がりました。
その結果、
私は信じられないくらいの
お給料をいただきました。
その結果…
私は信じられないくらいの
税金を払うことになりました。
■ ■
所得税は確定申告で
3月に払います。
その後に予定納税という、
高額の税金がやってきます。
つまり、
一度、高額納税者になると、
翌年も…
高額の税金を払うことになります。
納税の自転車操業です。
まるで、税金を払うために…
働かされているような感覚です。
ごくふつうの勤務医をしていたので、
これがイヤになりました。
■ ■
よく医療法人○○○○と
クリニックや病院を
医療法人にするのは、
個人経営から、
法人にして、
法人からお給料をいただくシステムです。
医療法人には、
さまざまな規制があります。
儲かったからといって、
簡単に経営者のお給料は増やせません。
医療法人は、
『医療を提供して社会に貢献する』
という前提で認可されるからです。
■ ■
私が疑問に思うのは、
60歳も過ぎて…
そんなにお金が必要でもない…
‘耳鼻科の先生’が、
どうして自分の医師免許が危うくなるような、
診断書を偽造しなくてはならなかったのか?
という単純な疑問です。
‘先生’と同年代の、
北大医学部35期の先生は、
大多数が悠々自適、
とても親切でお優しい先生ばかりです。
医療問題
聴覚障害不正問題
昨日、出勤途中に札幌駅前を歩いていると
駅前の北海道銀行の前に、
たくさんの報道陣が集まっていました。
夜、帰る時にもまだカメラを構えていました。
報道関係の方も
朝早くから夜遅くまでご苦労様です。
■ ■
このビルで開業している、
耳鼻科の先生が、
耳が聞こえる人に…
『聞こえない』
という診断書を書いて、
不正に身体障害者手帳を取得させた
という疑いで、
昨日、家宅捜索を受けました。
テレビのニュースには、
北海道警察の捜査員が、
ダンボール箱に入れた書類を、
夜遅くに運び出すところが映っていました。
■ ■
札幌美容形成外科があるのが、
札幌市中央区北3条西3丁目
このビルがあるのが
札幌市中央区北4条西3丁目
です。
こんなに近くなのに…
私はこちらの先生とは面識もなく、
不正の疑いがあるのが…
ここの耳鼻科だとは、
まったく知りませんでした。
■ ■
耳鼻科医は73歳。
北大医学部35期(昭和34年卒業)の先生です。
私は、なぜ不正をしたのか…?
不思議でたまりません。
私が開業している札幌駅南口地区は、
美容外科の激戦区です。
札幌美容形成外科の他に、
大手美容外科2軒。
個人の形成外科が1軒あります。
■ ■
物価が上がっているのに、
美容外科の料金だけは下がっています。
経営はなかなか大変です。
それでも、
私と従業員が食べてゆける収入はあります。
札幌駅周辺にある、
耳鼻科は
問題となっている先生だけです。
近くに競争相手はいません。
どこの耳鼻科も混んでいます。
どう考えても、
不正なんかしなくても、
十分に食べてゆけるはずです。
■ ■
聴力検査というのは、
ヘッドホンのような器械を両耳につけます。
ピッピッピッピッ…
という小さな音が聞こえてきます。
音が聞こえてきたところで、
手に持ったボタンを押して、
聴力を測ります。
2級の障害に相当する聴力ですと、
両耳から騒音のような音がしても
じっと耐えて…
頭が割れそうになっても耐えて…
じっとボタンを押すのを待ちます。
■ ■
簡単な仕組みなので、
誰かに一度、
不正の仕方を教えてもらえば、
やり方はすぐにわかります。
聴力検査の時に、
騒音をガマンさえすれば…
2級になれるのです。
■ ■
私が知っている耳鼻科の先生は、
とても真面目で優しい人ばかりです。
自分が小さい時から、
アレルギー性鼻炎で悩んだので、
耳鼻科医になって…
苦しんでいる人を治したいと、
大学院で研究した先生もいました。
今は開業されて繁盛しています。
この事件の
真相が解明される日を待っています。
ビルの前の報道陣
ビルの前の看板
医療問題
釧路労災病院不正
平成20年9月3日、北海道新聞朝刊の記事です。
釧路労災病院
室長が1600万円着服
【釧路】釧路労災病院(釧路市、小柳知彦院長)の
遠藤芳彦・地域医療連携室長(52)が、
十年間にわたって診断書の作成費など
約1600万円を着服していたことが9月2日、分かった。
同病院は同日付で懲戒解雇処分にするとともに、
釧路署に告発する方針を発表した。
■ ■
同病院の調査では、
室長は2001年から今年七月にかけて、
特定疾患の医療受給者証の交付に
必要な診断書の発行に際し、
本来は患者が会計課に支払う
一通3,150円の作成費を直接受け取り、
病院に納めなかった。
また、1998年から釧路管内釧路町が同院に支払った
高額療養費の一部も着服していた。
■ ■
今年5月、患者が室長への支払い方法を
会計課に相談して発覚した。
室長は旅行などに使ったと認め、全額弁済した。
同病院は小柳院長ら
関係者19人も減給などの処分とした。
長期間、発覚しなかったことについて同病院は
「診断書の発行と入金を照合するシステムがなかった」
と陳謝した。
(以上、北海道新聞より引用)
■ ■
昨夜テレビを見ていたら、
小柳先生が悲痛な表情で映っていました。
先生は、元北大泌尿器科教授。
北海道大学病院長も歴任された、
優しくて優秀な泌尿器科医です。
北大の定年後に、
釧路労災病院院長に就任されました。
■ ■
私は、釧路労災病院に勤務した、
20年前に遠藤さんにお世話になりました。
正直なところ、
『えっ???…』
『まさか?あの遠藤さんが…?』
というのが私の実感です。
医療相談室で、
患者さんの困りごとに、
親切に相談にのっていただいていました。
『まさか?』
『どうして?』
という思いは今でも消えません。
■ ■
私が勤務した当時の釧路労災病院は、
初代院長の
新田一雄(にったかずお)先生が築かれた
全国一の黒字労災病院でした。
ニッタビジョンというか…
ニッタマインドというか…
優秀な外科医であった、
新田先生の手づくり病院という感じでした。
■ ■
新田先生は、
北大第一外科助教授から
釧路労災病院長になられました。
新田先生が着任した当時の、
病院建設地は、
釧路湿原のはずれにあり、
雨が降ると、
膝まで泥に埋まるような
土地だったと聞いていました。
そこに、職員が力を合わせて、
立派な病院をつくりました。
■ ■
私が勤務したのは、
2年間程度ですが、
たくさんの患者さんの手術をしました。
札幌から離れていたので、
簡単に北大に応援を頼めません。
手術中に…
『本当に困った!』
ことが何度かありました。
何度か困って…
それを乗り越えて、
腕を磨きました。
■ ■
新田一雄(にったかずお)先生は、
私が尊敬する院長のお一人です。
残念なことに…
新田先生はお亡くなりになりました。
遠藤さんは、
新田先生の時代に、
釧路労災病院へ採用された方です。
もし…
新田先生がご存命だったら…
『おい、遠藤!』
『なんてことしたんだ、バカ野郎!』
と怒られたことと思います。
でも新田先生だったら…
更生して出直す道をくださったと思います。
■ ■
病院長というのも無力なものです。
職員を信頼して仕事を任せなければ、
病院は運営できません。
私たち医師は、
基本的に仲間や職員を信用しています。
最初から疑っている院長などいません。
最後に責任をとって謝罪するのが院長です。
信頼関係が成り立たないところでは、
医療はできません。
そこが他の企業と違うところです。
信頼を裏切った遠藤さんの責任は重いですが、
是非更生して、
また患者さんの役に立って欲しいと願っています。
とても仕事ができる方でした。
残念に思っています。
医療問題
電子カルテ
医療法という法律で、
カルテは5年間の保存義務があります。
大学病院などでは、
何十年分ものカルテを保管しています。
その保管場所や管理が大変です。
北大形成外科に勤務していた時は、
古い外来棟にカルテがありました。
手術記録などを調べるために、
カルテ探しを何度もしました。
■ ■
カルテの保管場所は
掃除をしていませんでした。
古いカルテを探しに行くと、
必ず、鼻の中が真っ黒になりました。
もちろん、手も真っ黒。
白衣は汚れてもいいような、
古い白衣を着て行きました。
当時の北大には、
診療情報管理士の方は
いらっしゃらなかったと思います。
■ ■
これからは電子カルテの時代だと思います。
航空券の予約・発券もネットでできる時代。
チケットはなくなり、
携帯電話やカードで、
‘ピッ…’とするだけで、
搭乗ができるようになりました。
医療機関は、
残念ながら…
一番IT化が遅れている業種の一つです。
■ ■
私たちが電子カルテの導入で、
一番困るのが、
過去のカルテを参照することです。
昨年の朝日新聞の投稿には、
韓国の先進的な病院を訪問する機会があった。
そこでは1958年の開院以来、
過去の入院診療録約100万件を
すべてデジタル化して保存しており、
診療録管理室には約50人のスタッフが配属されていた。
とありました。
■ ■
これは実にすごいことです。
電子カルテの導入費用以上に、
過去の100万件の入力費用がかかります。
札幌市内の総合病院で、
電子カルテが導入されました。
担当の先生が、
過去のカルテはどうやって見るのですか?
と聞いたところ…
『過去カルテの電子化は、
予算に入っていません』
とあっさり言われたそうです。
■ ■
私が勤務医をしていた時代に、
各病院にコンピューターシステムが入りました。
毎日、快適に動いていたのではありません。
システム障害が発生すると、
院内放送で、
『ただいま、システム障害が発生しています』
『復旧の見通しは立っていません』
『各部署では、手書き対応に変更してください』
という
悪夢の放送が流れました。
■ ■
外来は私と看護師さんが一人だけ。
患者さんには…
『ごめんなさい』
『今日、お薬を出すと、何時になるかわかりません』
『申し訳ありませんが、次にしてください』
『わかりました、先生も大変ですね』
なんてことがありました。
■ ■
札幌美容形成外科でも
電子カルテの導入を検討しています。
今の電子カルテはかなり進歩したようです。
過去カルテ入力など、
難問がありますが、
なんとか早期に導入しようと考えています。
システム障害になっても、
お薬は出せるように準備します。
昔の記憶
防災の日
今日は防災の日です。
私自身は災害の被害を
受けたことはありません。
ただ忘れられないのが、
札幌医大の学生だった時に経験した
有珠山の噴火でした。
■ ■
札幌医大第二内科では、
洞爺湖近くの壮瞥町(そうべつちょう)の
集団検診を実施していました。
壮瞥町(そうべつちょう)は、
横綱北の湖の出身地です。
小畑敏満(おばたとしみつ)さんが本名です。
私たち学生は、
第二内科が募集した
集団検診の学生アルバイトとして
検診のお手伝いをしていました。
■ ■
壮瞥町役場近くの旅館に宿泊して、
早朝から壮瞥町内の検診場所へ行き、
採血や心電図の準備などをしていました。
なかなか楽しいアルバイトで、
そのバイトをきっかけにして
第二内科に入局し、
循環器内科医となった友人も
たくさんいました。
北の湖のご両親も
検診にいらしたのを記憶しています。
■ ■
噴火があった時、
私は旅館の風呂に入っていました。
同級生が、
『本間、山が噴火したぞ!』
『窓から見えるから見てみろ!』
というので、
風呂の窓を開けて見たのを覚えています。
最初は青空に…
きのこ雲ができて…
‘すっげぇ~!’
てな、感じで眺めていました。
■ ■
すごい!と感動したのは、
最初のうちだけでした。
きのこ雲はみるみるうちに…
空全体に広がり…
あっという間に青空がなくなり、
夜のように真っ暗になりました。
真っ暗になったのが先か?
その後かは覚えていません。
稲妻が走り、
雷がゴロゴロごろごろと
大きな音を出したかと思うと、
あっという間に…
泥の大雨が降ってきました。
■ ■
『窓を閉めろ~!』
誰かが叫んだように思います。
旅館の屋根が抜けるか?
と思うほどの泥の大雨でした。
道路も通行止め。
避難しようにも、外へ出られません。
本当に怖い思いをしました。
幸いなことに、
ケガはありませんでした。
■ ■
それからしばらくは、
集団検診は中止となり、
私たち学生も、
道路にたまった火山灰の除去作業を
お手伝いしました。
一度しか経験したことがない、
火山の噴火ですが、
もう二度と体験したくはありません。
自然の驚異は恐ろしいものです。
札幌医大の学生だった時
後方に見えるのが有珠山
噴火はこの後で起こりました